派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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青い短剣使いと道場

「メイプルってば……一体何処であんなスキルを見つけてくるのかな……」

 

 つい先程、またも新たなスキルを取得して帰ってきたメイプルにより、スキルのお披露目が行われた。

 スキルの詳細については誰も聞かなかったが、メイプル本人の弁と実演によって機械を展開して砲撃が行えるようになったのは全員把握している。

 実はその機械がメイプルの装備から製作されており、その度に彼女の装備のステータス補正が強力になっていくのだが、その全てを知っているのは今のところメイプルのみである。

 

「イズさんもクロムさんもいつの間にか新しい装備になってるし……アレ多分【ユニークシリーズ】だよね? イズさんの方はどうか分からないけど、クロムさんの方は確実だね」

 

 サリーはイズが新しい装備になってから一緒にフィールドに出ていないが、クロムとは何度か共にレベル上げをしているので知っている。彼が装備の効果によって、明らかに死ににくくなっているのを。

 メイプルがどんな攻撃も通さない『鉄壁の城塞』とするならば、差し詰めクロムはどんなに攻撃を受けても倒れない『不死のアンデッド』だろうか。とにかくすぐにHPが回復するのだ。

 

「……メイプルが楽しんでくれてるのは嬉しいけど、それ以上にやっぱり負けたくないよ」

 

 このゲームは元々、乗り気じゃないメイプルにサリーが半ば強引に勧めたものだ。今まで幾つものゲームを勧めたのだが、メイプルがここまで楽しそうにプレイするのは初めての事だった。

 なのでサリーとしては、出来る限りメイプルに楽しんでもらうために色々としてあげたい。しかしそれはそれとして、やはりゲーマーとしてサリーはメイプルに負けたくなかった。

 

「それにメイプルだけじゃなくて、他の皆もどんどん強くなってる」

 

 先日新しくギルドに加入したユイとマイは、たった一日でギルドの即戦力になるまで成長した。そして【ユニークシリーズ】を取得したクロムとイズに、カナデも新しいスキルを取得している。

 

「ただでさえ【器用貧乏】で与えられるダメージが少なくなってるんだもん。もっとレベル上げて私も強くならないとね」

 

 【器用貧乏】に二刀流と、サリーにはダメージが減ってしまう要素が幾つか揃っているため、一撃の威力ではイズを除き最弱だ。

 その分を大量の手数で補ってはいるものの、やはり一撃の威力が大きいに越したことはない。そんなわけでサリーは、連日レベル上げのために三層を駆け回ってモンスターを片っ端から倒していた。

 

「あっ。あそこは……」

 

 サリーがレベル上げの最中に見つけたのは、一棟の少し古びた道場だった。

 その道場は既に掲示板でも話題になっており、中で受けられるクエストも判明している。ただそのクエストの報酬は、未だに情報が一切なかった。

 

「……さて、どうしようかな?」

 

 サリーは数分間道場を見て迷うも、結局クエストを受けるためにその道場の中へと足を踏み入れた。

 

「……ここでは特殊な武術を継承するための試練を行っておる。主にその試練を受ける覚悟はあるか」

 

 道場の中には、道着を着た老人が一人背を向けて座っていた。老人が立ち上がってサリーの方を向いて彼女に問いかけると同時に、サリーの目の前に青いパネルが表示される。

 

 クエスト【武術の継承】

 

 クエストの内容は単純であり、サリーの目の前にいる老人のHPを0にする事だ。内容を読んだサリーは、迷うことなく『YES』をタップする。

 

「えぇ。私はそのために来たの」

 

「よかろう。ワシは主と同じ武器で試練を執り行う。また予め言っておくが、ここは特殊な場所で主はスキルが一切使えん」

 

 そう言うと老人は、短剣を二本取り出して構える。それに合わせてサリーも自身の武器を抜刀して構えた。

 

「では……始めッ!!」

 

 開始の宣言と同時に、老人はサリーとの間合いを一気に詰めて彼女に短剣を振るう。しかしサリーとて、伊達に今までノーダメージで過ごしていない。向かって来る短剣を身を仰け反らせて躱し、身を起こしながら老人に反撃する。しかしその反撃も、短剣で防がれてしまう。

 

「おっと……!」

 

 再び襲って来る短剣を、サリーは後退って躱す。

 

「やっぱり強いなぁ。情報通りだね」

 

 未だにこのクエストの報酬の情報が一切ない理由はただ一つ、戦う相手である老人が強過ぎるのでクエストをクリアした者が誰一人としていないからである。

 そしてそれが、この道場に入る前にサリーが悩んだ理由でもある。今の自分に倒せるか分からず、【VIT】が0であるサリーは一撃でも攻撃が当たってしまえば倒されてしまうからだ。

