派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
イベント六日目の日暮れ。ハイドはとある山の中腹で、洞窟を背に沈む太陽を見ながら考えていた。
(さて、どうするかな……)
ハイドが悩んでいるのはこのまま休むか、はたまたもう少しレベル上げを続けるかの二択である。
起きてから今までレベル上げに専念していたため、そこそこEXPは稼げているため満足はしている。しかしハイド自身のレベルは上がっていないので、もう少し続けたい気持ちもあった。
(ただ、六日目も終わりかけてるこの状況だしなぁ……)
例えばこの状況がイベント四日目辺りだったら、ハイドも迷わずレベル上げを続行しただろう。
しかしイベントの残り時間が迫ってきているので、ダンジョンを探すよりもPKをしてメダルを奪う方向に切り替える者が多かった。
実際この日ハイドが目撃したプレイヤー同士の戦闘は、昨日までの探索で目撃した数よりも圧倒的に多い。それだけの数のプレイヤーが方針を変えているのだ。
(他のプレイヤーを探してるプレイヤーが予想以上に多くて何度か見つかりかけたし、レベル上げもし辛くなってきてる。こりゃこれ以上の行動は危ないか。特に夜は周りが見えにくいしね)
ハイドは【暗視】の効果により夜目が効くが、それは決して昼と同じように明るく見えるという訳ではない。
他のプレイヤーよりも見えるというだけで、夜は周りが見えずらい空間という前提は変わっていないのだ。
(多少中を見た感じ、入り口から少し進んだところに広間がある。そこで今日は休むとするか)
結局レベル上げを諦め、ハイドは洞窟の中に入っていく。そして元は中ボス部屋であろう一辺二十メートルほどの正方形の部屋に入っていき、壁付近にある岩陰に隠れて寝転んだ。
(この洞窟に誰も入ってこなかったらそのままイベント終わりまで隠れてたいけど、流石にそれは無理だよなぁ~……。とりあえず、起きたらまた移動するか)
そんな事を考えながら、ハイドの意識は遠のいていった。
さて、お気付きの方も多いとは思うが、ハイドは寝付きが良くて寝起きが非常に悪い。起きてから数分間は、頭もうまく働かない。
さらに眠りもかなり深いので
コツコツコツコツ
足音を響かせて誰かが通り過ぎても、
「メイプルを守ってあげるか。【毒無効】がいたら終わりだしね」
こんな風に近くに人が来ても、その人が普通に話していても、基本的に起きる事はないのだ。
◇◇◇
「さようなら」
「ぐぉっ!」
サリーのタガーが、洞窟に入ってきた最後のプレイヤーのHPを0にする。
そして隠れた残党がいないか注意深く辺りを見渡し、サリーはようやくダガーをしまって部屋の壁際に座った。
「ふぅ、疲れた。やっぱり元々ダンジョンだったから、それなりに人は入ってくるか」
メイプルにメダルを渡してこの部屋で防衛を開始してから、既に三組のプレイヤー達と戦っている。
特に今回の相手は十人と数が多かったので、少し疲れてしまっていた。
ただ疲れると同時に、十人を相手に戦ったこの広間にはかなり大きな音が響いてしまっていた。
「うぅ……」
耳元に響いてきた呻き声に、サリーは思わずビクッと体を震わせて身を固める。
「いやいやいやいや。メイプルにメダル渡した後にここに来た時に辺り見渡して誰もいなかったし。それに今までここで戦ってた間何も出なかったし」
そして小声でブツブツと早口で呟き始める。このサリーという少女は、お化けなどのホラー系が大の苦手なのだ。その類の存在を全力で怖がり避ける。
「何なら今の気のせいだって可能性もあるし!」
小声で呟いている内に段々と声が大きくなっていき、もはや叫ぶように現実逃避の言葉を口にする。それにより、サリーの恐怖心は若干薄れてきた。
「うるさい……」
「ひっ!」
しかし、今度こそはっきり聞こえた声により、サリーが小さく悲鳴を上げる。しかも薄っすらなのにはっきり聞こえてくるという事は、声の主はかなり近い距離にいる事になる。
「(イヤだイヤだイヤだ。振り向きたくない振り向きたくない振り向きたくない!!)」
目尻に涙を浮かべて内心では相当怖がりながら、恐る恐る後ろを振り返る。
