派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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一か月半ぶりですね。すみません。
色々理由はありますが、本編を書くモチベーションが中々沸かなかったんです。
その代わり新しいオリジナルスキルの方は捗りましたけど。


極振り組と【炎帝ノ国】

 実際に目覚めてから二時間ほど経過して、サリーが洞窟の奥からひょっこりと顔を覗かせる。まだ頬に赤みは残るものの、大部混乱が収まったらしい。

 

「おはようサリーちゃん。よく眠れたかしら?」

「あっ、はいイズさん。お陰ですっかり疲れも取れました」

「おう、起きたか。もう体は大丈夫なのか?」

「おはようサリー。って言っても、もう三時過ぎちゃってるけどね」

「クロムさんもカナデもおはよう。ゴメン、長い間寝ちゃって」

 

 サリーに気付いて声を掛けてきたイズ達に返答しながら、サリーは洞窟内を見渡す。

 まるで何かを探す様な動きだったが、その“何か”に心当たりがあるイズは微笑ましいものを見るような笑みを浮かべた。

 

「サリー? 何キョロキョロしてんだ?」

「ふぇっ!?」

 

 ただし、あえて聞かないというデリカシーを発揮できたのはイズのみである。

 クロムの不躾な質問に、サリーは顔を赤く染めて固まる。クロムが先に聞いてしまったため声は出していないが、カナデも不思議そうな顔だ。

 というかそもそもイズが聞かなかったのはサリーの感情の変化を知っているからであり、それを知らないクロムとカナデが察せられるわけもない。

 一応サリーが起きた直後の奇行についてはイズとカスミから本人に聞かない様に厳命されているが、その理由について二人は終ぞ喋らなかったのである。

 

「いいいえ別に、ハイ……じゃなくて、マイとユイとカラアゲがいないなって思っただけですから! それだけです!」

「ハイ……?」

「クロム~?」

「……ま、まぁいいか」

 

 その必死な態度は最早『他にも何か考えていました』と白状しているものなのだが、クロムも今度は深く聞かず流す事にした。

 決して笑みを浮かべているイズが怖かったわけではない。それなりに付き合いの長いクロムが見覚えのない程輝かしい満面の笑みだったのだが、決してそんな理由ではない。

 この笑顔について、後に彼は『何故か悪寒を覚える笑みだった』と語ったとか語っていないとか。

 

「今三人はメイプルと一緒だ。実はサリーが起きる前に一度メイプルが帰って来てな、その時に三人にも襲撃に出てもらおうって話になったんだ」

「メイプルちゃんがいれば、まず死亡する事はないしね。折角のイベントなのに、ずっとここに籠りっぱなしって言うのもつまらないじゃない?」

「それはまぁ……確かに」

 

 マイ達三人をメイプルに同行させたのはイズの発案である。

 元々防衛には余裕があり、メイプルが外に出ている時に襲撃してきたプレイヤーも難なく撃退できていた。

 そして幸運にも、丁度メイプルが帰って来たタイミングで戦闘でメイン武器を破損させてしまったカスミがクロムと共に他ギルドへの襲撃を切り上げて拠点にいた。

 そんな要因も重なり、マイ達は今回のイベントが始まって初めて拠点の外へ襲撃に出ているのだ。

 

「クロムとカスミが帰って来ててよかったわ。残るのが私とカナデだけだと、たくさん来た時に困っちゃうもの」

「僕やイズの主力武器は消耗品だしね」

 

 イズとカナデは決して弱くはない。生産した爆弾や【魔導書】によって、あっという間にプレイヤー達を殲滅する手段を持っている。

 しかし二人の強みとなっているのはあくまでアイテムである。

 イズはインベントリに五個しか所持できず工房でしか製作出来ない爆弾の欠点を【魔法工房】によって解決しているのだが、爆弾に使う素材やその素材を【天邪鬼な錬金術】で変換するために使うゴールドは有限だ。溜め込んだゴールドが枯渇してしまうと、一気にやれることが制限されてしまう。

