派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
「はぁ~……疲れた」
「あぁ……私もだ」
(予想以上に大変だった……)
第三回イベントが終わり全員が集合したギルドホームで、サリーとカスミとハイドはぐったりと机に突っ伏していた。
【AGI】の高い三人は、特に多くの牛を倒すためにフィールドを走り回っていた為疲労が強い。
クロムやカナデもそれなりに討伐に参加したのだが、やはり走り回って牛を探す都合上【AGI】が高い三人が多く討伐するのは仕方のない事だった。
「メイプルは今回あんまりだったな」
「あんまり気が乗らなくて……」
「まぁ、仕方ない。俺らみたいなのには厳しいイベントだったからな」
メイプルと同様に大盾を装備しているクロムも、彼女程ではないが【AGI】が低い。
そういったプレイヤーは今回のイベントの上位を狙いのはかなり難しい。他人の協力なしでは不可能と言っていいだろう。
「でも、僕達のギルド報酬なら最高のところまで行ったね」
そう言ってカナデが見るのは、イズの持っている牛の剥製だった。
ホームの壁に取り付けられるようになっており、【楓の木】に所属するプレイヤー全員の【STR】を3%上昇させる効果を持っている。
「積み重ねが効いてくるって訳だ」
「でも【STR】だと私には意味がない……いや、そうだあるんだ!」
メイプルの放った言葉に、カナデ以外の五人が一斉に顔色を変える。先程まで机に突っ伏していた三人など、疲労が吹っ飛んだかのように勢い良く体を上げた。
メイプルは【VIT】極振りで【STR】は0のはずなので、【STR】を上げるアイテムの効果があるのはおかしい。
その為、五人は五人共すぐさま同じ答えに行き着いた。
「メイプル……このイベントの間にどっか行ってた?」
「二層にいたよ? ……多分」
(何で自分がいた場所がそんなに曖昧なんだよ。本当に一体何処にいたんだよ!?)
メイプル以外は知る由もないのだが、メイプルはイベントから離れてとある教会に行った際に別の場所に転移させられている。
そして転移した先の場所が二層であるという確信が持てなかったため、先程の返答がとても曖昧になってしまったのだ。
(……ダメだったか。薄々意味がないかもとは思ってたけど……)
送ったメッセージの効果がなかったと悟ったハイドは、額に手を当てて溜息を吐いた。
同様にメッセージを送ってメイプルの行動を抑制しに掛かった四人も、呆れたり止められなかったかと落胆を露わにしている。
「……近々第三層が追加されるから、出来ればその時のダンジョン攻略で見せてくれ」
「分かりました!」
この中で元気がいいのはメイプルのみで、残りの面々は三層の追加が今から憂鬱になっている。
(……ほんの二週間前に、変なスキル取得したばっかりじゃないか。少しは休憩させてくれよ……)
◇◇◇
メイプルが普通でないスキルを取得したのが分かった三日後、三層へ続くダンジョンが追加された。
そして追加された数日後に、メイプル達一行はそのダンジョンへ足を踏み入れた。
「しかし、メイプルが変なスキルを取得したのは知っていたが……まさかハイドもとはな」
「……俺?」
「お前だお前。何でフィールドに出た途端体が薄暗くなるんだ? スキルを使った時の光もなくなってただろ?」
「……ちょっと、イベント中にクエストをクリアした」
クロムから視線を逸らして気まずげに答えるハイドの体は【闇ニ生キル者】の効果によって薄暗くなり、スキルによる発光も無くなっている。
因みにこのスキルを取得後、前に光って目立つオーラが邪魔になるという事で廃棄した【剣ノ舞】を再取得した。既にオーラの光も無効化されるのは確認済みである。
尤もハイドはサリー程回避が上手くないので、【STR】の上昇はあくまで保険程度の認識だ。
そんな予定外な事がありつつも、戦闘自体は何の苦戦もなくボス部屋前まで到着した。
「ちゃちゃっと攻略するか」
「あぁ、そうしよう」
