ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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五話:どうしても意地になっちゃうことってあるよね

「……終わった。俺の特別賞与は幻想となり、すべてはぶち壊されたのだ」

 

 先ほど、ネズミの使い魔を召喚し、他のクラスの偵察をさせたが、案の定ほとんどのクラスが成績上位者だけで全種目を固めていた。

 

「……あ~、あったな魔術競技祭。俺は欠片も興味なかったし、そもそも端からメンバーから外されてたしな。俺自身にもそんなことを気にしてる余裕もなかった」

 

 あの頃は、いずれ原作通りに講師になることより、原作通り魔導士になることを恐れていた。まぁ、やらないとそれより先の展開についていけないのだが。

 あの戦いでいつ自分が下手をして死んでしまうかと思うと緊張して夜しか眠れなかった。子供の頃はセリカの胸でよく癒されていたなぁ。

 イヴ……あいつにセクハラしたらガチで燃やされそうになるんだよな。ジョークもほとんど通じねぇし。セラは……まぁ、ノーコメントで。

 

「……にしても、何がそんなに楽しいのかね」

 

 俺の目降ろす場所では、二組のみんなが練習していた。みんな自分が競技祭に出れるのが嬉しいようだ。

 

「……あれ?あいつら何揉めてんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、何やってんのお前ら?」

「あ、先生…」

「そっちのお前は……確か一組だったな」

「……えぇ」

 

 どうやら、場所の取り過ぎがどうとかで揉めてたらしい。しかも、途中で一組が二組を見下す発言をしたらしい。

 

「クライス。場所を取っておけと言っただろう」

「げっ……」

 

 マジか……いや、一組ならそうなるか。

 

「……ちーっす。先輩講師のハーレムさんじゃないっすか」

「ハーレイ!ハーレイ=アストレイだ!貴様舐めているのか?」

「アルトリア先輩も競技祭の練習っすか?」

「なにも掠ってはいないではないか!……当然だ…私が指導する以上優勝以外有り得ない!」

 

 キャー、流石先輩かっくいぃ!

 

「……まぁいい。さっさと場所を開けろ」

「そうっすね、こっちも場所取り過ぎでしたし。……そんじゃあ、あの木のあたりまで行けばいいっスか?」

 

 俺が適当な範囲を指定すると

 

「何を言っている?貴様たち二組はさっさとこの場から出て行けと言っているのだよ」

 

 ハー何とか先輩の言葉に、全員が唖然とする。

 

「……いやいや、冗談が過ぎますよ。いくら先輩でも横暴が過ぎると思いますが?」

「横暴?可笑しなこと言う。グレン=レーダス、貴様生徒全員を競技祭に出場させるつもりらしいな?」

「それが何か?」

「足手まといになる成績下位者を使って、戦う前から勝負を捨てるようなクラスが、群れて練習場を占有するなど迷惑千万だ」

 

 …………。

 

「分かったらさっさと――」

「ハハハハハ!」

「……何がおかしい?」

「足手まとい?戦う前から勝負を捨てる?実に面白ジョークですね先輩?生徒の実力を見極めることもできないボンクラがまさかこんなところにもいるとは思いませんでしたよ?」

「……なんだと?」

「言っておきますがね、うちのクラスはこれで最強の布陣なんすよ。もちろん俺たちだって優勝狙ってんですよ。精々寝首を書かれないように気を付けることですね!」

 

 俺は首を掻っ切る動きをして先輩を煽る。

 

「……口では何とでも」

「じゃあ形にしてやりましょうか?……給料三か月分だ」

「……は?」

「俺のクラスが勝つに、給料三か月分賭けるって言ってんですよ。どうします?もし先輩が負けたら魔術研究が滞っちゃいますよ?」

 

 余裕綽々といった様子で賭けを仕掛ける俺。しかし、内心は

 

(……やっちまったぁぁぁぁあああああああああ!)

 

 まぁ、お察しである。

 

(バカだろ俺!なんつうもん賭けてんだよ⁉)

 

 そもそも、元金がないのにどうやって賭けをしろと言うのか?

 生徒を無能扱いされるのが、かつての自分を見ているようで腹が立ち、つい調子乗って吹っかけてしまったが、今更ながらに後悔していた。

 

(……こうなったら、最後の希望は先輩だ!あの人がこの賭けを断ればそもそも勝負が成立しない!これしか手はねぇ!)

 

 大丈夫だ、先輩は思慮深い人だ。この賭けのリスクをしっかり分かってる分、勝負に乗ることはないはずだ。

 しかし、俺は気づいた。先輩を期待のまなざしで見つめる一組の生徒に。

 それには先輩も気づいたようで

 

「……くっ、い…いいだろう。私も私のクラスが優勝するのに給料三か月分だ!」

「さすが先輩。いい度胸っすね」

 

 アホかぁぁぁぁぁぁあああああああああ!

 クソッ、こうなったら土下座だ!誠心誠意謝れば先輩でも許してくれるはず!

 

「そこまでです」

 

 そんな俺の最後の希望を断つものが一人。白猫だ。

 

「ハーレイ先生。あなたの練習場所に関する主張に全く正当性が見られません。これ以上見苦しい真似を続けるなら学院上層部で問題にしますがよろしいですか?」

「この、親の七光りがぁ!」

(この、親の七光りがぁ!)

