派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
今年もこの作品を読んで下さると嬉しいです!
ギルド【楓の木】が設立した翌日、メイプルの誘いでさらに生産職のイズがギルドメンバーに加わった。
そしてさらに九日後、ギルドメンバー全員がメイプルによってフィールドのとある一角に集められた。
「じゃ~ん!」
メイプルが上機嫌に、皆の前でクルクルと回る。
ただし装備しているのはいつもの【ユニークシリーズ】ではなく、全体的に真っ白で青い宝石がアクセントとして数ヵ所に付いたイズ特製の装備一式だった。
「この装備を作るのは大変だったけど、拘って作った甲斐があったわ」
イズは自身が制作した装備を身に着けているメイプルを見て、達成感に満たされていた。
この装備は五日前にメイプルがイズに依頼した装備で、取得したとあるスキルを見せられたイズがほぼ妥協無しに作り上げた渾身の力作である。
なお拘って性能を高めた結果、イズが過去に造った今現在クロムが身に着けている装備よりも二段階は性能が上だったりする。
「イズがここ五日間必死になって作ってた装備がこれか。いいな、良く似合ってる。こういうのを見ると、俺も新しい装備が欲しくなってくるな……」
「メイプル、白も似合ってるよ!」
クロムが羨ましそうにメイプルの装備を眺め、カナデがニッコリ笑ってメイプルを褒める。
「メイプルが装備を欲しがるとか、何があったか聞くのが怖い……」
「ああ、そうだな……今までの装備でも不足するのだろう?」
(なんか変なスキルを取得した可能性が高い。メイプルさんは無意味に装備を求めるタイプじゃないし、何よりあの黒い鎧はかなり高性能みたいだから変える理由はない)
一方サリーとカスミとハイドの三人は、どうにも嫌な予感を感じていた。
メイプルが新しい装備を求めた事で、また何かをやらかしたと確信したからだ。
(今まで装備を全く変えてなかったメイプルさんが装備を求める理由って一体何なんだよ……)
メイプルはその名が知れ渡った第一回イベントから、今まで一回も装備を変更したことがない。
正確には指輪などの装飾品は変えたりしているものの、鎧や武器はその当時のままだ。
第一回イベントが終了してから既にそれなりに時間が経過しており、何回かアップデートも行われて質のいいプレイヤーメイドの装備も増えてきた。
なのに今まで一切変更していなかったのだ。嫌な予感を感じるのは無理もないだろう。
「装備のお披露目はいいんだが、何でわざわざフィールドに出たんだ? 別に見せるだけならホームでもできただろ?」
クロムの疑問に、イズ以外のメンバーの視線が一斉にメイプルに集まる。
彼の言う様に、装備を見せるぐらいならホームの共用部でも十分可能である。フィールドに出る必要はない。
「うん! 実は新しいスキルが手に入ったから、皆に見せようと思ってここに来たんだ! イズさんには先に見せて、それでこの装備を作ってもらったの」
「そうか……新しいスキルか」
全員が呆れたり興味深そうにしたりと、思い思いの反応をする。
だがやはり皆薄々予想していたのか、その反応に驚きはあまりなかった。
「どんなスキルなの?」
「見てて! 【身捧ぐ慈愛】!」
メイプルがスキルを発動すると、彼女の体から赤いダメージエフェクトが弾ける。
それと同時にメイプルを中心に半径十メートルの範囲の地面が薄っすらと光輝く。
前もってスキルを見ていたイズ以外のメンバーが冷静でいられたのはここまでだった。
メイプルの背中からは一対の真っ白の翼が生え、頭上には白く輝く輪が浮かぶ。そして髪は美しい金髪に、瞳は深い青色に変わった。
「「「「「えっ……?」」」」」
「私も最初はそう反応したわ」
「あはは……このスキル使うと見た目変わっちゃうんだよね~……あ、モンスター来た」
メイプルの姿に五人が唖然としている間に、モンスターが次々と現れ始める。
「みんな~! 攻撃を受けても大丈夫だよ!」
「え?」
「私が受けるわ。まだ皆分からないだろうしね……」
皆がメイプルの言葉に混乱する中、その効果をメイプル以外で唯一知るイズがモンスターの前に出る。
当然モンスター達は不用意に前に出てきたイズに対して攻撃を仕掛けるが、生産職でVITがあまり高くないはずのイズのHPバーは微動だにしなかった。
「は? どういう事だ?」
「メイプルちゃんのスキルよ。この光るエリアの中にいるパーティーメンバー全員に常に【カバー】が働く……らしいわ」
「最初にHPを一定値持ってかれちゃうけどね」
【身捧ぐ慈愛】は【
しかしメイプルはステータスポイントの全てをVITに極振りしてしまっているが故に、コストの為に必要なHPが全く足りていなかった。そのため、イズに装備の制作を依頼したのである。
