派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
今回はイベント二日目。前回のあとがきに『及び三日目』とか書きましたけど、今回は二日目のみです。
イベント二日目。ハイドは起きてから小島から最初にいた砂浜まで泳ぐと、すぐに森に入って探索を開始した。
「プギィィィッ!」
(よし、もう近くにモンスターはいないな。だがまさか森のモンスターがこんなにバラエティ豊かだったとは)
ハイドが森に入って遭遇したのはオオカミ、兎、フォレストクインビー、ゴブリン、そして今倒した猪の計五種類だ。
鬱蒼とした森は、木々の枝が太陽の光を覆って薄暗くなっている。藪も多くて奇襲に向いた地形となっているが、ハイドはそれを逆に利用して木の上からモンスターに奇襲を仕掛けて倒している。
(このぐらいのモンスターだったら【暗殺】を使わなくても一撃で倒せるようになったな。倒すだけだとつまらないし、スキル無しで急所に当て続ける練習でもしてみるか)
ただモンスターを倒しだけでは味気ないとハイドは考え、急所に攻撃を当てる訓練を始めた。ハイドの【暗殺】の即死条件は『急所に攻撃すること』なので、そもそも急所に攻撃を当てなければスキルの効果が発動しない。いつもは【ピンポイントアタック】で確実に狙った場所に攻撃を当てているが、このスキルは狙った場所に攻撃を当てる事が出来る代わりに威力が下がるデメリットを持っている。
(【暗殺】の即死確率は30%だから外れる可能性の方が高い。外れた場合を想定してある程度の威力は合った方がいい。そして何より、威力が下がると相手のVITによっては攻撃が入らなくて【暗殺】が失敗するしな)
今はその対策として防御力貫通攻撃スキルがあるが、システム上【ピンポイントアタック】と防御力貫通攻撃スキルは攻撃時に同時使用できない。しかし【ピンポイントアタック】を使わずに急所に確実に当てられるようになれば、防御力貫通攻撃スキルを攻撃時に使う事が出来るようになる。なのでモンスターと戦う際は、時折今回のように【ピンポイントアタック】を使わずに急所に当てる練習をしているのだ。
(お、丁度いいところにゴブリン発見! 【
スキルの発動により、ゴブリンの目に赤い点と首に赤いラインが浮かび上がる。そしてその首の赤いラインをハイドの持つ小刀が正確になぞり、急所を攻撃されたゴブリンは一撃でHPが0になった。
(モンスターは問題なく対処できるけど、肝心のメダルがありそうな場所がどこにもないな)
海と違って森には木の隙間にメダルがある、みたいな状況はないだろうとハイドは考えていた。なのでメダルのありそうな、もっと言えばダンジョンがありそうな場所を探し回っているのだ。
(この森そこそこ広いし、メダルのありそうな場所の一つや二つ余裕で見付けられると思ったんだが。って考えてる矢先に何か意味ありげな廃屋発見!)
ハイドは早速見つけたボロボロの廃屋の中に入る。廃屋の中にはほとんど家具はなく、ボロボロのテーブルと椅子、薄汚れた絨毯に古びた箪笥ぐらいしかない。窓すら所々罅割れたり欠けたしており、かろうじてガラスがはまっているだけの状態だ。
(中に入ったら何かのイベントが始まる類の場所かと思ったけど、何もないな。一応家具の中も調べてみよう)
ガサゴソとメダルが隠せれそうな箪笥の中や家具の裏などを重点的に家探しするも、ハイドは結局この廃屋でメダルを見つける事は出来なかった。
(つまりここはメダルとは関係ない休憩用の場所だったのか。確かに休むには最適そうだけど、今の俺には必要ないな)
ハイドはそう結論付けると、さっさと廃屋を後にして再びメダルのありそうな場所の捜索に戻る。
なおこの廃屋は夜の時間帯になると特別なイベントが発生するのだが、昼の時間帯に来たハイドはそれを知る事はない。
(昨日が幸運過ぎたってのはあるだろうけど、流石にもうそろそろメダルを見つけたいところだな)
ハイドがメニューを出して現在時刻を確認すると、既に午後三時過ぎ。太陽も大分傾いており、数時間もすれば夜になってしまうだろう。
