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さぁ、二十四話、どうぞ!
とある路地裏にて。
「いやはや、これは典型的じゃのう」
帝国宮廷魔導士の礼服を着た老人、バーナード=ジェスターが、自身の髭を撫でながら呟いた。
「
「噂には聞いていましたがこんなにひどいとは」
「……うん」
その隣には、アルベルトに加え、かつてのグレンの後輩
「しかし、これで五件目か」
「思った以上に、あの薬に侵食されてるかもしれんな」
「……このままにはしておけないよ。じゃないと、
セラが悲痛な様子で呟く。
「……おい、お前さんたち」
「分かっている」
突如、口数の減ったバーナードに対し、アルベルトは普段よりも鋭くなった相貌を、周囲に向けた。
そこにいたのは――
「……多いですね。すみません、僕が周囲の警戒を緩めたばっかりに……!」
「気にしないで。それより、ここを乗り切ることを考えなきゃ」
まるでゾンビのような呻き声とともに、沢山の『
「《雷槍よ》」
アルベルトが【ライトニング・ピアス】を
しかし、動揺することもなく、むしろ敵対したことでより激しく攻め立てる中毒者たち。
「さてさて、一仕事じゃ!」
そんなバーナードの掛け声とともに、戦闘が始まった。
これは過去の話。
グレンが宮廷魔導士として戦い、それなりの月日が経った頃。
「……で、なんで俺が呼ばれたんだ?」
「貴方に、この任務を任せようと思ってね」
グレンの前では、椅子に腰かけ、机で腕を組む女性、イヴ=イグナイトが、グレンに資料を渡す。
「……ワーテルロ卿の討伐?」
「えぇ。三年ほど前から、彼の領民が謎の失踪を続けているのが分かったの」
「それがそいつの仕業だと?」
「間違いないわ」
イヴが自信満々に言い、グレンが呆れたようにため息をつき、頭を掻く。
「……分かった。他のメンツは?」
「他の部署の部隊と、うちからはアルベルトとセラ。後――」
イヴに呼ばれ、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「ちわーっす!アリア=エスカールです!よろしくっス!」
部屋中に、その大きな声が響き渡る。
「……彼女、新たに《太陽》のナンバーを与えた、アリア=エスカール」
「……マジか」
「後、ワーテルロ卿は、人間の人工的な吸血鬼化の研究をしているという報告もあったわ」
「……なんだと?」
吸血鬼。
それは、不死者の中でも高貴とされる存在。
人を捕食するという本能を持ち、生まれながらに人に仇為す、決して人と相容れない、誇り高き怪物。
人間の限界を圧倒的に超えた身体能力、不死性、再生能力、吸血行為による眷属化、影を操り武器や魔獣の群れとする力、毒の力、変身能力、支配や魅了の魔眼、絶大なる闇の魔力、元素支配、といった警戒すべき規格外の能力を複数持っている。
帝国では、いかなる理由があろうと即刻処分せよという法律だ。
「……そりゃ、やばいな」
「えぇ。よろしくね?」
「へいへい」
適当に答えた後、グレンは部屋を出る。
「……ったく、相変わらずここはブラック企業だな」
「あ、先輩……」
「ん?……はぁ、行くぞ」
「え?」
「え、じゃねぇ。お前も討伐隊のメンバーに入ってるだろーが」
「あ……はいっス!」
「ったく」
これが、アリアとグレンの出会いだった。特別な出会いなどなく、ただ偶々任務で一緒になった。
討伐決戦日。
「……ちっ、どんだけいんだこの
グレンが迫りくる不死者のなりそこない、
「おい、アリア!何ぼさっとしてるんだ!さっさとこいつらを」
「先輩」
普段なら無視していただろう。なにしろ、今は戦闘中。そんな話を聞いている余裕もない。
「この人たちって……元々、只の人間だったんっスよね?」
その言葉は、グレンに響いた。
(……あ)
今まで、同じようなことはあった。だからこそ、グレンは予め浄銀弾を用意していた。
だが、今まで特務分室で仕事をし、戦い続ける日々の中ですっかり忘れていた。
彼らは、つい最近まで、自分たちと同じ人間だった。そう言う認識を。
「……先輩」
「!……、それは、後で考えろ。今は任務を果たせ」
「……はいっス」
初めのころと比べれば、明らかに意気消沈している。だが、戦わなければ死んでしまう。
(……にしても、いつからだろうな。人を殺すことを……割り切れるようになった……いや、そう思いこめるようになったのは)
単に、気にしないようにしてただけ。
人を殺すこと。それが、何を意味するか。
「……いつの間にか、俺も堕ちてたのか」
「先輩?」
「なんでもねぇ。……よし、道が出来た。突破するぞ!」
「はいっす!」
アリアとともに、
そこからは早かった。さっさと【愚者の世界】を発動。ワーテルロ卿をフルボッコにし、事態を収拾した。
「先輩!この子、まだ生きてます!吸血鬼化もされてないっス!」
「ホントか⁉」
一人、診察台のようなところに乗せられている少女。どうやら、名前はカーミラというらしい。
今は診察台の上で、死んだように眠っている。
「これ、大丈夫っスかね?」
「問題ねぇ。衰弱してるが、命に別状はない」
「……よ、よかった~」
心底、ほっとしたように、息を吐くアリア。
「グレン君!アリアちゃん!」
「……無事か?」
