午前の競技がすべて終わり、現在昼休み。
「……畜生、どいつもこいつもこれ見よがしに飯食いやがって。飯テロはやめろよな」
俺的に、今までで一番たちの悪いテロだ。
「……あの、先生…」
すると、何故か涙目のリンが話しかけてきた。
……場所変えるか。
「どしたリン?金と飯以外の事なら大体相談に乗ってやるぞ」
「……その、あの…午後の私の出番、誰かと変えてもらえませんか?」
……ふ~ん。
「確か…変身の競技だったよな』
「はい……【セルフ・イリュージョン】の魔術、一生懸命練習してきたんですけど全然うまくいかなくなっちゃって…」
「で、変えてくれないかと。……お前はどうしたいんだ?本当は出場したいんじゃないのか?変身の魔術好きだったろ?」
「はい!変身ってなんだかその…違う私になれるみたいで…」
なんかコスプレ女子みたいだな。
「ならいい。交代はなしだ」
「で、でも!みんなが先生と優勝目指して盛り上がってるのに私が足を引っ張っちゃったら……っ」
「こんなもん、たかが祭り、楽しんだ奴が勝ちなんだよ」
「……でも、勝たなきゃ先生がハーレイ先生の給料を……」
……あ、そういやそうだった。
「……それは普通に悪かった。……分かった、特別授業だ、感謝しろよ。……【セルフ・イリュージョン】の復習だ、これはどんな魔術だっけ?」
「はい、えと……、光を操作することによって幻影で変身したように見せる黒魔術です」
「まぁそんなとこだ。同じ変身魔術【セルフ・ポリモルフ】との違いは、イメージ次第で何にでも変身できることだ。《刮目せよ・我が幻想の戯曲・演者は我・我は彼の声で歌わん》」
四節詠唱で呪文を唱え、ルミアに変身する。
「ま、ざっとこんなもんだな」
「ほ、ほへぇ…」
「変身が上手くいかないのは、イメージが緩いってことだ。お前は何に変身するつもりなんだ?」
「えと…時の天使ラ=ティリカ様に…」
「なるほどな。だったら、今から聖歌集でも借りてこい。イメージを固め直せば必ずうまくいく」
……あとは、もう少し自信を付けさせてやるか。
「お前はお前が思うよりずっと優秀だ。なにも気負わず、普段通りにやれば、必ずうまくいく。それに、さっきも言ったが、これは祭りなんだ。失敗しても誰も責めない。もちろん俺もな。もし仮にそんな奴がいたら、俺がこの手でボコボコにしてやる」
すると、突如リンが吹き出した。
「……え、なんか可笑しなこと言った?」
「……ふふ、だって、ルミアの姿で男前な事言うのが…」
……それもそうだな。
「わかりました先生。私やってみますね!」
「おう!」
……よし、それじゃあまずは変身を解除して
「ルミア~!」
(ダニィ⁉)
このタイミングで白猫⁉
「早くお弁当食べよ。ルミアの分もちゃんと作っといたから」
(べべべべべべべ、弁当だとぅううう!)
欲しい。
「後はあいつなんだけど…どこ行ったのかしら?」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!いくら何でも教師が生徒の弁当をかすめ取るとかモラルとしてどうかと言うか。
そうだ、俺は誰だ?スーパーカリスマ講師グレン=レーダス大先生様だろう?
なら、こんな卑劣な真似をしてルミアのごはんを掠め取るなどあってはならない――
「ルミアったらそんなにお腹空いてたの?」
「うん!早く食べないと割とマジで死んじゃうかもーっ!」
「ひ、必死ね……」
――空腹には勝てなかったよ。中はサンドウィッチだった。
大丈夫…全部食べたりはしない……。
「いただ――」
「あ、システィ!こんなところに――」
二人のルミアが互いに向かい合う。
「な、なんてこと。俺……じゃなかった。私が二人――」
「《力よ無に帰せ》」
冷めた目でシスティーナが呪文を唱える。
すると、サンドウィッチを食べようとしていたルミアの姿がグレンに変わる。
「と、いうわけで、グレン先生はクールに去るぜ!(キラッ)」
「《大いなる風よ》!」
「ぎゃぁぁぁぁあああああ!」
私は鳥よーーーーーっ!
「……死ぬかと思った」
まさか吹き飛ばされとは思わなかった。まぁ、受け身を取ったからダメージは言うほど無いが。
「なんか人間としてどんどん落ちぶれて行ってる気がするなぁ~……」
セリカがいたら、最初からだろとツッコミが入っただろう。
「先生!」
「……ルミア?」
何しに来たのか?
ルミアの手には、風呂敷に包まれたお弁当が
「……お、おい……!これは……!」
「先生お腹が空いてるみたいだったからもしよかったら…」
「ありがとうございます天使様!このご恩は三十分くらい忘れません!」
「ハハハ……」
うぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!久しぶりの飯だこらぁぁぁぁぁあああああああ!
