ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

25 / 44
 ついに、グレン先生の知られざる(オリジナルの)過去を開放!
 この話を見えるのはここだけ!(オリジナルだから当たり前)
 さぁ、二十四話、どうぞ!


二十四話:グレンの後輩

 とある路地裏にて。

 

「いやはや、これは典型的じゃのう」

 

 帝国宮廷魔導士の礼服を着た老人、バーナード=ジェスターが、自身の髭を撫でながら呟いた。

 

天使の塵(エンジェルダスト)の中毒患者。その憐れな末路か」

「噂には聞いていましたがこんなにひどいとは」

「……うん」

 

 その隣には、アルベルトに加え、かつてのグレンの後輩の一人(・ ・ ・)、クリストフ=フラウル。セラ=シルヴァース。彼らは、最近発見される『天使の塵(エンジェルダスト)』の事件を調査しているのだ。

 

「しかし、これで五件目か」

「思った以上に、あの薬に侵食されてるかもしれんな」

「……このままにはしておけないよ。じゃないと、アリア(・ ・ ・)ちゃんが何の為に死んだのか……!」

 

 セラが悲痛な様子で呟く。

 

「……おい、お前さんたち」

「分かっている」

 

 突如、口数の減ったバーナードに対し、アルベルトは普段よりも鋭くなった相貌を、周囲に向けた。

 そこにいたのは――

 

「……多いですね。すみません、僕が周囲の警戒を緩めたばっかりに……!」

「気にしないで。それより、ここを乗り切ることを考えなきゃ」

 

 まるでゾンビのような呻き声とともに、沢山の『天使の塵(エンジェルダスト)』の中毒者に囲まれた四人。

 

「《雷槍よ》」

 

 アルベルトが【ライトニング・ピアス】を二重起動(ダブルキャスト)で唱える。二つの紫電の線が、中毒者たちの脳を貫いた。

 しかし、動揺することもなく、むしろ敵対したことでより激しく攻め立てる中毒者たち。

 

「さてさて、一仕事じゃ!」

 

 そんなバーナードの掛け声とともに、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは過去の話。

 グレンが宮廷魔導士として戦い、それなりの月日が経った頃。

 

「……で、なんで俺が呼ばれたんだ?」

「貴方に、この任務を任せようと思ってね」

 

 グレンの前では、椅子に腰かけ、机で腕を組む女性、イヴ=イグナイトが、グレンに資料を渡す。

 

「……ワーテルロ卿の討伐?」

「えぇ。三年ほど前から、彼の領民が謎の失踪を続けているのが分かったの」

「それがそいつの仕業だと?」

「間違いないわ」

 

 イヴが自信満々に言い、グレンが呆れたようにため息をつき、頭を掻く。

 

「……分かった。他のメンツは?」

「他の部署の部隊と、うちからはアルベルトとセラ。後――」

 

 イヴに呼ばれ、部屋の扉が勢いよく開かれる。

 

「ちわーっす!アリア=エスカールです!よろしくっス!」

 

 部屋中に、その大きな声が響き渡る。

 

「……彼女、新たに《太陽》のナンバーを与えた、アリア=エスカール」

「……マジか」

「後、ワーテルロ卿は、人間の人工的な吸血鬼化の研究をしているという報告もあったわ」

「……なんだと?」

 

 吸血鬼。

 それは、不死者の中でも高貴とされる存在。

 人を捕食するという本能を持ち、生まれながらに人に仇為す、決して人と相容れない、誇り高き怪物。

 人間の限界を圧倒的に超えた身体能力、不死性、再生能力、吸血行為による眷属化、影を操り武器や魔獣の群れとする力、毒の力、変身能力、支配や魅了の魔眼、絶大なる闇の魔力、元素支配、といった警戒すべき規格外の能力を複数持っている。

 帝国では、いかなる理由があろうと即刻処分せよという法律だ。

 

「……そりゃ、やばいな」

「えぇ。よろしくね?」

「へいへい」

 

 適当に答えた後、グレンは部屋を出る。

 

「……ったく、相変わらずここはブラック企業だな」

「あ、先輩……」

「ん?……はぁ、行くぞ」

「え?」

「え、じゃねぇ。お前も討伐隊のメンバーに入ってるだろーが」

「あ……はいっス!」

「ったく」

 

