派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

22 / 61
第三章 暗殺者のギルド加入
暗殺者と失敗


 イベントが終わり、翌日の朝。蒼汰は眠たい目を擦りながら、学校への道を歩いていた。

 

(ねむい……イベント中はずっと地べただったから、ベットじゃあんまり眠れなかった。まさかたった七日で、ベットで寝るのに違和感を覚えるとは……慣れって怖い)

 

 さらに今の時間帯は、蒼汰がいつも家を出る時間よりもずっと早い時間だ。

 普段の蒼汰は遅刻ギリギリとは言わないまでも、教室に入る時間はあまり早くはない。なのに何故この日、蒼汰が早い時間に登校しているのかと言えば……

 

あの二人(本条さんと白峯さん)って、やたら朝早く来てるらしいんだよなぁ……まぁゲームの話するなら都合がいいから、別に誰も来てない時間に行くのはいいんだけどね)

 

 そういう理由である。

 イベント六日目にした約束を守るため、蒼汰はまだ二人しかいないであろう時間に登校しているのだ。

 そしてしこたま欠伸をしながら通学路を歩いて教室の中に入ると、そこではすでに登校していた楓と理沙が楽しそうに話していた。

 

(おおぅ……一体何時に登校しているんだこの二人は……)

 

 まだ眠気を感じて若干頭の働きが鈍い蒼汰とは対照的に、楓と理沙はいつも通りのテンションで話をしている。

 

「……おはよう、二人共」

「あっ! おはよう! 影山くん! 今日は早いね!」

「え? あっ、おはよ。影山」

 

 理沙は挨拶をした後、じっと蒼汰の顔を見つめる。その様子を見て、楓は首を傾げた。

 

「理沙? どうしたの?」

「……え、あっ。い、いやぁ~、ちょっとね……」

「?」

 

 言葉を濁す理沙に、楓は首を傾げ続ける。

 

(あぁ~……これってやっぱり……)

 

 理沙の様子に心当たりがあった蒼汰は、内心苦笑しながら理沙に話しかける。

 

「……もしかして、だけど……『NWO』のハイドの顔、忘れた?」

「なっ!」

 

 理沙の体がビクッと跳ねる。図星を突かれたのも理由の一つだが、蒼汰の口から『NWOのハイド』という言葉が出たのが主な原因だった。

 

「え!? そうなの理沙!?」

「う、うん。まぁ確かにハイドの顔は覚えてないけど……」

「ちょっと理沙! 覚えておかないと意味ないじゃん! ゴメンね影山くん」

「……別に、大丈夫。慣れてるし」

 

 洞窟の中で蒼汰が素顔を曝したのはほんの一時であり、楓が洞窟の奥に向かった後割とすぐに装備を戻している。

 あまり顔に特徴がないと自覚している蒼汰は、そんな短時間で顔を覚えてもらえているとは考えていなかった。

 一方の理沙はハイドの顔こそ忘れてしまっていたが、蒼汰がゲーム内でハイドと会ったことを把握していたため、ハイド=蒼汰というのはほぼ確信していた。

 

「顔を覚えてなかったのはホントゴメン。でも意外だね。影山ってゲームするんだ」

「……まぁ、ゲームは割と好きだよ。他のオンラインゲームもやったことあるし」

「へぇ~」

「そうだったんだ」

 

 なお蒼汰がやっていた他のゲームのアカウントでも、フレンドが殆どいなかったのは言わぬが花である。天然な楓はともかく、そこそこ聡い理沙は何となく察していたが。

 

「そういえば楓。今日は気を付けた方がいいよ」

「何を?」

「ゲーム内の癖が、現実(リアル)で出ちゃうかもしれないってこと。楓は長時間ログインしっぱなしって経験が今までなかったでしょ?」

「うん、今回が初めてだよ」

(あぁ~なるほど。俺にも経験がある。ゲーム内の仕草が現実(リアル)で出ちゃったこと。誰にも気付かれなかったのは、本当に奇跡的だった……ってかそれはいつもの事だけど、その時ほど自分の影の薄さに感謝した時はなかったな。あの時誰かに気付かれてたらって思うと、死ぬ程恥ずかしい……)

 

 理沙の忠告によって、蒼汰の過去の危うかった経験が蘇り、若干遠い目になる。

 