「瑞々しいトマトの酸味!程よい塩加減のハムの旨み!薄くスライスされたチーズのコクが極上のハーモニーを奏でている~!」
余りの旨さに思わず食レポをしてしまう。
「これお前が作ってくれたのか?」
「いえ、私、不器用だから料理とか苦手で…」
「じゃあ誰が?」
「それは秘密です。本人たっての希望なので」
そうなのか?
「はい。ある男性のために早起きしてお弁当を作ったらしいんですが、喧嘩して渡しそびれちゃったらしくて……。それで、捨てようとしてたので勿体ないから貰って来たんです」
「俺はゴミ箱かよ。まぁ、俺としてはむしろありがたいんだがな。……にしても、女子はともかく、男のほうはクソッたれだな。わざわざ女子が朝から作ってやってたのに、それをたかが喧嘩で捨てさせるなんて」
「……アハハ…そう、ですね」
「全くだ。そいつ絶対ロクでなしだぜ」
……あれ?なんでか今、胸に何か刺さったような……。
「あなた、グレン=レーダスですよね?少しよろしいですか?」
「んだよ?今俺は取り込み中だから後にしろってぇぇぇぇえええええええええええ!」
俺は先ほどまで自分の発言を全力で後悔しながら目の前の御方に土下座する。
「じょ、女王陛下ぁぁぁぁあああああああああ!今のは、ちょっと口が滑ったというかいや悪気があったわけではないんですどうかお許しを!お許しを~!」
「か、顔を上げてください!そんなに地面に頭を擦り付けると汚れてしまいますよ?」
「陛下への無礼に比べればこの程度の汚れ甘んじて受け入れますとも!ですからどうか!今の発言は親衛隊の者たちには内密に……」
「そっちが目的ですか……。変わっていないようで何よりです。ですのでどうか、面を上げてください」
……陛下がそうおっしゃるのであれば。
「……再びあなたに出会うことが出来て、嬉しかったです。貴方はこの国によく尽くしてくれて」
「そ、それよりも陛下!護衛もつけずに一体どうして……いや、俺としては護衛が居なくて寧ろ助かったんですが」
「それは……」
すると、陛下はルミアに向き直り……。
なるほどな。ルミアにこっそり会いに来たのか。親衛隊が見逃すはずもないが、セリカが魔術でどうにかしたのだろう。
「久しぶりですねエルミアナ。お元気でしたか?随分背が伸びましたね。フィーベル家のみなさんとの生活はどうですか?夢みたい…またこうしてあなたと……」
「あの!お言葉ですが失礼ながら陛下は人違いをされておられます!私はルミア。ルミア=ティンジェルと申します!」
ルミアはそういって、陛下に敬礼をする。
それは、明確な拒絶の意思だった。
「恐れ多くも、陛下は私をご崩御なされたエルミアーナ=イェル=ケル=アルザーノ王女殿下と、混同されておられるかと…」
「……そう、でしたね。エルミアナ…あの子は3年前流行り病で亡くなったのでしたね…」
「失礼します」
そう言ったルミアは、陛下には目もくれず走り去っていった。
「やっぱり、認めてくれませんよね……。今更母親だなんて…」
「……陛下」
「戻りますねグレン。あの子をよろしくお願いします」
「はっ!」
陛下に敬礼をし、彼女が立ち去るのを待つ。
「……そろそろ次の競技が始まるな」
急がないと。
午後の競技も、皆順調だった。だが、いつまで経ってもルミアが姿を現さない。
(異能者であるが故に存在を抹消された元王女…か)
シリアスなのは似合わないと分かっていても、考えずにはいられない。
「先生」
「うおっ!なんだ白猫!またぶっとばすつもりか⁉」
「違うわよ!ルミアも戻って来てないんですけど何か聞いてませんか?」
……しょうがねぇか。
「白猫、ちょっと耳貸せ」
そういって、俺は白猫の猫耳に向かって話しかける。
「……またぶっ飛ばされたいんですか?」
「冗談だよ冗談!だからその左手をこっちに向けるのはやめてくれない⁉」
改めて、先ほどのルミアと陛下の邂逅の事を伝える。
「そんなことが……」
「ま、あんなことがあれば誰だって一人になりたくなるわな。探してくっか。仲間と騒いでた方がいくらか気も紛れるだろうし。クラスの事頼むわ」
「はい…ルミアの事よろしくお願いします」
「任せとけ!今の俺は1日探し回っても平気なくらい満腹なんでな!大天使ルミア様からサンドイッチをいただいたんだ!どっかの誰かが作ったゴミ箱行きのものだったらしいが…」
「!……、ふ…ふ~ん。そんなの食べたんだ。憐れな残飯処理ご苦労様!」
なんだこいつ?いや、それよりも
「これが超旨かったんだよ!」
「ッ!」
「工夫はないが丁寧に作られていてすっげーうまかった。てかお前、残飯とか言うなよ。作ってくれた奴に失礼じゃねぇか?あとそれ食った俺にも。お前は基本、俺以外の奴に優しいはずだろ?」
「わ…わかってるわよ!早く行きなさいってば!」
え、お、おう。……なんだこいつ?
俺は白猫の様子に違和感を感じながらも、ルミアを探しに出た。
即落ち2コマ並みのスピードで弁当を掠め取ろうとするグレン先生。