派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
翌朝。洞穴の中で起きたハイドはいつものように眠気を覚ました後、昨夜PKして獲得したメダルの枚数を確認していた。
(金のメダルが一枚と、銀のメダルが二枚か。金のメダルはともかく、銀のメダルは合ったらラッキー程度の気持ちだったけど。これで目標達成だな)
現在ハイドが所持しているメダルの合計枚数は、金のメダルが一枚に銀のメダルが十一枚。
よってハイドはイベント終了時にこのメダルを死守した場合、二つのスキル又は装備品が手に入る計算になる。
(さてと。イベントは今日入れて後三日も残ってるのに、これからどうするかな……)
因みに銀のメダルが一枚だけ余分にあるが、ハイドにはさらに九枚メダルを集めるという考えはない。昨日の五時間何もなし探索が効いているのだ。
(PKされるのを警戒して、残り三日間を隠れながら過ごすって手もあるにはあるけど……三日間も無駄に過ごすのは流石に無しかな。つまらないし)
ハイドは積極的にメダルを探さないにしても、残り三日間を無駄に過ごす気はさらさらなかった。
特にオウルはまだレベルが低いので、この機会に集中してレベルを上げる気である。
(ただオウルは昼は長く活動できないから、その辺は注意しないといけないな)
オウルが長く活動できない理由は、昨日オウルが新しく覚えたスキルに原因があった。
【夜行性】
周囲が夜の間、自身と共闘相手の全ステータス30%上昇。
昼の間、連続で三時間しか活動できない。三十分【休眠】すると、再び【覚醒】できる。
(今は昼だから、オウルは指輪から出すと三時間しか活動できない。めんどくさいけど、モンスターを見つける度に【覚醒】させていつもは【休眠】させるしかないな。限界まで活動させて、モンスターがいるタイミングで【覚醒】出来ないとかもったいないし。さて、そろそろ行きますか!)
ハイドは指輪を見ながらそう結論を出すと、洞穴から出て探索を開始した。
◇◇◇
そうしてすっかり日も落ちた頃、ハイドはイベントマップにいくつかあるとある森で一息ついていた。
(ふぅ。中々休む場所見つかんないなぁ~。今日は夜に行動する気はなかったんだけど……)
一日中モンスターを探して狩り続けたハイドは、オウルと共に順調にレベルが上がっている。
夜になるとオウルの【夜行性】による活動制限が解除され、ステータスも上がる。つまりモンスターを倒す効率も上がるのだが、ハイドはこの日は夜間に行動する気はなかった。
(ここ二日ほど夜中行動して昼まで寝るってのが続いてたし、そろそろ生活習慣戻しとかないと、イベント終わった後が辛そうだしなぁ~……)
このイベントは日曜日に行われているため、イベントが終わった翌日は月曜日であり学校がある。
なのでハイドは昼まで寝る習慣をつけてしまい、翌日学校で居眠りしてしまうことを懸念していた。
ハイドは結構真面目なのだ。
(しっかし、休憩場所が見つからない。一応日が落ち始めてから探してたんだけど、こうも見つからないもんかよ……まぁ昼間の内だったらいくつか見つけてたけど)
あくまで休憩場所を探し始めてからは見つかっていないというだけで、日中だったら二,三か所ほど休憩できそうな場所は見つけていた。ただ見つけたのが日中だったため、スルーしてしまっただけだ。
(こんな事だったら、昼間見付けた休憩場所の近くでレベル上げするんだった。最後に見つけた休憩場所からそこそこ離れてるし、多分新しい休憩場所探した方が早いか……ん?)
