ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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 なんかどんどん話がややこしくなってるような……。


二十五話:決戦前日

「……いよいよ明日、か」

 

 アルザーノ帝国魔術学院の屋上で、グレンが月を見上げながら呟いた。

 

(悪いがレオス。魔術の才能にどれだけ差があっても、研究ばっかのインテリ野郎なお前には、負ける気はしねぇ)

 

 レオスの才能は確かだ。だが、実戦経験の少ない研究者に負けるようならば、グレンは魔導士時代にとっくに墓入りしてただろう。

 

「……にしても、本当にこれでよかったんだよな。なぁ、アリア?」

「いいわけないでしょ」

 

 突如、背後から声を掛けられたのでバっと振り返るグレン。

 その先には、腕を組み、少し不貞腐れた様子のシスティーナがいた。

 

「……お前かよ、驚かせんな」

「悪かったわね、私で。……聞きたいことがあるんですけど?」

「……内容によるな」

「これだけやらかしてるんです。ちゃんと答えてもらいますよ」

 

 システィーナは、何故レオスの決闘を受けたのか。そもそも、何故レオスに決闘を吹っかけたのか。後、こっそり呟いたアリア、と言う名前も聞き逃さなかったらしい。

 

「……参ったな」

「……、」

 

 システィーナは静かにグレンを見つめる。話すまで帰さないという強い意志だけは感じ取れた。

 

「……アリア=エスカール」

「?」

「宮廷魔導士だったころの、俺の後輩だ」

 

 そして、グレンは語りだした。

 

「そうだな。兎に角、真っ直ぐな奴だった。ウザかったけど」

「う、ウザいんですか?」

「あぁ。野営中、俺が寝てるときに朝早くから叩き起こしに来るし、朝っぱらから騒ぎまくるし。本当にウザかった」

「は、はぁ……?」

 

 いきなりグレンの愚痴が始まり、戸惑うシスティーナ。

 

「でも、そいつは俺には無い物を持ってた」

「無い物?」

「夢だ」

 

 無論、叶わない夢と言うなら、セラもそうだろう。

 しかし、アリアの夢は、それとは別種だった。

 

「アイツは、『正義の魔法使い』になりたいってよく言っててな。それで、軍の奴らにも馬鹿にされてたよ」

「……、」

「でも、何故か俺は、あいつが放っておけなかった」

 

 今にして思えば、必ず挫折すると分かっている夢を持つ彼女を、心配していたのかもしれない。

 セラと違い、辿り着くゴールのない夢。どれだけ進んでも、決してゴールテープを切ることが出来ない徒競走。

 それが、『正義の魔法使い』。

 

「結局あいつは、自分の夢を追い求めて、殉職した。俺の目の前で」

「!……、先生…」

「俺はその前に、アリアと約束をしたんだ」

「約束?」

「あぁ。……俺には夢がない。……だから、せめて夢を守るって」

 

 ……だが、出来なかった。

 

「まっ、所詮その程度の口だけ野郎だったってことだ」

「……、」

「……んでもって、そんな自分に嫌気がさした。後は……怖かった」

「怖い?」

「あぁ。その時になって初めて、失う怖さを知ったんだ」

 

 救い続けることが出来たグレンだからこそ、初めて知った恐怖。それをもう一度味わうのが嫌だった。

 

「だから、しばらくは抜け殻みたいになってて、気づいたらうっかり女王陛下に不敬を働いてクビさ」

「……でも、それと私と、何の関係が……?」

「ま、それも色々あるんだが……」

 

 かつて、果たせなかった約束。

 

「夢の実現に真っ直ぐなお前に期待してたのか、お前の夢を守ってやることでアリアへの贖罪にしようとしたのか」

「……」

「まぁ、夢を否定する奴が許せなかった。俺には無い物を持っているお前が、レオスの奴に否定されるのが我慢ならなかった。そしたら、いつの間にか割り込んでた」

「……結局、ただの個人的感情ってことですか?」

「ま、そういうこと」

「馬鹿みたい。まるで子供ね」

 

 でも、と。

 

「ちょっとだけ嬉しいかも」

 

 そういって、システィーナは月の光に照らされながら、微笑む。

 