「でももう結構な時間プレイしてきたけど、今までそんな事なかったよ? 長時間ログインしただけでそんな風になるの?」

 

 しかし、忠告された当の楓はその内容にあまり納得していなかった。眉を顰め、腕を組んで首を傾げている。

 とここで、蒼汰に悪戯心が湧いてくる。気配を消して、こっそりと楓の背後に回る。理沙はもう注意が楓にいってしまっているため蒼汰に気付けないし、視界に入れば普通に気付ける楓も目を閉じて唸っている。

 そんなわけで誰にも気付かれずに楓の背後に移動した蒼汰は、その両肩を勢いよく叩いて驚かせる。

 

「わっ! 何っ!?」

 

 突然の衝撃に驚いた楓は、左手を前に構えて右手を腰の後ろに回す。

 まるで、ゲーム内でメイプルが自分の武器を構える時の様に。

 

「……」

「……? ……あっ」

 

 理沙が黙ったまま楓に呆れた視線を向け、その顔で楓は我に返り慌てて手を背に隠すが、時すでに遅しである。

 

「楓……」

「たまたま! たまたまだから! もう大丈夫だから!」

(いや、絶対大丈夫じゃないだろ。全然にゲームの癖が抜けてないな。こりゃ今日だけで後何回か失敗するぞ)

 

 楓の苦しい言い訳は、この場にいる誰も信じてはいなかった。

 さらに必死になって楓が言い訳を繰り返すうちに、チラホラと他の生徒が教室に入って来たため、ここでゲームの話は中断する事にした。

 

「……それじゃあ。本条さん、今日一日気を付けて」

「もう! 大丈夫だってば!」

「信用できないなぁ~」

「どういう意味!?」

 

 だが理沙の予想は、早々に当たる事となった。

 

     ◇◇◇

 

 時は少し進み、一時間目の授業中。天気は晴れで気温はやや高いが、汗を掻く程ではない。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 そんな体感的に丁度いい気温の中、昨夜蒼汰と同じくベットの感覚に違和感を覚えて寝不足だった楓は、気持ちよさそうに居眠りをしてしまっていた。

 

(おいおい、本条さん。いくら何でも堂々としすぎだろ。ガチ寝じゃねぇか)

 

 楓は現在、腕を枕にして机に突っ伏して眠りについている。蒼汰も寝不足の為うとうとしてしまっていたが、流石にここまでガッツリとは寝ない。精々頭を下に向けて目を瞑る程度だ。

 席が窓に近く、温かい日差しが当たっていたのも悪かったのかもしれないが、これ(居眠り)は彼女にしては大変珍しい光景である。

 楓のあまりに堂々とした居眠りに、授業をしていた教師も呆れ顔だ。

 ただ楓は普段居眠りをしない真面目な生徒であるため、教師は近くの席に座る生徒に楓を起こすように指示をする。

 

「ん……んぁ? ……ふぁ~……もう見張り交代~? ……あれ?」

 

 近くの生徒に指で突かれて起こされた楓は、割と大声でそう呟く。彼女が違和感に首を傾げる中、教室中がその呟きにざわっとする。

 

(言わんこっちゃない。でもこの失敗だけじゃ終わらないんだろうなぁ~……俺の時もそうだったけど、染みつき()()()癖って一回の失敗だけじゃ取れないし……あと数日はこの調子かもな)

 

 蒼汰が楓に同情するような視線を向けると、彼女はようやく自分が何処にいるか自覚したようで、頬どころか首や耳まで真っ赤になっていた。

 

「……授業に集中するように」

「は、はい……ごめんなさい」

 

 幸い教師は楓の言葉の内容には触れなかったが、それでもクラスメイト全員に先程の言葉が聞かれたことに変わりはない。

 一時間目の授業中、楓の顔から赤みが引くことはなかった。

 

     ◇◇◇

 

「あっ。ハイド」

「……?」

 

 その日の放課後にハイドがログインした直後に、横から自分のネームを呼ぶ声が聞こえてくる。

 その声に反応して横を向くと、目を丸くしたサリーが立っていた。

 

(サリー? 何か用なのか?)

