ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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八話:昔の知り合いに殺されそうになった時どうしよう?

「何見てんだ?」

「先生…」

 

 探し回ること数分、ついにルミアを見つけた。

 

「何も入ってないんですこのロケット。大切な人の肖像画が入ってたような気がするんですが……。変ですよね。こんなものを肌身離さず持ち歩いてるなんて…」

「別に。何か今でも大事なもんが詰まってんじゃないのかそれ?」

「先生は知ってるんですよね。私と女王陛下のこと……、さっきの私どうすればよかったんでしょうか?」

 

 暗い表情のまま、ルミアが問いかけてくる。

 

「陛下が私を捨てた理由わかるんです。悪魔の生まれ変わり、呪われし禁忌の存在、『異能者』。その異能者として生まれてしまった私は帝国の、王家の威信を傷つける爆弾になりかねない」

 

 ………………。

 

「だから……、私の処分はこの国のために必要な事だったと思うんです。それでも私は、陛下を心のどこかで許せなかった。……怒ってるんだと思います」

「普通だろ。そう言うのは理屈じゃねぇしな」

「なのにもう一度あの人を母と呼びたい…抱きしめてもらいたい……でも私を引き取ってくれたシスティのお父様やお母様を裏切ってしまうような気がして…」

 

 …………。

 

「これは俺の知ってる神様の教えなんだがな」

「?」

「迷った末に出した答えはどちらを選んでも後悔するもの。どうせ後悔するのなら、今が楽ちんな方を選びなさい」

「……それ、ただのダメ人間の考えでは?」

「ハハ、そうとも言う。でもな、案外真理を突いてるんだ」

「……」

「人間ってのはどうも、後悔せずにはいられないらしい。悔いが残らないように選択しろ、なんてよく言うがあれは無理だ。どんなに悩んで道を選んでも後で何かしら後悔する。そんな風にできてるのさ。俺達人間ってやつは」

 

 アクシズ教の教義は身に染みるぜ。

 

「だからこそ本音が重要だと思ってる。本音でその道を選んだなら同じ後悔するにしてもちっとはマシだろ?楽ちんな方ってのはそういうことだ」

「先生……」

「ルミア、お前はどうしたいんだ?」

「……私、自分の心が分からなくて」

 

 そういう時は

 

「自分を抑えて真面目に生きても、頑張らないまま生きても、明日は何が起こるか分からない。なら、分からない明日のことより、確かな今を全力で生きなさい」

「それも……?」

「俺の信じる神様の教義」

「それって本当に神様なんですか?」

 

 強いて言うならトイレの神様かな

 

「……俺は昔、ちょっと危ない仕事をしていてな。それの関係で宮殿に赴くこともあったのさ」

「……」

「その時いつも見てたが、この国で一番偉いお方がお前のそれと同じペンダントを身につけていた。いつもな」

「!……、」

「捨てられなかったんだろ。お揃いのそれ。だったら答えはとっくに出てるんじゃないのか?」

「……」

「綺麗ごとを言う必要はねぇ。ただ、自分の本心を伝えて、まっすぐ向き合うこと。俺が言えた事じゃないかもしれないが、これが一番大事なんじゃないか?」

「でも…怖いんです。またあの冷たい目を向けられたらと思うと……。だから…その…一緒に着いてきてくれませんか?」

「……はぁ~。しょうがねぇなぁ」

「ありがとうございます!」

 

 さてそれじゃあ行くか――

 

「ルミア=ティンジェルだな?」

「……え?」

「……王室親衛隊?」

 

 なんだこんな時に?そもそも、なんでこんなところをうろついている――

 

「恐れ多くもアリシア七世の暗殺を企てたその罪、弁明の余地なし!」

「貴殿を不敬罪及び国家反逆罪によって処刑する!」

 

 ……は?

