ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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 一巻終了です。




三話:テロリストが三人いたらあと一人はいると思え

「よーし!あとはお前だけ――」

 

 俺はレイクのほうを振り返り、絶句した。

 

「……あの~、つかぬ事をお聞きしますが」

「……なんだ?」

「なんでしょうか、その宙に浮く剣(・ ・ ・ ・ ・)は…?」

 

 彼の周囲には、五本の光を放つ剣が浮いていた。

 

「先ほど、魔術が使用できるようになっているのに気づいた。貴様の固有魔術には時間制限があるのだろう。……貴様は、【愚者の世界】の効果を、魔術起動(・ ・)の封殺と言った。ならば、こうして予め起動している魔術には効果がないのではないか?」

 

 バレテーラ。……やばい。

 

「なんでわざわざ剣を浮かすんだよ。それだけで嫌な予感がしてくるんだが……」

 

 主に某英雄王を彷彿とさせてくる。いや、どちらかと言うとフェイカーか?

 

「誤算だった。まさか二人もやられ、私ですら窮地に追い込まれかけるとは」

「そう思うんなら、さっさと降参してくれね?」

「断る」

 

 そういって、レイクはこちらに剣を放ってきた。

 

「ちっ!《原初の力よ・我が爪牙に宿れ・強き光輝を灯せ》!」

 

 剣を躱し、黒魔【ウェポン・エンチャント】を三節詠唱で唱え、拳を強化し、残りの剣を打ち払う。

 その余波で、扉が粉々になった。

 

(チャンスだ!)

「逃がすか!」

 

 俺は扉を出て廊下に移動する。教室の中には生徒がいるし、そもそもこいつとやり合うにはあの場所は狭すぎる。

 こちらに向かってくる剣を捌きながら考える。

 

(どんな達人でも魔術起動前後にはマナが乱れる瞬間がある。そのタイミングで【愚者の世界】を……)

 

 そして、チャンスは訪れた。

 

「ここだ!《紅蓮の獅子よ・憤怒のままに・吼え――」

「《霧散せよ》」

 

 俺が撃とうとしたした【ブレイズ・バースト】を、レイクが【トライ・バニッシュ】で打ち消した。

 

「……なるほど。もしやと思ったが、貴様、三節詠唱しか使えないのか。道理で第三階梯(トレデ)止まりのはずだ。……手本を見せてやろう」

 

 そういってレイクはこちらに向けて左手を構える。

 ……かかったな。

 

「《炎獅子――」

「《猛き雷帝よ――」

(ここで三節詠唱?何のつもりだ?)

 

 レイクは疑問に思う。どう考えても自分のほうが早く魔術を発動できる。それに、剣による迎撃さえ可能だ。

 仮に唱えるとしても、自分がやったような対抗呪文(カウンタースペル)を使わないのは不自然だ。

 そして気づいた。グレンが懐に右手を伸ばしていることに。

 

「ッ!」

「――・極光の閃槍以て・刺し穿て》!」

 

 レイクはとっさに宙に浮かせていた剣で【ライトニング・ピアス】を防ぐ。

 

「……勘弁してくれよ。最悪、一本は取れると期待したんだがな。その剣、【トライ・レジスト】も付与(エンチャント)済みかよ」

 

 これが通じない、となると。……どうしよう?

 いっその事【イクスティンクション・レイ】で吹き飛ばすか?いや、こいつが詠唱を待ってくれるはずがないし。

 

「……僅かな時間で私に突き付けた死の二択。私があのまま魔術攻撃を選択すればそれを封印し、魔力の乱れの隙を突き、近接格闘戦。……剣による迎撃を選択すれば、至近距離からの【ライトニング・ピアス】……貴様一体何者だ?」

「二択は格ゲーの基本だな。……ただの非常勤講師だ。覚えておきな」

「どうかな?だが、剣を捌いている間は【愚者の世界】を使う余裕もないだろう」

 

