前編
「ハァハァ……」
ユウキは風邪を引いてしまったらしく、寝ながらも息を荒げていた。
「ちょ、ちょっと顔赤いわね……熱っ!?」
キャルがユウキの額を触るとその尋常じゃない暑さであった。
「ヤバいな……普通じゃない」
三日月(とオルガ)の場合長きに渡りヒューマンデブリとして扱われていたため、劣悪な環境故に病気だのはある意味慣れたようなものであったが、その三日月の目にも普通じゃないと映っていた。
「ええ、これってちょっとまずいじゃない!?」
一方のコッコロはゴリゴリとすり鉢で薬を作っている真っ最中であった。
「今、里でよく飲んでいたお薬を作っておりますの…で」
なおご丁寧に虫もきちんと入れていた。
「ちょっと待った!あんたなにしれっと変な虫入れてんのよ!」
そして案の定キャルの強烈なツッコミが炸裂する。
「ですがわたくしの里では……」
「そんな田舎の民間療法やめなさい!……はっ」
そこでキャルはふと何かに気がついたようでキッチンの方を見ていると、案の定虫を使ったおかゆを作っているペコリーヌの姿があった。
「こらそこ!何おかゆに入れようとしてんのよ!」
「えっ?でも栄養満点…」
「なんでも虫で解決できるとは思わないでぇぇ!」
「…なら火星ヤシ」
「それでも解決できないわよ!」
「俺は鉄華丼…」
「それもダメ!!」
ボケ4人になんとか突っ込みをして、流石に疲れたキャル。
だがユウキの体調は悪化するばかりであった。
「はぁっ…しょうがないわね!ちゃんとした病院に連れて行くわよ!」
「オルガ、連れて行ってくれるんだろう?」
「ああ、わかったよ!!連れてってやるよ!連れてきゃ良いんだろ!」
何故か急にキレ気味になったオルガの言葉で、一行はユウキを背負いつつランドソルへ繰り出すこととなった。
「……で、なんであんたはキレ気味なのよ」
「なんかこうしねえと雰囲気が出ねえ感じがするからよ……」
「雰囲気?」
オルガのその迫真の(?)ものに当然ながら事情を知らないキャルは首を傾げるしかなかったのは言うまでもない。
ーーーーーーーーーーーーーー
「すみませーん、急患でーす!」
一行は案内を頼りにある病院らしき何かの建物にたどり着いた。
「はいはーい、どうされました~?」
それに応えたのは変な帽子と変なメガネのようなものをした女性であった。
名前はナナカと言うらしい。
「あー……あの、ここ病院であってます?」
「あってますあってます♪」
キャルの問いにそう答えるが、どうにも病院にしてはなにか胡散臭い。
だが背に腹は代えられない。なのでユウキを見てもらうことにした。
「主様…この方が昨日の夜から熱を出してしまいまして……」
「ほほう……これは……診察室へどうぞ!」
そしてそのまま診察室へ案内された御一行。
(……なにこれ)
(なんだありゃ…)
なおその診察室にはホルマリン漬けの虫などが置いてあった。
診察室というより実験室の印象が映る。
「はい大きく口をあけてぇ~」
そして診察する医者もこれまた不思議な格好であった。
名前はミツキと言う。
だが、やっていることは普通の医者とは一応何ら変わりがない。
「奇妙な格好をした先生と看護師さんだけど、一応ちゃんと見てもらえそうね…」
「キャルちゃん、人を見た目で判断してはダメですよ?」
「そうだぞ、見かけで人となりなんかわかんねえぞ?見かけがよくても中身がヤバいやつなんて結構いるぞ?」
「…それとは話は違うわよ…。あの格好を見て不安にならないほうがおかしいから…」
「まあなんだっていいよ、ユウキが治ればいいし」
「ミカ、あんたもね……」
ユウキを心配し続けているコッコロを除く4人がそう話していると――
「皆様、お静かに」
「すみませんでした」
「なんかごめん」
そのコッコロに注意されるのであった。
そうしている内に診察は進み――
「これは……アレ、ですね……」
「『アレ』…ね」
「ん?」
「ナナカちゃん!すぐにオペの用意を!!」
「イエス!ドクター!!」
「「「えーっ!?」」」
「なんだと!?」