ハイドが今まで座り込んでいた枝から立ち上がって移動しようとすると、視界の端にちらっと何かが映り込んだ。
(アレはプレイヤー、だな。モンスターから必死に逃げてるみたいだけど)
それは両手に何かを大事そうに抱えた、小学生ぐらいの少年だった。
後ろから少年よりも大きい、白いサルのようなモンスターに追われている。
モンスターの数は五,六匹で、【AGI】もサルの方が高い……というより、少年の方が明らかに遅かった。
(サルは見た感じ、【AGI】が高いモンスターって訳じゃない。って事はあのプレイヤーは多分後衛、【AGI】にあんまり振ってないんだろうな)
「誰か、誰か助けてっ!」
少年が必死に叫んでいるが、本来このイベントでは人助けをする意味はあまりない。
昨日ハイドがしたように、PKをすれば倒されたプレイヤーが所持しているメダルを奪う事ができてしまうからだ。
そんな事をするのは、余程のお人好しぐらいである。
(でもこれは、流石に見過ごせない、かな。初心者プレイヤー見殺しにするとか目覚め悪いし)
尚、ハイドはその余程のお人好しに該当する。襲われていたプレイヤーの装備が見る限り初期装備だったのも、大いに関係あるだろうが。
◇◇◇
少年は必死に助けを求めながら走っていた。内心では誰も助けてなんかくれないだろうとは思っていたが、助けを求めずにはいられなかったのだ。
「はぁ、はぁっ!」
それは偶然だった。
少年が眠る場所を探すためにこの森に入ったのは日が落ちる前だったのだが、中々見つからず完全に日が暮れてしまった。
ようやく遠目に見つけた小屋に急ごうと走ったら、サルのモンスターに見つかってしまい、追いかけられて今に至る。
「はぁ、はぁっ! あっ、ぐぁ!」
少年は足を縺れさせ転んでしまい、両手に大事に抱えていた指揮棒のような杖を落としてしまう。
少年が転んでしまったことでサル達は追い付き、少年を囲むように地面に降り立つ。
そしてその内一体のサルが少年が落とした杖を拾うと、少年の目の前にウィンドが開いた。
『モンスター名【スティールモンキー】により装備品が強奪されました』
「……えっ!? そんな!? 装備品はドロップしないはずじゃ!」
現れたウィンドに書かれた文字に、思わず少年が声を上げる。
確かに今回のイベントでは、装備品は
ただし、
そしてその特定のモンスターが、今少年の目の前にいる【スティールモンキー】である。
このモンスターは、落ちているアイテムや装備を巣に持ち帰る習性がある……という設定のモンスターで、アイテムや装備を見つけたら積極的に拾う。
そしてその際、例えプレイヤーが装備しているものであっても、装備が装備欄から外れてしまうのだ。
「返して! 僕の杖返してよ!」
「「「「「ウキャキャキャッ!」」」」」
少年の必死の叫びに、サル達は嘲笑うのように鳴き声をあげる。そして未だ転がったままの少年に向かって一歩ずつ近づいて行った。
そしてついに少年がサルの攻撃範囲に入り、サルが攻撃しようと腕を振り上げた瞬間、その猿の首にナイフが突き刺さった。
「ウキャッ!? キュク!」
「………え?」
攻撃されたサルがナイフが飛んできた方向を見る前に、複数の斬撃が飛んできてサルは光となって消え奪われた杖がドロップとしてその場に転がる。
周囲にいた他のサルにもナイフや斬撃が降り注ぎ、あっという間にその場には倒れている少年一人となった。
「……えっ、えぇ? い、今、一体何が……?」
「……大丈夫、か?」
「わひゃっ!?」
そして少年が慌てて辺りを見渡すと、ハイドが少年から少し離れた地面に降り立った。
「……」
「ひっ!」
何も言わない少年を心配したハイドが一歩少年に近付くと、少年は短く悲鳴を上げて腰が抜けたように後退る。
(……いや、前から気づかれずに怖がられること結構あったし。別に気にしてないし。いつもの事だし)
助けたのに明らかに怖がる少年の態度に、ハイドは少し拗ね気味に心の中で愚痴る。
(これ以上この場にいても怖がらせるだけだろうし、さっさと離れた方がいいか……ん? 何だこれ?)
何を言っても怖がらせるだけと判断したハイドはすぐさまこの場を離れようとしたが、その際何かを踏んでしまった。
踏んだ物を拾い上げると、それは演奏などで指揮者が手にする指揮棒だった。
(指揮棒……? 何でこんな物がこんなとこに落ちてんだ?)
「あっ、それ僕の……!」
ハイドの耳に小さく声が聞こえたので振り返ると、少年が少し顔を青くして口を手で押さえていた。あからさまに口を滑らせてしまった感じだ。
(……うん。これはあの子の物で間違いなさそうだ。何で言っちゃいけないこと言っちゃったみたいな反応してんのかは分かんないけど、取り敢えずこれは返そう)
「ひぅっ! うぅ……」
ハイドが指揮棒を持ったまま近付くと、少年は怯えて目を瞑り腕で頭を庇うように丸まってしまった。
(……想像以上に怖がられてんな、俺。何でだよ。俺そんな悪いことしたか?)