 そしてそれはカナデの【魔導書】も同じだ。【神界書庫(アカシックレコード)】で取得した強力なスキルを【魔導書】に出来るとは言え、その【魔導書】も一回使ったら消えてしまう。

 今回のイベントの為に二人もそれぞれゴールドや【魔導書】を大量に準備しているのだが、まだ二日目の現段階で消費するのは避けたい。

 

「……なるほど。そういう状況なら、三人が襲撃に出ても大丈夫だと思います。イズさんの言う通り、ずっと拠点に籠りっぱなしっていうのは可哀そうですしね。私も配慮不足でした」

 

 そう言ってサリーが頭に思い浮かべたのは、綺麗な景色をキラキラした目で眺める親友(メイプル)の姿だ。

 その親友と性質がよく似ている極振り組を、こんな殺風景な洞窟に閉じ込めるのは確かに酷だったかもしれない。

 

「大丈夫よサリーちゃん。私が提案できたのだって、サリーちゃんの頑張りで余裕が出来たからだしね」

 

 防衛の方は常に余裕があった。そして肝心の攻撃の方はと言うと、サリーとハイドが初日に稼ぎまくったお陰で小規模ギルドどころか全ギルドでも上位のポイントを有している。

 多くのオーブを強奪し、その全てを三時間防衛し続けたのだから当然の結果と言えるだろう。

 そしてサリーが作ったマップによってどうフィールドを回ったら効率的にギルドを襲撃できるかが分かるので、これからさらにオーブを奪う効率が上がるだろう。それはまさに、サリーの功績である。

 

「ありがとうございます……ところで聞いてもいいですか?」

「ん? なあに?」

「……カスミ、どうしたんですか?」

 

 その場にいた全員が、カスミに視線を向けた。

 

「はあぁぁ……いい……」

 

 視線を向けられた当のカスミだが、自分に注目が集まっているのに気付いた様子はない。

 その表情はかつてない程緩んでおり、鞘に納めた刀を眺めたり仕舞いには頬擦りまでし始めた。

 単純に危ない奴である。

 

「あぁ……実は【炎帝ノ国】のシンと戦った時に刀を壊してしまってな。イズに新しく造って貰ったんだ」

「それからかれこれ一時間はずっとあんな調子だよ」

「へ、へぇ……」

 

 サリーがドン引きした顔を向けても、カスミは新しい刀に夢中で戻ってきそうになかった。

 

「今は誰が来る様子もないし、しばらく放っておきましょ。敵が来たらきっと元に戻るわよ。試し斬りの為に」

「プレイヤーで試し斬りですか……まぁ、それならいいんですけど」

 

 ぶっちゃけ武器に恍惚とした表情を向けているカスミは危険人物にしか見えないのだが、仕事(防衛)はしてくれそうなのでイズの言う通り放っておく事にした。

 

「……メイプルはうまくやってるかな」

「メイプルなら心配しなくてもオーブをたくさん持って帰ってくるよ。さっき帰って来た時も九個も取って来たし」

「相変わらずデタラメだなぁ……」

 

 サリーはずっと眠っていたため、何時メイプルが出て行って帰って来たのか正確な時間を把握していない。

 ただ少なくとも、メイプルはサリーよりも短い時間でサリーとほぼ同じ量のオーブを持って帰っている。それだけで、親友との実力の差を思い知らされた。

 

「……やっぱり、負けたくないなぁ」

 

 サリーはまだ誰にも言っていない、自身の胸の内をポツリと呟くのだった。

 

     ◇◇◇

 

 一方その頃、メイプル達は次のギルドを襲撃するためシロップに乗って移動していた。

 この場に居る全員はメイプルを含め極振りなので、歩いてフィールドを移動すると非常に時間がかかる。

 シロップに乗ってもサリーやカスミより遅いのだが、()()()()移動するにはこれが一番早いのだ。

 

