派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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遅くなってすみません。
仕事が忙しかったのもありますけど、今後の設定を練るのが楽しくなって気付いたら時間が過ぎている日々だったのです……ホント申し訳ない。

では、本編です。


青い短剣使いの危機的状況

「見つからねぇ! どこに行きがぁ!?」

(【暗殺】【ピンポイントアタック】っと)

 

 防衛をしていた最後の一人を【暗殺】により即死させると、ハイドは台座に乗ったオーブをインベントリに入れる。

 

(これでオーブ六つ目っと。結構溜まって来たな。一回ギルドに戻るか?)

 

 日が沈んでから三時間が経過した頃、ハイドはオーブを強奪するためにフィールドを駆け回っていた。

 スキルの構成上基本的に隠れて行動するハイドにとって、今の時間帯はかなり動きやすいのだ。

 

(う~ん今いる場所は比較的ギルドに近いし、オーブ溜め過ぎてうっかりキルされたらそれこそシャレにならない。途中で奪えそうなギルドを探しつつ、一回戻ってオーブを渡してくるか。って、ん? これって……)

 

 マップを見ていると、防衛に就いているはずのカナデのマーカーが何故かギルドを離れており、ギルドの方向に動いているのが目に入る。

 

(……ふむ。都合がいいな。カナデと合流してオーブを渡しておこう)

 

 幸いな事にハイドはカナデの進路上に立っていたので、カナデがハイドの場所に着くまでそのまま待機する。そしてしばらくすると、カナデが足に炎を纏わせながら走ってきた。

 

「……カナデ」

「うわっ! ってハイドさんか。どうしたの?」

「……オーブを取ってきた帰りか?」

「まぁね。サリーがちょっと無理してるみたいだから、少しでも楽になればいいなと思って」

 

 サリーは現在ハイドと同じくフィールドを駆け回ってオーブを集めているのだが、数から言ってもサリーが無理をしているのは誰の目からも明らかだった。そのためカナデもギルド襲撃に足を運び、彼女の負担をできる限り減らそうと考えたのだ。

 

「メイプルがいれば、拠点の方はまず大丈夫だからね。安心して任せれたよ」

(まぁメイプル以上の盾はこのゲームにはいないしな。ユイとマイが傍にいるなら、まず近付けないだろうし)

「それで、ハイドさんはどうしたの? 僕が拠点から離れてたから話しかけた訳じゃないよね?」

 

 ハイドは人付き合いが出来なくはないが苦手だ。それは既にギルド内の全員が知っている。

 

「……俺が取ってきたオーブも、ついでにギルドに届けてくれると助かる。俺はこのまま別のオーブを狙いに行く」

「分かった。オーブは預かるよ。僕はそう何回もオーブを取りに行けないから、そっちの方はお願いね」

「……了解した」

 

 カナデの強さは、【魔道書庫】に【魔導書】として保管されている強力なスキルや魔法に依存している。そしてその【魔導書】は使い捨てであり、戦闘が長引けば長引く程どんどんカナデは不利になっていく。

 実は今回のベントにおいて、【楓の木】のメンバーの中で一番不利なのはカナデなのだ。

 

「……今持っているオーブはこの六つだ」

「わお、凄いね。もう六つも取ってたんだ。じゃあ僕はこれ持って防衛の方に戻るね」

「……あぁ、頼んだ」

 

 そう言うと、カナデはギルドの方へ走っていく。

 そしてハイドも、再び他のギルドを襲うためにカナデと逆方向へ跳び上がった。

 

     ◇◇◇

 

(ふぅ……流石に疲れてきたな。もう今日は拠点に戻って休もうかな?)