 普段のサリーだったら、あまりにリスクが高すぎるため避けていたであろうクエスト。しかし今回はそのクエストを受ける事にした。

 

「……リスクを避けてばっかりじゃ強くなれない。それにもし失敗したとしても、結局私はそれだけの力しかなかったってだけ」

 

 サリーの頭に浮かんでくるのは、少し目を離した隙に爆発的に強くなる親友の姿。今はまだギリギリ隣に立てているが、何時突き放されてしまうか分からない。

 どんな攻撃も通さない親友の隣に立つため、どんな攻撃だって躱せる回避盾を目指した。ならばこのクエストも、ノーダメージでクリアしなければならない。

 

「さて、私が親友(メイプル)の隣に立てるか……試させてよ」

 

 そう言って今度はサリーの方から間合いを詰め、老人に短剣を振るう。

 老人は短剣を躱したり弾いたりして攻撃を凌ぐが、流石にサリー程完璧に対処できず、いくつか体に当たり赤いダメージエフェクトが弾けた。

 

「はぁっ!」

「何の!」

 

 老人はダメージを受けてもそのまま距離を開けず、サリーに反撃を行う。しかし老人の攻撃は一向に当たらず、逆にサリーの攻撃は彼女が老人の動きを見極め始めたため、段々と当たる数が増えていった。

 

「(よし! 動きに慣れてきた! このまま削っていきたいところだけど……!)」

「フハハハハハ! お主中々やるのぅ! ここまで骨のある相手は久々じゃ! ワシも楽しくなってきたぞ!」

「まぁ、そう簡単にはいかないよね……」

 

 老人のHPが半分を切ると、一旦距離を離した老人が高らかに笑う。

 この動作を行動パターンが変わる切っ掛けだと悟ったサリーは、より一層気合を入れて“集中”し始める。

 

「やれやれ、年を取ると体が温まるのに時間がかかっていかんな。では仕切り直しじゃ。これからは本気で行くぞ」

 

 そう言うや否や、先程とは段違いの速度で老人の短剣がサリーに迫る。サリーが何とか回避するも、老人はすかさずもう片方の短剣で切りかかる。

 

「ほっ! くっ! ちょっ、知ってはいたけどいきなり強くなり過ぎじゃない!?」

 

 連続で襲ってくる短剣をサリーは身を捻ってギリギリで躱すも、その攻撃速度から反撃に移れない。

 ある程度の上位プレイヤー達も、HPを半分まで削りこの段階まで進める事は出来ている。しかし、そこから段違いの強さになる老人に、全員為す術もなく倒されていた。

 

「……っ!」

 

 サリーは高速で次々襲って来る短剣を何とか手に持つ短剣で弾くと、一瞬できた隙を逃さず老人に斬りかかる。

 その攻撃はいくつか老人の体に届くも、全て浅く大したダメージにはなっていない。

 

「(くっはぁ! 疲れる! でも常に集中してないと斬られて終わる!)」

 

 現在サリーは過去に地底湖の中に見つけたダンジョンのボスと戦った時と同じく、本気で集中して老人の相手をしていた。

 短時間しか維持できないモードではあるが、出し惜しみしていたらそれこそ勝てないと使用に踏み切ったのだ。

 しかし老人に当たる攻撃は老人が器用に身を捻って躱すため一度も直撃しておらず、ダメージが非常に少ない。

 

「くぅ……!(っ! 危ない! 油断するとすぐ集中が切れちゃう! でも流石に長くやりすぎた……!!)」

 

 老人のHPは残り三割程だが、サリーの状態は非常に悪い。

 まず本来なら短時間しか使用できない集中モードを、既に一時間以上も入り続けている。もちろん入っていないとサリーでも瞬殺されるため使用せざるをおえないのだが、流石に長時間無理矢理入り過ぎてしまった。その結果、精神的疲労が非常に溜まっており、思考力が徐々に鈍ってきている。

 そうなってしまっている原因は、やはり相手である老人の脅威的な強さにあるだろう。

 HPが半分以下になり能力が上がってから、老人はサリーから一撃も直撃を受けていない。一応攻撃自体は当たっているのでHPは減ってきているのだが、その速度は非常に遅い。

 

「早く、倒れてよ……っ!(後二割! もうちょっと! お願いもってよ私の集中力!!)」

 

 サリーは思考が鈍りきらない内に老人を倒したいのだが、老人のHPは中々減ってくれない。サリー自身も自分の集中力が切れかかっているのを自覚しているため、段々と焦りが募っていく。