 この野郎。

 レイクは剣でこちらを攻撃させながら召喚術でボーンゴーレムを大量召喚する。

 ……いやいやいや

 

「ふっざけんな!どんだけ出すんだよ!しかもこいつら、全員竜の牙を素材にしてるじゃねえか!」

 

 大盤振る舞いだなおい⁉

 すると、ゴーレムの何体かは教室に入っていった。

 

「やっべぇ!」

 

 俺は後ろのドアをぶち壊し、教室に入る。

 そこでは案の定、生徒達がゴーレムに襲われそうになっていた。

 

「クソッ!」

「先生!」

「全員避難だ!学院の地下迷宮に行くんだ!廊下は通るなよ、レイクに殺されちまう!窓側の壁を破壊するんだ!ルミア、カッシュ!お前たちが生徒たちの指揮を執れ!」

 

 生徒たちは俺の指示通りに窓側の壁を破壊し、次々脱出していく。

 

「真面目ちゃん!お前もいけ!」

「でも、先生が!」

 

 ……仕方ねぇ。

 

「おい白猫!」

「……え、それって私?コロコロ名前変えるのやめてくれません⁉あとなんで猫⁉」

「うっせぇ単位落とすぞ!」

「理不尽⁉」

「ゴーレムは俺一人じゃ捌ききれねぇ。お前の【ゲイル・ブロウ】でゴーレムを吹き飛ばしてくれ!」

「わ、分かりました!《大いなる風よ》!」

 

 よし、これで道が開いた。

 

「ついてこい!」

「……え、ちょっとぉぉおおおおお!」

 

 そして、白猫を連れて学院を走り回った。幸い、ゴーレムは近くの人間を襲うよう命令されていたようで、真っ先にこちらを追ってきた。

 ちらりと見たが、レイクもこちらしか見ておらず、生徒たちには無関心だった。

 ……この辺でいいだろ。

 

「白猫!俺がここでゴーレムを食い止める!お前は得意の【ゲイル・ブロウ】を広範囲で長く持続できるように改変しろ!」

「……でも、そんな高度なこと……」

「お前は生意気だし、無駄に説教うるさいが優秀だから大丈夫だ!……生意気だがな!」

「生意気強調すんな!」

 

 大事な事なので二回言いました。

 

「俺がここ最近で教えた事を理解してるならそれくらいできるはずだ。……出来なかったら留年だ」

「留年⁉……あ~もう!分かりましたやりますやればいいんでしょ!」

 

 そういって、白猫は廊下の突き当りまで行き準備をする。

 ……いや、頼むぞマジで。

 

「来いよポンコツロボットドラ〇もん擬き以下のクソどもが!全員まとめて俺が相手……」

 

 ……なんか、さっきより数が増えてる気がする。

 すると、ゴーレムの後ろのほうにいるレイクが言った。

 

「貴様に敬意を表し、残り全ての素材を投入しゴーレムを作成した。なにを企んでいるかは知らんが、貴様でも対処しきれまい」

 

 あの野郎!余計なことしやがって!

 

「先生!できました!」

 

 早くね⁉……いや、むしろ好都合か。

 俺は白猫の後ろまで下がる。

 

「よしやれ!」

「はい!……《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》!」

 

 ……すっげぇ。ゴーレムは風に煽られ足を止め――

 

「先生ダメ!完全には足止めできない……っ」

 

 ……な~に、気にすんな。

 

「お前はよくやってる。あとは俺に任せな」

「……え?」

「さ~て、久しぶりだが、ちゃんと発動しろよ?」

 

 俺は懐から触媒を取り出し、左手でつかむ。

 

「《我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者――」

「……何?」

「……え、その呪文は…」

 

 この呪文、詠唱噛みそうで嫌なんだよなぁ。

 

「――・其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし――」

 

 三つの魔方陣が、グレンの目の前に重なる。

 

「――・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに》……ぶっ飛べ有象無象!黒魔改【イクスティンクション・レイ】!」

 

