派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
朝日が昇り、明るくなり始めたところでハイドは目を覚まして体を起こす。数分間体を起こした体勢でボーっとすると、残った眠気を取り除くように数回頭を振って頬を軽く叩いた。
(よし! 目が覚めた! ところでここはどのあたり何だ?)
昨日は転移してすぐに眠ってしまったため、ハイドはここがどこなのかとか周りに何があるのかなどを一切把握していない。ただコボルトの洞窟に入る前にいた森にはこれほど背の高い木はなかったため、違う場所にいるのだけは辛うじて理解していた。
(上から見てみるか。それでどっち方面に行くか決めよう)
ハイドの乗っている木は枝と枝の間にそこそこ距離が開いているが、ハイドは関係ないとばかりにスキルを使用して登っていく。
そして頂上近くまで上がると、枝に腕を引っ掛けながら身を乗り出して辺りを見渡した。
(北方面は砂漠、南方面は山脈、西方面は大分先の方に広い荒野が、東方面も遠くの方に雪山が見える。さて、何処に行こうかな……)
この森は横に大きく広がっており、北の砂漠と南の山脈は比較的近いが、東の雪山や西の荒野はかなり遠い地点にあった。
(わざわざ遠くまで行くのも面倒だし、北か南にしよう。遮蔽物の少ない砂漠は正直俺に不利だから遠慮したい。残った南の方に行くか)
デメリットの多い場所を消していき、最終的に残った山岳地帯に向かう事になった。
行き先が決まったのでハイドは木から降りていくが、飛び降りて着地に失敗した場合VITが0のハイドは落下ダメージで死んでしまうので、自然と降りる時は慎重になってしまう。
(上から見た感じ、この森にはメダルがありそうな洞窟とか小屋とかはなさそうだった。適当に見て回ってからさっさと山脈の方行くか……ん? 何だこれ?)
木から降りていたハイドは、木に入っている不自然に五センチ程の正方形の切れ目に気が付いた。
軽く手で押してみると、表面の部分が簡単に外れる。中は五センチの立方体状にくり抜かれており、真ん中に銀のメダルが一枚置いてあった。
(予定外にメダル一枚ゲット。他の木は……探さなくていいか。この森中の木を見て回るのは流石にめんどくさい。第一、何枚もあるとはこんな感じで思えないし)
ハイドの予想は正しく、この場所と同じく木の中にあるメダルはこの森の中でたったの三枚だけだった。かなり広範囲に広がっているこの森からたった三本しかない当たりの木を調べまわっていたら、それだけで今回のイベントが終わってしまう。
ハイドは今いる森の探索は適当に済ませて、山脈地帯に足を踏み入れた。森を抜けるまでに三度他のプレイヤー達を見かけたが、戦わずに隠れてやり過ごす。三日目にして既に六枚ものメダルを持っているハイドは、無理にプレイヤーを襲う必要がなかったのだ。
◇◇◇
(山に入ったはいいものの、すぐには見つからないか。山だし洞窟の一つや二つ見つかるもんだと思ってた)
山を登り始めて約三時間。ハイドは未だメダルのありそうな場所を見つけられずにいた。一応洞窟などがありそうな崖下などをいくつか発見し重点的に探したものの、洞窟も何もなかった。
(あ、また崖発見。今回のはデカいな)
今まで見つけた崖は横幅が五メートル程だったのだが、今回見つけたのは高さが十メートルで横幅は何と三十メートル近くもある。近くで見るともはや壁のようであり、逆に言うと平坦な岩壁が続いており洞窟等はありそうになかった。
(……洞窟みたいにダンジョンっぽい場所はないんだろうけど……うん、ここ何かありそうだな。隠し部屋の類かな?)
それはハイドの直感だった。ハイドの勘は、特に
隠しアイテムや隠し部屋は、ハイドにとってノーヒントであっても関係ないのだ。そして、ハイドは自身の勘に従って崖を探り始める。
(う~ん、ここか? いや、もう少し左……この辺りかな?)
ハイドが壁に手を当てて力を籠めると、ボコッという音を立てて壁がへこむ。それと同時に何らかの装置が作動したのか、壁の一部がゴゴゴゴッとスライドして道が現れた。
(隠し通路……か。この先にあるのはダンジョンか、はたまたさっきみたいにメダルや装備品だけがあるのか……とにかく行ってみるか)
ハイドが隠し通路の中に入っていくと、先程開けた壁が再び音を立てて戻っていく。それをチラリと後目に確認だけして、足を止めずにそのまま進んでいく。
(結構明るいな。外の光は入ってこないけど、まるで洞窟全体が薄く光ってるみたいだ。これなら多分【暗視】がなくても十分歩けるな)
そうして洞窟を見ながら歩いていくと、やがて一つの扉に辿り着いた。ボス部屋のような大きな扉とは違い、普通の宿屋にもあるような木の扉だ。ハイドは少し警戒しながら扉を開ける。中は部屋になっていて、女性が一人こちらに背を向けて立っていた。
(……あれ? 普通の人? モンスターじゃなくて?)