 

「(焦っちゃダメだ! 焦ると集中が乱れる! それだけは絶対に避けないと!!)」

 

 焦ると思考が乱れ、集中が切れやすくなってしまう。なので焦りが出始めた事を自覚したサリーは、短剣を振るいながら深く息をして思考を整える。

 

「(落ち着け。集中しろ。隙を見逃すな! で、でも……もう、限界……!)」

 

 老人のHPを残り一割まで減らす事が出来たが、彼女の体力は既に限界だった。しかし途切れそうになる思考を、サリーは無理矢理繋ぎ止める。

 

「お願い……! 後ほんの少しだけ、耐えてよ私の体……!!」

 

 その時、サリーは不思議な感覚を覚えた。

 先程まであんなに感じていた疲労感が吹き飛んだかのように身体は軽く、感覚は研ぎ澄まされていく。

 あれほど速いと思っていた剣速はこの感覚の中では遅く感じられたし、防ぐのが精いっぱいだと思っていた攻撃の嵐にも僅かながらに付け入る隙を見出せた。

 限界を超えた先の覚醒が、一時的ではあるがサリーを遥か高みの領域に押し上げたのだ。

 

「えっ……何、この感覚……?」

 

 経験した事のない感覚に一瞬唖然とするも、迫りくる老人の短剣に慌てて意識を戻した。

 

「っ! はああぁぁぁっ!!」

 

 そしてサリーはその攻撃を躱してスルリと懐の中に入ると、渾身の力を込めて短剣を振るう。

 そのあまりに近すぎる距離から放たれる斬撃は、攻撃直後という事もあり避ける暇を与えず老人の体に直撃した。

 

「う、ぐおおぉぉぉ……!」

 

 残り一割しかなかった老人のHPは、攻撃が直撃したことによってみるみる減っていく。そしてやがてHPが0になり、老人は道場の床に倒れて動かなくなった。

 

「お、終わった……。勝てたぁ~~……」

 

 老人のHPバーが消滅するのを確認したサリーは、集中が切れてその場にへたり込んだ。

 

「も、もうダメ……動けない……」

 

 一時的とはいえ限界を超えたサリーの脳は既に疲労で限界であり、いつ気絶してもおかしくない。サリーはそのレベルまで脳を酷使していたのだ。

 

「ハハハハハ! 見事! 見事だったぞ挑戦者よ!」

 

 サリーが疲労でぐったりしていると、倒れた老人が笑いながらむくりと起き上がった。サリーも立ち上がろうと床に手をついて力を籠めるが、体に力が入らず立ち上がれない。

 すると老人は、サリーの傍まで歩み寄ってきた。

 

「……うむ。主はこの武術を継承するに相応しい技量を持っておる。合格じゃ」

 

 そう言うと、老人は懐から四つの巻物を取り出した。巻物にはそれぞれ【火】、【水】、【土】、【風】と書かれている。

 

「ワシの使う武術は、武器に属性を這わせる技じゃ。その種類は【火】、【水】、【土】、【風】の四種。主が使える属性の数によって威力が変わる。さて、主はどの属性を好む?」

 

「……ねぇ、おじいさん。属性ごとに何か特徴とかってあったりするの?」

「……」

 

 サリーが老人に質問するも、老人は巻物を突き出したまま動かない。どうやら答えてはくれないらしい。

 

「……まぁ、ダメもとだったからいいけどね。でもこれは慎重に決めないと」

 

 元より聞いたぐらいで教えてくれるのなら最初から説明していると思っていたので、切り替えて各属性でありえそうな変化を考える。

 

「火は攻撃で土は防御で風が速度……かな? 後は水だけなんだけど……それは色々候補がありそう。とはいえ、結局答えはスキルを取得しないと分かんないんだけどね」

 

 考えたところで答えが出る訳でもないため、サリーはとりあえず次に自分が覚えているスキルを思い浮かべる。

 

「魔法系スキル以外で四種類の属性に関係があるのは、【古代ノ海】だけか。このスキルは水属性だろうね。朧のスキルは火属性が多いけど、そこは一旦置いておこう。多分、自分が覚えてるスキルじゃないと意味ないし」

 

 こう考えてみると、選ぶ属性は決まったようなものだった。サリーは頷くと、老人を見上げる。

 

「【水】を貰おうかな」

「分かった。では主にはこれを授けよう」

 

 サリーの言葉を聞いた老人は【水】以外の巻物を懐に仕舞い、残った【水】の巻物をサリーに差し出す。

 その巻物をサリーが手に取ると、巻物が開かれて自動的にスキルが取得された。

 

『スキル【武操術・水式】を取得しました』

 

