派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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暗殺者と【寡黙】

 メイプルと新メンバーの三人がレベル上げをして内二人が強力なスキルを取得して帰ってきた翌日、ハイドはメイプルとカラアゲの三人でレベル上げを行っていた。

 

「……何故メイプルが一緒にレベル上げに行っただけで、異常になって帰ってくるのか」

「へ、変な事はしてないよ! ただもうちょっとで一周三分を切れるから面白くなっちゃって……」

「……それで?」

「頑張ったら最後には二分半を切ったんだよ」

「皆で頑張りましたよね~」

「ね~」

(違う。そういう事を聞いてるんじゃない……)

 

 メイプルが一層にある毒竜がボスのダンジョンを何回も周回してレベルを上げる事を狙ったのだが、その結果ユイとマイが極振りしていた【STR】をかなり強化して帰ってきたのだ。

 

「……敵来たぞ」

「防御は任せて! 【挑発】! 【捕食者】! 【身捧ぐ慈愛】!」

「サポートします! 【付与(エンチャント)防御上昇(ディフェンスアップ)】! 【付与(エンチャント)攻撃上昇(アタックアップ)】! 【付与(エンチャント)速度上昇(スピードアップ)】!」

 

 メイプルは常時味方を守れる【身捧ぐ慈愛】や一撃で終わらない【捕食者】を使って、敵を集めながら堂々と仁王立ちで迎え撃つ。

 そしてカラアゲが自身の武器である指揮棒を向けるとメイプルの体が淡く光り、彼女とハイドのステータスが上昇した。

 

付与術(エンチャント)

使用できる魔法やスキルを、対象に様々な状態を付与できるスキルに変更する。

Ⅰ~Ⅹレベル。レベルが上がると効果上昇。

 

 このスキルがカラアゲが持つ特殊なスキルで、MPを使用するスキルや魔法の内容を変更できるスキルだ。

 変更後の効果はステータスを上昇させたり逆に低下させたり状態異常にするなど、変更するスキルや魔法によって多種多様だ。

 今回付与した効果はメイプルに【VIT】の上昇、ハイドに【STR】と【AGI】の上昇である。

 

(メイプルがいると楽でいい。【挑発】を使えば、モンスターの視線はメイプルに集中する。その結果、俺は目視されないから、【隠者】のデメリット効果でステータスが下がらずに攻撃が出来る)

 

 ハイドはメイプルが全てのモンスターを引き付けている間に、モンスターの背後から攻撃を仕掛ける。ハイドは条件次第でステータスが上昇するスキルをいくつか取得しているため、一人の狩りではモンスターに見つからないように非常に気を使って行動している。

 しかしメイプルが一緒の今なら、適度に【挑発】を使えばモンスターはメイプルに釘付けになりハイドの方など見ようともしない。味方の視線については、メイプルには目を瞑ってもらい、カラアゲはメイプルの背中のみを見ることで解決した。

 目を瞑っていようが、防御力貫通攻撃を持たないモンスター相手にダメージなど受けない異常な【VIT】を持つメイプルならではの解決法である。

 

「……メイプル、周囲のモンスターはほぼ全滅した。もう目を開けていいぞ」

「うん、分かった」

 

 メイプルが目を開けると、丁度【捕食者】に噛み付かれていた最後のモンスターが光となって消えるところだった。だがメイプルの表情はどこか不満げである。

 

「この方法、楽だけどちょっとつまらないね」

「……だからと言って【毒竜(ヒドラ)】は止めてくれよ。アレをされると俺とカラアゲが行動できなくなる。と言うか、【身捧ぐ慈愛】の範囲から出て毒を踏んだら即死する」

 

 ハイドとカラアゲの【VIT】は共に0なので、【毒竜(ヒドラ)】の出す強力な毒に触れてしまうと、一秒と経たずにHPが無くなってしまう。

 

「うん、気を付けるね。あ、でもカラアゲくんは魔法使ってもいいんだよね?」

「……一応、問題はないが……」

「いえ、お気遣いなく。僕は【INT】が0なので、魔法を使っても大したダメージは与えられませんよ。MPはいっぱいあるんですけど」

 

