ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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 今日は連続投稿。



二十七話:《愚者》の反撃

 ついに、結婚式の日がやってきた。

 ルミアとリィエルは、控室でシスティーナの着替えを待っている。

 

「……グレン、結局来なかった」

「……、」

 

 グレンは、一度も姿を見せることも、何かしらの連絡を取りに来ることもなかった。

 すると、着替え室の扉が開き、ウェディングドレスに身を包んだシスティーナが姿を現した。

 

「うわぁ……!システィ、綺麗……!」

「……いいな。そのひらひらの服。戦いにくそうだけど私も着たい」

 

 その時、ルミアとリィエルは、今の最悪の状況も忘れ、ただシスティーナの姿に感服していた。

 

「大丈夫よ。リィエルにも、いつか着れる日が来るわよ」

 

 そうよ。絶対に……。そう呟くシスティーナの独り言は、二人は聞き取ることが出来なかった。

 

「システィ?」

「!……、ううん、何でもない。もうすぐ式が始まるから、参列席へ行ってて」

 

 精一杯の笑顔で、友人たちに心配は掛けまいと、微笑みかけ、部屋から追い出すシスティーナ。

 

 

 そして、式が始まった。参列席には、やはり二組の生徒以外誰もいない。

 その様子に、二組の生徒たちは訝しむが、レオスとシスティーナが祭壇の前に立ったことで、彼らも静まる。

 そして、司祭による聖書朗読が始まった。粛々と式は進んでいき、誓約の儀へと移行する。

 

「レオス=クライトス。汝、健やかなるときも、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、共に支えあい、その命ある限り、永久に真心を尽くすことを誓いますか?」

「誓います」

 

 即答だった。

 しかし、システィーナがこれは偽りであることを知っている。レオスに成りすましてまで自分と結婚したい……いいや、結婚して何をしたいかは分からないが、ルミアたちを危険に晒すわけにはいかない。

 司祭が、今度はシスティーナに尋ねようとする。

 システィーナは、つい身構えてしまうが――

 

「汝、白猫(・ ・)

 

 言葉を述べる司祭を除く、すべての人間の頭に?の文字が浮かんだ。今この老人は、何といったか。

 

「お前は健やかなるときも、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、そのスカしたクソ野郎を愛し、敬い、慰め、助け、共に支えあい、その命ある限り、永久に真心を尽くすことを誓いますか?誓えるわけねぇよな。寧ろ誓ったらデコピンだ……よく耐えたな」

「……………………………………………………………………………え?」

 

 その瞬間、司祭の姿が歪んでいく。

 

「な――ッ⁉」

「よぉ」

 

 普段は着ても来ない、魔術学院の講師用ローブをきっちりと着こなしたグレンの姿があった。

 グレンは魔術で司祭に変身し、機会を窺っていたようだ。

 

「せ、先生――ッ⁉」

 

 システィーナが驚愕の声を上げる。

 

「そらよ!」

 

 それに対し、グレンは手にしていた聖書を上空に放り投げ、懐から球体のようなものを取り出し、地面に向かって投げつけた。

 

 ドォォォォォオオン!!!

 

 という音とともに、教会内を煙が埋め尽くす。グレンがこの時のために用意した煙幕だ。

 参列席にいた生徒たちは、突然の展開に驚きつつも、グレンが戻ってきて、結婚式を台無しにしたことで大盛り上がりだった。

 

「そう言う訳だ!テメェの脚本通りに動いてやるが、最後には俺が勝つぞ!」

 

 グレンは動揺し動けないでいるシスティーナを、お姫様抱っこで掻っ攫い

 

「リィエル!ルミアやほかの奴を頼むぞ!」

「任せて!」

「先生!システィをお願いします!」

「おう!」

 

 そして、システィーナを抱えたまま、グレンは教会の入り口を蹴破った。

 

「……ふっ、流石だよグレン。まさか司祭に化けているとは、”読めなかった”」

 

 対して、レオスはどこまでも余裕を崩すことなく、昏く嗤った。

 

 

 

 

 システィーナを攫ったグレンは、フェジテの西地区のとある路地裏まで来ていた。

 

