派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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第四章 暗殺者の団体戦
暗殺者と地形把握


 イベント専用フィールドへの転移が終わって光が薄れると、ハイド達の目の前には緑色に光るオーブとそれが乗った台座が置かれていた。

 ここが自分達、【楓の木】の本拠地である事はすぐに理解できた。本拠地は洞窟となっており、台座が置かれている広い部屋から別の場所へ移動できる通路は三本のみだ。早速ハイドとサリーとカスミが、それぞれの通路を素早く探索して帰ってくる。

 

「こっちは行き止まりで水場があるぐらいだったよ。休めそうだね」

「こっちは何もなかった。横になるぐらいは出来るだろうがな」

「……こっちの通路は地上に繋がっていた。辺りは森だ」

「ハイドが行った通路しか地上に繋がっていないのか。これは確かに防衛しやすそうだな」

 

 今回のイベントは、各ギルドに配備されたオーブの争奪戦となる。

 ギルドは所属人数によって大、中、小の規模に分類され、その規模によって獲得するポイントが異なる。

 【楓の木】は小規模に分類されるため、オーブを本拠地で六時間防衛すればプラス2ポイント。他ギルドのオーブを本拠地に持ち帰って三時間防衛すれば【楓の木】にプラス2ポイントで、オーブを奪われたギルドはマイナス3ポイントとなるが、防衛時間三時間の間に奪還された場合はポイントの増減はない。ギルドの順位は、そのポイントの総数によって決定される。

 またオーブはポイント処理が終わり次第元の場所に戻されるので、無理に取り返す必要はない。敵わない相手だと判断して奪還を諦めれば、三時間後には自動的に返ってくるのだ。

 そしてギルドの規模が小さい程、本拠地が防衛に適した地形となる。【楓の木】の本拠地は洞窟であるため上空を警戒する必要がなく、侵入経路も通路が一本なので背後からの奇襲の心配もない。防衛にこれほど適した地形も中々ないだろう。

 

「じゃあ、私達は攻撃に」

「おう、予定通りにいこう」

 

 時間が惜しいとばかりに事前に決めた攻撃組であるサリーとハイドとクロムとカスミの四人は、本拠地である洞窟を飛び出した。

 

「ハイドはまず好きに動いてどんどんオーブ奪ってきて。多分そっちの方が向いてるだろうしね。死なないように気を付けてよ」

 

 死亡についてもペナルティがあり、四回目までは段階的なステータスダウン、五回目でリタイアとなる。また、ギルドメンバー全員がリタイアしたギルドにはオーブが発生しなくなる。

 【楓の木】はギルドの所属人数が十人しかおらず、この人数は臨時ギルドを含めた全ギルドの中でも最少クラスだ。そのため一人でもメンバーが欠けてしまうと致命的であり、一度でもポイントを大きく離されてしまうとまず追いつけなくなるという常に余裕が無い状態なのだ。

 

「……了解。出来る限りオーブを盗ってくる」

 

 ハイドはこのルールが運営より発表された直後に、【楓の木】の参謀であるサリーとカナデに一人で行動させてほしいと提案していた。

 ハイドとしては無理に複数人での攻撃に回されるよりも、一人の方がステータスが上がりやすいので効率がいい。もちろん少しでも人数を多くして襲撃した方が有利にはなりやすいので、その辺の判断を参謀に丸なg……もとい、全面的に任せるつもりである。

 

「しかしハイド、本当に一人で大丈夫なのか?」

 

 面倒見が良く保護者気質のあるクロムは、ハイドが一人で行動すると聞いた時から同じことを何度も聞いている。

 何度も聞かれ続けているので、ハイドの回答は実に慣れたものだ。

 

「……大丈夫ですよクロムさん。何度も言ってる通り、俺は姿を隠すスキルが幾つもあります。それを使って盗んでくるだけです。それにパーティーメンバーからも姿が見えないので、一人で行動してオーブ盗んだ方が効率良いんですよ」

「クロム。私も気持ちは分かるが決まった事だ。それにお前も最後は納得して作戦を決めただろう」

「いや、まぁそうなんだが……」

 

 ハイドを心配したのはクロムだけではなく、作戦を聞いた他のメンバーも同様だった。そしてハイドに同じ問いかけをして、同じ内容を言われている。

 

「クロム。お前のその面倒見の良さは美点だと思うが、あまり駄々捏ねるなよ」

「あぁもう分かったよ。ハイド! 気を付けるんだぞ!」

「……クロムさん達も気を付けてくださいね」

 

 それだけ言い残すと、ハイドはさっさと木の上に跳び上がって移動し始める。クロム達はそれを見送ると、自分達も仕事をせねばと外見を隠すローブを身に着けて探索を開始した。

 

(心配してくれるのはありがたいんだけど、やっぱりクロムさんって心配性だよなぁ。大丈夫だって何度も言ってるんだけど……まぁ別に、嫌な訳じゃないんだけどさ)

 

 一方ハイドは、ローブを身に着けずに普段装備している【ユニークシリーズ】のままで探索をしていた。

 元々彼は『忍の頭巾』によって顔の大部分が隠れているため、外見を隠すだけで特に装備効果のないローブは不要という事になったのだ。ハイドとしても慣れない物を身に着けて行動するのは勘弁して欲しかったので、内心助かったと思っている。

 

(おっ、早速ギルド一つ発見! アレは小規模かね?)