 瞬間、すさまじい光の衝撃波がゴーレムたちを呑み込み、校舎を抉っていく。

 

「……すごい、あんな高等呪文を使うなんて」

 

 彼女の言う通り、本来この呪文はセリカ以外の人間がまともに扱えるものではない。

 それを触媒を通した裏技で無理やり使用しているに過ぎない。故に――

 

「ゴハッ!」

「先生!」

 

 ――こんな風に魔力切れになるのは必然なのだ。

 俺は血を吐き廊下に倒れ伏す。

 

「これは……マナ欠乏症⁉」

「分不相応な術を無理矢理使っちまったからな……それよりも」

「……まさか、【イクスティンクション・レイ】まで使うとはな。敬意を表すると言いながら、どこかで侮っていたようだ」

「そりゃどうも。出来れば、今のに巻き込まれてくれたらよかったんだがな」

 

 流石にそんな間抜けをするはずがないか。

 俺は立ち上がりながら、白猫に小声で質問する。

 

「(おい、お前【ディスペル・フォース】は使えるか?)」

「(……一応、でも、私の魔力ではまだ足りません。……例えすべての魔力を使ったとしても)」

「(ならいい。お前はいつでも使えるよう準備をしてろ。マナ・バイオリズムを乱すなよ)」

「(……え?)」

「死ね」

 

 短く一言放ったレイクが、こちらに剣を飛ばしてくる。

 

「ぐっ!」

「先生⁉」

 

 俺はそれをあえて受ける。急所を狙われなかったのは幸いだ。

 

「……《原初の力よ・均衡保ちて・零に帰せ》!」

 

 俺の【ディスペル・フォース】により、剣の光が一瞬弱まる。

 

「【ディスペル・フォース】か?だが、【イクスティンクション・レイ】を使った貴様にそれを解除するだけの魔力はない。終わりだ!」

「《力よ無に帰せ》!」

「何⁉」

 

 脇から白猫が唱えた【ディスペル・フォース】の上乗せで、剣は力を失った。

 重力に従い体から抜ける剣の一つを掴む。

 

「クソッ!《目覚めよ・――」

「遅いぞ、外道魔術師!」

 

 俺は既に【愚者の世界】を起動済み。奴は今無手だ。この機会を逃しはしない。

 

「はぁぁぁあああ!」

「ぐはぁ!」

 

 俺はレイクの胸に剣を突き立てる。

 

「お…思い出した、ぞ。……つい最近まで、帝国宮廷魔導師団に…凄腕の魔術師殺しがいたと、いう。……コードネームは……」

 

 そこでレイクは力尽き、息をしなくなった。

 ……余計なこと喋んなよ、めんどくせぇ。

 

「……先生!」

「……お前、今更だがマジで優秀だったんだな。お前が【ディスペル・フォース】使えなきゃ詰んでたわ」

「そんなことより、先生の体が…!」

 

 白猫がとっさに治癒魔術を唱える。だが、こいつにとって治癒魔術は割と苦手な部類に入るものだ。焼け石に水だろう。

 

「…問題……あるなこりゃ。早いとこ他の生徒たちのとこに――」

 

 

 

 きゃぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!

 

 

 

「今のは……!」

「急ぐぞ!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何があった!」

「せ、先生!……先生こそ、どうしたんですかその怪我⁉」

「俺はいい、何があったか言え!」

「……実は」

 

 生徒たちは俺の言う通り地下迷宮に向かっていたそうだ。

 だが、その途中でテロリストの仲間に遭遇し、ルミアを連れていかれたという。

 

「……迂闊だった。他に仲間がいる可能性を考えてなかった……っ」

「先生、ルミアは?ルミアは大丈夫だよな⁉」

「当たり前だ。俺が何とかする。その残りのテロリストの事を教えてくれ?特徴は?」

「そ、それが……」

 

 どうした?

 

「ヒューイ先生ですよ」

「……え?」

「お、おい!ギィブルお前!」

「……ヒューイ?」

 

 どっかで聞いたことがあるような……どこだっけ?