 

 時間はさらに経過して深夜一時近く。

 ハイドはオーブを奪ったギルドからの追っ手を振り切った後、適当な木の枝に座り込んで軽く休憩していた。

 既にイベントが始まってから十二時間以上が経過しており、流石のハイドも疲労の色が隠せない。時間を見つけて体を休めてはいたものの、長時間の休憩を今まで一度も取っていないのだ。

 

(とはいえ、俺達みたいな小規模ギルドが最終順位で上位十位以内に入るには、序盤でたくさんポイントを稼いで逃げ切るしか方法はない。いくつものギルドが脱落した終盤で追いつくなんて絶対無理だ)

 

 【楓の木】のメンバーは一人一人がとても癖があり強いので、個々の能力で見れば大規模ギルドにだって決して負けはしない。

 しかし今回のイベントでランキングの上位になるには、ギルドの所属人数が重要だ。

 そして【集う聖剣】や【炎帝ノ国】を含めた大規模ギルドの所属人数は、【楓の木】と比べると文字通り桁が違う。一度引き離された場合、その後追いつく方法はない。

 

(時間的には今はイベント二日目。一つのギルドからオーブを取れるのは一日一回だから、もう一回取ったギルドからもオーブを取れる。もう脱落したギルドが所々出て来てるから、全滅しそうなギルドから最優先に狙って行かないと取りにくいギルドばっかりが残っちゃうな。一旦ギルドで休んだら、急いでまたオーブを取りに出ないと)

 

 ハイドが休んでいた木の枝から立ち上がり、頭を振って切れかけていた集中を再び入れ直そうとした時、ふと視界に何人かのプレイヤー達が目に入り息を潜めて気配を殺す。

 

(あっぶねぇ。下手したら見つかってたな。でもあの連中何が狙いなんだ? 何か嫌な予感がする……ちょっと探ってみるか)

 

 ハイドが【地獄耳】を使用して周囲の様子を探ると、百人以上のプレイヤーがゆっくりと包囲網を形成していた。

 

(えっと……今俺がいるのがここだから、あの連中の包囲の中心は……)

 

 流石に音のみで正確に周囲の状況を探る技術など持っていないため、マップを開いて包囲の中心地を照らし合わせてみる。すると、そこには一人のプレイヤーの名前が表示されていた。

 

(なるほどね。暴れ過ぎたのか……心配が現実になったな)

 

 ハイドはマップでその名前が表示されている場所を確認すると、休憩を切り上げて見つからない様に慎重にその場所に向かって移動する。

 そもそもマップには同じギルドのメンバーしか表示されない。そして現在【楓の木】の中で単独で襲撃に出かけているのは、ハイドの他にはたった一人しかいない。

 そう。表示されていたのは、『サリー』だったのだ。

 

     ◇◇◇

 

「【弐式・水切り】!」

 

 空中で薙ぎ払われたサリーの短剣から、水の斬撃が勢いよく飛び出してその先にいた二人のプレイヤーを光に変える。

 そしてサリーは斬撃の結果を確認する前に、自身を包囲している別のプレイヤーに狙いを定めた。

 

「【トリプルスラッシュ】! 【伍式・雨霧(あまぎり)】!」

 

 二刀流とスキルの追加ダメージの合計十二連撃を食らったプレイヤーは、一瞬でHPを削られ消えていく。

 そしてそのままサリーが短剣を振り回すと、短剣の先から雨のような霧が発生して彼女の姿を覆い隠した。

 

「(あぁもう最悪! 後は帰るだけだったのに……!)」

 

 サリーはギルド全員での拠点防衛の後から、一度も拠点に戻らずにフィールド中を駆け回っていた。

 そのお陰で現在サリーのインベントリの中には十個ものオーブが入っているのだが、彼女の目的はオーブ奪取だけではない。

 一番の目的はイベントフィールドの把握だったので、それを達成するまで帰るわけにはいかなかったのだ。

 しかしそれもつい先程達成して拠点へ帰還しようとした矢先に、自身を囲むプレイヤーの集団の気配を察知したのだ。その数、ざっと百人以上。

 

「(油断してた! 疲労でいつの間にか索敵が疎かになってたんだ!)」

 