そんな二人のもとに、セラとアルベルトが駆けつけた。
「二人とも大丈夫⁉」
「問題ないっス!ワーテルロ卿も、先輩がちゃちゃっとやっつけたっス!」
「そ、そう……。よかった~」
「もー、心配しすぎっスよセラ先輩!」
セラとアリアが、和やか空気を醸し出している中
「……始末しなかったのか?」
「俺の戦法が相当嵌る奴だったからな。生け捕りにした」
「その手際は流石だが……何かあったのか?」
「……ま、大事なことを思い出したんだ」
グレンがアリアを見ながらそういう。
「……アリア、か」
「どうかしたかアルベルト?」
「……いや、なんでもない。懐かしい名前だと思ってな」
「お、もしかしてアルちゃんの初恋?ちょっと聞かせろよ」
「断る」
そんなやり取りをしながら、グレンたちは帰還した。
「……ふぅ。にしても」
「あ、先輩」
今の今まで、グレンは生きるか死ぬかの瀬戸際の戦いを繰り返してきた。だから、人を殺すことの罪悪感を気にしている余裕もなかったのだ。
それは、人として大事なものを失った、外道魔術師のようなものだ。
アリアは、グレンにそれを思い出させてくれた。特務分室の人間は、そんなことを気にする人間はそうそういない。だからこそ、グレンにとって、アリアは特別だった。
誰かの死を悲しみ、それに慣れることのない彼女は。
「先輩、ありがとうございました」
「なんもしてねぇよ。それに、礼を言うのはこっちだしな」
「え、何っスか?」
「……やっぱりいいや」
「え、なんですか?気になるっス!」
それから。
「先輩!」
「……何だ黒猫?」
「なんスか黒猫って?それより、ごはん食べに行きましょうよ!」
アリアは、その日から、グレンに子猫は親の後を追うようについてくるようになった。
「先輩!」
「なんだ?」
「呼んでみただけっス!」
「ふざけんな」
こういったやり取りは、特務分室ではやってこなかった。グレンは、今まで錆びついていた心が、磨かれていくのを感じていた。
存外、楽しかったのだ。彼女に振り回される日々も。
「先輩、私、夢があるんっス」
「夢?」
「私、『正義の魔法使い』になりたいんっスよ」
「!……、」
彼女の夢は、この闇の世界では、最も似合わないものだった。
それは、原作のグレン=レーダスを見ても分かる。この世界は、犠牲の上に成り立っている。すべてを救うことなどできない。
彼女とて、理解している。
「でも、なりたいっスよ」
どこまでも、その夢を追う。そこには、真っ直ぐな情熱があった。
グレンは、原作の流れを気にするあまり、自分の夢なんてものを一つも持ったことはなかった。考えることもなかった。
「先輩は、なんか夢ないんっスか?」
「……さぁな」
遠い昔……というほどでもない時期、何かの夢を持った気がする。最早、原作の知識とともに消え去り、思い出すこともできないが。
彼の原作知識は、彼が経験した凄惨な事件の数々に上書きされていった。そして、遥か先の未来の事も考える余裕は、この闇の世界ではない。
「そうだな」
「?」
「俺には夢がない。……でも」
「でも?」
「夢を守る……それくらいは出来る」
「!……、」
「少なくとも、お前の夢くらいは守ってやる。約束するよ」
そんならしくないこと言い、グレンはアリアに煽られるのだった。
「……ありがとう、ございます」
「ん?なんか言ったか?」
「い、いえ!何でもないっスよ⁉」
「?」
それから、月日は過ぎた。
「…ぁ……せ、ん……ぱい」
「……あ、りあ?」
「……、」
グレンの目の前には、心臓を貫かれ、既に死神の鎌に捕まった状態のアリアが、仰向けに倒れている。
その後ろで、二人の増援に駆け付けたセラが、悲痛な表情で二人を見ている。
アリアの傷は、グレンの治癒魔術の腕で、治るものではない。これを治すなら、白魔儀【リヴァイバー】が必要になる。
だが、グレンにはそんな高等呪文を扱う技術はないし、魔力も圧倒的に不足している。例えセラの力を借りても、無駄だろう。
彼女を救う
「……すまん」
「……あ、謝んないでくださいっス。先輩は……何も悪くないっスから」
青白い、生気を失った顔つきで、アリアは笑いながら言う。
怒って欲しかった。お前のせいで死んだと、罵倒してほしかった。彼女がそんなことをしないと、分かっていても。
「それより……ジャティス先輩は?」
「……ジャティスの野郎の首は取った。後、あんな野郎まで先輩呼びしなくていいぞ」
「は、はは……。癖、っすから。……先輩、お、覚、えて、るっスか?」
「……何を」
「夢を……私の、ゆ、夢を……守ってくれる、って……」
「!……、すまん。何が夢を守るだ。結局、何も出来なかったじゃねぇか……ッ!」
元凶は殺した。しかし、失ったものは、余りにも、グレンには大きすぎた。
「だい、じょ……ぶ…すよ」
グレンを安心させるように、アリアは笑う。
「私、が……死ん、でも…。私の……、夢は……死んでないっス」
「お前……!」
「先輩。……お願いがあるっす。……わた、しの…夢……しっか……、ま、も……」
「アリア……?」
彼女の瞳は、既に光を映していなかった。
この世界での原作セラの立ち位置を確保したアリアちゃん。
アリアちゃんとグレンの関係は『宇〇ちゃんは遊びたい』の〇崎ちゃんと先輩をイメージしましたね。
何気にサラッとイヴも登場。