(……マジか。今光ってる範囲内にいるパーティーメンバー全員が、メイプルさんの【カバー】を受けてる状態になるのか? 冗談だろ? そんな集団誰が倒せるんだよ)
【カバー】というスキルは、本来隣にいるパーティーメンバーを庇うスキルだ。しかもその際、VITを10%上昇させる。
つまりこの【身捧ぐ慈愛】の範囲内にいる限り、メイプルのVITを10%上昇させた数値をパーティーメンバー全員に付与できるのだ。
ただし全員が受けるはずだった攻撃をメイプルがすべて受ける状況となるので、防御力貫通攻撃を受け続けてしまえば早々にメイプルの少ないHPが削られてしまうという危険性がある。それがこのスキルの弱点と言えるだろう。
尤も、その肝心の貫通攻撃はまず当たらないと言ってもいい。
サリーには当たる訳もなく、クロムは大盾で弾く。カスミもサリー程ではないにしろ回避力があり、ハイドが本気で隠れてしまうとそもそも見つからない。
戦闘員で当たるとすれば、カナデか姿を現したハイドぐらいだろう。
「でもメイプルは大丈夫? 装備が変わってVITが下がってるし、僕らへの攻撃を無効化できる程の防御力が無くなってたり……しない?」
「大丈夫! 何も装備してなくてもVITは1000を超えてるから!」
「「ははっ……1000?」」
(スキルの効果でVITが増えてるんだろうけど、それにしたって規格外すぎるだろ……)
メイプルの自己申告に、思わず
もしスキル抜きでステータスの合計を1000以上にするなら、300レベル以上まで上げる必要がある。
当然そんなレベルのプレイヤーなどおらず、メイプルの防御力はまさに鉄壁と言えた。
◇◇◇
全員を混乱させたメイプルのお披露目が終わった翌日。
ハイドがログインして個人の部屋から広間の方に出ると、何やらメイプルがクロムに対して詰め寄っていた。
「……えっと、何か揉めてる?」
「おぉ、ハイドか。いや、別に揉めてはないんだが……」
「クロムさんが新しいスキルを探しに行くみたいだから、シロップを貸してあげようと思ったの!」
クロムに突き出されたメイプルの手元をよく見てみると、ハイドも指にしている【絆の架け橋】が握られている。
どうやら自分が手伝えないので、代わりに自分のパートナーであるシロップを貸し出そうとしているらしい。
(おいおい。そんな不用心に自分のパートナーを貸し出すなよ。多分クロムさんを信用して貸し出そうとしてるんだろうけど、いくら何でもそれはダメだろう……)
「だがメイプル、それは大事な装備だろ? 俺がもしそのまま返さなかったらどうするつもりなんだ?」
クロムもハイドと同様な思いを抱いてメイプルに忠告するが、当の本人はキョトンとした顔だ。
「そんなことするんですか?」
「いや、俺はそんな事は絶対にしない」
クロムはメイプルの問いに即答で断言した。元よりそんな事をするつもりは毛頭ない。
そしてメイプルの完全にクロムを信用している口調に、考えるより先に本音が口から出てくる。
「じゃあ大丈夫です!」
メイプルは満面の笑みでそんな事を言いながら、指輪を再度クロムに向かって突き出す。
結局頑固なメイプルに押し切られ、クロムは渋々今日一日だけ指輪を借りる事になった。
その際クロムから、大切なものはフレンドやギルドメンバーであっても貸し出してはいけないという指導が入ったのは、彼の面倒見のいい性格から言っても当然と言えるだろう。
「クロム~。今日ログアウトする前には絶対にメイプルちゃんにその指輪を返さないとだめよ~」
ずっとこの場に居たらしいイズも、クロムに一応釘を刺す。
彼女もクロムがそんな事をしない性格なのは分かっているが、あくまで念のための釘刺しだ。
「……大丈夫です、イズさん。もし返されてなかったら、俺がクロムさんに暗殺を仕掛けるので」
まるで悪ふざけの様な内容を口にするハイドだが、その目にふざけている色はない。真剣にクロムを見ている。
「おい目がマジじゃねぇか!?」
「……
「余計に怖ぇよ!?」
「あら、じゃあお願いしちゃおうかしら?」
「軽いな!? お願いするなよ! いやそんなことは絶対にしないけども!」
クロムはハイドと何度か一緒に狩りを行っているため、彼の奇襲能力の高さは理解している。
ハイドが敵だったらという可能性を考えると、背筋が凍る感覚を覚える程度には彼の能力は高いのだ。
「でもちょっと意外だったわ」
クロムがギルドホームを出て行った後、イズがポツリと呟いた。
「……?」
「何がですか、イズさん?」
「ハイドくん、結構仲間思いだったのね。もうちょっとドライな性格だと思ってたわ」
(え、俺そんな風に思われてたの? 何気ショックなんだけど……)
