ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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 いやー今までで一番長い章だったな―()


三十話:ロクでなし魔術講師

 静寂。

 圧倒的な静寂が、辺りを包んでいる。

 

「……俺たちの勝ちだ、ジャティス」

「……ふっ」

 

 地面に寝そべるジャティスを、グレンが見下ろしている。

 だが、そんな状況でも、ジャティスはまだ余裕を持っていた。

 

「ケリをつけるぞ」

「自惚れているんじゃないかなグレン?君の優勢は彼女(システィーナ)のおかげだろう?」

 

 ドサッ、という音が、グレンの後方から聞こえた。

 咄嗟に振り返ると、システィーナが地面に膝をつき、荒く息を吐いている。

 

「……マナ欠乏症」

「なッ⁉――クソッ!」

 

 ジャティスがぼそりと呟いた言葉で、グレンは思い出したようにシスティーナものもとに駆け寄っていった。

 

「大丈夫か⁉」

「……は、はい……」

 

 システィーナの顔は青く、体温も少し低い。典型的なマナ欠乏症の症状だ。

 呪文の即興改変は、通常の呪文よりも魔力を多く消費する。それをジャティスの人工精霊(タルパ)を捌ける威力で、何度も行使し続けていたのだ。

 こうなるのは必然である。

 

「残念だったね。そして、僕にはまだ余力がある。君のその負傷と彼女の魔力不足。それでどこまで戦えるかな?」

「くっ!」

「……だが、今回は彼女に免じて、僕の負けということにしてあげるよ」

 

 以外にも、あれだけ執着していたにも関わらず、ジャティスはあっさりと引き下がった。

 新たに召喚した天使の肩に捕まり、ジャティスは飛翔する。

 

「グレン!君は知らないだろうが、この帝国は滅びなければならない!」

 

 そして、ジャティスは高らかに叫ぶ。

 

「なぜなら、この国はとある邪悪な意思の元に作られたものなんだよ。……また会おうグレン。次は必ず僕の正義が君を倒す」

 

 そう言って、ジャティスは遥か彼方へと消えていった。

 

「……出来れば、二度と会いたくないですね」

「そうだな。……大丈夫か?」

「はい……なんとか」

 

 言葉とは裏腹に、システィーナは今にも倒れそうだった。

 

「……しゃーねー、ほらよ」

「え、きゃあ!」

 

 見かねたグレンが、システィーナをお姫様抱っこで抱えた。

 

「え、ちょ、待っ、ななな、なんで⁉」

「なんでって……、もう歩けないだろ?」

「そ、それはそうですけどぉ~……」

 

 何故か耳まで真っ赤にして、顔を俯かせるシスティーナ。

 

「……なぁ」

「?」

 

 しばらくすると、グレンがシスティーナに聞いた。

 

「俺はさ、お前が知らないだけで、結構やばいことだってやってるんだぞ」

「……、」

「今回みたいに、何の罪もない一般人を殺すことだってあったし、そうじゃなくても、何度も人の命を奪ってきた――」

「先生」

「……、」

「貴方にどんな過去があるかなんて知らないし、そんなことは関係ない」

 

 システィーナは、その微笑みをグレンに向ける。

 

「貴方は、私たちの教師。それは、絶対に変わらないの」

「……俺は、お前らの教師でもいいのか?」

「……こうして私が傍にいる。それが、私の答えよ」

「お前……ん?」

「……、」

「寝てるし」

 

 疲れたのだろう。グレンの腕の中で、子猫のように眠るシスティーナ。

 

「……ありがとな、システィーナ」

 

 そんなグレンの呟きは、誰の耳にも届かなかった。

 だが、純白の少女は、僅かにだが、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、今回の騒動は、ジャティスを黒幕とした、フィーベル家とクライトス家の遺産を狙った単独犯行ということで、世間に発表された。

 ジャティスが『天使の塵(エンジェルダスト)』を使いレオスを操作し、システィーナに近づく。

 それを察知したクライトス家が、直々に担任講師であるグレンに依頼、レオスを止め、ジャティスを撃退した。というのが、表向きな事件の真相だ。

 そして、学院内でのグレンの名誉は一変、教え子に手を出すクズ野郎から、名誉を失ってでも生徒を守ろうとした教師の鑑という風になった。

 