怖いのも振り向きたくないのも本心だったが、後ろに何かわからない存在がいる方がよっぽど怖かったのだ。
「何なんだよ……」
そして振り向いた先には、真っ黒な服に黒い頭巾と口当てで目以外を隠した謎の人物が……そこまで確認した段階で、サリーの恐怖心はもう限界だった。
「イヤアアアアアアァァァァァァァァァ!!!」
特大の悲鳴と同時に部屋の中央付近まで勢いよく後退る。
悲鳴を上げられた人物、ハイドは耳の辺り抑えながら、後退ったサリーを数秒間眺めて小首を傾げた。
「……
ハイドの言葉に、サリーの体の震えがピタリと止まる。そしてハイドもようやく目が覚めてきて、自身の発言を思い返した。
(……あれ? ここはゲームの中のはず……あ、しまった。思わず本名言っちゃった)
「……ねぇ、アンタ誰? 何で私の本名知ってるの?」
(バッチリ聞こえちゃってますね。失敗した……)
ハイドとしては聞こえていない可能性を信じたかったものの、然程離れていない上に周囲は物音一つしていない。そんな状況では例え怖がっていたとしても、重要な単語を聞き逃す程サリーの耳は節穴ではなかった。
「質問に答えなさい。どうして、私の名前を知ってるの……!」
サリーは腰のダガーを抜いて臨戦態勢を整えており、警戒心マックスといった感じだ。だがこの反応は当然と言える。
知らない人間に、自分の
「……ほ、本名? 何のことかさっぱり「言っとくけど、誤魔化そうとしたら
(今、切るが別の意味に聞こえた気がする……俺のVITとHPの量じゃ然程違いはないけどな。だけどまぁ、やっぱり誤魔化しは無理か。仕方ない、こっちも明かした方が信じてくれるだろ)
サリーの警告に誤魔化す事を諦めたハイドは、無言でメニューを操作する。
「ちょ、ちょっとアンタ何して……は?」
あまりの自然な動作に、サリーは一瞬反応が遅れたがすぐに我に返り咎めようとする。
しかし何を考えたのか、ハイドは頭装備を外して素顔をサリーに見せたのだ。これにはサリーもハイドの行動が理解できず、思わず間抜けな声を上げた。
「……俺だ、白峯さん。
ハイドとしては自身の顔と本名を明かして、サリーの信用を得るつもりだった。
今は全く知らない人物が自身の本名を知っているという状況の為怪しまれているが、相手があまり話したことがないとはいえクラスメイトならば、知っていても不自然はないと考えたからだ。この考え自体に間違いはないだろう。
「……誰?」
ただ誤算があったとすれば、サリーがクラスメイトである影山蒼汰という存在を認識していなかったことだろうか。
ハイドも少々焦っており、自身が人からよく忘れられてしまう事をうっかり失念していたのだ。
(……別に気にしてないし。いつもの事だし。ただ困ったな。これ以上俺の知ってる白峰さんの情報明かしても、思い出してもらえない以上余計に怪しまれるだけだぞ)
通っている高校や所属しているクラスや出席番号など、ハイドが知る限りの情報を話したとしても、信用されるかどうかは五分である。
信用されなかった場合、ストーカー認定されてさらに怪しまれる可能性が高い。
「……」
ハイドが黙っていると、サリーは無言でダガーに込める力を強める。
これは戦うしかないかとハイドが覚悟を決め
「サリー! 大丈夫!? 今凄い叫び声が聞こえてきたけど!」
たところで乱入者が現れた。
二人が声のした方向に顔を向けると、黒い鎧に黒い大盾を装備したメイプルが洞窟の奥からこちらに歩いてくるところだった。
「メイプル、気を付けて! コイツいきなり現れたから姿を消すスキルとか持ってるかも!」
(バレてるか。けどマズいな。流石に
「ふぇっ?」
サリーの警告に、メイプルは困惑した声を上げ、改めてもう一人の方に顔を向ける。
「あれ、影山くん? 影山くんだよね!? 影山くんもこのゲームやってたんだ!」
「……え? あ、あぁ、うん。まぁ、一応(そういえば本条さん、何でか分かんないけどいつも俺を認識してたっけ)」
知り合いを発見して上機嫌なメイプルに、ハイドは少々固くなりながら返事を返す。このやり取りに、今度はサリーの方が困惑する。
「えっと、メイプル。コイツと知り合い?」
「え?」
「え?」