ハイドは人見知りで慣れていない人と話す事を得意としていないので、あまり自身の性格が理解されていないのは薄々感じていた。因みにその自覚は正しく、ギルドの中でもハイドの性格はあまり知られていない。
しかし人見知りなだけでハイドはかなり仲間思いであり、同じギルドに所属する以上ギルドメンバーは仲間として認識している。
そんな仲間が貸した大切な装備を返さないなど、信用を裏切る行為などされた日には本気でその人を追い回して暗殺し続けるだろう。ハイドにとって、仲間とはそれぐらい大切な存在なのだ。
「ハイドくんはあんまり喋らないから何を考えているかよくわからなくて不安だったけど、そんなに仲間思いの子なら今後一緒のギルドメンバーとしてやっていけそうで安心したわ」
「ハイドくんはいい人ですよ。確かにあんまり喋らないですけど……でも前のイベントの最後の時は、私達を手伝ってくれたんです!」
それはハイドが取得したメダルを守りたかったのが大きかったのだが、ここで口を挟む程ハイドは空気が読めないわけではなかった。
「あっ! サリーと約束してるのでそろそろ行きますね」
「私も鍛冶の依頼があるから、奥にいるわね」
そう言い残してメイプルはフィールドに、イズはギルドの中の鍛冶場に移動する。
そして二人と入れ替わるように、カナデが個室の方から歩いてきた。
「天使になっちゃったかぁ~……アレは予想もしなかったなぁ。ふふっ。やっぱりメイプルは面白いよ。全然行動が予想できないや」
カナデはブツブツ呟きながら楽しそうに笑い、広間の長机の椅子に座る。
「さて、メイプルは次はどんなことをするのかな?」
「……何の話だ?」
「え? うわぁっ!?」
ハイドの存在に気付いていなかったカナデにハイドが横から声を掛けると、跳び上がって驚き椅子から転げ落ちてしまった。
「……だ、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ。でも声を掛けるんなら、せめて驚かせないようにしてほしいんだけど」
「……ゴメン。以後努力する」
なおハイドの今の行動は普通に横に立ち声を掛けただけであり驚かせるつもりは全くなかったため、努力するも何もあまり改善点はない。しかしハイドは自身の経験から、とりあえず返事をする。
「……それで、何の話をしていたんだ? メイプルがどうとか言ってたけど」
「え? あぁ、聞いてたんだ。実はメイプルが予想もつかない行動したり結果を出したりするからさ、それを予想してみようかなって」
「……予想?」
「うん。今回は外れちゃったけど、次はメイプルがどんな風になるのかなって」
そう言いながらカナデはニコニコと笑う。そんなカナデの顔を見ながら、ハイドも考えてみた。
(う~ん、メイプルの次の行動か……今までのメイプルのびっくりな出来事は、異常な防御力、異常な毒攻撃、空飛ぶ巨大な亀、そして今回の天使化。なるほど、関連性が全くないから次の予想が全くできない)
メイプル自身は楽しく興味を持った場所や行動をしているだけなのだが、その行動やそれに伴う結果は普通のプレイヤーには想像が出来ない奇想天外な物ばかりだ。そう考えていくと、ハイドもなんだか楽しくなってくる。
「……面白そうだな。俺も混ぜてもらってもいいか?」
「え? ハイドも?」
「……あぁ。こう、お互いの予想を言い合う感じで」
「……うん、いいね。面白そう」
「……じゃあ、次にメイプルが取得する
「そうだね。普通のスキルだったら予想する意味ないしね」
『普通のスキルを取得する』と言うのも選択肢に入れてもよかったのだが、それで当たっても面白くなさそうだったので、そういうルールで進める事になった。この二人の感性は意外と似ているのかもしれない。
「最初は僕から。今回メイプルは範囲防御が出来るようになったし、次は防御した攻撃を反射するスキルを取得すると思うな」
「……なるほど。可能性としては十分にあり得るかも。俺は今回天使になったから逆に悪魔になるんじゃないかと思ったが」
「あぁ~、ありそうだね。普通ならあり得ないんだけど、メイプルだし」
「……メイプルだしな。それと答え合わせは、出来ればもう少し期間を開けて欲しい」
「確かに。次々驚くと疲れちゃうしね」
「……成長は全然してくれて構わないんだけど、ゆっくりと徐々に成長とか進化して欲しい。今のメイプルのやつは突然変異とか飛躍の類だから、急に見せられると思考が止まる」
「凄くよくわかるよ~、それ」
しかし願いは空しく、この予想の答え合わせは意外と早く行われる事になるのだが……この時の二人にはそんな事知る由もなかった。
ハイドはメイプルに似た雰囲気を持っているカナデにはかなり慣れてきているので、自分から話しかけれるようになっています。クロムやイズにはまだ人見知り発動中です。
次回は、牛イベです。