カスミがボス部屋の扉を開けて、全員がさっさと部屋の中に入る。
ボスは樹木の姿をしており、幹の部分が顔になっていた。ただし同じ樹木系だった一層のボスとは違い、その幹に果実は付いていないため、一層時の障壁のようなギミックはなさそうだ。
「それじゃあ、えぇっと……お願いします」
「任せて! 【挑発】!」
メイプルが使用したモンスターのヘイトを集めるスキルにより、ボスの注意がメイプル一人に集中する。しかしメイプルの異常な【VIT】により、ボスが繰り出す攻撃はメイプルに傷一つ付けられない。
今回の攻略は三層に行くのは大前提なのだが、それよりもハイド達にとってはメイプルが今回新たに取得したスキルの効果を見る方が重要度が高い。
なのでこのボスの相手をメイプル一人で行うのは、道中の話し合いで決定していた。この案は、メイプル自身も新しいスキルを全力で皆に見せたいが故にノリノリで賛成している。
「【
最初に出てきた三つ首の毒竜が、ボスの幹を毒でぐちゃぐちゃに汚染する。ここまではいい。毒竜はこの場に居る全員が見慣れたメイプルの基本攻撃だ。
「【滲み出る混沌】! 【捕食者】!」
次に出てきたのは、見慣れない化物の口だった。飛び出した化物の口は、真っ直ぐボスの方へ進んでそのままボスの幹を抉る。
そして先ほど出てきた化物と似たような化物が、メイプルの周りから二体出現する。出現した化物は先程の口より攻撃力が低いものの、化物に設定されたHPが無くなるまでその攻撃が止むことはない。
当然ボスもダメージを与えてきた化物の方に攻撃を向けるのだが、化物達はダンジョンの道中から発動していた【身捧ぐ慈愛】の範囲内にいるため、二匹が受けるはずだったダメージをメイプルが引き受け無効化する。
(……天使の周りに化物が見える……夢か? これは夢なのか? 頬引っ張ればわかるかなって痛い! ですよね分かってた! 現実逃避だよコンチクショウ!)
ボス相手に化物を従え一人で戦うメイプルを、残りの六人は部屋の隅で見ていた。皆唖然としたり現実逃避したりと反応は様々だ。
しかしメイプルの今回取得した【滲み出る混沌】の効果は、これで終わりではない。このスキルには三つのスキルが内包されている。
一つは高威力の化物の口を射出する、【滲み出る混沌】。
もう一つは固定のステータスが設定された二匹の化物を自身の周りに出現させて相手を攻撃する、【捕食者】。
そして最後の一つが……
「【暴虐】」
最後に内包されたスキル名を呟くと、メイプルの体を黒い輝きが包み込む。
黒い光は徐々に大きくなりやがて天井まで届く黒い光の柱になると、メイプルの体は先程まで両サイドにいた化物と似た姿に変化する。
違うのは先程の化物は頭と首だけだったのに対し、何本もの手足が生えている点だった。メイプルが変化すると同時に、両サイドの化物は消失する。
「「「「「「……は?」」」」」」
六人が一斉に唖然とした声を出す。化物を従えたりその口を射出するぐらいならまだギリギリ受け止められる範囲内だったのだが、その化物に変化されるのは流石に予想外だったのだ。
しかし六人が固まっている間も戦闘は進んでいる。
化物と化したメイプルはボスに掴み掛り、その口から炎を吐き出す。樹木のボスに炎は効いたようで、ボスのHPがみるみる減っていく。
ボスも負けじと根や枝、さらには魔法のような攻撃で応戦するも、化物には傷一つ付けられない。
しばらくそうして怪物映画さながらの戦いを繰り広げた二体だったが、結局HPを減らされ続けたボスが力尽き、最終的に無傷の化物だけがその場に残った。
ダンジョンのボスを倒した化物は、そのままハイド達の方に向かって歩いてくる。武器を持ち警戒する六人に、化物は身を屈めて口を開いた。
「いや~、これ操作難しいよ~!」
化物の口から聞こえてきたのは、ノイズこそ混じっているものの先程まで戦っていたメイプルのものだった。
「め、メイプル……なの?」
「うん、そうだよ?」
(いや、そうだよって……今の姿でメイプルさんだって分かる訳ないだろうが!!)