「ぴくちっ」

 

 四人でお喋りしながらのんびり移動していると、不意にメイプルが小さくクシャミをする。

 そのクシャミにマイ達は心配そうに声を掛けた。

 

「メイプルさん?」

「大丈夫ですか?」

「風邪ですか?」

「ううん、大丈夫。誰か私の噂話でもしてるのかな?」

 

 噂話をされるとクシャミが出るというのは所謂俗説なのだが、今回は大正解。丁度サリー達が拠点でメイプルの話をしていたのだ。

 

「メイプルさんは有名なので誰が噂していても不思議ではないですけどね」

「え~? そうかな~?」

 

 メイプルが不思議そうに首を傾げる。

 彼女は第一回イベントで見せた異常な防御力と、強力な毒魔法や人や武器を飲み込む大盾といった衝撃的な攻撃方法で上位にいるドレッドよりも有名になっているのだが、如何せん当の本人にその自覚が全くないのだ。

 何せ今まで本人にとって普通のプレイしかしていないので。本当にどの口がそんな世迷言を言っているのやら。

 

「そんな事より、次に襲う予定のギルドはどこだっけ?」

「この近くだと……【炎帝ノ国】が一番近いですね」

「よし! じゃあ次はそこに行こう!」

「分かりました」

「頑張ります!」

 

 四人がそれぞれ気合を入れる中、メイプルの操作によって巨大な亀はゆっくりと【炎帝ノ国】の拠点に向かって進んで行くのだった。

 

    ◇◇◇

 

「あぁ……見えてきたよ。ヤダなぁ。このままどっか別の場所に行ってくれないかなぁ……」

 

 空飛ぶ亀が遠目に見えてくると、防衛のために残っていた【炎帝ノ国】のマルクスは心底イヤそうに愚痴を零した。

 元々好戦的な性格ではないのだが、空飛ぶ亀(メイプル)接近の報告を受けて余計にテンションが下がってしまっているのだ。

 

「その願いが叶ってくれたら確かに嬉しいですけど……やはりそう甘くはないようです。彼女の狙いは私達みたいですよ」

 

 真っ直ぐ自分達の方向へ向かって来る亀に、マルクスと同じく拠点の防衛に就いているミザリーが厳しい表情で答える。

 そのミザリーの隣に高身長で大剣を持つ女性、アゲハが並んだ。

 

「帰って来たタイミングがいいのか悪いのか。まぁこの場に居るからには協力するよ」

「お願いします」

 

 本来襲撃の為に拠点の外に出ているはずのアゲハがこの場に居る理由は、単純にオーブを台座に設置するために一時的に帰還していたからだ。

 

「しかしメイプルかぁ~……アタシあの『浮遊要塞』の相手とか無理なんだけど? マルクスやミザリー以上に」

「アゲハは近接武器を使うので、それはしょうがないですよ」

 

 後衛であるマルクスやミザリーと違い、大剣を主要武器とするアゲハはメイプルが使う毒攻撃や【悪食】が付いている大盾に当たる可能性が高くなってしまう。これはアゲハが前衛な以上仕方のない事だった。

 

「プレイヤーや武器を飲み込んでしまう盾を持つメイプル相手に、接近戦は非常に危険です。武器を飲み込まれないように気を付けて立ち回ってください」

「了解。とは言え、その条件じゃアタシはほとんど役立たずだけどね」

 

 【STR】重視のステータスをしているアゲハは【INT】やMPにほとんどステータスを振っておらず、魔法スキルは一つも使えない。

 加えてリアルスキルでノーコンであり、【投擲】で投げた物を狙った場所に当てられないので接近戦以外では相手にダメージを与える手段を持たないのだ。

 

「仕方ありません。恐らくイベント後のメンテナンスで盾のスキルには回数制限が設けられているでしょうが、私達にはその回数上限もそれを今現在どの程度使っているのかも知る術が無いのですから」