「先生!なんで……なんで今頃出てくるのよ――ッ⁉」

「それな。なんでこんな面倒なことになるのかね~」

「ふざけないで!……私はね、貴方なんか大嫌いなの!私はレオスと結婚するの!そうしないと――ッ!」

「ルミアとリィエルの素性を世間に明かす、だっけか?」

 

 その言葉に、システィーナは疑問を向ける。

 

「え……、どうして?」

「……遅れてすまなかった。こっちも手間取ったんだ」

 

 そして、グレンは語りだした。

 それは、レオスの成り代わりとの戦いに負けて、屋上から落とされた後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぐっ!」

 

 グレンは、木々が生い茂る森……に近い場所で目を覚ました。

 

「……体中葉っぱまみれだな。……木に引っかかりながら落ちて、転落死にはならなかったってか?」

 

 相変わらず悪運は強ぇな。と、グレンは自分のことながら褒めたくなった。

 

「……骨折はしてねぇみたいだが、人工精霊(タルパ)にやられた傷はまだ癒えてねぇか。……ん?」

 

 グレンが上空を見上げると、月が先ほど見た時よりもずれていることに気づいた。

 

「……一時間くらい経ってるのか?なら、【愚者の世界】の効果も切れてるか」

 

 グレンは【ライフ・アップ】を唱え、傷を治療していく。

 取りあえず動けるほどに回復したグレンは、その場を移動し、まずは屋上に向かった。

 

「……二人は……流石にいねぇか。……『愚者のアルカナ』もねぇ。持っていかれたか?」

 

 仕方ない。

 まぁ、それ以前に『あいつ』相手では【愚者の世界】は必要ない。使ったところで不利になるだけだしな。

 

「……一度帰って、対策を練るか」

 

 そうして、グレンは一度帰宅した。

 

「……最近ちょこちょこ出てる『天使の塵(エンジェルダスト)』の被害者の事件。そして人工精霊(タルパ)。レオスとはまるで別人のような動き」

 

 あれはレオスではない。では、その正体は?

 

「決まっている。……ジャティス=ロウファン。”元”帝国宮廷魔導士団、特務分室。執行官No11・《正義》。こいつしかいねぇ」

 

 ならば、その目的は?

 

「……恐らく、俺への復讐。一年前に殺された俺へのリベンジってところか」

 

 ジャティスに目を付けられた二家は、どちらも上流貴族という繋がりがある。普通なら、二つの家の総資産を狙ったと考えるべきだろう。

 だが、ジャティスは金に執着するような男ではない。故に、クライトス家、もしくはフィーベル家の持つ資産を狙ったというのはあり得ない。

 

 状況を整理すると、この騒動の中心にいたのは、グレン、システィーナ、レオス。そのうち、システィーナとレオスが外れるとなると、残されるのは必然的にグレンだ。

 如何にして一年前のあの日を生き延びたのかは分からない。しかし、向こうが来るなら、こちらも全力で迎え撃つ。

 

 レオスはどうなったのか?

 

「……あいつが魔導兵団戦終了時に見せた、あの症状。今にして思えば、あれは『天使の塵(エンジェルダスト)』の禁断症状だ」

 

 確か、『天使の塵(エンジェルダスト)』は摂取させる量によっては、元の人格を残したまま、投与したものの意のままに操ることが出来たはずだ。

 ジャティスはそれを使い、レオスをアルザーノ帝国魔術学院にけしかけた。そして、禁断症状が出ていたということは、レオスはもう……。

 

「……こいつが最後の問題だが」

 

 今のまま、ジャティスに勝てるのか?

 

「無理だ。考える必要もねぇ。そもそも、さっき負けたばっかだしな」

 

 ならば、これからとる行動は

 

「……使い魔を放って白猫たちの動向を監視。恐らく、ジャティスの野郎は読み切っているだろうが、見ていないよりはマシだ」

 

 あとは、魔道具を揃えよう。

 今のグレンでは、軍時代のような優れた道具は取り寄せれないだろうが、それでもないよりはマシだ。まぁ、通用するかは考えないでおく。

 

「……そうと決めたら、早速動くか」

 