「ハイド。今からやることある? メイプルがゲームを休むから一緒にやる相手いなくって」

「……休み?」

「そ。メイプルが色々失敗したの知ってるでしょ?」

「……色々? 何回かやらかしたのか?」

 

 ハイドが把握しているのは一時間目の時のみで、他の失敗は目撃していない。

 

「えっと、午後の体育の時に……ちょっとね」

「……やっぱり何かあったのか。メイプルさんが顔を真っ赤にしてたから何かやったのかなとは思ってた」

 

 体育は男子と女子で別れて授業が行われるので、体育館でドッチボールをやっていた女子(メイプル)の様子を、運動場にいた男子(ハイド)は知らなかったのだ。

 

「出来れば、触れないで上げて」

「……そのレベルなのか」

 

 逆にどんな失敗をしてしまったのか聞きたくなってきたが、ハイドはメイプルの名誉のためその好奇心を抑え込んだ。

 

「そんなわけで、今日からメイプルはゲームを休むことにしたみたい」

「……結構強引な策だ(でもきっと有効だろうな)」

 

 因みにハイドの場合は、ゲームの癖が抜けるまで自分から積極的に気配を消す事で対応した。

 ただでさえ気配の薄いハイドがさらに自分から気配を消すことで、失敗しても他の人から気付かれないようにしたのだ。なお完治までに五日ほどかかった。

 

「私このゲーム始めてからずっとメイプルといて、すぐに第二回イベントに入っちゃったから知り合いが少ないんだよね」

(それは俺も同じだな。何だったらイベント前は一人もフレンドがいなかった)

 

 厳密に言えば、ハイドはイベント前まで()()()()()()()()()()()が0人だったのだ。

 ゲームを始めた日付が一か月近く開いているにも関わらず、サリーと同じぐらいかそれ以下の交友しかしていない。いかにハイドがボッチ気質なのかが分かる結果と言えよう。

 

「だから近くにいたハイドに声かけたって訳。多分二人の方が効率よさそうだし、資金集めの」

「……あぁ。ギルドシステム用の」

「うん、まぁね」

 

 運営の公式発表で、ギルドシステムが実装されるらしい。

 詳しい内容は明日のアップデート後に発表があるらしいが、他のギルドシステム同様に専用のホームが買えるようになるのではないかとプレイヤーの中で噂されている。

 当然ホームを買う場合は多額のお金が必要になり、ギルド設立を目指すトッププレイヤー達はこぞって狩りを行い資金集めに励んでいるらしい。

 

(俺には関係ない話と思ってたんだけど……メイプルさんとサリーさんは仲良いし、自分のギルド作るか一緒のギルド入るかするよな)

 

 現実(リアル)でも相当仲のいい二人なので、そういう結論になるのはハイドでも分かった。

 

「……別に構わないが、俺でいいのか?」

「うん、もちろん。メイプルが復帰するまで一人でするしかないかなって思ってたからね」

「……分かった。じゃあ、よろしく(初対面の人と話すのはあんまり得意じゃないけど、サリー(白峯)さんなら大丈夫かな)」

 

 サリーとハイドの関係は現実(リアル)ではただのクラスメイトで、特に頻繁に会話をする程仲が良い訳でもない。

 ただハイドはサリーがメイプルと仲良く話しているのをよく聞いているし、他のクラスメイトとも気さくに話しているのも目にしている。

 何より先のイベントで直接話しており、その後教室でも普通に話せた。ハイドの中で、サリーとメイプルは普通に会話できる人物に分類されている(そこまでしないと話せる人に分類されないのかとか言ってはいけない。人見知りは慣れていない人と話すだけで大変ストレスを感じるのだ)。

 

「こっちこそよろしく。それと私の事はさん付けじゃなくてもいいよ」

「……………………じ、じゃあ、サリー」

「うん。何でそんな間が空いたのか分かんないけど」

 

 それはもちろん、ゲーム内のネームだとしても女の子を呼び捨てにした経験がないので、かなり緊張していたためだ。

 

(うぅ、結構照れる……照れずに言えるようになるまで練習しないとなぁ……)

 

 ハイドが心の中でそんな事を思っているなんて当然サリーは知る由もなく、ハイドとサリーはメイプルが復帰する三日後まで共に資金集めを続けるのだった。

 




次回、復帰します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。