「……あら? お客さんなんて珍しい。どうやって入ってこれたのかしら? 入り口はうまく隠したつもりだったのだけど」
女性は扉の音に振り返り、ハイドの姿を視界に入れると目を丸くして聞いてきた。対するハイドも、部屋の中に明らかに人間と思わしき女性がいて少し混乱している。
(これはどう対応するべきなんだろうか……あの人はとりあえずNPCみたいだし、誤魔化さずに正直に答えよう)
「……偶然、です」
ハイドはここに入ってきた経緯を端的に述べる。
ハイドは
確かに一言で全てを纏めると、
「……嘘、ではないみたいね。ここに来たのも何かの縁だし、お茶でも飲むかしら? ついでに私の話相手になってくれると嬉しいのだけど」
「……えぇっと。い、いただきます」
ハイドは女性に笑顔で示された部屋にある机に遠慮がちに座る。
女性もハイドの前にカップに入ったお茶を出しながら対面に座った。
「私はここで珍しい従魔の育成をしているの。珍しい従魔は貴重だからね、この隠れ家で細々とやっているのよ」
「……従魔、ですか?」
女性が部屋の中を見ながら言う。ハイドもつられて部屋の中を見渡すと、部屋にはいくつもの棚が置いてありその全ての段に色とりどりの卵がいくつも置かれている。
(従魔……モンスターの事か。って事はあの卵全部モンスターなのか、何種類あるんだろう)
部屋にある卵に同じ卵は一つとしてなく、全て色や模様が異なっていた。ざっと見ても三十個以上はあるだろう。
「色んな従魔がいるわ。可愛い仔、綺麗な仔、格好いい仔」
ハイドが感心している中、女性の話は進んでいく。
「攻撃が強い仔、魔法が強い仔、アイテムを使うのが上手い仔」
女性はここのモンスター達が余程好きなのだろうか、とても楽しそうにモンスターについて話している。
「目立ちたがり屋な仔、臆病な仔、戦うのが好きな仔。色んな仔がいる。従魔の仔は皆違うのよ」
(色んな種類がいるんだな。でもモンスターの卵があるなんて情報も、モンスターをテイム出来るなんて情報も聞いた事ない。もしかしてこの話って、先の階層で実装予定の新要素の説明だったりするのか? モンスターが仲間ってのは心強くていいな)
「久しぶりに人と話すからついテンションが上がっちゃった。ゴメンね、私が話してばっかりで。つまらなかったよね?」
ハイドが話を聞きながら先の新要素に期待を寄せていると、女性が申し訳なさそうに言ってきた。どうやら話は終わりらしい。ハイドは不安そうに言う女性に対して首を横に振ると、机の上で頭を下げてお礼をする。
「……いえ。とても、興味深い話でした。ありがとう、ございます」
ハイドはそれで終わりだと思ったのだが、続く女性の言葉に思わず固まった。
「いえいえ。話を聞いてもらったお礼と言っては何だけど、
(……………は!? え、この話って新要素の先行説明じゃないのか!?)
「普通従魔は孵化させた人にある程度能力が似る物なんだけど、この仔達はちょっと特殊なの。誰が孵化させても能力は全く変わらないのよ。ただ出来る事は変わるのだけどね?」
固まるハイドに一切構わず、女性は“特別な卵”の話しながら棚から三つの卵をテーブルの上に並べていく。
「さて、この中から選んでちょうだい。どの仔がいい?」
そう言って女性が並べたのは、赤地に白い縞模様が入った卵、真っ黒な卵、黄地に水色の水玉模様が入った卵の三つだ。
(……まぁ、貰えるって言うんなら貰っとこうかな。特にデメリットがあるようには見えないし。赤いのと黄色いのは何か派手だから……)
「黒い卵で」
「あら、この仔にするのね?」
女性の最終確認に、ハイドはコクリと頷く。すると、女性は笑顔で黒い卵をハイドに差し出した。
「この仔はアナタを助けてくれる仔よ。大切に育ててあげてね。きっとアナタの役に立つはずだから」
ハイドは再びコクリと頷きながら、受け取った卵をインベントリの中に入れる。
「また機会があったら会いましょうね」
女性は笑顔で手を振った。ハイドもペコリとお辞儀をして、部屋を出ていく。そして来た道を戻っていき、隠し扉の前に着くと自動的に隠し扉が移動した。
(おぉ……中から外に行く場合は自動的に開いてくれるのか)
そのまま外に出ると隠し扉は元の位置に戻り、何の変哲もない壁になった。
ハイドは早速貰った卵を取り出すと、卵の情報を確認する。
【モンスターの卵】
温めると孵化する。
(じょ、情報がほぼがない……! さっき女の人が孵化がどうの言ってたから、孵化させるために温めるのは察しがついてたけど……せめて孵化するモンスターの情報ぐらい欲しかった……!)