「それで、ミィからの連絡は何かあった?」

「急いで向かうと」

「分かった。多分、十五分は皆で稼げると思う……でもそれ以上かかったら……」

 

 マルクスは最後まで言い切らなかったが、その続きはこの場に居る全員に伝わった。

 つまり、ミィの到着が十五分以上かかった場合、防衛失敗の可能性が激増するという訳だ。

 

「こりゃアタシも死亡覚悟で行かなくちゃ本気でヤバそうだ」

「私も援護します」

「よし、まずは地面に落とそう。飛ばれてたら僕のトラップが素通りされちゃう」

「だね。弓と魔法を準備して!」

 

 アゲハの指示に、周りにいたギルドメンバー達は一斉に弓や杖を構え空飛ぶ亀に照準を合わせる。

 しかし射程距離に入る直前、突如亀が消えて四つの影が地面に向かって落下した。

 そのまま大きな音を立てて地面に落ちた四人は、そのままゆっくりと台座の方向へ向かって歩み始める。

 

「四人の歩行速度が同じぐらい、って事はあの四人は全員極振りか? メイプル以外見覚えないけど、あのギルド(【楓の木】)にはメイプル以外にも極振りがいるのか……」

 

 メイプルも行っている極振りと呼ばれるステータスの割り振りは、基本的に相当なプレイヤースキルがないと成立しない。

 『NWO』ではどちらかと言えばステータスの振り方よりも強力なスキルを取得した方が強くなりやすいが、それでも成功するには難易度が高い。そんな極振りと思われるプレイヤーが、メイプル以外に三人もいる。

 

「しかも何だよアレ。突っ込み所が満載過ぎないか……?」

 

 呆れたようにつぶやくアゲハの言葉通り、向かってくる四人の中で一人を除いた三人が異常な点を持っているのだ。

 まずメイプルは金髪で頭上には光輪、さらに背中から純白の翼まで生やしておりまるで物語に出てくる天使だ。だがその両脇には、神聖な装いには相応しくない異形の化物が付き従っていた。第一回イベントから時間が経っているとはいえ、色々とオプションが増え過ぎである。

 そして異常な点を持つ残った二人は黒と白のカラーリングの違いこそあるものの、服装といい顔といい似ている部分が多く恐らく双子だと思われる。そんな双子の手には本来両手武器のはずの大槌が片手に一つずつ持たれており、小さな体に大きな武器がその違和感を際立たせている。

 最後の一人である紫色のローブを着た少年には見る限り異常な点は見当たらないが、そんな異常な三人と共にいるというだけで全員が警戒せざるをえない。

 

「だ、大丈夫。僕達は時間を稼ぐだけでいいんだ……」

 

 自信無さげに呟くマルクスには、メイプルに勝つ気など更々無かった。

 自分の仕事は、ひたすらに耐えて時間を稼ぐことだけ。

 ミィが間に合いさえすれば絶対に勝てるという信頼が、この弱気に繋がっているとも言えた。

 

「いつも以上に弱気だねマルクス。幹部らしく、もっとシャキッとしなよ」

 

 そんなマルクスの様子にアゲハは激励を飛ばすが、目の前の光景からして『まぁしょうがないか』と思い直した。

 何せ彼女達はマルクスが設置したトラップを次々に踏んで発動させては無効化しているのだ。

 設置した当の本人であるマルクスの心が弱ってしまうのも無理はない。まぁマルクスの場合はこの弱気がデフォルトなので、せっかくのトラップをほぼ無効化されているこの光景に弱気になっている訳ではないと思うが。

 

「これが掲示板で噂になってる範囲防御か。実際に見ると想像以上に厄介だな」

「噂? アゲハはアレが何か知っているのですか?」

「知ってるって言うか見たって言うか……掲示板でな」

 

 アゲハは有名プレイヤーの考察を行う掲示板を巡るのが趣味であり、その延長でこの現象の噂を目にしていた。

 

