今回の授業の舞台。そこにはいくつかのエリアがあり、中央ルート。北西の森ルート。東の丘ルートの三つだ。
グレンは中央に十二人。北西に十二人。東に一人。残りを拠点に残した。まずは様子見か。
レオスはそれに対し、中央ルートに十二人、森ルートに十二人、丘に九人、勢力を投入した。丘の占拠にこれほど人数を送るのは、上空を取れば優位に立てるからだろう。
逆に森はそれほど重要視しておらず、足止め程度に考えているようだ。
《流石学年最強と名高い4組!魔術の威力、精度共に2組をはるかに凌駕!しかも魔導兵団戦の基本である
なぜ来ているのか分からない実況の少年が、音声拡散魔術で、戦場に声を届ける。
確かに、四組はすごい。三人一組は、元々難易度が高く、その動きを仕上げるには一般兵でも相当掛かる。それを一週間程度でここまで習得させるのは、見事と言っていい。
「……ふ~ん、流石だなアイツ」
グレンが僅かに感嘆した声を上げる。
その脳裏には、今まで自身のクラスの生徒に教えてきた授業が巡っていた。
数日前。
「いいか?近代の魔導戦争では基本、三人一組を主軸にしている。一人が攻撃、一人が防御、もう一人が支援という形でな」
黒板には、小綺麗に書かれた文字と図面があった。
「3つの役割にそれぞれ専念させた方が、同じ頭数でも圧倒的に強く立ち回れる……ということですね?」
「そういうこと。そのあたりの理解の速さは流石だな。で?」
「……つまり、我が強く、他者と足並みが揃えられない奴はみんなの命を危険にさらす……そういうことですね」
自覚があるのだろう。ギイブルが顔を赤くしながらも答える。
「正解。だからこそ、お前みたいな奴は使えなかったんだ」
グレンの説明で、漸くその意図を理解してきた生徒たち。
そして、ここで一度現実に話を戻す。
「やはり二組の生徒に
レオスが戦局を見て、そう判断する。
そして
《レオス先生ここで動いた!各戦場に2組を上回る戦力を投入し各個撃破する構えだ!》
合理的な戦術だ。理に適っている。そもそも、レオスは軍用魔術研究の第一級研究者。グレンとは知識の幅が違う。グレンは戦略には長けていても、戦術ではそれほどでもないのだ。
クラスの個々の実力を見ても、四組が二組に負けるというのはあり得ない。
……まともにやれば、だが。
「つまり、我を捨てて、皆と足並みをそろえ、三人一組を組めと。……まぁ尺ですが、理解はできます」
「は?何言ってんのお前?誰が三人一組でやれって言った?」
「はい?」
唐突なグレンの発言に、混乱する二組。
「そもそも、お前らに三人一組とか無理に決まってるだろ。教えるやつの技量もそうだが、元々これは、プロの魔導兵が十分な訓練を受けて、初めてできるようになるもんなんだぜ?」
「……では、どうしろと?三人一組が定石だと言ったのは、先生ですよ?」
「あ?決まってるだろンなもん」
そして、グレンはその驚愕の内容を告げた。
「《雷精の紫電よ》!」
「《白き冬の嵐よ》!」
四組の生徒たちが、二組に向かって
「「「《光の障壁よ》!」」」
二組の生徒はそれを【フォース・シールド】で防ぐ。
「動揺するな!防御はもう一人に任せて、俺達は攻撃に集中だ!《雷精の紫電よ》!」
「全く、どうしてこう、うちの担任はリスキーなことをするのかね。……《大いなる風よ》!」
その隙に、余っている生徒たちが次々と攻撃していく。
「
四組対二組を授業を見学しに来ていた他の講師の一人が、驚きの声を上げた。
そう。三人一組が定石であるはずの魔導兵団戦において、二人一組は邪道以前の問題。
「くっ、そうか!確かに、短期間の訓練で生徒にやらせるならば、
二人三脚と同じだ。これを三人四脚にするか、二人三脚のままかの違い。だが、難易度は全然違う。
短期間の間で、どちらの方がより洗練され、統率された動きが出来るか。グレンはそれを考え、この戦術を行った。
三人一組が定石なのは、単純に、そちらのほうが強いから。二人一組よりも。このやり方は、通常の魔導戦では通用しない。