 

「そんな、嘘でしょ!どうしてヒューイ先生が……!」

「それは僕が聞きたいね」

 

 ……あ、思い出した。確か、俺のクラスの前任の講師だっけ?

 

「……そいつはどっちに向かった?」

「……多分、転送塔のほう」

 

 ……なんで?あそこにあるのは転送方陣だけだ。

 今更そんなとこに………

 

「……そうか、そういうことか」

「先生?」

 

 すると、俺の腕からキンキンという音が鳴る。

 

「おいセリカ遅いぞ!何度連絡したと思ってんだ!」

『すまない。丁度公演中だったのでな、通信は切っていたんだ』

「ったく、お前らがノコノコべだっている間に、こっちは大変なことになってんだぞ」

『……どういうことだ?』

 

 俺はセリカに今の学院の状況を説明する。

 

「……まぁ、こんな感じだ」

『……本当か?』

「冗談にしちゃたち悪りぃな。むしろ俺としても冗談であってほしいぜ」

『……下手人は?』

「天の智慧研究会」

『!……、そうか。あの人でなしどもが出張ってくるとはな』

「しかも目的はルミアらしい。すでに連れ去られた後だ。……なぁ、あいつは何もんなんだ?」

 

 俺のその問い、セリカは答えなかった。

 

『……学院の結界を破っている以上、内通者がいるのは明らかだ。こちらで確認してみるよ』

「問題ねぇ、それは見当がついてる。俺の前任のヒューイとかいう奴だ」

『……なるほど、あいつが突然行方不明になったのは、今回の事件の準備のためというわけか』

「とりあえず、こっちはこっちで何とかする。学院の講師が相手なら、俺でもなんとかできるからな」

『他のテロリストはどうした?何人いる?』

「俺を直接始末しようとした奴を含めれば三人だ。一人はボコって晒した。警邏官が見つけて、腕のマークを見たら勝手に何とかするさ。片方も【愚者の世界】でぶっ飛ばした。あと一人は……、始末した」

 

 俺が最後の部分を声を低くして言う。

 セリカは特に追求せず話を続けた。

 

『……そうか。……どうするつもりだ?』

「決まってんだろ、舐めたことする先輩の顔面をぶん殴る」

『……死ぬなよ』

 

 そうして、セリカは通信を切った。

 

「先生……」

「どうした?」

「……魔術って、何なんですか?」

 

 白猫が突如、そんなことを聞いてきた。

 

「なんだ、藪から棒に?」

「私、お爺様の夢を叶えるために、魔術の勉強を続けてきたんです。……でも、その魔術のせいでルミアは連れていかれて、先生もボロボロになって……もう分かんないんです」

「……」

「……魔術って、こんなことしかできないんですか?魔術は、人を傷つけることしかできないんですか?」

 

 よく見れば、他の生徒も同じことを考えていたのか、表情が暗い。

 

「……そうだな」

「ッ!」

 

 俺はそこで一拍置き

 

 

 

「俺にも分かんねぇ」

 

 

 

 あっけらかんとした表情で言い放った。

 

「……え?」

「確かに、あいつらみたく、魔術を悪いことに使う奴を俺はたくさん見てきた」

「……」

 

 ……まぁそれでも。

 

「お前のように、魔術を夢のために使う奴もいる。魔術によって命を救われたものもいる」

「……」

「結局のところ、魔術に絶対はない。だから、お前がこうと決めたものを信じて、ひたすら前に進めば、それがお前にとっての魔術になるんじゃねぇの?」

「……」

「……ま、俺には関係ないことだが」

 

 さて、ルミアを助けに行くか。

 

「先生!」

「……ん?」

「……ルミアを、お願いします」

「……あぁ」

 

 ……仕方ねぇ。ちょっと本気出すか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、も、もう二度と本気なんて出さねぇ」

 

 神速の手のひら返し。

 とりあえず自分で怪我を治しながら、転送塔に向かったのだが。

 

