ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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二十三話:戦いの結末

「《雷精の紫電よ》!」

「ギャアああああああ!!」

 

 システィーナの放った紫電が、四組の一人を脱落させる。

 

「次は……誰⁉」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!!!」

 

 その表情は、まるで鬼のよう。いや、邪神を思わせる気配すらあった。

 そんな彼女の形相に、脱落した四組の生徒は思わず逃げ去っていく。すると、流石に疲れたのか、荒く息を吐き警戒を解くシスティーナ。

 

「大丈夫?システィ」

「……うん」

 

 そんな彼女に、優しく声をかけるルミア。邪神の心を浄化した天使は、辺りを見渡し、危険がないことを確認する。

 

「……私、バカみたい。一人で盛り上がっちゃって……」

「システィ……」

 

 二人一組はいい。これはいつものグレンらしい、意表突いたやり方だ。

 けど、今みたいな原始的なトラップは、流石に見過ごせない。ぶっちゃけ、判定すれすれもいいところなのだ。

 審判が、例えどれだけ私怨があっても、公平に判断するハーレイだからこそ、反則スレスレでも、ルールに抵触していないから反則扱いしないでいてくれている今の状況が成り立っているのであり、他の講師が審判をすれば、即反則負けでもおかしくない。

 

「最低……」

 

 システィーナがどっと疲れたように肩を降ろし、呟く。

 

「……でも、見て。ほら」

「……、」

 

 ルミアが指をさす先では

 

「おいセシル!リィエルが占拠した丘の所へ行け!お前の狙撃能力なら、あそこからでも外さずに狙えるはずだ!」

「わ、分かりました!」

「テレサ!向こうの奴、状況判断が出来なくてもたついてる!手が空いてるお前が取れ!」

「はい!」

「ギイブル!ちょっと助けて!」

「全く、それなら拠点に戻ってくださいよ。《大気の壁よ》!」

「ふぅ。……あ、ウェンディ!そこにはどっかの誰かが仕掛けた罠があるから足元注意だぞ!」

「え、あ、はい!。……って、なんてもの仕掛けてるんですの⁉味方も巻き込むような罠を仕掛けないでくださいまし!」

「そんな見え見えの罠に引っかかるアホはお前だけだから気にするな……っておい!やめて石を投げないで!地味に痛ぇんだよ!」

 

 グレンが常に周りを見ながら、最適な指示を生徒たちに出している。

 これは、グレンが実際に戦場をリアルタイムで見て逐一情報を更新しているからこそ出来ること。

 無論、本来の戦場でもこんなことはあり得ない。例えすぐさま情報を更新できずに、指揮官の指示が遅れたとしても、訓練された兵士なら、自分たちで考えて行動することが出来る。

 だが、あくまで戦うのは生徒だ。先程、四組の生徒がもたついていたように、完璧にこの魔導兵団戦をこなすには、生徒たちは訓練不足だ。

 だからこそ、リアルタイムで戦場を観測し、逐一指示を送れるグレンが、レオスに対しここまでの優位を取れている。まぁ、トラップの恩恵もあるが。

 

「先生だって頑張ってるんだよ?そんな悪く言ったら」

「でもアイツ、逆玉って」

「先生はそんなひどいことしないよ。システィだって知ってるでしょ?」

「むぅ……」

 

 それは、まぁ、確かに。

 グレンは今でもシスティーナの朝練に付き合ってくれてるし、新しく軍用魔術も教えて、彼女を鍛えている。

 本来ならそこまでする必要はないのに。システィーナの為に、自分の時間を割いて。

 

「……」

「大丈夫だよ。先生を信じて、ね?」

 

 いつまでも子供のようにむくれてるシスティーナに、ルミアが優しく諭す。

 

「そろそろだな。お前ら!」

「なんですか?」

「今から鬼ごっこの時間だ!これ以上はもう無理だしな!逃げるぞ!それでは諸君、健闘を祈る!」

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ⁉⁉⁉」」」

 

 そういって、生徒たちを置いて一目散に逃げだすグレン。

 

「……やっぱり、ロクでなしよ。アイツは」

「あ、アハハ……」

 

 システィーナがジト目で呟き、ルミアが苦笑いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちっ、双方そこまで!両者の損傷率が八十パーセントを超えたためルールに従い、この勝負引き分けとする!」

 

 ハーレイの魔術によって拡張された声が戦場に響き渡り、魔導兵団戦は終了となった。

 生徒たちが最初の集合場所に集合していく。

 

「はぁ~、疲れた~」

「俺、最後まで生き残ったぞ――ッ!」

「僕は途中でやられちゃったな~」

「ま、君たちにしてはよくやった方なんじゃないか?」

「素直じゃないなーお前も」

 

 生徒たちはそれぞれ悔しがったり、生き残れたことに喜んだりしている。

 

(ま、今回はレオスのイモリっぷりがこっちにいい流れをくれただけだがな)

 

 グレンとしては、レオスの采配は、素直に称賛に値するものだった。だが、それでも引き分けになったのは、単純に情報の更新速度の差でもある。

 グレンは常にリアルタイムで戦場を見れるのに対し、レオスは遠見の魔術で確認しつつ、見えない範囲は通信魔道具で確認するしかない。

 もしレオスが、グレンと同じように、戦場に出て指揮を執れば、グレンは負けていた。戦場では情報が勝敗を左右する。にも拘わらず、情報速度で遅れているレオスに対し引き分け。

 それは、指揮官としての実力、戦術がグレンよりも優れていることの証明だ。だからこそ、もしグレンと同じようにリアルタイムで情報を更新していれば、レオスの勝率はぐんと跳ね上がっただろう。