 

「冗談が過ぎるぞ。証拠でもあんのかよ?」

「部外者に開示義務はない」

「俺はこいつの教師だ。権利がある。それ以前に、令状も裁判もなしに、処刑なんてできるわけねぇだろ!」

「これは女王陛下の勅命である!その娘を渡せ!庇い建てするなら貴様も国家反逆罪で処分する!」

 

 上等だこの野郎。

 俺は咄嗟に重力操作の魔術を唱えようとして

 

「仰せの通りにします。恐れ多くも女王陛下に仇なそうとした罪、この命を持って償いといたします。ですからどうか先生だけは…」

「ハァ⁉お前何言って――」

 

 瞬間、親衛隊に後頭部を殴られ意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、見せかけた。

 ルミアは近くの木に括りつけられ、今にも首を落とされそうだ。

 

「そのまま目瞑ってろよ」

 

 俺は魔術で閃光を発生させ、親衛隊の視界を奪う。

 そして、隙だらけの親衛隊を不意打ちで気絶させていく。

 

「ったく思いっきり殴りやがって」

「先生!いったい何を……!」

「な~に、【フラッシュ・ライト】だ。只の目くらましだよ」

 

 どこぞの大佐が目つぶしされたあれではない。

 

「なぜ私を助けたんですか⁉」

「俺はスーパーカリスマ講師グレン先生だしな」

「ふざけてる場合じゃありません!このままじゃ先生まで……」

「……だから、俺はお前の教師だって言ってんだろ?教師が生徒を守らないはずないだろ」

 

 全く、これは教師物の真理だというのに。

 

「ま、心配すんなって。女王陛下は裁判もなしにお前を処分するなんてこと、絶対しやしない。この処刑命令には必ず何か裏がある。女王陛下に会うことができれば――」

「いたぞ!仲間がやられている!おのれ反逆者共め!」

 

 っち、増援か。

 

「どうするんですか先生!」

「こうするに決まってんだろ!《三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし》!」

 

 ルミアを抱え、黒魔【グラビティ・コントロール】を唱え、重量を軽くし一気に市街地に出る。

 

「あ~もうどうして厄介ごとばかり。だから俺は働くなんて嫌だったんだ!……にしても、問題はどうやって親衛隊の目をくぐり抜けて陛下に会うかだな」

 

 そこで、簡単なことに気づく。

 

「あれ?よく考えたら俺達が直接会わなくてもいいんじゃね?」

 

 そう思い、取りあえず地上に降りてセリカとの通信機を起動する。

 

『……グレンか』

「お、今度は一発で繋がったか。今大変なことになっててさ、こっちの状況説明するから――」

『私は何もできない。すまないグレン。私は何も言えない』

 

 ……おいおい、マジかこいつ。

 

「ふざけてる雰囲気じゃなさそうだな。こっちの状況は把握してるか?」

『あぁ、女王陛下も隣にいる』

「何を伝えられる?」

『……お前だけが、この状況を打破できる。……そう、お前だけがな。この意味をよく考えろ、何としても女王陛下の前に来るんだ』

「……了解」

 

 そこで俺はセリカとの通信を切る。

 

「……先生…」

「大丈夫だ、少し考えさせてくれ」

 

 そういって俺は思考に入る。

 

(……陛下を守ってるのは、手練れの親衛隊。しかも隊長はあのゼーロスだ。親衛隊は魔術を絡ませれば何とかなるが、ゼーロスは違う。四十年前の戦争を生き抜いた正真正銘の怪物だ)

 

 そんな奴を前に陛下の所に行くなど、もはや不可能――

 

(いや、一つ手はあるか)

 

 だが、それにしたってほぼ賭けみたいなものだ。

 

「……それ以前に、今俺たちを追っている親衛隊を振り切らなきゃなんねぇ。畜生…どう考えても俺の手に余るだろ。どうすれば……っ!」

 

 その瞬間、強烈な殺気と凍てつくような視線を感じ、その方向を振り向く。

 そこには、三人の人影があった。

 

「……あの、格好。まさか宮廷魔導士団まで敵に?」

 

 その声を合図に、他の奴より小柄のものが錬金術で大剣を高速錬成し、襲い掛かってきた。

 

「なっ!そのイカれた錬金術、お前はまさか!」

 

 瞬間、俺に向かって大剣が振り下ろされた。

 

「……あぶねーっ!間一髪だったぜ。……にしても、いきなりなにしやがんだリィエル!」

 

 その攻撃をギリギリで回避。剣も衝撃で粉々に砕け散った。

 

「《万象に(こいねが)う・我が(かいな)に・剛毅なる刃を》」

 

 リィエルは新たな剣を錬成し、その矛先をこちらに向ける。

 相変わらず、某国家錬金術師と見間違うレベルの錬成速度だなコンチクショー!