ハイドはしばらく唸ると、諦めたように溜息を吐いて卵を抱き抱えるようにして座る。
(この辺りはモンスター出なさそうだし、ちょっと休憩にするか……このイベントは昼間の時間帯はずっと探索してたから、こうしてのんびりする時間はなかったし。今日の昼も歩きっぱなしだったからな)
ハイドは卵を温めるついでにのんびりする事にした。もちろん周囲の警戒は怠らない。幸いこの場所は見晴らしがいいため、崖を背にしていれば奇襲される事はないだろう。
(温めるのはこんな感じでいいか。そういえばこの卵、このままにすると消えるとかないよな……?)
装備品やアイテムは、二時間インベントリにしまわずにいると消失してしまう。なのでハイドは念のため、一時間おきに一度インベントリに卵をしまう事にした。
◇◇◇
~~運営ルーム~~
「……ん? お、おい! 今、『幻獣の卵の隠し部屋』に入った奴がいるぞ!」
「「「はあっ!?」」」
一人の男の叫び声に、イベントの管理をしていた運営達はそれぞれ反応を示した。
「おいおい! あそこは普通に入れる場所じゃないだろ!?」
「どこにもヒントのない隠し部屋のスイッチを押す必要があるぞ!?」
「一体どこの誰が……まさか、またメイプルか!?」
つい昨日、メイプルとそのフレンドであるサリーによって運営の悪意の塊である【銀翼】が倒されている。その経験から、今の運営は『何か異常があったらまずメイプルを疑え』の状態になっていた。
「いや、メイプルは今渓谷の方で卵から孵ったモンスターと戯れてるぞ。あの隠し部屋は山の方にあったし、メイプルじゃない!」
「じゃあ誰が!?」
「今映像を出す」
男が機械を弄って、モニターの一つに映像を出す。そこには、壁のような崖の前に立つ真っ黒な忍び装束を着た男が映し出されていた。
「……マジで誰だ!?」
「えっとプレイヤーネームは……ハイド、こいつはハイドって名前らしい」
「誰か知ってるか?」
「いや? って言うかこいつ第一回イベント出てないぞ。だから俺達が知らなくても無理はねぇよ」
「メンテの時のスキル
「でもこいつの装備、ユニークシリーズだぞ?」
『知らなくてもしょうがない』という雰囲気の中で発された一人の言葉に、全員が映像の男の装備の情報を確認する。
「あっ、ホントだ! 何で気付かなかったんだ!?」
「あのシリーズは取得したらこっちに通知が来るはずだよな!?」
「ハイドがユニークシリーズを取得したのは、丁度メンテの準備でグロッキーだった時期だな。これじゃあ誰も通知なんて気にしないだろ」
「「「あぁ、あの時期かぁ……」」」
男の一人がハイドのユニークシリーズの取得時期を確認すると、全員が納得の声を上げる。
イベントによって増えた修正の数で、運営全員が天手古舞になっていた時期である。その時期にユニークシリーズ取得の通知が来ていたとしても、チラリと見て異常でないためスルーしているだろう。実際そういう経緯で全員がスルーしていた。
「……それはともかく映像を確認しとこうぜ」
「「「そだな」」」
気を取り直して、映像を再生させる。ハイドは崖の前でキョロキョロしたり、壁を触ったりして手探りで何かを探す。
そして発見した隠し通路のスイッチを押し、解放された隠し通路に入っていった。
「……この隠し部屋、ヒントないはずだよな?」
「……あぁ、ないはずだぞ」
「じゃあ何でこんな重点的に探してんだ!? しかももろ隠し通路の場所を探してんぞ!?」
「俺が知るか!」
ギャーギャーと男達が騒いでいる間に、ハイドは隠し通路から出て来て映像は終わった。
「……これはあれか。俺達が理解できない、上位プレイヤー特有の勘とかいうやつか」
「あぁ~そういうプレイヤーいるな。メイプルを筆頭に前回上位プレイヤー何人かに」
「そういうのには対処の仕様がないからな、諦めるか……」
「そうだな……」
男達全員が、諦めたように溜息を吐く。常人である男達には、トッププレイヤーの勘が理解できないのだ。
「そういや、あそこの幻獣の卵って何があったっけ?」
「コウモリとフクロウとコンドルのどれかを選ぶ仕様だったはずだ。全部得意な事が違うけど、どれも共通して戦闘は出来なかったはずだ」
「また特殊なのぶっこんだな」
