派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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暗殺者と初戦闘

 目を開けると広がる城下町のような広場。

 ハイドは目を輝かせながら周りを見渡した(例によって、他人にはあまり普段と見分けがつかないが)。

 

(おぉ……! ここがゲームの世界か!)

 

 キョロキョロしていたハイドだが、一通り感動し終えると早速行動を開始する。

 

(やっぱり始まりの場所だけあって騒がしいな。何処か静かなところ……いっそフィールドの方に出てみるか。確か西の森が初心者にはいい狩場だったはずだし)

 

 事前に掲示板などで得た情報をもとに、西の森の狩場へ向かう。

 

     ◇◇◇

 

 町を出て西の森に着いても、町の中程ではないがそれなりに人がいた。ゲームが発売して二ヶ月ほど経過しているとはいえ、ハイドと同じ様に後発組もいるので当然といえば当然だが。

 

(う~ん、出来れば最初の戦闘は人のいない静かなところでやりたいな。体の動かし方とか効率的な戦い方とか、色々試してみたいし。それを知らない人に見られるのはちょっとな~……人のいなさそうなもっと奥の方に移動してみるか)

 

 どうやら初戦闘を他人に見られるのが気恥ずかしいらしい。ハイドはそのまま黙々と歩き続け、辺りを見渡しても人が見えないところまで来るとようやくその歩みを止めた。

 

(さて、俺の目指す戦い方は敵に見つかる前に殺る暗殺スタイル。ステータスは早く動いて隠れるためのAGIと、一撃で高い攻撃力を出すためにSTRに振った)

 

 因みに常人は攻撃の当たる予定のない回避盾をする場合でもVITに振ったり、魔法を使わない予定のタンクでもINTに少しは振ったりするので、この振り方はかなりリスキーと言える。ハイドは全く気付いていないが。事前に情報収集はするくせに、何故そういった常識に気が付かないのかこの男は。

 

(ステータスの確認は……別に要らないか。なら次にするべきは……この体に慣れることだな!)

 

 そう考えるや否や、ハイドは全速力で走りだした。木々が生い茂る森を、手で枝を掴んだり足で幹を蹴ってなるべくスピードを落とさず走る。

 

(この体の速さ(AGI)は現実のものとは違う。その感覚に慣れることは最優先事項だ!)

 

 当然走っている途中もモンスターに遭遇したりするが、スルーして走り続ける。

 

(戦闘はしてみたい! だが慣れない体で繊細に動こうとしても絶対失敗する! だからまず慣れる!)

 

     ◇◇◇

 

 そうして約二時間。延々と走り続けたハイドは、その走りをやめた。

 

(よし! 大分感覚のズレが無くなったな。次はお待ちかねの戦闘だ!)

 

 待っていたのはハイド本人しかいないが、そこは置いておこう。

 

(見える範囲にモンスターはなし……まぁ森だし視界悪いから見えなくても無理はないけど)

 

 ハイドはゆっくりと茂みや木々の多い辺りを見渡して思考を続ける。

 因みにハイドは走り回っている間に、そこそこ奥地に来ている。ここはレベルの低い初期モンスターが出ない割にかなり視界が悪く、モンスターが見つけづらかったり近くにいても気づけずよく不意打ちされたりするのでかなり不人気な場所だったのだ。

 最も、人気のない場所で初戦闘をしようと考えていたハイドにとっては逆に最適な場所だったりするのだが。

 

(とりあえずモンスターを探すために、木に乗ってみようかな)

 

 単純に少しでも高い場所から見渡せば効率よく探せると考えたハイドは、持ち前のSTRでひょいっと簡単に目の前の木の枝に乗る。

 

(現実だと、垂直飛びで二メートル近くの高さにある木の枝に跳び乗ったりできないからな。STRに振っといてよかった)

 

 なおそこそこ高い位置にある木の枝に跳び乗れたのは、確かにSTRが高いお陰だ。しかしちょうどいい位置に跳んだのは、本人が行った行動の結果である。

 普通なら慣れない(ステータス)で急に行動を起こすと、イメージ以上に体が動き大抵の場合バランスを崩して転倒する。ハイドは事前に森を走りまくってイメージの修正を行っていたいたため、丁度いい力加減でイメージ通りの行動が出来たのである。

 

(木に乗ってもモンスターの姿なし……しゃあないな。ここで待ってても仕方ないし、モンスターを探し回ってみるか。

 ……これ、多分このまま別の木に跳び移れるよな?)