「だって、レオスの言った事は、本当だもの。実際、私はお爺様の足元にも及ばないし、魔術を勉強すればするほど、挫けそうになってくるわ。でも、そんな夢でもただの個人的感情で、応援してくれて、守ってくれるような人もいるみたいだし」

 

 普段から起こり続ける彼女にしては珍しいほど、険のない、爽やかな笑みだった。

 

「……はっ!そりゃ当然だろ。生徒の夢を応援するのは、先生として当然の事だからな!」

「調子に乗らないの!」

 

 グレンがふざけて、システィーナが怒る。そんな二人の、当たり前のようなやり取りが、ようやく戻ってきた。

 

「実に卑怯な男ですね、グレン=レーダス。ご自分の過去を、まるで美談かのように巧みに語り、システィーナの同情や共感を得ようとしている。違いますか?」

 

 そんな二人に、水を差すものいた。……レオスだ。

 いつの間にか、目の下のクマは取れている。休んだことで、体調が回復したのだろうか。

 

「んだテメェ、急に来ていきなり」

「グレン先生。私は、軍用魔術研究に関わる仕事柄、帝国軍の機密情報にもそれなりに触れてましてね。知っているんですよ。あなたが過去に何をやってきたか。ねぇ?《愚者》のグレンさん」

 

 ――《愚者》

 それは、かつてのグレンのコードネーム。

 

「……おい」

「……、」

「え……」

 

 レオスとグレンの異様な雰囲気に呑まれ、システィーナは何も出来ないでいる。そんな彼女を後ろに下げつつ、グレンはレオスを睨みつける。

 

「テメェがそのことを知っているのは、この際置いといてやる。だが、わざわざこのタイミングで言ってきた意図はなんだ」

「……、」

「答えろ。テメェは何がしたい?何が言いたい」

「あなたは本来、こんな日向の世界にいる資格のない人間だ。その血塗られた手で、生徒達に一体何を教えるつもりなのです?」

 

 レオスはグレンの質問を無視し、一方的にべらべらしゃべっていく。

 

「……二度目。答えろ。さもなくば、決闘の日を待つ必要はない」

「あなたにはもっと、相応しい場所と立場があるでしょう?帰って来なさい。”元”帝国宮廷魔導士団、特務分室。執行官No0・《愚者》のグレン=レーダス」

「三度目だ。じゃあ、その体に聞いてやる!」

 

 懐から『愚者のアルカナ』を抜き取り、放り投げて、レオスに殴りかかるグレン。

 

「やれやれ。暴力はいけませんね」

「な――ッ!」

 

 レオスはその一撃を払いのけ、カウンターを撃ち込む。

 その洗練された動きは、惑う事なき帝国式軍隊格闘術だった。

 

(馬鹿な!こいつが何か体術を収めている気配なんてなかったはず――ッ!)

「ガハッ!」

「先生!」

「来るな白猫!」

 

 蹴り飛ばされたグレンが、柵に叩きつけられる。心配したシスティーナが歩み寄ろうとするが、グレンはそれを制した。

 

「ふっ」

 

 レオスは突如、両手から粉末のようなものを出現させた。それは徐々に形を伴っていき

 

「……嘘」

「……あり得ねぇ、人工精霊(タルパ)だと――ッ⁉」

 

 人工精霊(タルパ)

 人工的に神や悪魔、精霊を生み出す、禁呪に近い錬金術の奥義。

 魔術の法則の一つ、「等価対応の原則」を逆手に取り、魔薬でトランス状態に陥ることで、深層意識に暗示認識させ、疑似霊素粒子(パラ・エテリオン)をスクリーンに、空想存在を現実世界に具現化させるという荒業。一歩間違えれば廃人となる、危険な技だ。

 

「強いですよ人工精霊(タルパ)は。特にグレン先生、あなたに対しては」

 

 出現した天使たちが、グレンにドンドン攻撃を仕掛けていく。グレンは【愚者の世界】によって魔術を封じられているため、為す術がない。

 

「呪文の詠唱ではなく、トランス状態による妄想強化。魔術に分類されない以上【愚者の世界】は通用しない」

「ぐあぁぁ――ッ!」

 

 レオスが説明している間に、グレンは既に満身創痍となった。

 

「先生!」

 

 これ以上は耐えられないと、システィーナがグレンのもとに駆け寄り、治癒魔術を行使しようとするが、【愚者の世界】に阻まれ、何もできない。

 

