「なんで俺が他人の恋路を覗き見せにゃならんのだ」
「ごめんなさい……」
グレンの愚痴を、ルミアが苦笑いで聞き謝罪する。リィエルは眠りこけている。
三人は、システィーナ達の後を追い、尾行していた。それがルミアのお願い。
距離があってシスティーナとレオスの話している内容が聞き取れないので、グレンが使い魔を召喚し聞き耳を立て実況している。周囲には防音の結界を貼った状態で。
「俺こういうの興味ねーんだよな……………おー!あの男いきなり結婚申し込みやがった!さぁ盛り上がって参りましたーっ!」
お前興味ないんじゃないのかよ。というツッコミはナシにしてほしい。
「……ん?どうしたルミア?」
「いえ……」
ふと、グレンがルミアに視線を向けると、彼女は不安そうな表情で場を眺めていた。
「よくわからないんですが嫌な予感が……」
「やれやれ。女の勘ってやつか?ま、それは置いといて!今はこれが面白すぎるぜ!」
ゲス、ここに極まれなり。
中庭にて。
「こうして二人で歩いてると思いだしませんか?昔の事を」
「……そうね」
レオスとシスティーナが並んで歩いている。
システィーナの脳裏には、レオスと共に過ごした幼い日の記憶が巡っていた。
「時の流れというものは残酷ですね。あれほどこんな関係がずっと続くんだと信じて疑わなかったのに」
「……そうね。このまま時の流れに任せれば、きっと、私と貴方の関係は子供の頃の楽しかった思い出となって、いずれ気にも留めなくなるでしょうね」
切なそうな表情で、システィーナは告げる。
「思い出を単なる思い出にせずに済む方法もあると思います」
レオスが歩みを止め、システィーナを真摯に見つめる。その表情に、思わず、来たか。と身構えるシスティーナ。
「システィーナ。私と結婚してください」
「!……、」
取り繕う言葉などない。ただ真っすぐと、己の気持ちを言葉にするレオス。
……だが
「私は……。ごめんなさいレオス!その申し出は受けられないわ」
ハッキリと、レオスに向かって言うシスティーナ。
「なっ……どうして⁉」
自分が振られるなど、微塵も思っていなかったのか、レオスが珍しく焦りながら聞く。
「お爺様と約束したの。メルガリウスの天空城の謎を解くって。そのためにはもっと沢山の魔術を勉強しなければならないの……!」
「ハハハ。相変わらずですね。あなたはまだ、そんな夢みたいなことを言ってるのですか?」
「え……」
システィーナが告げた夢。それをばっさりと切り捨てるレオス。
「魔導考古学。古代遺跡の探索や、
「⁉」
「あなたのお爺様も、あれに傾倒しさえしなければ、もっと多大な功績を魔術史に残せたでしょうに」
どこまでも、システィーナの夢を否定するレオス。それどころか、システィーナが尊敬する祖父、レドルフ=フィーベルの努力さえ、無駄なものだという。
「どうか私と私が専門とする軍用魔術研究の支えとなってくれませんか?」
「……ごめんレオス。あなたにはあなたの夢があるように、私にも譲れないものがあるの……!」
「私はただ、あなたに人生を無駄にしてほしくないだけです」
「……、」
レオスはシスティーナの夢を否定する。だが、否定するのはそれだけの根拠があり、レオスは間違ったこと自体は何も言っていない。
システィーナの祖父、レドルフも、魔導考古学に傾倒しなければ、
それに、システィーナ自身、自分の力不足を感じていた。魔術を勉強すればするほど、祖父の背中が、夢が遠ざかっていくのを感じていた。
それでも……。
「舐めたこと言ってんじゃねぇぞインテリ野郎がァァァァあああああああ!!!」
瞬間、ロクでなしの怒号が、中庭に響き渡った。
「舐めたこと言ってんじゃねぇぞインテリ野郎がァァァァあああああああ!!!」
「せ、先生……⁉」
突然の乱入者に、システィーナが目を丸くし、レオスが顔をしかめる。
「白猫!そんな野郎の言葉なんか気にするな!お前はお前がやりたいようにやれ!お前の人生の道筋は、お前にしか決められないんだからな!(ふっ、これは決まった)」
グレンがドヤ顔でそんなことを言うが、庄司草むらから出てきた影響で、体中葉っぱまみれ。全然かっこよくなかった。
「……悪いがあなたには関係のない事だ。口出しは無用に願いたい」
「関係ないだ?ふざけんじゃねぇぞ。
「バカにする?可笑しなこと言う。私は事実を告げただけです。彼女には、ただ現実を見てほしい」
「現実を見るには、白猫はまだ若い。それは今すぐじゃなくてもいい。学生として日々努力している今ぐらい、夢を見る事は許されるはずだ」