 

 おあつらえ向きに辺りには木々が生い茂っている。軽く跳び上がっただけで二メートル近く上げれたなら、距離が足らないという事も恐らくないだろう。

 物は試しと、ハイドは近くの木に跳び移ってみた。

 

(よっ……と。うん、全く問題ないな)

 

 そのままモンスターを探しながら、木から木へと跳び移っていくハイド。簡単にやっているが、実はこれは普通の光景ではない。

 普通の人間は某忍者アニメの様に、木から木へ足だけで跳びながら移動なんてそうそうできない。身軽な装備ならできるプレイヤーもいるが、そういうプレイヤーはDEXにそこそこステータスを振っている。

 DEXは上げる事で【鍛冶】などの生産系スキルの成功率や生産物の能力値の上昇、また戦闘において()()()()()()()()()などがある。つまり大抵のプレイヤーはDEXの補正により現実ではできない行動が出来たりする。しかしDEXが0のハイドはそれらの恩恵を一切受けていないため、純粋なPS(プレイヤースキル)(この場合は蒼汰(ハイド)の脅威的なバランス感覚)でこの行動をとることが出来るのだ。

 

『スキル【跳躍Ⅰ】を取得しました』

 

(……ん? 何だ? スキル取得? っと、モンスター発見! 後にするか!)

 

 スキルを取得したが、その直後にモンスターを発見したため確認は後回しにする。

 発見したモンスターは角の生えた白兎。このゲームにおいて、最弱のモンスターである。

 

(お、運がいい……のかな? まぁ常に集団行動してるゴブリンや、この辺りで高レベルかつ毒の状態異常攻撃をしてくるフォレストクインビーよりは遥かに戦いやすいか)

 

 そしてハイドは発見したモンスター、白兎をじっと観察する。どんな行動をとるのか、どこが弱点なのかを予測するために。

 

(情報によればあの白兎……というかNWOのモンスターは基本アクティブモンスターだから、見つかれば即攻撃される。逆に言えば、攻撃動作に入っていないあの白兎はまだ俺を見つけてない。これならじっくりと観察できるな)

 

     ◇◇◇

 

 ハイドは白兎が移動するのに合わせてゆっくりと、尚且つ気付かれないように静かに移動し続ける。そうして約五分間、白兎を観察し続けた。

 

(弱点として狙いやすいのは首かな……頭や目に突き刺すのも手だけど、即時撤退がしにくいから却下。これだけ観察してもこっちに気付かないってことは、白兎は視線や気配を感知するタイプじゃない。なるべく気配を消してるとはいえ、【気配遮断】のスキル無しじゃ限度があるしな。断言してもいいだろう)

 

 ゆっくりとだが確実に、現地で確認したかった白兎(モンスター)の情報を得ていく。この白兎は目の前にプレイヤーが現れない限り攻撃を開始せず、遠距離攻撃をしなければ群れもしない初心者に優しいモンスター。

 普通最弱のモンスターにここまで必死になって情報を集める者がいなかったために、情報として流れていないければ必要ともされない情報だが。

 

(よしそれじゃあ攻撃を……あっ、しまった。フィールドに出る前に投擲武器を買っとけばよかった)

 

 観察して情報を集めてはいいものの、準備もろくにせずに フィールドに出てきてしまった事に今更気付く。

 

(まぁ今更嘆いてもしょうがないし、投擲武器は後で調達しよう。とりあえず今は目の前の戦闘(白兎)だ)

 