「知ってますよ。あなたはこんなものではないはずだ。明日の決闘では、是非とも本気を見せてもらいたいものです」

「……ふざ、けんな……ッ!」

「おや、まだ立てるのですか」

「先生ダメ!じっとしてないと――ッ!」

「大丈夫だ白猫。それよりも……お前、誰だ(・ ・)?」

 

 グレンがレオスを睨みつけながら言う。

 

「私はレオス。レオス=クライトス。クライトス家の嫡男であり」

「黙れ。テメェは、レオスじゃねぇだろ(・ ・ ・ ・ ・ ・)!」

「え……?」

 

 システィーナが訳が分からないとグレンを見る。

 

「レオスの専門は軍用魔術だ。錬金術じゃねぇ。それに、あいつみたいな奴に扱えるほど、人工精霊(タルパ)は甘いもんじゃねぇ!」

 

 レオスらしき人物はだんまりを決め込んでいる。

 

「……いや、待て。人工精霊(タルパ)だと?……最近『天使の塵(エンジェルダスト)』が流出してるって……」

「気づきましたか?ここで勘付かれるのは”読めなかった”ですよ」

「⁉」

 

 グレンが驚愕の表情でレオスらしき人物を見る。

 

「ま、さか……、お前は――ッ!」

「ふっ」

 

 レオスらしき人物が腕を振るうと、天使たちも行動を開始した。グレンを切り裂き、屋上から叩き落す。

 

「ぐぁぁぁぁあああああ――ッ!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!先生!先生ぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!」

 

 システィーナが必死に手を伸ばすが、その手は届かなかった。魔術で追うことはできない。今はまだ、【愚者の世界】が発動している。

 そして、グレンは何も出来ないまま暗い地上へと消えた。

 

「追いかけないと―――ッ!」

「心配いりませんよ。彼はこの程度では死にません」

 

 グレンを追いかけようとしたシスティーナを、レオスらしき人物が腕を掴み、引き留める。

 

「いや、離して!」

「黙れ小娘。二度と見られない顔にしてやろうか……あァ⁉」

 

 暴れるシスティーナが鬱陶しくなったのか、ドスの利いた声で凄むレオスらしき人物。

 

「…ぇ……」

 

 そこには、システィーナに対する一欠けらの愛情もなかった。間違いない、グレンの言う通りだ。この男は、レオスではない。

 目の前の誰かへの恐怖で、すっかり大人しくなってしまったシスティーナに、レオスらしき人物が笑いかける。

 

「それでいいんです。……さて、要件は分かっていますね?私と結婚してください。勿論、あなたに拒否権はありませんよ」

 

 すると、レオスはシスティーナの耳元で、その話をした。

 

「(大事なお友達のルミア=ティンジェル。彼女の素性と能力、秘密にしておきたいんでしょう?)」

「な――ッ⁉」

「(リィエル=レイフォード。彼女を実験用モルモットとして欲しがる地下組織もごまんとあるでしょうしねぇ)」

 

 あり得ない。ルミアの素性を知っていることもそうだ。あれは余程、国の事情に対し深い人物でなければ知らない。

 リィエルに関しては、軍ですら把握していない最重要機密だ。システィーナですら、最近教えてもらったばかりのこと。

 それを知っているのは、グレンたちを除けば――

 

「まさか……あなた、天の智慧研究会の――ッ⁉」

 

 その瞬間、レオスらしき人物の顔から表情が消えた。

 

「……なんだと?このクソアマがッッ!!」

「ひっ――ッ⁉」

 

 突然怒鳴りつけ、怒り出したレオスらしき人物に、システィーナは委縮してしまう。

 

()をあんな下劣で下賤なクズ共と一緒にするなッ!」

「……ぁ」

「まぁいい。賢い君ならわかるだろう?私の求婚、受けてくれますよね?私達は愛し合ってるのですから」

 

 駄目だ。逆らえない。

 システィーナの心は、既にこの男に屈している。

 

(助けて……先生……!)

 

 そんなシスティーナの思いは届かず、グレンは決闘の日にも姿を現すことはなく、それ以降、学院にも姿を見せなかった。

 

 

 

 




 グレンが原作よりやばい状況に陥っている気がする。
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