だが、あくまで生徒同士、短期間の練度という状況が、グレンがレオスに勝つための筋道を作り出していたのだ。
「しかし、それは由緒正しいアルザーノ帝国魔術学院においては、許しがたい邪道だ!」
「勝つためには手段を択ばない。それがグレン=レーダスという男です」
かつてその男に煮え湯を飲まされたハーレイだからこその評価と警戒。
しかし、レオスはグレンのことを知らず、何も対策しないまま放置していたため、この拮抗した状況を生み出させてしまった。
そして、その状況は、当然レオスも遠見の魔術で観測している。
「やれやれ、仕方ありません。一度距離を取って、丘からの遠距離狙撃にシフトします。リト君。制圧状況は?」
レオスが通信用の魔道具で、丘のエリアに向かった生徒の一人と通信を取る。
『そ、それが……ぎゃ――っ!』
ピッ、と。通信が強制的に切断された。
「リト君?リト君⁉」
レオスが少し焦ったように声をかける。
『……誰?』
そこから聞こえたのは、男子生徒ではなく、女性生徒の声だった。
レオスは丘ルートに女子生徒を向かわせてはいない。狙撃が強い女子生徒が、四組にはいなかったというのが主な理由だ。
つまり、この声の主は――
(グレン先生のクラスの生徒。……しかし、一体何者だ?)
たった一人でレオスの生徒九人を相手取る。それは、どう考えても普通の生徒ではない。
レオスは状況の確認のため、丘に視線を向けた。
そこに映っていたのは――
――静寂。ただ一人、丘に佇む少女。
「相手は一人だ!やっちまうぞ!《雷精の紫電よ》!」
「おう!《大いなる風よ》!」
四組の生徒が、
だが
「な――ッ⁉」
少女はその姿を虚空に消した。
どういうことだ?魔術による幻術か?
生徒たちが疑問に思い、辺りを捜索しようとすると
「――・打ち倒せ》」
「え、ギャアああああああ!!」
「なに――ッ!」
いつの間にか生徒たちに紛れていた少女が、零距離で黒魔【ショック・ボルト】を発動。一人を確実に打ち取った。
「い、いつの間に⁉《大いなる風よ》!」
「《白き冬の嵐よ》!」
「《雷精の紫電よ》!」
「《雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ》」
神速にも等しきスピードで、四組の攻撃を掻い潜り、再び零距離で【ショック・ボルト】を放った少女。
「お、お前は一体――ッ⁉」
「……リィエル=レイフォード」
問われた少女……リィエルが、己の名を名乗りながら、再び零距離攻撃をする。
「ひっ、む、無理だ!こんなの俺たちには――ッ!」
「むっ、逃げちゃダメ。グレンがここに来たのは全部倒せって言ってた」
「いやぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
いつしか四組の叫びは悲鳴に代わり、丘を埋め尽くしていった。
「……くっ、まさか、グレン先生にあんな手駒がいたとは――ッ!」
あの動き。どう見ても一般の学生ではない。恐らく、軍の関係者か何か。
しかし、それはルール違反にはなっていない。軍の関係者であろうと、彼女はあくまで二組の生徒なのだから。
レオスが丘を見た時は、既に送り込んだ勢力が全滅していた。
「……仕方ありません。丘は諦めましょう。わざわざ零距離攻撃を仕掛けるリスクを冒すということは、彼女は狙撃……いや、それ以前に零距離以外で攻撃手段を持たない、と考えていいはず」
レオスのその考えは当たっている。実際、グレンはリィエルに、お前の攻撃は普通に撃っても当たらないだろうから、相手に近づいて直接当てて来い。という、悪魔のアドバイスをしていた。
因みに、リィエルは大剣以外の攻撃が当たることに、少しウキウキしてたりもする。
「……中央は拮抗状態、ここから崩すのは難しそうですね。……仕方ありません、全軍森へ移動開始。一気に二組を殲滅しなさい」
森は入り組んでいて動きにくい。地形の悪さを利用し、二組を一気に倒そうという作戦だ。
だが
『大変ですレオス先生!』
「……今度は何ですか?」
もう嫌な予感しかしない。しかし、状況を把握しなければならないのは事実。故に、レオスは森ルートから来た連絡に耳を傾けた。