「……システィーナの祖父、レドルフ=フィーベル殿は真の天才、希代の魔術師でした」
突然、レオスが話題を切り替えた。
「若き日の彼が残した功績が、
「何言ってんだ?」
あぁ、と。システィーナは半場諦めていた。グレンは生徒の事をよく見ている。それは魔術競技祭の事でもよく分かった。
だからきっとこう思っているはずだ。無理だ、と。でも、それならいいと思った。レオスではなく、グレンに否定されるなら、諦めもつく、と。
……だが
「出来るに決まってるだろうが」
「……え?」
思わず間抜けな声が出た。今、彼は何といったのか。
「……本気で言ってるのですか?」
「レオス、テメェは言ったな。今まで魔導考古学を極めたものはいない。誰も出来なかったって」
「……だから?」
「だったら話は簡単だ。今まで誰もいなかったなら、白猫が一番になればいい」
「なに……?」
レオスには、グレンの言うことが理解できなかった。
「世界で一番最初に、世界で最高の謎を解き明かせるんだ。こんなに素晴らしいことはねぇだろ?」
「あ……」
だから、応援する。
「それにな、レオス。こいつは俺やお前が思っているほど、ずっと優秀なんだぜ?きっと、俺たちにはできないような凄いことをしてくれる」
だから、信じている。
「だから今は、こいつのやりたいようにやらせてやって欲しい。こいつが満足いくまでは、見守ってやって欲しいんだ」
そういって、レオスに頼むグレン。その姿は、言葉は、いつもの様にふざけたものではなく、心からの言葉だと、システィーナは何となく感じ取った。
「ダメですね」
しかし、レオスには届かない。
「システィーナのことを本当に思うからこそ、早くその夢から断ち切らせてあげるべきなんです!」
「れ、レオス……」
今までの雰囲気が一変、いきなり厳しい顔つきになったレオス。
「……へぇ、そいつはお前の本性か?……じゃあ、白猫を任せるわけにはいかねぇ、な!」
レオスの只ならぬ雰囲気を感じ取ったグレンは、左手の手袋をレオスに向かって投げつけた。手袋はレオスにぶつかった後、重力に従い地面へと落下していく。
それは、魔術師同士の正式な決闘の申し込み。
「……何のつもりですか?」
「勝負の内容はそっちで決めていい。勝った方が白猫を手にし、負けたら手を引く」
「貴方に何の権利があって、そんな勝負を挑めると?」
「……、」
確かに、何処まで行ってもグレンは部外者だ。こんな決闘、受ける方がどうかしている。
「……権利ならあるわ」
そこで、今まで黙っていたシスティーナが呟く。
「え」
「……システィーナ、それはどういう意味ですか?」
「だって……先生と私は…………将来を誓い合った、恋人同士だから!」
……………。
「は……?」
「……え、なっ、し、システィーナ?それはどういう……」
「だから貴方とは結婚できない。それに、グレン先生にも決闘を申し込む権利がある!」
「あ」
そこでシスティーナの意図に気づいたグレン。なら、乗らせてもらおう。
「そう言うことだぜレオスさんよぉ!さーて、どうする?」
はーっはっはっは!と、高笑い上げ勝利を確信したかのようにムカつく顔してレオスを煽るグレン。
「ば、馬鹿な!私のシスティーナが、貴方みたいな男と……ッ!」
「嘘じゃねぇぜ?なんたってこのかわいい白猫ちゃんは昨夜も俺のベッドで――」
「⁉《馬鹿》ァァァァァァァアアアアアアアア!!!」
「ギャアああああああ!!ナンデ⁉」
システィーナの即興改変による【ゲイル・ブロウ】が、グレンを吹き飛ばしていく。
「いくらなんでもやりすぎよ!大体私達まだ抱き合っただけで、そんなABCのAにだって踏み込んでなくて――ッ!」
「抱き合った⁉どういうことですかシスティーナ⁉」
「え、あ、いや……その、今のは嘘……って言う訳でもなくて、その、えっと……」
システィーナが慌てすぎてそんな風に煮え切れない返事をしてしまう。
因みに、他の生徒もその様子を見ていたのだが、システィーナの様子から割といろいろと大変なことになりつつあった。
「ってなわけで、白猫は俺の恋人だ。ソイツが欲しいなら、俺の申し出を受けてもらおうか!」
「……いいでしょう。そういうことなら、望むところです」
そういって、地面に落ちたままだった手袋を拾い上げるレオス。これで、決闘は成立した。
「決闘の日時と方式は後ほど話し合おう。失礼する!」
そういって、明らかにイラだった様子を隠そうともせず、レオスは去っていった。
やっちゃったぜ☆