 カラアゲはMP極振りなので、大量の魔法を放つことはできてもその魔法で大きなダメージを与える事が出来ない。

 ただ【付与術(エンチャント)】のスキルで変更した後のスキルは、【INT】の数値関係なく効果を発揮する上に変更前のスキルよりも消費MPが多くなるので、今の【付与術(エンチャント)】に専念するスタイルは彼のステータス的にも効率的である。

 

「……何故MP極振りにしようと思ったんだ?」

「えっと、【INT】と迷ったんですけど、魔法をいっぱい使えた方がいいかなって思ったので」

(何で全部一つのステータスに振ろうって思っちゃうんだよ。何で普通にいくつかのステータスに振らないんだよ……)

「その二つって事は、最初から武器は杖って決めてたの?」

「そうですね。運動はあまり得意ではないので、後衛で魔法を使おうって決めてたんです。なので杖にしました」

 

 VRゲームでは現実で自分の体を動かす要領でキャラを動かすので、ある程度現実で運動が出来た方が前衛をやりやすい。もちろんステータスやスキルの補正があるため一概には言えないのだが、その傾向が強いのは確かだった。

 

「あ~私も運動はあんまり得意じゃないんだ。ハイドくんは結構運動出来たよね?」

「……まぁ、人並みには」

「……あれ? メイプルさん、ハイドさんの現実(リアル)を知ってるんですか?」

「え? ……あっ! ゴメン! ハイドくん!」

 

 カラアゲの言葉に自身の迂闊な発言を自覚したメイプルは、慌ててハイドに謝る。

 ただハイドは別にメイプルと現実(リアル)で知り合いだという事実を隠すつもりは無い。今までそれを言わなかったのは、単純に聞かれなかっただけである。

 

「……大丈夫。別に隠してる訳じゃない。カラアゲ、俺とメイプルは現実(リアル)ではクラスメイトだ」

「そうだったんですね。一緒にゲームを始めたんですか?」

「ううん。私は最初サリーにゲームを勧められて始めたんだけど、ハイドくんとは第二回イベントの時に偶然会ったの。ハイドくんもこのゲームやってたなんて知らなかったからびっくりしたよ」

「……俺とメイプルは、そんな話をする仲じゃなかっただろ」

 

 メイプルは現実でも人見知りせずに誰にでも気さくに話しかけるので、その小柄で可愛らしい容姿も相まって人気が高く友人もそれなりに多い。しかしハイドとは友人という訳ではなく、暇があれば雑談をするような仲ではない。

 そんな話をしていると、ハイドの【気配察知】にモンスターの反応が現れる。ハイドは武器を構えて木の上に跳び上がりながら、【気配察知】を持たないメイプルとカラアゲに声を掛けた。

 

「……モンスターが来てる。戦闘準備」

「了解! 【挑発】!」

「【付与(エンチャント)攻撃上昇(アタックアップ)】【付与(エンチャント)速度上昇(スピードアップ)】」

 

 ハイドの声掛けに反応して、二人はすぐに戦闘準備を整える。それと同時に、何匹かのモンスターが木の陰から飛び出してきた。

 

     ◇◇◇

 

「あの、ハイドさん。ちょっと気になったんですけど」

「……? 何が?」

 

 何度か同様の手法で戦闘を行っていた合間の休憩で、カラアゲがハイドに声を掛けた。

 

「いえ、戦闘中に何も喋っていないのスキルを使っているように見えたので、どうしてなのかなって……」

 

 カラアゲが遠慮がちに聞いたのは、ハイドの戦闘についてだった。スキル名が聞こえてこないのに、明らかにスキルが発動しているので気になったようだ。

 

(………あれ? カラアゲは知らないのか? 確かに俺も言わなかったけど、皆聞いてこないからてっきり知ってるものとばかり思っていたんだが……)

 

 他のメンバーが無言でスキルを発動している方法を聞いてこないのは、それがスキルだった場合マナー違反になるからである。

 このゲームにおいて、珍しいスキルや強力なスキルを持っているとかなり有利になるため、暗黙の了解でスキルの内容や取得方法の詮索はマナー違反とされているのだ。

 なので【楓の木】のメンバーは、その方法が気になってはいるものの聞けなかった。

 

「……これは俺が取得した、【寡黙】というスキルの効果だ。スキル使用を思考で出来るようになる」

 

 ただ当の本人であるハイドは、その正体である【寡黙】を全く隠すつもりがないので、その気遣いは完全に無駄だった。

 そもそも彼は、皆が聞いてこないのはこのスキルの存在を知っているからだと勘違いしている。掲示板でも話題になっていないが、それは皆が知っているのでわざわざ話題にしないだけだと思っていたのだ。