 

 ハイドが見つけたのはオーブが乗っている台座と、その台座から少し距離を置いて囲みながら守っている八人の男達の姿だった。

 現在ハイドは少し離れた木の上からその男達の様子を窺っているのだが、その正面方向はかなり高い崖が聳え立っており、残り方角も特に身を隠す場所が無い広場だ。【楓の木】程ではないが、防衛に適した地形といえるだろう。防衛に当たっている男達も、周囲に他のプレイヤーが見当たらないせいか若干気が緩んでいるように見える。

 

(まぁだからこそ俺が付け入りやすいんだけどな。オウル、【覚醒】)

「ホー」

 

 指輪から呼び出されたオウルは、少し羽ばたくとハイドの傍の枝に止まる。続けてハイドはオウルに指示を出した。

 

(オウル、『俺を対象に【隠密】だ』)

「ホー」

 

【隠密】

指定したパーティーメンバーの気配及び姿を隠す。感知系スキル無効化。

スキル発動中、毎秒50のMPを消費。

複数人指定可。その場合、その数に応じてMP消費が多くなる。

 

 スキルが発動したのを確認すると、ハイドは急いで台座の下まで移動する。オウルは大分レベルも上がってMPもかなり伸びたのだが、このスキルはMP消費が激し過ぎるので時間を無駄には出来ない。

 

(よし、オーブ盗った! 【潜伏】。オウル、『スキルを解除』)

 

 台座の下に潜りながらオーブをインベントリに収納し、自前のスキルを使用してオウルのスキルは解除させる。

 

「ん? あっ! おい! オーブが無くなってるぞ!」

「何だと!?」

「いつの間に!?」

「マップを見ろ! オーブの位置はどこになってる!?」

「おかしい! オーブの位置が動いてない!」

「どうなってんだ!?」

 

 オーブが台座から消えたのはすぐに気付かれたが、ハイドが台座の下から動いていないためマップに表示されるオーブの位置は台座付近のままである。厳密にはほんの少しだけ動いているのだが、流石にそんな数ミリの誤差など気付くはずもなかった。

 

(見張ってる人の配置や人数にもよるだろうけど、【潜伏】使って隠れる必要なかったな。多分普通に抜ける。これならさっさと逃げた方が良かったな)

 

 ハイドはマップにはオーブが表示されているのに台座にはないという混乱に乗じて立ち去るつもりだったのだが、普通に素早く立ち去った方が早かったようである。

 

(今更後の祭りだけど。こうなりゃ隙ついて逃げ出すか……今だ! 【隠れ身】! 【跳躍】! おまけで【地獄耳】! オウル、『着いて来い!』)

 

 ハイドは三秒間だけ姿を隠す【隠れ身】を発動させると、素早く移動してその場を離れる。男達に見つかる前に、次のギルドを見つけるつもりなのだ。

 

「あっ! オーブが動いたぞ!」

「どうなってんだよ!?」

「言ってる場合か! とにかくオーブが移動してる場所まで行くぞ!」

(やっぱりすぐに気付きますよね! オーブが動いてないのに消えてんだもん! そりゃマップ見てるよね!)

 

 見張りの男達がマップに表示されているオーブが台座の位置から動いたことに気付いた時には、既にハイドは目視出来ない地点にいたが、プレイヤーのマップにはハイドがインベントリに収納したオーブの位置が表示されている。

 追い駆けてくる見張りの声を【地獄耳】の効果によって上がった聴力により聞き取ると、ハイドはそのまま別の声がする方向へと走り出す。

 

(会話の内容は正確に聞き取れないけど、感じからして多分オーブを守ってる見張りのプレイヤーだ! 丁度いい! このまま押し付けてやる!)