突然の手術用意に三日月を除く4人は驚きの表情を隠せず、三日月も表情が険しくなった。
「先生大丈夫なんですか!?」
「外野は黙ってて!」
ペコリーヌのそれにも厳しくそう返す。
「頼む!俺ならどうにでも殺してくれ!何度でも殺してくれ!首を跳ねてそこらに晒してくれてもいい!!そいつの命だけは!!」
「あなたも黙ってて!!3割増しで元気にしてあげるから!!」
オルガのいつもの命乞いも受け流されてしまった。
――――――――――――
「なんか大事になってない!?」
「か、風邪は万病の元と言いますから……」
手術室前でそう待っている面々、コッコロはご乱心なのか、なぜかお焚き上げまで始めていた。
「アラ・タマ・キヨ・タマ……偉大なるアメス様……主様に力をー!」
「何やってんだコッコロオオオオオオオッ!」
「や、やめい!!」
キャルはすぐさまお焚き上げの台を外に放り出す。
「しっかりしてコッコロちゃん!」
「アラ…タマ……キヨ……」
「ここ病院の中よ!?下手すると大火事になるわ!」
「はっ……す、すみません……居ても立っても居られなくて…」
「勘弁してくれよ……」
その瞬間――
「ぎゃあああああああああああああああああああっ!?」
とても手術しているような音ではないなにかとユウキの悲鳴が聞こえてくる。
「あ、主様が!主様が!」
「し、しっかりなさい!」
キャルとペコリーヌは再びお焚き上げしようとするコッコロを止めに入った。
まあこの状態で心配するなってのも変ではあるのだが……。
実際三人の顔は真っ青になっていたからだ。
「こいつは……」
「まるで阿頼耶識の施術の時みたいだよね」
「ああ…あんま思い出したくねえことだがな……」
一方のオルガと三日月は前世における阿頼耶識施術のことを思い出していた。
オルガはその施術を1回、三日月はそれを3回も行った…いや、行わされたというのが正しいが。
「まあ流石にそんなことはされてないとは思うけどね」
「ああ、そうだと思いたいが……」
そんな一行の横を走り抜けようとする痩せこけた男が一人いた。
だがペコリーヌの足に引っかかりそのままコケた。
「ろ、廊下でたむろってるんじゃねえぞお前!……ってお前ら!?」
「あれ、あんた。コカトリス亭にイチャモンつけてきたやつじゃない!」
なんとあんなに太っていたあの男であった。
「い、今手術中なんだろ?」
「はい、それが……」
「今しかねえんだよ…今このチャンスを逃したら地獄から抜け出すことができなくなるんだよぉ!」
「どういう意味だ?」
「ここはホスピタルじゃねえ!プリズンなんだよ!」
「「「え!?」」」
「なんだと!?」
まさかの告発?にもちろん一同は驚く。
「わりぃが…あの悪魔たちが居ない内に俺はここを抜けさせてもらうぅぅぅっ!」
そのまま男は全速力で駆け出していくが……。
「ひでぶうううっ!?」
角を曲がって暫く進んだくらいのところで、その男の悲鳴のようなものが響く。
「………な、なんだ?」
そしてその角からはなにかのオーラを発しているような折れた角を生やし、目を文字通り光らせている女性が、さっきの男を引きずり戻してきたのだ。
「あいつ……」
「クスクスクス……お行儀の悪い患者さんです…ベッドに戻りましょうね……私、忙しいんですよ……運命の人を探さないといけないんですから……」
そして得物である斧も引きずって真っ青な顔をしている4人及び1人のところを通り過ぎていく……。
「クスクスクス………」
4人はもはや声にならない悲鳴であったが、三日月は冷静に見ていた。
(今のは……この前行き倒れになってた人だよね。ユウキにおにぎり渡されてた…)
三日月はなんとなくだが運命の人について察しが付いた。
――――――――――――
そして手術後、まさかの面会途絶であった。
「す、す、すみません。一体何の病気なんですか!?」
「コッコロちゃん!?」
なおコッコロは気絶してしまった。
「……今日のところは、お引取りを」
たがナナカはそうとしか返さなかった。
通常の3倍(適当)