 

「へ~! そんなスキルがあるんですか! 知らなかったです!」

「私も知らなかった」

「……ん? メイプルも知らなかったのか? 俺は初日に取得したんだが」

「初日!? どうやって?」

「……このスキルは、五時間大きな音を立てずに黙って行動したり戦えば取得できる。俺は最初一人だったから喋る相手もいないし、大きな音を立てる戦い方もしてなかったから普通に取得できた」

 

 それを簡単そうに言うハイドに、二人は思わず黙る。流石の二人も五時間もの長時間を黙って行動する難易度は分かっていた。

 喋れないとスキルを使う事も出来ないので、ステータスの補正と手にする武器のみで戦闘をするしかない。しかし大きな音を立ててもいけないのなら、その戦闘すら難しくなる。

 

「……ハイドくん、そのスキル本当に初日に取ったの? 私は出来そうな気がしないんだけど」

「僕も、五時間も黙ってる自信がありません」

「……そうか? そう難しい事でもないと思うんだけど」

 

 難しそうに唸る二人をハイドは不思議そうに見るが、この取得条件を難しいと感じるかは性格が大いに関係している。

 二人とも性格が明るくよく喋るし、一人の時でも比較的に独り言が多い。そういった人は殆ど無意識で喋っているため、意図的に黙っているのが難しく感じてしまう。

 

「……とりあえず、今度集まった時に皆にも【寡黙】の取得条件を話してみる。サリーがメイプルに一般的なスキルとして言ってないなら、他の皆も知らない可能性がある」

「うん、そうだね。多分皆も知らないと思うよ」

「僕も取得できるように頑張ってみます」

 

 取得は難しいと感じたが有用なスキルの為、カラアゲの宣言にメイプルも頷いた。

 

「私も。使えるようになったらきっと皆驚くね」

(メイプルの場合は、他のプレイヤーが別の意味で驚くだろうな)

 

 スキルを言ったわけでもないのにいきなり怪物になったりしたら、初見の者に対して度肝を抜けるだろう。

 

「……モンスターだ」

「OK! 【挑発】!」

「僕もサポートします!」

 

 話は再びやってきたモンスター達によりそこで終わった。そしてハイド達は、それからまた数時間戦う狩りを切り上げ、その日はギルドホームへと帰還した。

 

     ◇◇◇

 

 【寡黙】が実はあまり知られていないスキルかもしれないという疑問をようやく持ったハイドは、その数日後に全員がギルドホームに集まったタイミングで【寡黙】の効果と取得条件を話してみた。

 

「第二回イベントの時からスキル名を言ってない気がして気になってたんだけど、ようやく疑問が解けた。そのスキルの効果って訳ね」

 

 サリー以外にも、ハイドと戦闘を共にしたことのあるメンバーは大なり小なり疑問は抱いていた。その理由が判明したので、どことなく納得した雰囲気が出ている。

 

「しかしハイド、そのスキルの取得条件まで俺達に喋ってもいいのか?」

「……? 別に何の問題はないだろ?」

「いやだからな? 秘密にしなくてもよかったのかって聞いてんだよ。そういった有用なスキルの情報は隠すもんだろ?」

 

 取得条件が難しかったり効果の高いスキルの効果や取得条件は、比較的に秘匿される傾向にある。広まってしまえば、自身の優位性が危うくなってしまうからだ。

 

「……大丈夫だ。確かにこのスキルは有用だが、俺が使っているスキルであまり他人に知られたくないスキルは別にある。このスキルぐらいなら教えても問題ない」

「まだあるのか……いや、そうだな。ハイドが消えるのはスキル名すら分からないしな」

「そもそも、ハイドくんがいつもどんなスキルを使っているのかすら分からん。初めて会った時から無言でスキルを使っていたしな」

 

 ハイドはスキル名を口に出さずにスキルを使うので、何を使っているのかがさっぱり分からない。そういった機密性が、この【寡黙】というスキルの真価と言えるだろう。

 

「クロム。一緒に早速【寡黙】を取得しに行かないか? あればかなり便利そうだ」

「そうだな。行くか」

「メイプルちゃん、私も取得したいから護衛を頼んでもいいかしら? 私も一応そのスキルを取っておきたいの。ハイドくんの話を聞いた感じ、多分フィールドで行動しないといけなそうだから」