「なんだよ、なんで警備にあんな数のゴーレムがいるんだよ。馬鹿じゃねえの?」

 

 流石に死ぬかと思った。

 魔力ももう残り少ないのに、ただでさえ魔力を多く消費する【ブレイズ・バースト】を唱え、しかもそれで破壊できたのがたった一体。

 その後残りのゴーレムに追いかけまわされる始末。

 

「絶対……はぁ、はぁ。学院に労災降ろさせてやる……はぁ、はぁ」

 

 そうしてついに、最上階に到達。目の前の巨大な扉を蹴破る。

 

「だっらしゃぁあああ!俺、参上!」

「先生⁉無事だったんですか?」

「あのさぁ、これが無事に見えるのお前?今時盲目系ヒロインは流行らないぞ?ダイジョブか?病院行く?」

 

 俺がそんなことを言うと、むしろ嬉しそうに涙を流すルミア。

 まさかこいつ、ジョークが言えるなら大丈夫とかいうふざけた考えを持つタイプか?

 すると、部屋の端で気配がした。

 

「……お前がヒューイか?」

「えぇ、そうです」

 

 そこから現れたのは、糸目キャラのイケメンが現れた。

 ……こいつ、強い⁉

 

「っく!糸目キャラは強敵だと相場が決まっているというのに⁉」

「……何を言っているのかわかりませんが、僕の実力では貴方には勝てません。安心してください」

 

 履いてますよ……、やめよう。ギャグって通じないのが一番つらい。

 

「……はぁ、イケメンってだけでも俺の中じゃあ死刑確定の重罪なのに、さらに余罪を重ねるとか……。心優しく慈悲深いグレン=レーダス大先生様でも、堪忍袋の緒がぶっちぎれなんだよ!」

 

 そして、俺は懐に手を添える。

 

「下手に動くなよ。魔術を使う兆しを見せれば、即座に封殺する」

「……残念です。僕の負けのようだ」

「ほう、潔いな。じゃあ、何をするつもりだったか話してもらおうか」

「いいでしょう。……然るべき時に何年も前から仕掛けられていた人間爆弾、それが僕です。僕とルミアさんの足元をご覧ください」

 

 そういわれ、見てみると。二人の足元には魔法陣が広がっていたルミアの魔方陣は恐らく、学院のモノだろう。

 では、それに接続されているヒューイの魔方陣は――

 

「……おい、これはまさか」

「えぇ、白魔儀【サクリファイス】。僕の魂を喰らい大爆発を起こすよう設定されています。それと同時に、転送方陣の行き先の書き換えが終わり、ルミアさんは組織のもとに。まぁ、時間がかかりすぎるため、もうどうにもできませんが」

 

 ……胸糞悪りぃな。

 

「……あ~そうだったな。お前ら天の智慧研究会はそういう馬鹿共の集まりだ。……然るべき時……ね。大方、政府要人の子とか貴族とかそんな奴らが来たときか?」

「えぇ。ですが、ルミアさんは事情が変わり、誘拐という形になりました」

「……事情、か」

 

 つまり、ルミアの素性は相当訳アリなのだろう。なにせ、セリカが答えるのを躊躇うほどなのだから。

 

「……先生…私……」

「気にすんな。お前がどっかのボンボンだろうと、俺の生徒であることには変わりねぇ。……なぁ、先輩?」

「先輩、ですか。……このような形で呼ばれるのは、非常に残念です」

 

 全くだ。

 

「最後に一つ、いいでしょうか?」

「……なんだよ?」

「組織の言いなりになって死ぬか、組織に逆らって死ぬか。僕はどうすればよかったんでしょうか?」

「知るか。お前の人生なんだ。同情はするが、周りに流されるだけで何もしなかったお前が悪い、お前の不始末はお前がつけろ」

「手厳しい……、だが、貴方の言う通りだ」

「じゃあな。歯ぁ食いしばれ!」

 

 俺はヒューイの顔を力の限りぶん殴る。

 

「……さて、大丈夫だったかルミア?」

「……よかった!」

 

 そういって、ルミアがこちらに抱き着いてきて

 

「痛い痛い痛い痛い!こっち怪我人!こっち怪我人!」

「……あ。す、すみません先生!大丈夫ですか?」

「……なんなのお前?無自覚のサイコパスなの?俺が苦しむ様を見て嗤ってんの?愉悦見つけてんの?」

「そ、そんなことありませんよ!」

 

 え~ほんとにござるか~?