【武操術・水式】

水属性を操る特殊な武術。取得している水属性のスキルの数やスキルレベルに応じて威力が増す。

Ⅰ~Ⅹレベル。レベル毎にスキルを一つ獲得。特殊条件にてスキルを追加取得。

 

「あ、これスキルレベルも関係あるんだ。じゃあこれから使うのは【水魔法】が中心になるかな? それに水属性のスキルの情報もあったら積極的に集めた方がいいね」

 

 サリーはメイプルとは違い、掲示板やゲーム内で情報を集めて効率的にスキルを取得して強くなるタイプ(大抵のプレイヤーはそうなのだが)であり、自分が使わなそうなスキルは情報を得たとしてもスルーしていた。

 

「使える使えないは置いといて、取得するだけでいいなら集める価値があるかも。別に取得スキルの上限とかないしね」

 

 一先ず考察を終えたサリーは少し休憩して体が回復してきたので、今度こそ手に力を入れて立ち上がった。

 

「この武術を使いこなす事が出来たら、またここに来るといい。その成果によっては、奥義を伝授してやる」

「え? えぇっと……お、お願いします?」

「ではさらばじゃ」

 

 立ち上がったサリーにそう言い残すと、老人は道場の奥の扉を開けて姿を消した。

 

「……えっと、これがスキルに書いてあった『特殊条件にてスキルを追加取得』って訳? またあの人と戦うとか、きついんだけどなぁ~」

 

 とりあえずもう用事(クエスト)も無くなったので、道場の出口を目指して歩き出す。まだ体は若干ふらつくものの、立ち上がれもしなかった先程よりは大分マシである。

 

「さっき入ったモード……入ったのは偶然だったけど、凄かった。使うとクタクタになっちゃうけど、リスクに見合うだけの価値はある。それにクタクタになるのだって、単に私はこれを使いこなせていないだけかもしれない。集中モードの時だってそうだったんだし」

 

 サリーの特徴として挙げられる人並外れた回避力だが、それを可能としてるのは過剰な集中力である。

 そしてその集中力だが、別に最初から使いこなせていた訳ではない。使い始めた頃は使用できた時間も短く、使用後は気絶とまではいかずとも体が碌に動かせず、思考も大部鈍くなっていた。

 それを何度も使用する事で克服し、意図的にモードに入れるぐらいにまで使いこなせるようになったのだ。サリーは、今回の感覚も同じものだと考えた。

 

「それに新しいスキルも手に入った。今回は大収穫だったね。早速スキルを試してみたいところではあるんだけど……」

 

 サリーは新しいスキルが手に入ると、ほぼ毎回その使い心地や用途を確認するためすぐに取得したスキルを安全な場所で試していた。ぶっつけ本番で新スキルを使用するなどという博打は、ノーダメージを目標にしているサリーには到底できない。

 しかし今回の場合は、少々事情が異なった。

 

「もう起きてるのも限界なんだよね。立ってられてるのが不思議なくらい。こんな状態で使っても碌な検証だろうできないし、スキルを試すのは明日にしよう……」

 

 経験した事のない程の疲労感に襲われていたサリーは、ログアウトできる地点まで何とか自力で歩いてログアウトを選択した。

 

「今度皆がいる時に、クエストのこと話してみよう。きっと驚くだろうな」

 

 老人の強さ故に誰一人としてクリア出来なかったクエストをクリアしたので、皆さぞ驚くことだろう。

 その時のメンバーの反応を想像し、サリーは笑みを浮かべながらゲームから消えていった。




サリーの『限界の先の集中』(勝手に命名)を、一足早く経験させました。ただし使いこなせるようになるのはもうちょっと先の予定ですし、自由に入れる訳ではありません。
ついでにサリーが集中モードを使いこなすまでの経緯を捏造してみました。まぁきっとこれぐらいは苦労したんじゃないですかね? まさか最初から問題なく使いこなせていたとかそんなリアルチートな存在じゃないと思うので。

オリジナルクエスト
クエスト【武術の継承】
クエスト発生条件:クエスト発生場所に行く。使用武器が近接武器であること。
クエスト発生場所:フィールドの奥地にある道場
クエスト内容:道場の中にいる老人に話しかけ、試練を受ける。
クエスト報酬:【武操術・〇式】(〇には火、水、土、風のいずれかが入り、クエスト達成者が選択する)

老人の強さは、クエストを受けるプレイヤーのステータスによって変わります。
例えばレベル30のプレイヤーの場合、そのプレイヤーの割り振れるステータスポイントである190の数値が老人のステータスに割り振られます。

次回は、イベント前の最終調整です。
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