 原因はすぐに分かったものの、既にゆっくりと反省している時間はなかった。

 サリーが迎撃の為にイズから渡されたステータスを上昇させるアイテム、【ドーピングシード】を五つ口の中に放り込んだ直後、相手の誰かの魔法によって周囲が昼間のように明るくなった。それが戦闘開始の合図となり、現在に至るのだ。

 

「【壱式・水剣】【ダブルスラッシュ】!」

「【パワースラッシュ】!」

「【肆式・液状化】」

「はぁっ!?」

 

 身動きが出来なくなる代わりに、体を液体にして物理攻撃を完全に無効化するスキルを発動すると、サリーの頭を直撃するはずだった大剣はそのまま彼女の体を素通りして地面に突き刺さる。

 驚いて動きが止まってしまったプレイヤーは、スキルの効果時間が経過して行動可能となったサリーの短剣の餌食となり消えていった。

 

「ふぅ……やっぱりこのモードは凄いや。全然違って見える」

 

 サリーは現在、以前クリアしたクエスト【武術の継承】で会得した集中力を使っていた。

 未だ完全に使い熟せるわけではなく、使用するには極度の疲労と危機感というスイッチが必要であり、使った後には疲労で三分は体が碌に動かせず思考も働かなるという副作用も残ったままだ。

 しかしそのデメリットを差し引いても、誰もクリアできなかったクエストをクリアする要因となったこの集中力は素晴らしいものだった。

 

「【クアドラプルスラッシュ】!」

 

 また一人、サリーによって光に変えられたプレイヤーが消えていく。

 既に二十人以上倒しているのに、サリーの動きは衰えを見せない。寧ろ集中力が上がっていって、動きに切れが増している程だった。

 

「何なんだコイツは! 【炎斬】!」

「うおらぁ!」

「狙いが甘いよ! 【トリプルスラッシュ】【水撒き】!」

「がっ!」「うわっぷ!」

 

 左右からの同時攻撃も、一方は紙一重の回避と【トリプルスラッシュ】で、もう一方は【武操術・水式】の威力上昇の為に覚えたスキルで乗り切る。

 【水撒き】は手の平から出した水を採取を終えた木や地面に対して使用すると、再採取の時間を短縮できるスキルだ。

 サリーはレベル上げのついで程度しか採取を行っていなかったので最初に掲示板で見つけた時はスルーしたのだが、まさかのタイミングで役に立ち正直彼女自身も驚いていた。

 

「(でも考えてみたら、戦ってる最中にいきなり顔面に水を掛けられたら普通は怯むよね。戦闘に使えないって思ってたから今まで採取の後にしか使ってなかったけど、この使い方なら戦闘でも使えそう。先入観を持たないってホント重要だなぁ……あぁ、だからメイプルは強いのか)」

 

 思わず辿り着いた親友の強さの秘訣に、サリーは苦笑する。

 その時、何処からか指揮官らしき人物の声がサリーの耳に入ってくる。そしてその声は、サリーにとって聞き覚えのある声だった。

 

「フレデリカ……」

 

 その人物とは、イベント前にサリーと決闘をした【集う聖剣】に所属しているフレデリカだ。

 つまり現在、サリーを襲っているのは【集う聖剣】ということになる。

 

「(……それなら、まだ勝機はある!)」

 

 サリーはフレデリカと決闘した際に、自分の回避力をスキルだと誤認させていた。

 その情報がギルド全体まで行き渡っているかは分からないが、賭けてみる価値は十分ある。

 

「【ファイアーボール】!」

 

 プレイヤーの集団から火球が飛んでくるが、相手が【集う聖剣】と分かった以上サリーが取る行動は決まっている。

 

「攻撃誘導!」

 

 サリーはありもしないスキル名を叫ぶと、自分の方へ飛んでくる魔法をよく見て躱す。

 文字にするとたったそれだけなのだが、それを可能にするサリーの技量は驚異的だ。だからこそ、フレデリカや他のプレイヤーはこの動きをスキルだと確信しているのだ。

 サリーが魔法を躱し終えると、前衛の動きが変わり一気にサリーに襲い掛かる。

 