 

「……今の、錬金術?なんて錬成スピード……!」

「宮廷魔導士が相手とか勝ち目感じねぇ……。《白銀の氷狼よ・吹雪纏いて・疾駆け抜けよ》!」

 

 軍用魔術【アイス・ブリザード】を発動。猛烈な吹雪と氷の結晶がリィエルに襲い掛かるも、当の本人は

 

「効かない、グレン覚悟!」

「くそっ!」

 

 この攻撃を回避できたとしても、奥の魔導士が左手を構えているのが見える。

 

(っていうか、あれアルベルトだろ⁉あいつの狙撃とリィエルのコンボとか、俺が対処できるかよ!)

 

 俺は目の前に迫る白刃を前に、身を固くすることしかできず――

 

「ぎゃん!」

 

 ――しかし、次の瞬間、目の前には倒れこむリィエルが。

 

「「……え?」」

 

 どういうこと?多分、アルベルトがリィエルを撃ったんだろうが、そんなことをする意味あんなのか?

 

「久し振りだなグレン」

「久し振りだねグレン君!」

「……え、システィ⁉」

「……何?白犬もいんの?っていうか、何がしたかった訳?」

「それについても話す、ついてこい」

「お、おう」

 

 言われるがままに、場所を変え、何があったのか聞くと。

 

「ふっざけんなこのおバカ!何が、有耶無耶になった軍時代の決着をつけたいだ!この忙しい時に何考えてやがる!」

「うぅ~痛いグレン」

「……あの、先生。……この方たちは?」

 

 ルミアが特に白犬……セラのほうを見てそういう。

 

「……はぁ、紹介するぜ。俺の元同僚、帝国宮廷魔導士団特務分室。執行官No・17《星》のアルベルトとNo・7《戦車》のリィエル。そして、No・3《女帝》のセラ……こと白犬」

「あぁーっ!また私の事白犬って呼んだ!」

「……この通り喧しさは白猫とそっくりだ。……もううんざりする」

「アハハ……」

 

 まぁ、それはあとでいい。

 

「一応信用できる……っていうのは、さっきの見た後じゃ無理か」

「アルベルト迂闊。街中で軍用魔術を撃つなんて」

「お前が言うな!」

「……俺たちがどれだけ苦労したか、少しは分かったか?」

「言葉も出ませんマジですんませんでした!」

「……遊んでいる場合ではないぞ。王室親衛隊は女王を監視下に置き」

 

 そこでアルベルトはルミアのほうを向き

 

「そこの元王女を始末するため独断で動いているようだ」

「セリカは?」

「貴賓席にいるが行動を起こす気はないらしい」

「アイツが肝心な時に動かないのはいつもの事だ。だが、親衛隊がこのタイミングでルミアを狙う理由はなんだ?」

「考えても仕方ない。私が状況を打破する作戦を考えた。まず私が正面から敵に突っ込む。次にグレンが正面から敵に突っ込む。その次にセラが正面から突っ込む。最後にアルベルトが敵に正面から敵に突っ込む」

 

 すると、少しばかり胸を張ったリィエルが言った。

 

「どう?」

「舐めんな!」

「仲良しなんですね皆さん」

「大丈夫?前から思ってたけどお前の目、実は節穴だろ。なにも見えてねぇだろ」

「……俺たちの苦労が(ry」

「……分かったから……、にしても、お前らと敵対せずに済んでよかった。頼む。力を貸してくれ」

「もちろん!」

「それで?何から始める?」

 

 ……よし。

 

「まずは女王陛下に会う。それしかできることはねぇ」

「根拠は?」

「アイツは肝心な時に役に立たねぇが、ただで終わる女じゃねぇ。元特務分室のNo21・《世界》のセリカ=アルフォネア。第七階梯に至りし大陸最高峰の魔術師が言うんだ。根拠としては十分だろ?」

「……いいだろう、お前が信じるというなら、俺も信じよう」

「それで?わたしたちはどうすればいいの?」

「あぁ、お前らは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生……」

 

 あれから結局、グレンもルミアも帰ってこなかった。

 グレンがいないことでクラスの士気も落ち始めている。

 

「待たせてすまなかった」

 

 すると、知らない長髪の男がそんなことを言ってきた。

 

「待たせた?」

「お前達が2組の連中だな。俺はグレン=レーダスの古い友人でアルベルト。こっちはリィエルだ」

「……ん」

「グレンの奴は、急用で手が離せなくなったらしい。そこで奴からの伝言だ。お前達の指揮はここにいるアルベルトに任せると。そして……『優勝してくれ。頼む』とのことだ」

 

 

 

 

 

 

 


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