 後悔は一瞬で終わり、すぐさま切り替える。ハイドの当初の予定ではある程度相手のHPを減らしてから弱点らしき場所を切り裂いて倒すつもりだったが、HPを減らす手段が手元にある【初心者の短剣】しかないので予定を変更する。

 

(白兎の意識がこの木の反対方向に向いたら攻撃開始。首を切って離脱して、どんだけHPが減ったかを確認しよう)

 

 じっと息を潜めて白兎が背を向けるのを待つ。そして白兎が方向転換して背を向けた瞬間、木を蹴って一気に接近しその首めがけて短剣を振るう。

 

「きゅうぅっ!?」

 

 攻撃を受けた白兎は赤いダメージエフェクトを撒き散らす。

 そしてハイドは切り裂くや否や、白兎が振り向く前にすぐさま別の木に跳んでその身を隠す。

 

「きゅう!!」

 

 白兎が振り向く頃には、その場にハイドの姿はない。しかし攻撃を受けたことで戦闘モードに入った白兎は、キョロキョロと自身に攻撃を加えた相手を探し始めた。

 

急所(クリティカル)が入ったかどうかは分かんないけど、HPは半分……いや、ギリギリで半分減ってないな。じゃあ同じことを後二回か、やるだけやってみよう)

 

 急所(クリティカル)とは、モンスター毎に設定されている急所の事だ。その部分に攻撃を当てると、ダメージが増える。ただし急所に当てられたかどうかは、減ったダメージ量で憶測するしかない。

 

(……今だ!)

「……! きゅう!」

 

 先程と同じように、木を蹴って接近するハイド。しかし白兎は既に辺りを警戒していたため、今度は攻撃を受ける前に気が付き体当たりで迎撃をする。

 

(そりゃ気付くよね! 予想通り!)

 

 ハイドは空中で無理矢理体を捻って白兎の突進を避けると、再度首を短剣で切り裂きすぐに木の上に退避した。

 

「きゅい! きゅきゅう!」

 

(ダメージは大体三割か。やっぱ最初のは急所入ってたんだな。同じところを攻撃したつもりだったけど、今回はちょっとズレたか……)

 

 白兎が攻撃をしようときゅうきゅうと鳴きながらハイドの乗っている木の辺りを跳ぶが、残念ながら枝に跳び乗るにはジャンプの高さが低すぎる。

 

(飛び乗ってきたらどうしようとか一瞬思ったけど、よく考えたら最弱のモンスターがそんなSTR高い訳ないか。よし、これでとどめだ!)

 

 別の木に渡って白兎と少し距離をとると、すぐに木を蹴って接近する。白兎も迎撃の為に突進をするも、ハイドは先程と同じ様に白兎の首を切る。白兎のHPが0になり、パリンという音と共に光り輝く粒子となって消えていった。

 

『レベルが2に上がりました』

 

(あ、レベル上がった。白兎一匹倒すだけで2に上がるなんて、意外と楽だな。もう後二、三匹倒す必要があると思ってた。

 貰えるステータスポイントは、偶数レベル毎に5ポイントずつで十の倍数の時はその二倍だったはず……ならまだステータスに振らなくてもいいな。今振るとSTRとAGIのバランスが悪くなるし。ステータスポイントが10になる度に振ればいいか)

 

 ハイドは謎の拘りを見せて、ステータスポイントを振り分けるのを見送った。

 

(にしても思った以上に慣らしと戦闘に時間かかったな。ゲームを始めてもう二時間半ぐらいか……夕食まで時間があるし、もう少しだけ遊ぼう!

 ……ただモンスター倒す前に、一旦町に戻って投擲武器を買いに行くか)

 

 ハイドは投擲武器を調達した後、森に戻って木々に跳び移りながらモンスターを探し始めた。

 




お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが……実は主人公、作中でまだたったの一言も喋っていない!

そしてたった一回しか戦闘してないのに、四000文字オーバー……! 進まねぇ……!
次回はもうちょっと進ませたいですね。そして次回、ようやく主人公が喋ります。
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