 

 二人の心は、この時だけ見事に一致した。

 

「それにグレン先生は逃げも隠れもしません。私達は魔術競技祭で正々堂々と戦いそして必ず優勝します!ですよね、先生?」

 

 彼女の笑顔が、普段なら天使の微笑みだろうが、今では悪魔の笑みにしか見えない。

 もしかしてこいつ、分かっててやってんじゃねぇだろうな?

 しかし、他の生徒の目もある以上

 

「……お、おう。当たり前じゃん」

 

 断れるわけがなかった。さよなら逃げ道。こんにちは借金。

 

「いいだろう!この私に立て付いたことを必ず後悔させてやる!」

 

 すると、先輩は生徒たちを連れて去っていった。

 ……練習しなくていいんすか?

 

「先生がここまで信じてくれてるんだもの。絶対に負けないんだから!」

『おう!』

「頑張りましょう。先生!」

「は、ハハハ…」

 

 怖ぇ。これ全部善意でやってるのが怖ぇ。

 

「……やっぱり噛み合ってないような…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん…捨てないでよ……。いい子にするから……嫌いにならないで…っ」

 

 目の前には人の死体が散乱していた。

 

「ひっ!……あ、あぁぁああ!」

「ちょ、ストップストップ!泣くなって!飴やるから、な?……あれ?なんで泣き止まないの?」

 

 まるで誘拐である。そして、彼女が泣き止まないのは、目の前の死体を作ったのが誰なのか、本能的に分かっていたからだ。

 次は自分がそうなるのではないか?そう思い、彼女は泣きだしたのだ。

 

「……う、うぁぁっ」

「あぁぁ!分かった、飴じゃ満足できねぇんだな⁉もっとすごいものが欲しいんだな⁉この欲しがりめ!……あ、あとは携帯食しかねぇ。食い物以外じゃあ銃が……こんなの欲しい奴いないわな」

 

 しかし、そうやってあたふたし、四苦八苦する様を見ているうちに

 

「……フフフ」

「だぁああもうどうすれば……あれ?泣き止んでる?」

「アハハハハハ!」

「え、今度は笑い出したし⁉情緒不安定なの⁉サイコパスなの⁉」

 

 子供に言う言葉ではない。だが、そうやって焦っていく姿を見て、彼女はまた笑顔を取り戻していく。

 

「……ねぇ、お兄さんは誰?」

「……色々忙しい奴だな……。そうだな、俺は~……」

 

 男はそこで一拍置き

 

「悪い人だ」

「嘘、だって全然怖くないもん」

「怖くない⁉え、俺が⁉」

「うん、なんかちょっとバカっぽい。頭のネジが外れてるっていうか」

「誰だ王女にこんな言葉教えたやつ⁉どんな教育施したんだ⁉」

 

 すると、誰かの足音が聞こえてくる。

 

「……っち、折角落ち着いてきてたのに」

「……あ」

 

 なぜだろう。怖いはずなのに、死んでしまうかもしれないのに

 

「とりあえず逃げるからな、しっかり捕まってろよ」

「……うん」

 

 この人がいると、この人が笑ってくれると、大丈夫だと思える。

 まるで――

 

「貴方は……、正義の魔法使いさん?」

 

 ――お伽噺のヒーローのようだ。

 

「ただのブラック企業に勤める社畜だよ」

 

 男はげんなりした表情でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、魔術競技祭当日。

 ……え、食事はどうしたのかって?この学院にはシロッテの木と言うものがあり、その枝から出る蜜は糖分を含んでいるのだ。

 はい、枝を食って生活していました。人間卒業が近いグレン=レーダスです。

 

「……腹減った」

 

 先ほどから、腹の虫が鳴って五月蠅い。

 すると、ついに女王陛下がお見えになった

 

『それではアルザーノ帝国女王アリシア7世の名の下に魔術競技祭の開催をここに宣言します』

 

 \( 'ω')/ウオオオオオオアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッッッ!!!!

 

 大きな歓声と共に開始した魔術競技祭。

 生徒や講師は拍手をするが

 

(あ~…拍手が腹に響くなぁ…)

 

 なぜ俺がこんな目に?やはり働くのは間違いであったか?

 グレン先生は何時まで経ってもグレン先生である。

 

「……ん?」

 

 ふと、違和感に気づいた。

 女王陛下のネックレス、今までなら家族の写真が入ったロケットペンダントを肌身離さず持っていたのに、今日に限ってつけてない。

 まぁ、その写真の中身を考えれば、当然のことなのかもしれないが。

 

(ルミアがショック受けなきゃいいが……)

 

 ルミアの正体は、アルザーノ帝国の第二王女、エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ。三年前に病死したとして捨てられた、言わば放逐少女だ。

 しかし、それにも理由がある。彼女は『異能者』なのだ。異能者への偏見が強いこの国で、王族が異端だと知られるのは国が大騒ぎになる。

 その前に証拠隠滅の為に彼女を捨てたのだ。まぁ、殺さず捨てただけでも女王陛下がどれだけルミアを愛しているのかわかるだろう。

 しかし、それは第三者から見た感想だ。当事者からすれば、自分は何もしていないのに捨てられたと怒っても仕方ない。

 それに加え、今日は女王陛下がネックレスを変えている。勘違いが加速するかもしれないな。

 

「……まぁ、俺にはどうにもできないんだけどな」

 

 そんなことを考えていると、競技が始まった。

 

 

 

 

 

 




 ルミアとグレン先生の出会いです。

 
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