 これが、アリアとグレンの出会いだった。特別な出会いなどなく、ただ偶々任務で一緒になった。

 

 

 

 

 

 

 討伐決戦日。

 

「……ちっ、どんだけいんだこの食屍鬼(グール)ども!」

 

 グレンが迫りくる不死者のなりそこない、食屍鬼(グール)に、【ブレイズ・バースト】を放ちながら叫ぶ。

 

「おい、アリア!何ぼさっとしてるんだ!さっさとこいつらを」

「先輩」

 

 普段なら無視していただろう。なにしろ、今は戦闘中。そんな話を聞いている余裕もない。

 

「この人たちって……元々、只の人間だったんっスよね?」

 

 その言葉は、グレンに響いた。

 

(……あ)

 

 今まで、同じようなことはあった。だからこそ、グレンは予め浄銀弾を用意していた。

 だが、今まで特務分室で仕事をし、戦い続ける日々の中ですっかり忘れていた。

 彼らは、つい最近まで、自分たちと同じ人間だった。そう言う認識を。

 

「……先輩」

「!……、それは、後で考えろ。今は任務を果たせ」

「……はいっス」

 

 初めのころと比べれば、明らかに意気消沈している。だが、戦わなければ死んでしまう。

 

(……にしても、いつからだろうな。人を殺すことを……割り切れるようになった……いや、そう思いこめるようになったのは)

 

 単に、気にしないようにしてただけ。それ(・ ・)を認識したくなくて、目を背けていた。

 人を殺すこと。それが、何を意味するか。

 

「……いつの間にか、俺も堕ちてたのか」

「先輩?」

「なんでもねぇ。……よし、道が出来た。突破するぞ!」

「はいっす!」

 

 アリアとともに、食屍鬼(グール)を退けながら、元凶であるワーテルロ卿のもとに辿り着いたグレン。

 そこからは早かった。さっさと【愚者の世界】を発動。ワーテルロ卿をフルボッコにし、事態を収拾した。

 

「先輩!この子、まだ生きてます!吸血鬼化もされてないっス!」

「ホントか⁉」

 

 一人、診察台のようなところに乗せられている少女。どうやら、名前はカーミラというらしい。

 今は診察台の上で、死んだように眠っている。

 

「これ、大丈夫っスかね?」

「問題ねぇ。衰弱してるが、命に別状はない」

「……よ、よかった~」

 

 心底、ほっとしたように、息を吐くアリア。

 

「グレン君!アリアちゃん!」

「……無事か?」

 

 そんな二人のもとに、セラとアルベルトが駆けつけた。

 

「二人とも大丈夫⁉」

「問題ないっス!ワーテルロ卿も、先輩がちゃちゃっとやっつけたっス!」

「そ、そう……。よかった~」

「もー、心配しすぎっスよセラ先輩!」

 

 セラとアリアが、和やか空気を醸し出している中

 

「……始末しなかったのか?」

「俺の戦法が相当嵌る奴だったからな。生け捕りにした」

「その手際は流石だが……何かあったのか?」

「……ま、大事なことを思い出したんだ」

 

 グレンがアリアを見ながらそういう。

 

「……アリア、か」

「どうかしたかアルベルト?」

「……いや、なんでもない。懐かしい名前だと思ってな」

「お、もしかしてアルちゃんの初恋?ちょっと聞かせろよ」

「断る」

 

 そんなやり取りをしながら、グレンたちは帰還した。

 

「……ふぅ。にしても」

「あ、先輩」

 

 今の今まで、グレンは生きるか死ぬかの瀬戸際の戦いを繰り返してきた。だから、人を殺すことの罪悪感を気にしている余裕もなかったのだ。

 それは、人として大事なものを失った、外道魔術師のようなものだ。

 アリアは、グレンにそれを思い出させてくれた。特務分室の人間は、そんなことを気にする人間はそうそういない。だからこそ、グレンにとって、アリアは特別だった。

 誰かの死を悲しみ、それに慣れることのない彼女は。

 

「先輩、ありがとうございました」

「なんもしてねぇよ。それに、礼を言うのはこっちだしな」

「え、何っスか?」

「……やっぱりいいや」

「え、なんですか?気になるっス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから。

 

