派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
ハイドが二層へ進出してから数日後、ハイドは運営から送られてきたメッセージを読んでいた。
(第二回イベント二週間前のこのタイミングでのメンテナンス。そして修正された一部のスキルと、追加された防御力貫通攻撃スキルとそれに伴う痛みの軽減……言われなくても分かる。これは完全に
第一回イベントにおいて、圧倒的な防御力と複数の強力なスキルを使用していたメイプル。弱体化の対象になるのは目に見えていた。
(特にあの盾に付いてたスキルは、絶対弱体化されてるはずだ。運営は何であんな盾を採用したんだ? あんな強力なスキルが付いてる以上、あの大盾はユニークシリーズだろうけど、それにしたって強力過ぎる。見たところ条件や回数制限も無いみたいだし、触れた瞬間何でも飲み込む盾とかゲームバランスがおかしくなるのが目に見えてるだろ)
メイプルの大盾に付いているスキルは大盾に本来付いていたものではなく、メイプルが特殊な行動によって取得したスキルを大盾の【スキルスロット】に付与しただけなのだが、それを知るすべはハイドにはない。
(まぁ本条さんと戦うかは別にしても、防御力貫通攻撃スキルの実装はありがたい。これである程度懸念に対して対策が取れる。俺の【暗殺】は急所に攻撃が当たらないと条件が有効にならない。VITが高すぎるモンスター相手だと、攻撃が弾かれてダメージが通らないからな)
【暗殺】というスキルは、例え急所を攻撃したとしても相手のVITが高くダメージが0の場合は、システム上急所への攻撃が失敗したと判定されるのだ。それを防御力貫通攻撃スキルが解決してくれる。因みにまだハイドは知らないが、また急所がないモンスターの場合でも急所への攻撃は失敗しているのでデメリットは発動する。
(とりあえず後で防御力貫通攻撃スキルは取得するとして、今は二週間後に迫った第二回イベントの準備だ。前回のイベントは見るだけだったけど、今回は参加するぞ!)
ハイドはメンテナンスの詳細の画面を閉じると、続けて二週間程前に発表された第二回イベントの詳細が書かれた画面を浮かべて気合を入れる。
(今回のイベントは探索型で、期間はゲーム内時間で一週間。ただし時間を加速させてるから、現実で進む時間はたったの二時間。その関係で一度ログアウトしたらイベントに再参加が出来なくなる)
仮に十分ログアウトした場合、ゲーム内では八十四倍の十四時間も経過してしまう。再参加禁止は当然の措置と言えるだろう。
(探すのはフィールド内に散らばった三百枚の銀のメダル。銀のメダルは十枚集めると金のメダルと交換出来て、イベント終了後に金のメダルをスキルや装備に交換できる)
今回のイベントも、イベント専用マップで行われる。その中のダンジョンなどに落ちているメダルを集めるのだ。
(装備には満足してるから興味ないけど、スキルは気になるな。どんなのがあるんだろ?)
ハイドは報酬に少し期待すると、すぐに気を取り直してイベントまでに行う行動の予定を立て始めた。
(俺は一人で参加するから、とくに危ないのは夜だな。寝ないと行動に支障を起こすだろうから寝るけど、寝てる間にPKされてメダルを落としたりしたら目も当てられない。よし、まずは野宿の訓練だ!)
決めるや否や、ハイドは町の外に出て練習によさそうな場所を探し始めた。
◇◇◇
(この辺とかよさそうだな。人来なさそうだし)
野宿の訓練のために、ハイドは森の奥地に入るとそこそこ大きい木を見つけその木の枝に跳び乗った。
(枝も座るには問題ない太さだし、体重をかけても少しも撓らない。イベント専用マップにもこんな木があればいいけど……)
そこは考えても無駄だとハイドは思考を打ち切って、ゆっくりと目を閉じた。そう、ハイドが考えた野宿の訓練とは、木の上で眠る事だった。イベント専用マップがどのような地形になっているかは未だ発表されていないが、探索が主な以上遮蔽物が多い森は確実に入るとハイドは確信していた。そして森で休むなら、木の上など高所の方が見つかりにくいと考えたのだ。
(一応俺の寝相はかなりおとなしいらしいけど、ちょっとでも動けば落ちるような状況でも休めるのが望ましい。そして休む際に見張りがいない以上、少しでも見つかりにくい場所で休まなくちゃいけないからな。こういう場所で、休むことが出来ればいい、な……)
やがてハイドは眠りに落ちていく。ハイドが眠っている木の近くに、複数のモンスターが来てもハイドに気付く様子はない。そしてハイドが眠り始めて三時間が経過した。
『スキル【潜伏】を取得しました』
「…………んぅ?」
突然のスキル取得の通知に、ハイドは目を覚ます。数分間ボーっとすると、やがて頭の方も完全に覚醒した。
(問題なく寝れたみたいだな。木の上で寝るなんて初めての経験だから、何か体が固まった気がする。VRだから当然気のせいだろうけど……それとさっきスキルがどうとか言ってなかったっけ?)
起き上がって伸びをしながら、自分がまだ木の上に乗っているのを確認するとハイドは満足そうに頷き、起きる直前に聞いた通知を思い出してとりあえずステータスを開く。
(えぇっと……ん? 何だこのスキル?)