(ただでさえ薄暗い森なのに夜になったらどれだけ暗くなるか予想できない。そうなったら周囲の散策はまず不可能と考えていい。夜になる前にどこかメダルがありそうな場所を見つけないと)
そう考え、ハイドはできるだけ急いで移動する。その間出てきたモンスターは、しっかり急所に攻撃して倒す。
しばらく探索を続けていると、今度は洞穴を発見した。入り口には二足歩行の犬、所謂コボルトが見張りのように周囲を警戒している。
(……これ何か嫌な予感がするな。もう少し近くで様子を見てみるか)
ハイドが木の上を跳んで移動するが、ある程度近づくとコボルトが急にハイドがいる方角を見た。その行動に、ハイドは思わず動きを止める。ハイドが動きを止めても、コボルトはハイドがいる方向をじっと見つめている。
(このまま迂闊に突っ込むのはダメな気がする。だけど姿は見られてないし、移動音も【寡黙】の効果で消えてるのに何で……)
コボルトをよく見ると、鼻をぴくぴくと動かしていた。どうやらにおいで探知したらしい。
(姿や音はともかく、においに関しては全く対策できないな。現実だったらにおい対策として草や土で体を汚して自然のにおいと同化させるけど、ここはゲームだしな……)
NWOではその仕様上、どんなに汚い場所に行っても服や装備は汚れず、また水の中に入っても服が水分を吸うことなく常に何の不快感もなくゲームを続ける事ができる。
普段だったら大変ありがたい仕様なのだが、今回の場合はそれが災いして自身のにおいを自然のにおいと同化させることができない。
(奇襲は難しそうだ。でもこの辺りのモンスターのステータスからして、数匹ぐらいなら問題なく対処できる。ただ問題は、何で見張りがいるのかって事なんだが)
今までのダンジョンでは見張りなんてものは存在していなかったのに、このダンジョンにだけコボルトが見張りをしている。その事実が、ハイドの突撃を躊躇させていた。
(さてどうするか……)
「おっ! 何か洞窟があるぞ!」
ハイドが攻撃を戸惑っていると、何処からか話し声が聞こえてきた。声のした方向を見てみると、三人パーティの男達がコボルトが見張りをしている洞穴に向かっている。武器はそれぞれ片手剣に盾、大剣、そして杖だ。
「メダルがあるかもしれないから入ってみようぜ!」
「そうだな。いかにもダンジョンって見た目だし、ボスを倒せたら一枚ぐらいあるだろ」
「入り口にいるのは……コボルト、って奴みたいだね。どれだけ強いのかは分からないけど、多分大丈夫じゃないかな?」
「よし! じゃあ行くぞ!」
三人の男達は、ハイドと違って足を止めずに洞穴に向かって直進する。見張りのコボルトは男達がある程度近づくとまた鼻をぴくぴくさせながら辺りを見渡し、やがて自分のいる場所に向かってくる男達を視界に捉えた。
「アオオオォォォ~~~ン!! ワンワンワン!!」
「うおっ! うるさっ!?」
男達を見つけたコボルトは、遠吠えをすると勢い良く男達に向かっていく。男達は最初の大音量の遠吠えには驚いたようだが、特に焦らずにコボルトをあっさりと倒す。
「あ~うるさかった」
「コボルトは初めて見たモンスターだが、然程強くはないな」
「そうみたいだね。これなら多少数が多くても大丈夫かな」
(見た感じ、コボルトの強さはゴブリント同じぐらいってところかな。だけどさっきのコボルトの遠吠えってまさか……少し離れておくか)
戦闘の一部始終を見てたハイドは、コボルトの遠吠えに嫌な予感を感じて洞穴から少し離れる。
対して男達はコボルトのステータスの低さに油断して暢気に話しながら洞穴に入ろうとした。
しかし男達が洞穴に入る直前、少し地響きがしたかと思うと大量のコボルトが洞穴から飛び出してきた。
「うおぉ~~!! 何だいきなり!?」
「つべこべ言ってねぇで倒せ! 数が尋常じゃねえぞ!」
「【ファイアーボール】! 【ウィンドカッター】! 【ウォーターボール】! ダメだ! 全然数が減らないよ!」