 

 ハイドは会話の音を辿ってギルドの付近まで移動し、見つけたギルドのオーブ周辺の様子を窺う。

 見つけたギルドは少々規模が大きいようで、先程のギルドよりも木々や茂みが台座の近くまで生えている。しかも先程とは違い崖もないので、全方位が森で囲まれており見通しが悪い。非常に隠れやすく、ハイドにとって都合がいい条件が整っていた。

 その分見張りも二十人近くと多いため正面突破で奪う分には苦労するだろうが、ハイドの目的は追ってきている他ギルドのプレイヤーを押し付ける事なので何の問題もない。寧ろ人数が多い方が、その中に紛れ込みやすい。

 

(追ってきてる連中は多分この数を見たら引き返すだろうし、それまでちょっと待機かな。おっ、来た来た)

 

 自分を追い駆けてきた男達の姿を確認すると、ハイドは見つからない様に木の陰に身を隠し息を潜める。

 ハイドの身に着けている装備は全体的に黒いため、明るい場所ならともかくこの見通しの悪い森の中では非常に見つけづらいのだ。

 

「ここら辺に俺達のオーブがあるぞ!」

「誰だが分からねぇが、絶対に奪い返してやる!」

「……ん? お、おい。まさか、あのギルドの連中が奪ってったのか?」

 

 男の一人が近くの集団に気付き、震える声で指をさす。残りの男達がその方向を見ると、自分達の三倍近くの人数でオーブを守る集団の姿だった。

 

「……取り返せるか?」

「この人数差でか? 無理に決まってんだろ」

「ワンチャンすらねぇよ」

「……諦めるか」

「「「「「「「……そうだな」」」」」」」

 

 オーブを取り戻せるなら死に戻ってもいいぐらいの覚悟で追いかけてきたのだが、流石に全員死亡確定の死地に飛び込む勇気は無かった。男達はハイドの予想通り、人数差に諦めて戻っていった。

 

(よし。これでもうあの男達は、逐一オーブの場所を監視しないで時間経過を待つだろ。このギルドは人数が人数だしな、盗るなら落ち着いて……少なくとも追われながら慌てて盗れる相手じゃない)

 

 そのために追い駆けてきた男達が撤退するまで待ったのだ。ハイドの耳にも、もう男達の声も足音も聞こえてこなかった。

 

(普通に盗るだけじゃ全員で取り返しに来そうだし、少し暴れるか。【隠れ身】【跳躍】)

 

 姿を隠しながら跳び上がり、集団の中に着地する。本来なら着地の際には若干音が鳴ってしまうものだが、ハイドの場合は【寡黙】により行動時の音が一切発生しないので、姿さえ隠していれば誰にも気付かれる事はない。

 

(一気に行こうか! 【弱点看破(ウィークネス)】【影の結界】!)

 

 ハイドがスキルを発動させると、周囲が一瞬で黒くなり視界が遮られる。何の前触れもなく起こった異常事態に、男達は訳が分からず混乱して動き回る。

 

「うおっ!?」

「何だ何だ!?」

「落ち着け! どこかに敵がぐあっ!」

「おいっ! 何があっが!?」

(【暗殺】【ピンポイントアタック】! 【暗殺】【ピンポイントアタック】!)

 

 相手側の混乱が収まらない内に次々と相手を即死させていき、ついでにオーブも盗んでおく。

 男達は奇襲をかけられているのは既に察していたのだが、周囲の状況が分からない中で武器を振るうと味方に当たってしまうため迂闊に攻撃出来ない。

 一方のハイドは【暗視】の効果により周囲の状況確認はバッチリである。近場の相手から手当たり次第にどんどん攻撃していく。

 

(そろそろ効果が切れるな。そんじゃさいなら! 【隠形】! 【跳躍】!)

 

 結界の効果時間が切れる直前で姿を隠すと、それ以上は無理をせずさっさとその場を離れる。

 ハイドがその場を離れた瞬間、効果が切れた結界が消滅して周囲の状況がようやく把握できるようになった。

 視界が戻った男達が見たのは、オーブが無くなっている台座と半分にまで数が減らされた仲間達の姿だった。

 

「元に戻った!」

「オーブが無いぞ!」

「奪って行った奴を探せ!!」

「マップを確認しろ! まだそんなに遠くまで移動してないはずだ!」

「追い駆けろ!」

 

 すぐに行動を開始した男達は、残った人数全員でハイドを追い駆ける。しかし単独で木の上を移動しているハイドと集団で地面を走っている男達では、【AGI】の面から言っても移動速度が違い過ぎた。

 

(楽勝だな。でも油断はしない。このままどんどんオーブを盗っていこう!)

 

 木の上を跳んでいきながら【地獄耳】を発動し続けて音で周囲を探知するハイドは、そのまま全力で次のギルドを目指して素早く移動した。




ハイド大活躍。サリーもハイドと似たような事していますが、ハイドは倒すよりも盗む方に重点を置き、サリーはどちらかと言えば倒す方に重点を置いている感じですかね。
まぁステータスや取得スキルが違うので、どちらが正解とか効率がいいとかは無いんですけどね。

次回は、大規模ギルドです。
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