「先輩!」

「……何だ黒猫?」

「なんスか黒猫って?それより、ごはん食べに行きましょうよ!」

 

 アリアは、その日から、グレンに子猫は親の後を追うようについてくるようになった。

 

「先輩!」

「なんだ?」

「呼んでみただけっス!」

「ふざけんな」

 

 こういったやり取りは、特務分室ではやってこなかった。グレンは、今まで錆びついていた心が、磨かれていくのを感じていた。

 存外、楽しかったのだ。彼女に振り回される日々も。

 

「先輩、私、夢があるんっス」

「夢?」

「私、『正義の魔法使い』になりたいんっスよ」

「!……、」

 

 彼女の夢は、この闇の世界では、最も似合わないものだった。

 それは、原作のグレン=レーダスを見ても分かる。この世界は、犠牲の上に成り立っている。すべてを救うことなどできない。

 彼女とて、理解している。

 

「でも、なりたいっスよ」

 

 どこまでも、その夢を追う。そこには、真っ直ぐな情熱があった。

 グレンは、原作の流れを気にするあまり、自分の夢なんてものを一つも持ったことはなかった。考えることもなかった。

 

「先輩は、なんか夢ないんっスか?」

「……さぁな」

 

 遠い昔……というほどでもない時期、何かの夢を持った気がする。最早、原作の知識とともに消え去り、思い出すこともできないが。

 彼の原作知識は、彼が経験した凄惨な事件の数々に上書きされていった。そして、遥か先の未来の事も考える余裕は、この闇の世界ではない。

 

「そうだな」

「?」

「俺には夢がない。……でも」

「でも?」

「夢を守る……それくらいは出来る」

「!……、」

「少なくとも、お前の夢くらいは守ってやる。約束するよ」

 

 そんならしくないこと言い、グレンはアリアに煽られるのだった。

 

「……ありがとう、ございます」

「ん?なんか言ったか?」

「い、いえ!何でもないっスよ⁉」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、月日は過ぎた。

 

「…ぁ……せ、ん……ぱい」

「……あ、りあ?」

「……、」

 

 グレンの目の前には、心臓を貫かれ、既に死神の鎌に捕まった状態のアリアが、仰向けに倒れている。

 その後ろで、二人の増援に駆け付けたセラが、悲痛な表情で二人を見ている。

 アリアの傷は、グレンの治癒魔術の腕で、治るものではない。これを治すなら、白魔儀【リヴァイバー】が必要になる。

 だが、グレンにはそんな高等呪文を扱う技術はないし、魔力も圧倒的に不足している。例えセラの力を借りても、無駄だろう。

 彼女を救う(すべ)は……もうない。

 

「……すまん」

「……あ、謝んないでくださいっス。先輩は……何も悪くないっスから」

 

 青白い、生気を失った顔つきで、アリアは笑いながら言う。

 怒って欲しかった。お前のせいで死んだと、罵倒してほしかった。彼女がそんなことをしないと、分かっていても。

 

「それより……ジャティス先輩は?」

「……ジャティスの野郎の首は取った。後、あんな野郎まで先輩呼びしなくていいぞ」

「は、はは……。癖、っすから。……先輩、お、覚、えて、るっスか?」

「……何を」

「夢を……私の、ゆ、夢を……守ってくれる、って……」

「!……、すまん。何が夢を守るだ。結局、何も出来なかったじゃねぇか……ッ!」

 

 元凶は殺した。しかし、失ったものは、余りにも、グレンには大きすぎた。

 

「だい、じょ……ぶ…すよ」

 

 グレンを安心させるように、アリアは笑う。

 

「私、が……死ん、でも…。私の……、夢は……死んでないっス」

「お前……!」

「先輩。……お願いがあるっす。……わた、しの…夢……しっか……、ま、も……」

「アリア……?」

 

 彼女の瞳は、既に光を映していなかった。

 

 

 

 




 この世界での原作セラの立ち位置を確保したアリアちゃん。
 アリアちゃんとグレンの関係は『宇〇ちゃんは遊びたい』の〇崎ちゃんと先輩をイメージしましたね。
 何気にサラッとイヴも登場。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。