「(情報は行き渡ってるんだね)……ありがとう、フレデリカ」

 

 サリーは姿が見えないフレデリカに対して小さく感謝の言葉を呟くと、向かって来るプレイヤーの攻撃を躱す。

 

「そんなんじゃ当たらないよ!」

「【パワースラッシュ】!」

「【肆式・液状化】」

「またか!」

 

 声を出しながら繰り出してくる攻撃など、サリーにとっては余裕で対処可能だ。

 物理攻撃を無効化するスキルでやり過ごし、反撃の刃を相手に食らわせる。

 

「私を倒すには全然足らないよ!」

「【マッドショット】!」

「流水!」

 

 飛んでくる泥の塊を、今度は別の誤認させたスキル名を叫び短剣で弾く。

 サリーの叫びを聞いて、再びプレイヤー達が動いた。今度は後衛に控えていたプレイヤー達が、魔法を次々と放つ。

 

「流水! 攻撃誘導!」

 

 スキルのクールタイムを考慮した攻撃だったのだが、サリーには意味がない。そもそもスキルではないのだから当然である。

 相手をさらに混乱させるため、誤認させたスキル名を叫んで全ての攻撃を回避する。サリーの狙い通り、プレイヤー達に動揺が生まれ動きに鋭さが無くなった。そしてサリーは、そんな動揺の隙を見逃さない。

 

「【壱式・水剣】【ダブルスラッシュ】【弐式・水切り】【トリプルスラッシュ】!」

 

 相手が我に返る前に次々にプレイヤーを光へ変えていく。プレイヤー達が慌てて距離を取る頃には、五人ものプレイヤーがサリーによって倒されていた。

 

「当たんねぇ!」

「どうなってんだよ!」

「何でそんな連続で使えるんだ!?」

「攻撃誘導! 【クアドラプルスラッシュ】!」

 

 サリーがスキル名を叫ぶ頻度は、最早クールタイムが短いというだけでは説明がつかなかった。その様子を遠くで見ていたフレデリカは、予想外の光景に呆然と呟く。

 

「何がどうなってる訳……? まさか、あのスキルにはクールタイムが無いの?」

 

 しかし攻撃の軌道を逸らすと思われる強力なスキルに、クールタイムが全くないなどありえない。

 そこまで考えたところで、ふとフレデリカの頭にあるとんでもない仮説が浮かんできた。

 

「もしかして……スキルじゃ、ない? ただの反射神経!?」

 

 スキルでないのならば、クールタイムなどなくて当たり前である。しかし答えに辿り着いたところで、対策が取れる訳ではない。

 スキルだったのならばゲームバランスの都合上、何かしらの穴が必ずあるためそこを突けばいい。

 しかしサリーの回避能力が彼女自身の反射神経、つまりプレイヤースキルだったとしたら、取れる対処法は一気に少なくなる。使用可能回数もクールタイムもないのだから。

 そして『流水』と『攻撃誘導』を何度も繰り返すサリーに、フレデリカ以外も徐々に彼女が叫んでいるのがスキル名でないという事実が広がっていく。

 

「クソっ! だからって大人しくやられてたまるかよ!!」

 

 大量の仲間を倒されたプレイヤーの一人が一矢報いようと剣を素早く振り下ろすが、そんな愚直な攻撃が当たるのならば最初から苦労はしていない。

 当然の様にギリギリで剣を躱すと、攻撃してきたプレイヤーにカウンターを叩き込む。

 

「今だ! 撃て!」

 

 背中の方から聞こえてきたプレイヤーの合図と共に、大量の魔法が面攻撃となってサリーに対して降り注ぐ。しかし、サリーはその攻撃が来るタイミングが何となく分かっていた。

 

「【背負い投げ】」

 

 素早く短剣を鞘に仕舞うと、すぐ傍にいたプレイヤーを引っ掴んで空中に放り投げる。

 サリーに向かって放たれた魔法は、投げられたプレイヤーの陰に入った彼女には当たらない。

 『NWO』はフレンドリーファイアがないため、身代わりにされたプレイヤーに魔法によるダメージはないが、落下地点で待ち構えていたサリーの斬撃は話が別である。

 