自身のステータスを見ていると、見覚えのないスキルを発見したのでそのスキルの詳細を出した。
【潜伏】
身動きしていない間、モンスター又はプレイヤーから完全に姿を隠す。
モンスター又はプレイヤーに目視されていると発動不可。
動くとスキル解除。五分後、再使用可。
取得条件
三時間の間に半径三メートル以内で三回以上モンスター又はプレイヤーが存在していて、その間一切身動きせずモンスター又はプレイヤーに認識されないこと。
(えぇ~……ただ寝てただけなんだけど……何か予定外のスキルが手に入った。しかも今回のイベントに最適な奴だ)
既に先程の実験で、ハイドは睡眠中一切身動きを取らないことが分かっている。このスキルには時間制限がないため、動きさえしなければ何時間でも効果を持続する。どうやって休むかが懸念事項だったハイドにとって、これほど最適なスキルはない。
(これで野宿の問題は解決だな。後する事と言えば防御力貫通攻撃スキルの取得と今あるスキルのレベル上げ、そのついでに自分自身のレベル上げくらいか)
新しいスキルを探すという選択肢はハイドにはなかった。探し方に目途が立っていない以上、むやみに探すのは時間の無駄だからだ。
(イベントまで残り二週間。時間もそうたっぷりある訳じゃないし、順番にやってきますか!)
◇◇◇
あっという間に二週間が過ぎて、ついに第二回イベントの日がやってきた。ハイドはこの二週間順調にレベルを上げていて、その過程で新たなスキルも取得している。
【居合切り】
鞘から剣を抜き始めて0.五秒間だけ、【STR】30%上昇。
取得条件
鞘から剣を抜き始めて0.五秒間以内にモンスターに攻撃する事を十回繰り返す。
0.五秒間以上抜いた状態で攻撃すると、回数リセット。
一度攻撃した後仕切りなおす際に、集中するため小刀を一旦鞘に納めるという行動を繰り返した結果だった。時間制限が厳しいスキルだが、特にこれといったデメリットもないスキルだ。ハイドの使ってる武器は、形状が刀なので鞘から抜きながらの攻撃がやりやすい。取得した際は、予想外のスキルに驚きながらも棚ぼたを喜んでいた。
(今回も人が多い……でも今回は参加するんだし我慢しないと……)
イベントの集合場所になっている広場では、前回イベント時以上の人が集まっている。新規のプレイヤーなどまだ二層に来ていないプレイヤーは一層にいるので、この人数でもまだイベント参加者は全員ではない。
その人混みの中、ハイドは前回の時のように隠れるわけにもいかずかなり気落ちしながら時間を待っていた。
(早くイベント始まってくれぇ~……この人混みはツライ……)
前回のイベントの時と同じような事を考えながら、ハイドはプレイヤーの騒めきに堪える。そして広場が満員になった時、ついに運営からのアナウンスが入った。
『只今より、第二回イベントを開始します! まず始めに、今回のイベントのルールを改めて説明します』
アナウンスはそう言うと、既に発表されているイベントの内容を説明した。ただ説明の中には、発表されてない内容もあった。
『前回イベント上位十名以内の方は、金のメダルを既に一枚所持しています! 倒して奪い取るもよし、我関せずと探索に励むもよしです!』
(前回イベントの商品が記念品らしいことは知ってたけど、あのメダルがその記念品か。前回イベントの上位ランカ―は何もしなくても確定でスキルや装備品が手に入ると……出来れば狙いたいけど、無理そうだな。上位ランカー相手に三割の賭けはしたくないな。失敗したらほぼ間違いなくキルされるし)
ハイドは下手な賭けは避ける方針のようだ。
『死亡しても落とすのはメダルだけです! 装備品は落とさないので安心してください! メダルを落とすのはプレイヤーに倒された時のみです。安心して探索に励んで下さい! 死亡後はそれぞれの転移時初期地点にリスポーンします!』
(つまりモンスターに倒されてもメダルは落とさないのか。じゃあある程度安心だな)
装備品についてはハイドは最初から心配していない。ハイドが装備しているユニークシリーズは、そもそも死亡してもドロップしないのだ。
『フィールド内にはモンスターの来ないポイントが幾つもありますので、それを活用して下さい!』
(モンスターが来ないポイントがあるのか。じゃあそのポイントが見つかれば原則そこで休憩を取るか。モンスターが来なくてもプレイヤーは来るから、念のため休憩の時は【潜伏】使っておこう)
『それでは説明は以上になります! 皆さん! 一週間頑張ってください!』
いよいよハイドにとって初めてのイベントが開始された。ハイドを含め、広場にいたプレイヤーは全員光となって第二層から消えていった。
主人公、今回はようやく言葉を……言葉? うめき声? とにかく音を発しました(←表現から逃げた)。実にゲーム内で七話ぶり、一応『暗殺者と運営と現実』でも喋ってるので小説内では六話ぶりの音です(ただし断じて声ではない)。次回から第二回イベントです。
一応オリジナル設定です。前話で出した『目視』と同じ定義ですね。
認識について
目視と違い、見えていなくてもそこにいると思われているだけでアウト。例えばテントの中に入るのを見られらた場合、テントの中に入っていれば中にいると分かっていても『目視』されている訳ではないが、テントの中にいると『認識』はされている、という判定になる。