 

「本当です!って先生?」

「疲れた、から……、寝る」

 

 はぁ~、もうこんなことは二度とごめんだ。

 ……あ、でも原作に入ったから、これからも敵は現れるわけで……

 

(考えないようにしよう)

 

 そこで、俺の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院襲撃事件から数日、今では学院も平穏を取り戻していた。

 

「……それにしても、ルミアが三年前に病死したエルミアナ王女で、しかも『異能者』とはな~」

「ああ。異能者に対する迫害は根強い。それが王族なら国がひっくり返る。学院内でも知っているのは私と学院長くらいだ」

「ま、興味ないがな~」

 

 ルミアの能力、それは『感応増幅者』。簡単に言えば、他者の魔力を何倍、何十倍にも引き上げることが出来る。

 

「……それにしても不思議だな。あれだけ働きたくないと言っていたお前が、どうして講師を続ける気になったんだ?」

「な~に、ここで適当に働いて金を貰えれば、後でギャンブルやり放題だろうが」

「……お前と言う奴は…」

「……ルミアはさ、魔術を真の意味で人の力にしたいって言ったんだ。恩返ししたい奴がいるからって」

「どうした急に?」

 

 ルミアが放逐された三年前、白猫の家で居候を始めた時、白猫と間違われ外道魔術師に捕まり殺されそうになったらしい。

 すると、正義の魔術師が助けてくれたそうだ。そいつは彼女の目の前で次々外道魔術師を殺していき、ルミアは只恐ろしかったそうだ。

 まぁ、その魔術師のことはすぐに怖くなくなったそうだが。何かとんでもないアホだったとか。……舐めんな。

 その時の事件をきっかけに、人が魔術で道を踏み外したりしないように導いていける立場になろうと思ったそうだ。その道を歩けば、いつかそいつにお礼が言える日が来ると信じて。

 

「白猫もそうだ。自分が信じた夢のために魔術を学ぶ」

「……要するに?」

「見てみたくなっちまったのさ。俺に出来なかったことが、あいつらなら出来る気がするから」

「……グレン」

「ま、気ままにやってみる――」

「誰だお前?」

「おい」

 

 こいつは……人が真面目に答えてるってのに。

 

「いやだってお前、むしろ最初の理由のほうが納得できるぞ。普通にキモイ」

「なんだよキモイって!」

 

 ……はぁ。

 

「それにしても、俺があんだけ苦労したのに、結局労災は降りなかったし……これは、癒しが必要だな」

「癒し?一体何の――」

「えい」

 

 俺の手は、セリカの胸に添えられており

 

「死ねェェェェえええええええ!」

「ぎゃぁあああああ!腕が!腕が折れる!」

 

 畜生!これくらい許せよ!

 

「許すか馬鹿もん!」

 

 馬鹿もんとか今日日聞かねぇな。

 

「先生……」

「……え、白猫?」

「それは……ちょっと」

「え、ルミアもいんの?っていうか何の用?」

「いえ、ちょっとさっきの授業で言いたいことがあったんですけど……やっぱりいいです」

「お邪魔しました」

 

 そういって、二人は立ち去ろうとする。

 

「ちょっと待ってマジで待って!!誤解だぁぁぁあああああ!」

 

 ふ、不幸だ。

 

 

 

 

 

 

 




 グレン先生、生徒にセクハラ現場を見られる。

 ジン?あいつはゴーレムの時にお亡くなりになりました。
 しかも、皆そのことを忘れているという。
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