コボルト達を男達も最初はどうにか倒そうとしていたが、既に何十匹と出てきているのに未だに洞穴から次々と出てくるので倒すのが追い付いていない。やがて男達はコボルトの波に呑まれてHPを0にした。
「ワンワン!」
「ワン!」
「アオ~ン!」
男達を倒したコボルトは一匹を除いて洞穴に帰っていき、洞穴付近は何事もなかったかのように元に戻った。
(……やべぇ。あれだけのコボルトは倒せる気がしない。最初の見張りに見つかっちゃダメみたいだな)
ハイドは冷や汗を額に浮かべながら対策を考える。
(さっきやられた奴らのにおいに見張りが反応した時、奴らがいたのは大体俺のにおいに見張りが反応した時に俺がいた場所と洞穴からの距離が同じぐらいだった。つまり見張りは一定の範囲内に入ると、相手のにおいを探知し始める訳だ。距離は大体七、八メートルってところか)
洞穴の周りは五メートル程が木々がない開けた場所になっているため、その近くに真正面から行けば確実に見つかってしまう。既ににおいを探知されている方角がバレているなら尚更である。
(この条件だと、見つかる前に仕留めるのはまず無理だ。なら後は見つかっても遠吠えを上げられる前に倒すしかない。あの見張りはにおいで方向は分かっても見つけるまで鳴かないみたいだし、俺のスキルを使えば見つからずに近寄れる)
因みにこのダンジョンの正攻法として運営が考えていたのは魔法による遠距離攻撃だが、魔法の一切使えないハイドには関係ない話だ。
(【隠形】【超加速】)
ハイドは姿が見えなくなるスキルを使って一気に近付く。コボルトもハイドが範囲内に入るとにおいを探知してハイドがいる場所に目を向けるが、スキルの効果でハイドの姿は目視できない。そしてハイドはそのままコボルトの目の前まで行き、
(【
容赦なく小刀を抜きながらスキルを発動させながら急所に攻撃を叩き込んだ。攻撃をした瞬間に【隠形】は解除されて姿が見えるようになっているため、【隠者】の効果でステータスが下がってしまっているが、小刀を鞘から抜きながら攻撃したので【居合切り】が発動しSTRは大体元のステータスの八割ほど。その状態の攻撃にゴブリン並みのステータスしかないコボルトは耐えられず、敵を仲間に知らせる前に光となって霧散した。
(よし、作戦成功。仲間のコボルトも来る様子がないし、このまま進もう)
ハイドは洞穴の中に侵入すると、隅にしゃがみ込んで耳を澄ませる。【地獄耳】の効果で広範囲の音が聞こえるようになっているハイドの耳は、洞穴の中の音を正確に聞き取った。
(あの数のコボルトが同時に動いてるにしては動き回ってる足音が少なすぎるから、アレはコボルトが遠吠えを上げたら殺到してくるって認識でいいだろう。この先もなるべく見つからずに行くか)
洞穴の中はほぼ一本道だが、いくつかの横穴が開いている。横穴を一つ覗いてみると、多数のコボルトがいるのが見えた。
(この横穴一つ一つにアレだけのコボルトがいるとしたらさっきのコボルトの数も納得だな)
横穴は見えているだけで十個近くあり、ハイドの覗いた穴には数十匹のコボルトがいた。
(とにかく横穴にも注意して行動しよう。見つかって騒がれると全部の穴からコボルトが出てくる恐れがある)
ハイドはなるべく横穴から見えないように隠れながら移動する。この洞穴は以前ハイドが潜ったダンジョンと違い、自然な洞窟のような岩場になっているため隠れる場所には困らなかった。
(あ、コボルトだ。横穴にだけいる訳じゃないんだな)
ハイドの視界の先には、コボルトが一匹道の真ん中付近でうろうろしていた。流石に隠れて行動するだけで突破できるほど甘いダンジョンではなかったらしい。
(まぁ一匹ぐらいなら問題ないけどな。【
スキルで急所を見えるようにすると、【跳躍】で天井まで跳び上がって体を反転させ、再び【跳躍】を今度は地面に向かって使いコボルトの目の前で着地する。
「ワフッ!?」
(【パワーアタック】)
そしてコボルトが驚いている隙に急所を攻撃して倒した。
『スキル【
(おっと何だこの物騒な名前のスキルは?)