 

 イズは生産職で町の中にいる時が多い。しかし次回のイベントに備えて【寡黙】を取得しておきたかったのだが、頼まれたメイプルは申し訳なさそうに両手を合わせた。

 

「ごめんなさいイズさん。今日課題がいっぱい出たので、そろそろログアウトしないと……」

「あら、そうなの?」

「ごめんなさい!」

「いいのよ気にしないで。また明日ね」

「はい。それでは! サリーとハイドくんはどうする?」

「私は続けたいところだけど、流石にやめておくよ。成績が下がってまたゲームを禁止にされたら堪ったもんじゃないしね」

 

 サリーは少し前に、成績が下がった影響で親にゲームを禁止にされていた。平時なら少々レベルの差がつくぐらいで済むが、イベントの開催が近い今ゲームを禁止されると、禁止の期間によってはイベントに参加できなくなってしまう。

 実際にサリーがゲームを禁止されている間に、第一回イベントが開催しており彼女は参加を逃している。

 今回のイベントでそうなるわけにはいかないので、最近の彼女は真面目に課題や勉強に取り組んでいるのだ。

 

「……俺はもう終わってるからもう少し居る」

「そっか。じゃあまた明日」

「……あぁ、また」

 

 メイプルとサリーがパネルを操作してログアウトすると、今度はユイとマイがおずおずと手を上げる。

 

「あの、私達も今日はそろそろログアウトします」

「前に遅くまでやっててお母さんに怒られて、しばらくは早くゲームを終わらせるように言われてしまって……」

「そうなの。まぁそれはしょうがないわね」

「僕も今日はちょっと用事があるから、もうログアウトするね」

 

 ユイとマイに続けて、カナデも断りを入れてからログアウトした。

 

「それじゃあクロム。私も二人に付いて行っていいかしら?」

「あぁ、いいぜ。メイプル程完璧じゃないが、出来る限り守ってやるよ」

「お願いするわ」

「カスミもいいよな?」

「……………あぁ、問題ない」

(あれ? カスミさん、何か歯切れ悪くないか?)

 

 カスミの言い方に違和感を覚えたハイドが彼女の顔色を窺ってみると、カスミはどことなく残念そうに溜息を吐いていた。

 

(……え、マジ? クロムさんとそういう関係……って訳じゃなさそうだな、クロムさんの様子的に。まぁクロムさんとカスミさんは二人で話しているところをよく見るし、別に意外って訳じゃないけど……)

「あっ、そうだ。ハイドも一緒に行くか?」

 

 ふと気が付いたように、クロムが振り返ってハイドを誘う。問いかけられたハイドは、少し考えてから頷いた。

 

「(付いて行ったらお邪魔な気も若干するけど、イズさんがいる時点で今更か。そもそもカスミさんがクロムさんをどう想ってるかはまだ分からないしな)……じゃあ一緒に付いて行く。役に立つかは分からないけど」

 

 ハイドが今回この三人に付いて行くのは、カスミの気持ちを確かめたいからだった。意外と好奇心が強いのだ。

 

「近づいてくるモンスターをとにかく倒してくれればそれで十分だ」

「……分かった」

「フィールドに出るついでに薬草の採集をしてもいいかしら? 本音を言っちゃえば鉱石の採掘もしたいところなんだけど、それは流石に諦めるわ。大きな音が出ちゃうもの」

 

 【寡黙】を取得するためには声を出さないのはもちろん、大きな物音を立てるのもNGだ。なので壁などをピッケルやツルハシで叩き割る採掘は行えない。

 

「別に問題ないぞ。そんじゃ、欲しい薬草が取れる場所を教えてくれ。フィールドに出たら黙ったまま行動する必要があるから、今ここで聞いておきたい」

「分かったわ」

 

 三人はイズから場所を聞くと、無言でフィールドを出て行動を開始する。

 そしてクロム達はその日の内に無事【寡黙】を取得し、後日メイプル達も取得に成功した。これにより、【楓の木】のメンバーは全員無言でスキルを発動できるアドバンテージを得る事になるのだった。




クロムのお相手はイズと迷いましたが、カスミにしました。同じ前衛で相性が良さそうでしたので。
次回、道場で戦います。
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