キョトンとした顔でお互いの顔を見るサリーとメイプル。やがてメイプルはサリーの言葉の意味が分かったのか、ジト目をサリーに向ける。
「サ~リ~?」
「え、何? 何なのメイプル?」
サリーが本心で言ってるのを感じたメイプルは深い溜息を吐くと、ハイドに向かって手を合わせた。
「ゴメンね影山くん! サリーに悪気はないんだけど」
「……それは、理解してる。後、俺のネームはハイドだから」
「分かった! 私はメイプル! 本当にゴメンねハイドくん!」
「……うん。大丈夫、だから」
申し訳なさげに謝ってくるメイプルに、ハイドは苦笑いを浮かべる。その様子を見てサリーは焦った顔になりながら抗議した。
「ちょっと! 私が何をしたのよ!」
「はぁ……サリー、ハイドくんクラスメイトだよ?」
「……え?」
サリーが顔を勢いよくハイドに向け、眉間に皺を寄せまじまじと見つめる。しかしやはりその顔に見覚えがなく、諦めたように首を振った。
「……ねぇメイプル。本当にクラスメイトなの?」
「本当だよ! しかもサリーの隣の席!」
「嘘!? 全然見憶えないんだけど!?」
(メイプルさんが覚えてたのは嬉しいんだけど、もうやめてほしい。いっそ俺は知らない奴でもいいから……)
流石のハイドも、大声で覚えてない宣言されて心にダメージを負っていた。
そのことにメイプルは天然で気付かず、気遣いのできる方であるサリーもメイプルとの必死の問答でハイドに気を向ける余裕がなかった。
「もう! サリーはどうしたら信じてくれるの!?」
「えぇ……どうしたらって言われても……う~ん……」
「……じゃあ、イベント終わった後、教室で声かける。教室でゲームのこと話したら、証明になるだろ?」
収拾がつかなくなりそうだったので、ハイドが妥協案を出した。
どうせサリーが覚えていないので、このイベント中に信じてもらうのは無理だと判断したのだ。
「あ、そっか! 教室で話せばいいんだ!」
「まぁ確かに、教室で話されたら信じざるおえないけど……」
「……じゃあ、そういう事で」
とりあえず話が終わったので、ハイドはほっと安堵の息をついた。
「そうだ! ハイドくん、フレンド登録しよ!」
「……分かった」
特に抵抗する意味もないので、ハイドは大人しくフレンド登録を済ませる。メイプルは満足げに頷くと、今度はサリーを諭した。
「ほら、サリーも!」
「えぇ……いや、私は」
「……別に無理する必要は、ない。同級生だからって、フレンドにならなきゃいけないって訳でもないし」
「あぁ~、うん。ゴメン」
やはりまだ信用できないのか、サリーはフレンド登録を拒否した。
ハイドもサリーの疑惑の表情からそれは予想できていたので、困り顔のサリーに助け船を出した。
「……じゃあ、俺はこれで」
「え? ハイドくんどっか行っちゃうの?」
「……ここに二人がいるなら、俺は休む場所を変えた方がいいだろ?」
ハイドとしては信用できない人間がいない方がいいと考えての言葉だったのだが、既にハイドを信用しているメイプルにはこの気遣いは一切通じなかった。
「何で? ハイドくんもここにいればいいじゃん!」
「……えっと」
天然なメイプルの発言に困ったハイドは
「えっと、ハイドだっけ。ここにいていいよ」
「……いや、でも」
「メイプルは結構頑固だし、言ったら聞かないから」
メイプルはニコニコと笑みを浮かべてハイドを見つめている。その表情から拒否されるという可能性を微塵も考えていないように見えた。
「(これは確かに、言っても聞かなそうだな)……お言葉に、甘えます」
「うん! じゃあ私は奥に戻ってるね!」
「……え?」
メイプルはそう言い残すと、洞窟の奥へと駆けていく。
しばらくの間、残されたサリーとハイドに気まずい沈黙が漂ったのは言うまでもなかった。
ハイドが、この作品始まって以降一番喋りました。ハイドは他人がいれば普通に話せるんですよ。いつもは一人なので喋らないだけです。
そしてサリーには不信感を抱かれる。とはいえ、メイプルが一切の警戒心無しで完全にクラスメイトとして会話していたので、もうそれほど不信感を持っていません。ただ本当にクラスメイトなのかという疑いと、本当にクラスメイトだったら結構失礼だったなと不安を持っています。
次回、イベントが終わります。