今回のイベントで試験的に導入されたテイムモンスターだが、このクエストで手に入るモンスター以外は全てプレイヤーと共に戦う事が出来る強力なモンスターばかりだ。
ただ先行して強力なテイムモンスターを手に入れるには、当然ながら相当な試練が待ち構えている。
「【銀翼】や【海皇】や【地竜】みたいなボスと戦わずに幻獣が手に入るんだから、多少デメリットがあった方が面白いと思ってな」
「まぁ一緒に戦えた方が心強いのは確かだよな」
「ハイドって奴は何を選んだ?」
「フクロウだ。サポート特化の奴だな」
「サポート? 例えばどんな事が出来るんだ?」
「それはプレイヤー次第だ。ただでさえピーキーなのに、やれることを完全に決めると主になるプレイヤーによっては合わなくなる可能性があるからな」
「ハイドはどんなプレイヤー何だろうな……」
男の一人が機械を操作して、今度はハイドのステータスをモニターに出した。ハイドの取得しているスキルだけでなく、装備に付いているスキルやその詳細まで見える。
「……何だこいつ。暗殺者かよ……」
「【暗殺】に【
「だが急所を見えても当てられねぇだろ。俺達も無理だったし」
「それもそうだな。【ピンポイントアタック】はあるけど、アレ使っても中々当たらないし、問題ないか」
「だな」
男達の何人かはこの『NWO』が開始される前に、スキルの確認等で実際にゲームを試している。【ピンポイントアタック】もその一つだ。
【ピンポイントアタック】を使えば狙った軌道で剣を振るえるが、急所を正確に狙わないと
尤もハイドはその当てづらい急所にポンポン当てているが、運営はそれを把握できていなかった。
「このステータスでサポートとなると、姿を隠すスキルとかか?」
「流石にそれだけじゃないだろうけどな」
メイプルの時と違って賑やかに、そして穏やかにハイドの相棒のスキルが考察されていった。
ハイド、NPCと少し会話をする。ハイドのゲーム内初会話はNPCでした! 次回、イベント三日目後半、ハイドの相棒が孵ります。
今回入れたオリジナル設定です。
ユニークシリーズについて
ユニークシリーズが誰かに取得されると、運営に通知が入ります。
原作では通知が入るかは不明です。自分の憶測ですけど、『NWO』の運営は誰かが【悪ふざけシリーズ】(勝手に命名)のクエストなどを発生させた場合、運営に通知が入るようにしてるんじゃないかと思ってます。悪ふざけでも作ったのに発生しても分からないとか、この運営そんなつまらない感じにはしなさそうですし。
オリジナルクエスト
クエスト【幻獣の卵の隠し部屋】
クエスト発生条件:崖に完全に隠蔽されている隠し扉のスイッチを押して中に入る
クエスト発生場所:イベント専用マップの崖
クエスト内容:中にいる女性の話を聞き、三つある卵の内一つの卵を貰う。
クエスト報酬:【モンスターの卵】
発生:「……あら? お客さんなんて珍しい。どうやって入ってこれたのかしら? 入り口はうまく隠したつもりだったのだけど」「……嘘、ではないみたいね。ここに来たのも何かの縁だし、お茶でも飲むかしら? ついでに私の話相手になってくれると嬉しいのだけど」
会話:「私はここで珍しい従魔の育成をしているの。珍しい従魔は貴重だからね、この隠れ家で細々とやっているのよ」「色んな従魔がいるわ。可愛い仔、綺麗な仔、格好いい仔」「攻撃が強い仔、魔法が強い仔、アイテムを使うのが上手い仔」「目立ちたがり屋な仔、臆病な仔、戦うのが好きな仔。色んな仔がいる。従魔の仔は皆違うのよ」「久しぶりに人と話すからついテンションが上がっちゃった。ゴメンね、私が話してばっかりで。つまらなかったよね?」「話を聞いてもらったお礼と言っては何だけど、
赤地に白い縞模様が入った卵 真っ黒な卵 黄地に水色の水玉模様が入った卵
選択:「あら、この仔にするのね?」
決定:「この仔はアナタを助けてくれ仔よ。大切に育ててあげてね。きっとアナタの役に立つはずだから」「また機会があったら会いましょうね」
因みに赤い卵は索敵特化コウモリで、黄色い卵はアイテム集め特化コンドルでした。
この三匹は方向性はある程度決まっているが、取得スキルは卵を孵したプレイヤーのスキルやステータスによって変わる。