「ば、化物かよ……!」

 

 襲撃した際には百人以上いたプレイヤーも、サリーに倒され続けて現在は六十人ほどだ。

 倒された人数よりも残っている人数の方が多いとはいえ、今に至るまで彼女にたったの一ダメージも与えられていないのにこの状況なのだ。心を折られるプレイヤーが出て来ても最早仕方がないと言えるだろう。

 

「朧、【覚醒】【影分身】」

 

 とは言え、サリーの方にも出し惜しみをしている余裕なんてない。

 常に相手の思考を止める予想外を生み出し続けなければならないのだ。

 相手に思考力が戻って六十人の集団が完全に機能すれば、流石のサリーとて確実に生き残れるという確証は持てない。

 

「全員倒して、生き残る!」

 

 サリーが飛び出すと同時に、朧が出した影分身達も一斉に相手に向かって飛び掛かる。

 影分身で出した分身はサリーが操作している訳ではないので、彼女の神懸った回避能力を持ち合わせておらず直ぐに倒されてしまう。しかしそれでも一体につき一人は道連れにしていた。

 そして分身に意識が向けられている間に、サリーは包囲網を突破しようとする。

 

「させるか!」

 

 サリー本体の動きを見逃さなかった一人のプレイヤーにより、サリーの背中に剣が突き刺さる。

 遂に当たった攻撃に、周囲からも歓声の声が上がった。

 

「残念、外れだよ」

 

 【蜃気楼】で作られた幻影が消え、本物のサリーによって幻影に剣を突き刺したプレイヤーが光に変わって消えていく。

 ようやく倒せたと気が緩んだ瞬間に起こった予想外の事態に、全員の動きが思わず固まる。

 

「今の隙に「【多重炎弾】!」うわっと!」

 

 思考停止の隙を突いて今度こそ包囲網を抜け出そうとしたサリーに、いくつもの火球が飛んでくる。

 紙一重で回避して火球が飛んできた方向を確認すると、フレデリカが杖をサリーの方へ向けていた。今まで余裕だと思い指揮に徹していたフレデリカが、遂に戦闘に参加してきたのだ。

 

「やってくれたわね。まさか実在しないスキルをあるように見せかけるなんて。お陰で大分混乱させられたわ」

「私自身もここまでうまくいくとは思ってなかったけどね」

 

 フレデリカの苦言を、サリーは笑みを浮かべて返す。

 実際彼女がここまでプレイヤーの数を減らせたのは、事前の偵察で得たスキルの情報が間違いだったという動揺を突いたからだ。まさにサリーの作戦勝ちと言える。

 

「もうアンタの好き勝手にはさせないからね! 【多重水弾】!」

 

 フレデリカの杖の先から、水色の魔法陣が幾つも出現して水弾を放つ。

 

「【参式・潮流(ちょうりゅう)】!」

 

 向かって来る水弾に対しサリーはスキルを発動させ、水弾に短剣を当てて受け流す。

 本来なら物質系の魔法ならともかく、非物質の水弾を受け流すなどできるはずもない。しかしサリーの短剣に当たった水弾は、その軌道を曲げてあらぬ方向へ飛んで行ってしまった。

 

「はぁ!? 何それ!?」

 

 誤認させられていた『流水』と『攻撃誘導』とは違い、今回の現象は反射神経だけでは説明がつかない。明らかにスキルによる結果だった。

 

「そんな隠し玉まで持ってたなんて……! 【多重石弾】! 【多重光砲】!」

「【参式・潮流(ちょうりゅう)】!」

 

 フレデリカの放つ物質と非物質の魔法を織り交ぜた多重攻撃も、サリー相手には効果が薄い。

 避けられるものはギリギリで避け、避けられそうにないものだけクールタイムのない【参式・潮流(ちょうりゅう)】を使用して軌道を変える。

 

