「………」
キャルは微妙な表情をしていた。
寝ていたはずが何故かいつの間にかテーブルに向かって座っているのはまだいい。
そしてその上に何故か紅茶とお菓子が用意されていたのもまだいい。
だが、その前に居る人がどうにも掴めない人だからだ。
「うむ、夢の中というのはこういうものか……」
自分より背が低い、銀髪で長髪そして左目を隠す眼帯をつけている女の子。名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。
だが話を聞く限りではどうやらキャルよりは年上らしい。
何故知ったかと言うとキャルも流石に話ができないわけではない。この夢の最初こそは一応自己紹介をしたからである。
だがそこからが問題であった。二人共社交的な存在が身近にいるけれど、当人自体は社交的ではないため、会話というのが生まれなかったからだ。
(全く…早く覚めないかしら……こういうときに限ってあたしはなんかよく寝てたりするのよね……)
「ミカに似てるわね…」
そうボソっとキャルが呟いた時、ラウラは急に反応を示す。
「ミカ…だと?」
「…ん?なによ」
「いや、私の嫁もミカ……本名は三日月・オーガスと言ってな」
「…はぁ!?」
キャルは二重の意味で驚いた。
まさかの三日月の名前が出るとは…とそれを「嫁」と呼称したことであった。
「なに?そっちにもミカがいるわけ?あと嫁ってなに…?」
「嫁は嫁だ。そういうものと聞いたのでな」
(絶対違う気がする……)
「まあともかくだ。お前のほうにもミカがいるのは…恐らく、平行世界の同一人物というやつだろう」
「同一人物?平行世界ってのはあんたとあたしのでだいたいわかるけど」
「ああ、漫画で読んだことがあるからな。平行世界というものは無数に存在するらしい。ならそこに同じような人物が居ても不思議ではなかろう」
’(マンガで分かるもんなの…それ……)
微妙に突っ込みたくはなるが、筋は通っていたためキャルはまあ納得した。
(でもあっちのミカはこいつと『そういう関係』になっちゃってるってことよね……いや、あたしには関係ないけど……あたしは陛下に仕えてるだけで十分だし)
なんとなく考え事をしているキャルにラウラは――
「しかしキャルと言ったな。お前、何か悩んでいることがあるようだな」
「……!」
急に急所を突いたことを良い、キャルを驚かせた。
「な、何言ってんのよ!あたしに悩みなんてあるはずが」
「そうか?顔に書いてある…というやつになっていたが」
「書いてあるわけ無いでしょ!全く……」
当然ながらキャルは全面的にそれを否定する。
「うむ?そうか……だが、悩みがあるなら誰かに相談すると良い。ミカやオルガ団長やその仲間たちに…」
「だから無いって!……はぁはぁっ」
ぷんすかというような感じで少し怒っているキャルである。
まさしく図星というやつであった。
「……だが、最後には必ず自分で決めないといけないということは忘れるのではないぞ?」
「……自分で?」
「うむ。ミカやオルガ団長もそうやって自分自身で道を切り開いたと聞いている。他人のラジコンのようにならずにとも言うべきか」
「ラジコン……」
そうキャルが呟いた瞬間、辺りが急に光り輝き始める。
「どうやら、終わりの時間のようだな」
「……ふんっ、やっと終われるのね」
キャルは清々したという表情であった。
「では、またどこかでだな」
「多分あんたとはこれっきりよ。そもそも別の世界の人が簡単に会えるわけないでしょ」
「いやわからんぞ。事実は小説よりなんとやらということわざがあったはずだ」
「事実は小説より奇なり……ね」
そうしてそれぞれ元の世界へ戻っていくのであるが、キャルはやはりといいか、考え事をしていた。
(ラジコン…いや私はラジコンじゃないわよ。あたし自身の考えで陛下にお仕えしているだけ。それがあたしなんだから)
本人はそうは思っているんだが、モヤモヤしたなにかが晴れることはなかったのは言うまでもない。