 グレンも、さらりとそういうアドバイスをこっそりしたのだが、やはり気づかなかったようだ。定石に囚われたレオスと、定石を捨てたグレン。二人の差は、これだけだった。

 

「お前らよくやった。あのレオス相手にここまでやれたなら、言うことはねぇよ」

「……あ、先生。……でも、よかったのかよ」

「システィーナを賭けた勝負だったのでしょう?」

 

 グレンに話しかけられたカッシュとウェンディが、肝心なことを質問する。

 そう、引き分けになった時のことは、未だに決めていなかったのだ。しかし、その場合の対応をグレンは既に考えてある。

 それを伝えようとした時

 

「なんですか!あの無様な戦いは!」

 

 レオスの怒号が、周囲に響き渡った。

 その豹変ぶりに、生徒たちどころか、講師陣も驚いている。

 

「あなたたちが、もっと私の指示にきちんと従い、作戦行動を遂行していれば――ッ!」

「筋が違うんじゃねぇか?兵士の失態、その責任を取るのが指揮官だろーが」

 

 グレンが思わず口出しする。

 すると、レオスは勢いよく振り向き言った。

 

「……貴方如きが、私に意見するな!」

 

 戦闘中での挑発が余程据えかねたのか、レオスは最早、グレンに対する一欠けらの礼儀も持たず、一方的に敵視し睨みつけている。

 その顔は青白く、目の下にはクマもある。まるで死人のようだ。

 

「……どうしたその顔。いくら何でもおかしいだろ。一度セシリア先生に見てもらったらどうだ?」

 

 セシリア=ヘスティア。学院の法医術師で、今回万が一怪我をした生徒がいた場合に備え、一緒に同行してもらっているのだ。

 因みに、グレンも何度かお世話になっていたりもする。欠点は極端な虚弱体質であり、実はグレンは知らないが、先ほども生徒たちが怪我をするか心配過ぎて血を吐いてしまったほどだ。

 そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、レオスは左手の手袋を手に取り、グレンに投げつけた。

 そして、グレンを指さして宣誓する。

 

「まだ勝負は終わっていません。今度は私があなたに決闘を申し込む!」

「流石にしつこいぞ。もういいじゃねぇか、勝負は引き分け。今回はお互いに白猫から身を引くってことで」

 

 そのグレンの提案を聞き、生徒たちはグレンの目的を理解した。

 元々、グレンはシスティーナの夢の道を邪魔するつもりはないし、かと言ってレオスに邪魔させるつもりもなかった。

 なので、引き分けという形に持ち込み、二人とも身を引くという結果を出した。

 しかし、それに納得できるのはあくまでグレン。

 

「ダメです!貴方のような卑劣な男に、システィーナは任せられない!」

「いや、だからこっちも身を引いてやるつってんじゃん」

「黙れ!」

 

 聞く耳を持たないとはまさにこのこと。

 グレンとの勝負に引き分け。それを、まるで敗北のようにとらえてるレオスに、グレンの言葉は届かない。

 

「いい加減にして!」

 

 そんな二人の間に割って入ったシスティーナ。

 

「レオス、私をそんな物みたいに扱う貴方の求婚に、私が応じると思うの?」

「うっ、それは……それについては謝罪しますシスティーナ。ですが――」

「いいわ。レオスにも、自分の考えがあって正々堂々と戦ったもの。……先生!」

 

 レオスの謝罪を聞き入れ、今度はグレンに矛先を向けるシスティーナ。

 

「なんですかさっきの卑怯な戦い方は!あれじゃレオスが納得できないのも仕方ないでしょう⁉」

「しゃーねーだろ。それに、予め戦場に細工するななんてルールはないしな」

「ちっ」

 

 グレンがハーレイを流し見てそう言い、ハーレイは舌打ちする。

 確かに、そういうルールはない。ルールにない以上、審判もそれを咎めることが出来ない。

 

「そんなことは関係ありません!倫理的な問題です!こんなの、人としてどうかと思います!」

「……はぁ。じゃあどうしろってんだよ?アイツを納得させるには」

「それは……」

「決まっています!私との決闘を受けなさい!」

 

 詰まったシスティーナに、代替え案を提示するレオス。

 

「な――ッ!レオス、貴方――ッ!」

「こんな戦いでは納得出来ない。それは貴女も分かってくれるでしょう、システィーナ?」

「うっ……」

「グレン=レーダス。私との決闘を受けろ」

「……ったく、面倒くせぇ」

 

 ポリポリ、と。頭を掻きつつ、地面に落ちた手袋を拾い上げるグレン。

 

「……やってやるよ」

「……ッ⁉」

「ふっ」

 

 レオスが不敵に笑い、システィーナが絶句する。

 

「お前のしつこさにもうんざりだ。今度の決闘は一対一。日時は明日の放課後、場所は中庭だ。ルールは致死性の魔術は禁止で他は全手段解禁。……これで満足か?」

「えぇ。しかし、いいのですか?一対一なんて」

「あぁ。後、今回のトラップみたいな反則スレスレの行為もしないと誓う」

「……随分大きく出ましたね。後悔しますよ?」

「予め決めておかないと、お前がまた駄々こねるだろうしな」

 

 グレンの強気な態度にも、レオスは余裕を崩さなくなってきた。恐らく、自らの勝利を確信して疑っていないのだろう。

 

「……さて、日程も決まった。今日の演習はここまで。お前ら、撤収だ」

 

 そういって、グレンは強引に授業を締めくくった。……背後に、納得のいかなそうなシスティーナの視線を受けながら。

 

 

 

 




 システィーナちゃん可愛い。ぺろぺろしたい。
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