「また同じスキル……!? 絶対スキルを使ってるのに、連発してる……まさか、クールタイムがないの!? あぁもう! ホント厄介なんだから! 【多重炎弾】!」

「【参式・潮流(ちょうりゅう)】!」

 

 フレデリカ以外も魔法を次々と放つが、サリーはその攻撃を全て躱すか受け流す。

 サリーの避け方は傍から見ていると何故避けれているのかが不思議なほど紙一重だ。ほんの数ミリズレれば当たるのだが、その数ミリが果てしなく遠い。

 そうしてサリーを倒すのに躍起になっている内に、何時しか百人以上いたプレイヤー達は半分以下にまで数を減らされていた。

 

「これは、まずい……撤退するべき? これ以上減らされると流石に勝ち目が無くなる」

 

 現在サリーも生き残る事を最優先にしているため、最初に比べたらプレイヤーを倒す速度は確実に遅くなっている。しかし速度は遅くなっているものの、倒しているのに変わりはない。

 未だ包囲網は維持できているものの、一撃も入れられず五十人以上を倒されている現状に、指揮官であるフレデリカの頭に撤退の文字が浮かぶ。

 

「フレデリカ様! 援軍、ただいま到着しました!」

 

 その時、メッセージで拠点にいるプレイヤーに頼んでいた援軍が駆け付けてきた。あまりのタイミングの良さに、フレデリカは満面の笑みで到着した援軍に顔を向ける。

 

「ありがとー! ナイスタイミングよ!! すぐに包囲網に加わって、あの子を攻撃して!」

「はっ!」

 

 一方サリーも、周囲の人数が増加したことを気配で感じ取っていた。

 

「大丈夫。まだまだ行け……る?」

 

 攻撃を避けるために踏み込んだ足に力が入らず、膝からガクンと崩れ落ちる。目の前には、まさに攻撃を加えようとしているプレイヤーの姿が……

 

「っ! 【肆式・液状化】! 【トリプルスラッシュ】!」

 

 ギリギリで対処し何とか凌ぐも、既に体は満足に動かせそうになかった。

 今まで限界を超えて集中して動いていたのだ。そんなものが長く続く筈がない。

 対して相手は、つい先程増員が加わったばかり。今のサリーの状態でやり過ごせる数ではない。

 

「ふふん。遂に限界が来たみたいね。随分手古摺らせてくれたじゃない。たった一人相手に大損害だわ。でも油断なんてしてあげないから。【多重障壁】」

 

 包囲網の後方で全員に障壁を張りながら、フレデリカは不敵な笑みを浮かべた。

 彼女が命じるまでもなく、プレイヤー達は今までサリーが見せてきた数々の予想外な行動に警戒心を抱いている。

 そのため疲労で倒れているサリーに対してすぐには襲い掛かろうとはせず、武器を構えて隙間なく彼女を包囲した。

 

「次は、負けないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、その場にいる全員が……それこそサリー本人も含めた全員が、サリーの敗北を確信していた。

 そしてサリーを包囲している集団は、彼女が妙な動きをした時の為に視線をサリーに固定している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、それを防ぐことが出来たのは本当に偶然だったのだ。

 

 偶然、プレイヤーの一人が最後の指示を仰ぐためにフレデリカの方を向いた。

 

 偶然、そのプレイヤーはフレデリカの近くにいた。

 

 偶然、フレデリカの方を向いた瞬間が()()()()がスキルを解除した瞬間だった。

 

 少し歯車(タイミング)が違っただけで、運命は変わっていたのかもしれない。

 とにかく、そのプレイヤーは気付いたのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ……フレデリカのすぐ背後で、刃を振り上げている黒尽くめの男の存在に。

 




サリー大暴れの会でした。
原作よりも多い人数を倒してますけど、【武操術・水式】の取得の有無と例の集中力の結果です。
拙作では原作よりも前の段階でこの集中力を会得しているので、より多くのプレイヤーを倒せたという設定です。

次回、お姫様抱っこです。

次回は早めに更新できるよう頑張りたいと思います。
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