スキル取得の通知が頭に響く。ハイドはスキルを確認するため岩の陰に一時隠れると、【潜伏】を使って姿を隠しスキルの詳細を表示した。
【
急所が首以外消失。首の急所の大きさ半減。急所を正確に攻撃した際、20%の確率で即死効果を付与。
取得条件
スキルを使わず首の急所のみを正確に連続で三十回攻撃する。失敗するとカウントリセット。
(うわぁ~マジか。確かに首の方が狙いやすかったから首ばっか狙ってたけど、予想外に超有用なスキルゲットだな。問題は首の急所の大きさの半減だけど……折角急所を狙い通り外さずに攻撃できるようになってきたのに、また練習し直さないとな)
スキルの確認を終えると、ハイドは再び洞穴の中を進む。しばらく進むと、またコボルトがいるのが見えた。そしてコボルトの奥にはうっすらと扉も見える。
(あの扉がボス部屋か。もうちょっとだな。【
浮かび上がってきた急所に、ハイドは思わず顔を引き攣らせた。
(ほっそ! 今までも細かったけど一段と細いな! こりゃ慣れるのに苦労しそうだな。とりあえずアイツ倒すか。【跳躍】【跳躍】)
先程と同じ様に天井からコボルトの目の前に着地して、コボルトを倒す。しかし急所の細さ故か、今回は急所を外してしまった。
(う~ん、試しに【ピンポイントアタック】無しでやってみたけどやっぱ外したか。無事に倒せたからよかったけど、こりゃやっぱ練習必須だな)
もう周りに横穴もないため、トラップだけ警戒してスタスタと扉の前まで歩くと、躊躇なくその扉を開けて中に入った。
中は天井と横幅が約十メートルで、奥行きがその倍近い。最奥には玉座があり、そこには通常のコボルトの四倍近い大きさの巨大なコボルトが、こちらを見て唸り声を上げている。
「グルルルル! グァオオオオォォ~~ン!!!」
入り口にいた見張りのコボルトとは比べ物にならないほどの大声を上げて、コボルトは立ち上がり玉座に立てかけてあった赤色の大槌を手に取る。
(うるさいし、チャチャっと終わらすか)
今の距離では少し遠いため、距離を詰めるために走り出す。コボルトはハイドが近付くのを見ると、大槌を振りかぶってハイド目掛けて叩きつける。
(【跳躍】)
しかしハイドはそれを跳んで躱す。そしてコボルトの方を見て、五メートルほどの位置まで来たのを確認した。
(ここまで来れば届くな。【影の結界】【超加速】【隠形】【暗殺】)
ハイドは黒い結界を展開し、目視されなくなるや否や一気に複数のスキルを発動させてコボルトの背後に回り込む。コボルトの視線は、未だ結界の方を向いている。
(【
コボルトの身長が高くそのままでは小刀が首に届かないため、ハイドはスキルを使用して首の辺りまで跳ぶ。
(【ピンポイントアタック】)
「グルアアアァァァ~~!!」
小刀が届く場所まで跳び上がると、ハイドはスキルを使って首の急所を正確に攻撃する。そして【暗殺】の効果でコボルトはHPは一撃で0となり、光になって消えていった。
(【首狩り】の効果も合わせると即死の確率は50%。半分の確率なら結構いけるな。当てるのが難しいけど。さて、宝箱の中身は何かなっと)
ハイドはコボルトが座っていた玉座に近付く。そこには装飾はないが大きめの宝箱が置かれている。ハイドが蓋を開けると、中にはメダルが二枚と赤い大槌が入っていた。
(メダルはこれで合計五枚か。順調だな。だが何故武器がまた大槌なんだ……! これコボルトが持ってた大槌だよな? 俺には装備できないんだよ! いや短剣出ても今のが最高だから別に装備しないけどな!?)
自分しかいないのに誰に言い訳をしているのか、そもそも何に対して言い訳をしているのか。ハイドは悔しさのあまり混乱しながら、武器の性能を見る。
『ファイヤハンマー』
【STR+15】【火属性攻撃】
【火属性攻撃】
任意で物理攻撃をダメージ半減の火属性攻撃に変更する。
(昨日手に入れた大槌と似たような性能だ。これもインベントリに入れておくか、何かに使えるかもしれないし)
メダルと大槌をインベントリに入れると、ハイドは現れた魔法陣に乗って転移する。光が消えると、そこは先程とは違う森に立っていた。
(木がデカい。今日はもう日が暮れてきてるし、木の上で寝るか)
ハイドは今いる森の捜索は明日に回して、休むことを選択した。もう疲れて眠かったのだ。
(どれにしようかな……これでいいか)
そしてたくさんの木の中から、適当に選んだ木の上に登って目を閉じる。
(はぁ~、神経使った。明日もメダル、見つかるといいなぁ……)
明日の期待を胸に、ハイドの意識は眠りへと落ちていった。
ハイド、やはり喋らず戦闘や探索をし続ける。何気に出したモブ達。会話を書くのは久しぶりだった。次回、イベント三日目。そしてハイドが喋るようになってくる予定です。
オリジナルダンジョン
原作では出ていなかったコボルトが主に出てくる洞窟。
洞窟の入り口には見張りが一匹いて、見張りは敵を見つけると大声で仲間に知らせる。そしてその十秒後に、大量のコボルトが敵に向かって殺到する。
入り口からボス部屋まではほぼ一本道だが横穴が幾つか開いている。中は数十匹のコボルトがひしめき合っている。
また仲間に知らせる遠吠えは、見張りだけでなく全てのコボルトが敵に遭遇したときに使用する。そのためコボルトは見つかる前に倒すしかない。
ボス部屋は原作にも出てきたゴブリンキングの部屋の形状と同じ。武器だけ大槌に変更。ボスも敵を見たら吠えるが、仲間は集まってこない。