「ったく、この事件に関しちゃ、天の智慧研究会もルミアも関係ない、完全な俺の私闘だってのによ」

「仕方あるまい。これだけの被害者を出した以上、隠蔽は難しい。かと言って真実を話せば、クライトス家とフィーベル家の名誉の損失にも繋がる」

「……はぁ。……悪かったなアルベルト。野郎を取り逃がしちまって」

「謝ることはない。端からお前に頼んだ覚えはないし、俺も取り逃がしたのだからな」

「そういや、お前も戦闘になったんだっけ?」

 

 グレンはいつものバーで、アルベルトと情報交換していた。

 

「にしても、禁忌教典(アカシックレコード)。アイツも狙ってたとはな」

「今までは天の智慧研究会が、組織の忠誠心を高める暗示の類という考えもあったが、ジャティスも狙っているとなると話は別だな」

「一体何なんだよ。魔法遺産(アーティファクト)なのか、それともまた別の何かなのか」

「それをここで議論しても答えは出ん」

 

 ぐっ、と。一気に酒を飲み干したアルベルトが、席から立ち上がる。

 

「では、俺は行く」

「相変わらず忙しいようで。ま、そっちも頑張れよ」

「ふん。貴様に心配されるまでもない」

 

 そう言って、アルベルトは出入り口の扉を開き、出ていった。

 

「……俺も帰るか」

 

 そういって、グレンも酒を飲み干し、金を置いて店を出ていく。

 しばらく通路を歩いていると

 

「……?」

 

 ふと、誰かに見られているような気がしたグレンは、後ろ振り返るが

 

「……気のせいか?」

 

 特に気にすることもなく、そのまま帰宅した。

 

『……どうやら、問題はないみたいね』

 

 自身の背後に、白髪に暗く淀んだ赤珊瑚色の瞳、その背には異形の翼を持つ少女、が、自分を見つめていたことに気づかぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぁぁ。眠い」

 

 相変わらず講師用のローブを切ることもせず、学院の廊下を歩くグレン。

 すると、向かいからハーレイが通りすがった。

 

「おは~っす。今日もいい天気っすねハロウィン先輩!」

 

 取りあえずおちょくることにした。

 

「ハーレイだ!ハーレイ=アストレイ!貴様わざとやっているだろう⁉」

「はいはい、ハー何とか先輩」

「ハーレイだ!大体、貴様はいつもいつもいつもいつも――」

 

 長いのでカット。

 

「お、セリカ。どうしたんだ?こんなところで」

「……なに、随分と教師らしい面になったと思ってな。それに、最近はセクハラも減っているしな」

「そういや最近忙しくてそう言うのに時間かけてねぇな」

「かけんでよろしい。……なに、丁度昨日、地下迷宮探索の準備が終わってな。明日、本格的に進めるところだ」

 

 セリカがこの学院にとどまる理由の一つに、学院の地下迷宮を攻略するという目標がある。

 なぜそんなにも固執するのかは分からないが、セリカがそこまでやりたいというのなら、好きにやらせてやろう。

 

「そうか。ま、無理すんなよ?危なくなったらちゃんと帰ってくるんだぞ?」

「ふっ、まるで子供だな。……あぁ、お前も頑張れよ」

「ヘイヘイ。言ってきますお母さん」

「ふふ」

 

 そう言って、グレンは教室へと歩みを進める。

 そんな後姿を、セリカは独り立ちする子供を見送るように、見つめていた。

 

「あ、先生!早くしてください!」

 

 教室から顔を覗かせるシスティーナが、少し怒りながらグレンを呼ぶ。

 

「もう授業が始まりますよ!急いでください!」

「ったく、めんどくせぇ。……ま、悪くはないがな」

 

 やれやれ、と。めんどくさそうに頭を掻きながらも、その口元は少しだけ、緩んでいた。

 

 




(キリはいいけど最終回じゃ)ないです。
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