『グレン先生が、敵の総大将が、森に姿を現しました!』
「……は?」
その報告を受けた瞬間、レオスの頭は真っ白になった。
「ふははははははははははははは――ッ!刮目せい皆の衆!お前らの敵、総大将グレン=レーダス大先生様はここにいるぞおおおおおおおおおおおおおおおお──ッ!!!」
それはそれはとても大きな声で叫び散らすグレン。
とうっ!という掛け声とともに、グレンは森の中を縦横無尽に駆け回る。
《グレン先生、なんと指揮官自ら最前線に飛び出したーっ!》
その行動には、二組を含めて全員が唖然とした。そう、二組すら聞かされていなかったのだ。
そもそも、総大将である指揮官の講師は、遠見の魔術以外の全ての魔術を禁じられている。つまり、防衛の手段がないのだ。にも拘らず、わざわざ姿を見せる。
普通に考えれば、勝負を捨てた。舐めている。そう言う考えが浮かぶだろう。
「やれーっ!指揮官を打ち取っても俺たちの勝ちなんだ!《雷精の紫電よ》!」
「ふっはははははは!温い温い!!その程度、数多の死線を潜り抜けてきたこの俺に、通用するものか――ッ!」
そういって、グレンはドンドン森の奥へ進んでいく。
慌てて追いかける四組だが
「「「うわぁぁぁぁあああああ⁉⁉⁉」」」
突如、落とし穴に落ちる。忘れてはいけない。この男は、たとえどんなことがあろうと、グレン=レーダスだということを。
グレンが上から四組の生徒を見下ろしながら、ドンドン煽っていく。
「ザマァぁぁあああああああ!!!ねぇ今どんな気持ち⁉ねぇ今どんな気持ち⁉やれると思って追いかけたら罠にはまるとかどんな気持ち⁉しかも魔術じゃなくてこんな原始的な罠にはまってさぁ!」
(((う、ウゼェェェェェェェェェェェェェえええええええ!!!)))
「っていうか、何だこれ⁉反則だろ⁉」
「え~、別に~、これはあくまでこのフィールドのギミックで~、俺が仕込んだわけじゃないですし~」
「嘘つけ!どう考えても最近仕込まれた人工罠だろ!」
「待てーーー!」
前方からさらに追いかけてくる四組の生徒が現れた。
それを見たグレンは、近くにあったロープのようなものを引っ張る。
「「「ギャアああああああ!!!」」」
「二回目!ザマァ見ろ馬鹿ガキどもォォォォォォ!!!ふっはははははは!!!」
突如彼らの上空から、もちのようなものが飛来。四組の動きを止めてしまう。
「アーハッハッハッハ――ッ!!!こういうサバゲ―みたいな展開は、俺の独壇場だぜぇぇェェェェェェェええええええ!!!」
「何やってるんですか一人で……」
「ったく、一人ではしゃいじゃってよー」
その光景を終始眺めていた生徒が、呆れたようにため息をつく。
『ルキオ君!ルキオ君!応答しなさい!ルキオ君⁉』
グレンの足元から、レオスの声がする。どうやら、トラップに引っかかってるときに落ちた通信用の魔道具のようだ。
グレンはその魔道具を拾い、応答する。
「はいはーい、グレン君でーす」
『……グレン先生、見てましたよ。予め、森に細工をしてましたね?』
「さーて何のことやら?誰かがたまたま趣味で仕掛けてた罠がたまたま作動しただけですよたまたま」
ふざけた調子でレオスの追及を躱すグレン。
『……ふざけないでください。貴方みたいな男は、システィーナに相応しくないッッ!』
「ブーメランだな馬鹿野郎。ま、俺としちゃ別に勝たなくてもいいんだよ。……引き分けになればな」
『?……!貴方、まさか――ッ!』
「精々頑張れよレオスさんよぉ。その重い腰を上げて走り回らないと、俺の望み通りの展開になっちまうぜ?」
そう言ったグレンは、魔道具を放り投げ、再び戦場を駆け回った。
リィエルちゃんが早い段階で攻撃手段を得ていて草。
っていうか、今までで一番魔術戦してる気がするがする。
一巻:げーとおぶばびろん擬きと拳で打ち合う。
二巻:帝国最強の生きる伝説の剣と拳で打ち合う。
三、四巻:リィエルの大剣と拳で打ち合う。
あれ~?なんか五巻が今までで一番魔術戦してるような……なんでさ。