一応メイプルが発光した後に彼女が立っていた場所に化物が出現したので、化物がメイプルなのではないかという予想はあった。しかしあまりに姿が違い過ぎたので、六人共確証が持てなかったのだ。
「んー……ちょっと待ってね」
明らかに警戒していたので、その様子がメイプルにも伝わり一旦顔を六人から離す。
そしてその数秒後、化物の後頭部がメリメリと音を立てて裂け、中からメイプルが落ちてくる。化物はメイプルが中から出てくると同時に、崩れて跡形もなく消えてしまった。
「で、出来る範囲で説明してくれると嬉しいんだけど……」
メイプルの親友であるサリーでも流石に今の光景は許容範囲外だったらしく、その顔は引き攣っている。
「えっとね……アレは装備の効果が全部無くなる代わりに【STR】と【AGI】が50増えて、HPが1000になってHPが無くなっても元の姿に戻るだけっていうスキルなんだけど……」
デメリットは装備の能力値上昇や装備スキルが使えなくなる事と、一日一回限定である事位である。
メイプルが以前に装備が無くても【VIT】が1000を超えていると宣言しており、それは装備に一切関係がない素のステータスであるが故に、この化物形態でも変わらない。
つまり装備がないメイプルが、
姿が大きくなり攻撃が当たりやすくなってはいるものの、それを差し引いても優秀な
「あぁ……ついに本当に人間を辞めたのか」
「あぁ、辞めたな。これは間違いない」
今回のこれは今までの比喩などではなく、本当に化物になれるようになってしまった。
非常に頼もしいスキルを取得して帰って来てはくれたのだが、六人がそれを冷静に受け止めるにはもう少し時間が必要だ。
「操作が難しくて……何て言うか、物凄い大きな着ぐるみを着てる感じかな?」
「分かるような分からないような……また微妙な例えだな」
「って言うか、それ以前のもかなりおかしかったけど」
さらりと流してしまっていたが、化物二匹を召喚した時点で既におかしいのだ。
普通のプレイヤーは、共に戦うモンスターを召喚するスキルなど取得していない。
「私は生産職だからあんまりスキルについては詳しくないけど、それでもこれが普通じゃないことくらいは分かるわ」
「んー……シロップに乗るより速い……」
「僕はそれで移動するのは止めておいた方がいいと思うよ」
「……同感」
メイプルが【暴虐】を使って徘徊した場合、まず間違いなくモンスターと思われて攻撃される。
今までもまるでボスモンスターのようだと言われてきた彼女だが、今回のは完全にボスそのものである。あの化物の様な外見も含めて。
「じゃあ人気の無さそうな山奥で練習して、戦闘でも使えるようにしておくね」
「見た奴が誤解するだろうな……」
(『山奥に徘徊モンスターが現れた!』とか掲示板で話題になりそう。幸いなのは、メイプルさんが喋らない限りあの化物がメイプルさんだって分からない事かな)
まず化物の姿になったメイプルを、プレイヤーと認識できる者は少ない。
またプレイヤーと分かっても、その化物がメイプルであると断言できるプレイヤーなどいないだろう。
しかし声はノイズが混じっていて聞き取りづらくはなっているもののメイプルの声なので、メイプルの声を知っている人が聞けば分かってしまう。
(まぁ明らかヤバい化物に進んで話しかけるような奴はいないか)
「ではいざ、三層へ!」
待ち遠しくなったメイプルが意気揚々と三層へ歩を進め、残りの面々もそんなメイプルを追って歩き始める。
三層の町は空全体が曇り空に覆われている、機械と道具の町だった。そしてこの階層の町には、決定的に違う部分があった。
「皆、空飛んでるね」
決定的な違いとは、先に三層に到達していたであろうプレイヤー達にあった。皆様々な機械を使い、町の上空を飛び交っていたのだ。
「何かのアイテムか?」
「ん~……あれじゃない?」
サリーが指さす方向には、ゴールドを支払って購入する機械が何種類か置かれていた。
こうして見ている間にもプレイヤーが並べられている機械を買い、その機械を使って上空へ飛び去って行く。
「また、変わった階層になりそうだな」
「確かにな。私達も空を飛んで探索するのだろう」
今まで空を飛ぶのはメイプルの相棒であるシロップのみだったのだが、この階層では機械を購入すれば誰でも空を飛んで探索できるようになる。
【楓の木】一行は三層の特殊性を確認すると、この階層のギルドホームへと歩いて行った。
今回は殆ど原作通りでしたね。まぁそれは、今までも度々ありましたが。
何かオリジナルな要素を入れようとは思っているんですが、中々難しいですね……。
次回は、意外な再会があります。