 そこからの行動は早かった。

 鼠の使い魔でシスティーナ達を監視したことで、彼女がルミアとリィエルの素性を盾に脅されていることを掴んだ。ジャティスがそんなことをしてまでシスティーナに固執するのも、自分を引き出すための演出だろうと、グレンは結論付ける。

 ブラックマーケットなどに通い、使えそうなものを片っ端から購入していく。つい最近が給料日だったのが幸いした。

 

「……まるで魔導士時代(あのころ)に戻っちまったみたいだな。けど、こんな玩具(おもちゃ)がどこまでジャティスに通用するか……。にしても、誰かに手を借りてぇ……ん?」

 

 グレンが購入した針に、『必中のルーン』を刻みながら、そう呟く。

 必中のルーンは、物理的に妨害されない限り、対象に当たるまで追い続けるという優れものだ。

 

 そして、グレンは気づいた。今、自分は誰の力も借りることが出来ないということに。

 

「白猫の親御さんは、確か特務分室と同じで、『天使の塵(エンジェルダスト)』の事件を追っている。並びにアルベルトたちと連絡は取れない。セリカの役立たずは地下迷宮探索。ジャティスの性格上、学院の奴らを巻き込もうとすれば、必要な犠牲として殺されるかもしれない」

 

 ジャティスは無駄な犠牲は積まない主義だ。だが、必要であれば幾らでも積み上げる。

 前回は、増援に駆けつけてくれたセラの力も借りて、なんとかジャティスを倒すことが出来た。だが、もし彼女がいなかったなら?

 つまり、一対一で勝負して、ジャティスはグレンを殺したいということ。なら、協力者を募れば、逆にそいつが殺されるかもしれない。

 リィエルをルミアの護衛から外すのもなしだ。二人の素性を知られている以上、何をしでかすか分からないし、ジャティスには中毒者という手駒がいる。

 

「……中毒者たちを手駒として用意している可能性もある。手札はなるべく多く持っていくか」

 

 こうして、あっという間に一週間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、そう言う訳だ」

「……つまり、先生を逆恨みしたその……じゃてぃす?が、レオスや私たちを巻き込んで、こんなことを……?」

 

 信じられないだろう。一個人を狙いながら、これだけの騒動を起こしたのだから。

 

「理解できなくていい。アイツは人の理解できるようなまともな奴じゃねぇしな」

「……でも」

「?」

 

 何故か、システィーナがグレンの胸に顔を迂尽くめながら言った。

 

「よかった……!生きててくれて……!」

「……心配かけたな」

 

 しかし、戦いはまだ、終わってはいない。

 

「……え、先生、あれ……!」

 

 システィーナが何かに気づいたように、グレンの背後を指さす。

 

「……もうお出ましかよ」

 

 グレンがうんざりしたように呟いた。

 

「『天使の塵(エンジェルダスト)』の末期中毒症状……もはや確定か」

 

 グレンは鋭い刃物のような目つきで、中毒者たちを睨みながら、腰に差していた拳銃を取り出し、その銃口を向ける。

 

「止まりやがれ!」

 

 しかし、その警告を聞かず、彼らは歩みを止めない。

 今はその動きは遅いが、彼らは身体能力の制御(リミッター)が潰れている。オマケに痛覚も麻痺しているので、軽傷程度では止められない。

 それに、『天使の塵(エンジェルダスト)』を投与された時点で、人としてはすでに死んでいるようなものであり、彼らを元の人間に戻す術はないのだ。

 投与し続ければ中毒症状、しなければ禁断症状。どちらをとっても死があるのみ。

 唯一救ってやる方法があるとすれば、それは彼らが罪を犯す前に殺すことだけだろう。

 

「先生、これは一体……?」

「あいつ等はジャティスの野郎にただ盲目的に従うだけの殺戮人形だ!それより、お前は先に行け!」

「えっ……?」

「奴らを侮るな!軍の魔導兵ですら、油断すれば一瞬でやられるほど危険な存在だ!お前を守りながらじゃとても――」

「だ、大丈夫です!戦い方くらい私も教わってますから!《大いなる――」

 

 システィーナが【ゲイル・ブロウ】を唱えようとした瞬間、中毒者の一人が、彼女の視界からブレて消えた。

 

 

 




 システィーナ大ピンチ。まぁ、何とかなるんですけどね。
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