アルザーノ帝国魔術学院で行われる授業には、二種類ある。
それぞれ、必修授業と専門講座だ。
必修授業は文字通り、誰もが必ず単位を取得しなければならない授業だ。主に担任の講師が授業を行い、魔術理論の基礎から幅広く教えていくもの。
尤も、出席は必要ではなく、学期末に行う試験に合格すれば単位取得が可能なので、当初のグレンの授業にあったように、他クラスの生徒が、他所のクラスの授業を立ち見をすることもオッケーなのだ。
一方専門講座は、各講師が独自に開く講座で、基礎的な事だけでなく、その講師が担当する分野を深く掘り下げたものになる。
そして、レオスはアルザーノ帝国魔術学院に来るなり、いきなり専門講座を開いた。
その内容は―――。
「――これまでこのツァイザーの魔力エネルギー変換効率式を解説してきたわけですが……、これでなぜ、帝国で採用されている軍用
魔術学院校舎西館にて、集まった生徒たちにより満室となっていた。
生徒たちの期待と尊敬の眼差しを受けながら、レオスが教鞭を執っている。
その内容の名は、「軍用魔術概論」。
レオスは軍用魔術の研究をしているので、必然的に講座の内容は軍用魔術に関することだ。
その中の一つに、
先ほどレオスが、「炎熱」・「冷気」・「電撃」の三つの属性の呪文が、軍で多用されていると言っていたのは、これらの属性が、魔力を
逆に、これらの属性に属さない、「風」の呪文はどうなのか?と言うと、とてつもなく効率が悪い、というのが回答だ。
(元々、風の魔術は軍でもあまり使われない。風の魔術を魔力から
グレンの言う通り、風の魔術は魔力を重力へと変換し、気圧差を引き起こして気流の流れを作り、それから
つまり
風の魔術には、その工程の中に、余計な工程があるため、消費した魔力分だけのダメージを与えることが出来ないのだ。
これまでの話だと、ダメージ変換の効率が悪い風の魔術に需要はあるのか、という質問が出てくるが、もちろんある。
すると、本日の講義時間の終了を告げる鐘の音が、遠くから鳴り響いた。
「――時間ですね。では、次回の講義は、風の魔術の利点と、それらの軍における運用法について解説していきましょう。ご清聴、ありがとうございました」
すると、講堂中からレオスに対する惜しみない拍手が送られた。
よく見ると、拝聴者たちの中には、グレンを含む講師も混じっていた。
(……完璧だな。軍の一般魔導兵の半分以上がいまいち理解してない
別にそれは、軍が無能という訳ではない。単純に、この理論が難しいからである。
グレンはこれを、日本のゲームに例えることで、独自の解釈で理解することが出来た。
要は、ダメージを与える際の工程。これを理解していれば、今まで生徒たちが習ってきた初等呪文でも、やり方次第で格段に威力を上げられる。
ダメージの変換工程を知ったなら、それをより効率的、つまり、最小限の魔力で最大限の威力を発揮させることが出来るのだ。
なぜなら、今までは
ゲームで言う、改造のようなものだ。MPを1消費すれば、相手に10のダメージを与える魔法があるとする。
この場合、
(だが、いくらなんでもこの内容は早すぎるだろ)
普通の生徒なら、自分の力がより強力になる、くらいにしか思わないだろう。
だが、出来のいい生徒なら気づいたはずだ。これはやり方次第では、例え【ショック・ボルト】のような初等の護身用の呪文でも、人を殺せるということに。
いかに効率よく人を殺すか、いかに破壊を巻き起こすか。そしてそれら人殺しに特化した力をどう運用するか。レオスはこの血生臭い部分を言葉巧みに美化し、華々しく表現している。
(だが、こいつらはまだ、大きな力を持つ意味も、それがもたらす結果も、知識として知ってるだけで何一つ実感が伴ってない)
レオスほどの実力のある魔術師が、それに気づかないはずがない。ではなぜ、そんなことを教えるのか?
……考えても、答えは出てこない。レオスはこの講義で、一体何を伝えたかったのか。
「どうかしましたか先生?」
突如、考え込むグレンに、前の席に座っていたルミアが話しかけてきた。
「ん?あぁ、ちょっとな……」
「……やっぱり、こういう授業は、あまり認めたくありませんか?」
「それもあるが……何というかな。違和感だ」
「違和感?」
ルミアが首を傾げる。
「あぁ。あいつほどの魔術師なら、この内容が生徒たちにはまだ早すぎることなんて、十分わかっているはずだ。にも拘らず……何を考えてるんだ?」
「大丈夫ですよ。少なくとも、先生の教えを受けている生徒で、間違える人なんていません」
「……だと、いいんだがな」
それに関してはグレンも気にしていない。
普段から、力の使い方についてはよく考えさせ、力に使われるようなことはするなと言ってるから、よっぽどの事態になどならないだろう。
まぁ、理解されてなかったらそれまでだが。
「システィーナ」
すると、いつの間にかレオスがシスティーナのもとまでやってきていた。
呼びかけられたシスティーナが、振り返る。
「どうでしたか?
「その……、とても素晴らしかったわ!文句の付け所がないというか……」
「それはよかった。なにせあなたは「講師泣かせ」として有名なそうですから」
「そ、それは……!あぅ……」
悪戯っぽく笑うレオスに見つめられ、顔を赤らめて俯いてしまうシスティーナ。
「あなたに相応しい夫としてまずは第一関門突破、でしょうか?」
「だからそういうことを人前で言うのは……!」
「「ヒューヒュー!!」」
偶々通りかかったカッシュたちが、茶化すように口笛を吹く。
最早、ノリが小学生だ。
そんな外野を華麗にスルーし
「システィーナ。少し、外を歩きませんか?大事な話があります」
そういって、真摯の目をシスティーナに向けるレオス。
「うぅ……。それは、今でないとダメなの……?」
「今でなくても構いませんが……いずれは話さなければならないことです」
レオスがどこまでも真剣にそういう。その様子から、これから話す内容を察しているのだろう。
及び腰になるシスティーナだが
「ルミアごめん。……ちょっと、行ってくるね?」
「う、うん……」
逃げられない。いや、逃げても無駄だと思ったのだろう。
システィーナはレオスとともに、去っていった。
「……にしても、本当にもの好きな野郎だね。あの説教女の何処が良いんだか」
二人が去った後、どうでもいいと言わんばかりに欠伸をしながらそういうグレン。
「先生……一つ、お願いがあるんですが……」
「ん?お願い?」
ルミアはそのお願いの内容を、グレンに告げた。
ぶっちゃけ正しい理屈が分からないからこういう風に解釈してるけど、間違ってたら指摘オナシャス。