別に悪い事は一切していないが、暗い森にいきなり黒い服着た男が現れたら普通に怖い。
直前まで死ぬかもしれない目に合っていたらなおの事である。ハイドはそこら辺の配慮がちょっと足りていなかった。
「……これ、君のか?」
「…………え?」
「……この、指揮棒」
一応ハイドが確認を取ると、質問の意味が分からなかったのか、少年は差し出された指揮棒をキョトンとした顔で見つめる。
「……君のじゃないのか?」
「……あっ。い、いえ違います! それは僕のです!」
再度ハイドが確認を取ると、ようやく言葉の意味を理解した少年は慌てて首を縦に振る。
「……そう、か。なら、はい」
「え、えっと……ありがとう、ございます」
ハイドから差し出された指揮棒を、少年は恐る恐る受け取った。
しっかりと少年が指揮棒を受け取ったのを確認すると、ハイドは少年に背を向けた。
「……じゃ」
「あ、待ってください!」
慌てて少年が立ち去ろうとしたハイドを引き留める。
てっきり怖がられているとばかり思っていたハイドは、その声に思わず足を止めて振り向いた。
「……?」
「あ、あの……僕、カラアゲって言います助けてくれて、ありがとうございました!」
そう言うと少年、もといカラアゲは勢い良く頭を下げた。
その元気のいいお礼に、ハイドは少々照れたように頬を掻く。
「……別に。偶然、見かけただけ」
ついでにカラアゲがきちんとした装備をしていたら助けなかったかもしれない、とは流石のハイドでも口にしなかった。
「その、えっと……これ、お礼です! 貰ってください!」
そう言ってカラアゲが差し出したのは、三枚の銀のメダルだった。これにはハイドも思わず面を食らう。
「……メダル? どうやって? (メダルはダンジョンに設置されている場合が多いはずだ。まさか、それをクリアしたのか?)」
少なくとも今回のイベントでハイドが攻略したダンジョンは、あのサルに倒されかけたカラアゲがクリアできる難易度ではなかった。
「えぇっと、魔法の試し打ちで壊しちゃった岩の中にあったり、転んだ拍子に見つけた木の洞の中にあったり……ですかね」
えへへ、と照れ笑いするカラアゲだったが、対するハイドは口当てで見えない頬を少し引き攣らせた。
(なにその幸運。ってか岩の中とか運営絶対見付けさせるきねぇだろ。確かに俺も高い木の隠された洞の中でメダル見つけたけども)
因みにカラアゲがそういったダンジョン外の隠れたメダルを見つける度に、運営の皆さんが『何でそれ見つける!?』『ありえねぇ!?』と悲鳴の声を上げていたという事実があったりする。
「……自分で持っていた方が、いいと思うけど」
「いえ! 助けてもらいましたし! それにあのままだったら、折角このイベントで手に入れた杖が奪われてしまうところだったので!」
(あ、やっぱそれ杖だったのね。って言うかあのモンスター武器を奪う性質あったのか。弱いくせに中々恐ろしいモンスターだな)
現実逃避気味に考えたハイドだったが、カラアゲは依然としてメダルを差し出したままだ。
先程まで怖がられていたはずなのに、今では目をキラキラさせている。
「……分かった。ありがたく、貰おう(これ多分俺が貰うまで引かねぇわ。結構頑固な奴だなコイツ)」
「はい! どうぞ!」
ずいッとハイドにメダルが突き出される。そのメダルを、ハイドは全てインベントリに収納した。
「……俺の名前は、ハイドだ」
そう言うと、ハイドはメニュー画面を出してカラアゲにフレンド登録を申請する。
カラアゲにも表示が出たようで、驚いてハイドと画面を交互に見つめる。
「えっ! い、いいんですか!?」
カラアゲにとって、ハイドは見るからに高レベルプレイヤーだ。そんなプレイヤーからフレンド申請されて、かなり困惑している。
「……いい。メダルの、お礼」
「そんな! お礼だなんて……その、ありがとうございます!」
フレンド登録を完了させると、カラアゲは深々と頭を下げる。
「……何か、困ったことがあったら、呼べ。出来る限り、助けになる」
「はい! ありがとうございます!」
カラアゲの感謝の言葉を背に受け、ハイドは今度こそ振り向かずに立ち去る。
その遠ざかる背中に向かって、カラアゲは再度頭を下げるのだった。
「優しい人だったなぁ」
(あっ、そういえばフレンド一人目だ。もっと他人と交流した方がいいのか……いや、でも……)
ハイドは少しの間苦悩した。
ハイド、ゲームを始めて約二ヵ月、ようやく初フレンドが出来る。ここまで主人公にフレンドが出来ない作品も珍しいのではなかろうか……と言うか初ではなかろうか。
後最近ちゃんと第三者目線で書けてるか不安になってきます。ちゃんと書いてるつもりなんですけど……誤字、脱字、アドバイス等あれば遠慮なく言ってくださると嬉しいです。
次回、エンカウントします。
今回出したオリジナルモンスターです。
オリジナルモンスター 『スティールモンキー』
第二回イベントの専用マップの森に出現する白い体毛のサルのようなモンスター。腕の長さは一メートル程であり、身長は一.七メートル。
ステータスは対して高くなく、上位プレイヤーなら例え囲まれたとしても立ち回り次第で問題なく対処したり逃げる事が可能。常に集団で行動する。
このモンスターの最大の特徴は、拾ったアイテムや装備を巣に持ち帰る性質である。ただし巣に置いてあるアイテムや装備は放置されているのと同じ扱いになるため、そのままの状態で二時間経過すると消失する。
また取り落とした装備を拾われてしまった場合、装備が装備欄から外されて奪われる事にある。つまり、装備を奪われたらすぐに追いかけて取り返さなければならない。例え倒したとしても、その装備は装備欄から外されたままなので他の誰かに拾われてインベントリにしまわれたら取り返す術はない。