「クロムが上げた情報さ。ある日メイプルが天使の輪と翼を生やして、金髪蒼眼になるスキルを手に入れたってね。その効果は範囲内にいるパーティーメンバーに常に【カバー】が出来るようになるらしい。十中八九、メイプルを中心に光ってる地面が効果範囲だろうね」

 

 メイプル以外の大盾使いがこのスキルを取得したとしても、精々四,五回直撃を庇った程度で使用者が瀕死になってしまうだろう。

 しかし規格外の【VIT】を持つメイプルが使用すると、範囲内にいるパーティーメンバーも防御力貫通スキルしか通用しないという途轍もなく厄介な状況に早変わりだ。

 

「それは、真実……なのでしょうね。あの様子からすると」

 

 現在もメイプルはマルクスの罠をものともせずに進行中だ。

 アゲハの話を咄嗟にデマだと思ったミザリーも、実際にその効果を目の当たりにすれば事実だと認めざるをえない。

 

「一応メイプル以外用に仕掛けた罠は全滅だね。でも……」

 

 メイプルが漢解除している罠の数々は、メイプルに効果があると思って設置されたものではない。

 寧ろその逆であり、メイプルが味方を連れてきた場合その味方にダメージを負わせるために仕掛けたものだ。尤も、メイプルの新たなスキルにより無効化されたが。

 そして当然マルクスは、超強力なボス以外の攻撃ではもはやダメージを与えられない程の【VIT】を持つメイプル用の罠もきちんとし仕掛けてある。

 

「よし! かかった……!」

 

 メイプルがその罠を踏んで発動させると、周囲の地面から次々と植物の蔓が出現してメイプルを拘束する。

 この蔓を破壊するには一定以上のダメージを与える必要があるのだが、拘束下にあるメイプルにはそれが難しい。そもそも【STR】が0なので、例え拘束されていなくても蔓を破壊するにはそれなりに時間を有しただろう。

 尤も、それはメイプルが蔓を破壊する場合の話である。

 

「「えいっ」」

「……はぇ?」

 

 進行を妨げる罠でミィが来るまでの時間稼ぎをするというマルクスの目論見は、マイとユイが持つ巨大なハンマーによって蔦と共に文字通り粉砕された。

 この蔦はかなり頑丈であり、たった一撃で粉砕できるものではない。

 実際イベント前にマルクスが実験した際は、アゲハが【猪突猛進】を使っても二、三回攻撃をしなければ破壊できなかった。

 

「ちょ、えぇ……本気?」

 

 メイプル達はただただ真っ直ぐに台座目指して進行しているので罠自体は次々に発動するものの、ダメージはメイプルが肩代わりして拘束はマイとユイが即座に破壊してしまうので、その進行速度の衰えは最小限に収まっている。

 

「ミザリー!」

「皆さん、攻撃開始です! 【ホーリージャベリン】!」

 

 ミザリーの攻撃を皮切りに、様々な属性の防御力貫通の性質を持った魔法スキルがメイプル達に向かって一斉に襲い掛かる。

 

「わわっ! いっぱい飛んできたよ!」

「僕に任せてください! 【集団付与(マスエンチャント)(フィルム)】!」

 

 ここで今まで出番がなかったカラアゲが動いた。

 指揮棒をメイプル達に向けてスキルを唱えると、彼女達の全身を薄緑色の膜が包み込む。

 膜に包まれた自分の体を不思議そうに見ている三人にミザリー達が放った魔法が直撃するも、頭上に浮かんでいるHPバーは一向に減る様子がない。

 

「わぁ、凄いね! ふふ~ん! どれだけ当たっても効かないよ!」

「えへへ、やっとお役に立てました! 一分で効果が無くなっちゃうので注意してください。効果が終わる時間になってくると、膜の色が薄くなるので教えてくださいね。すぐに掛け直すので!」

「分かった!」

 

 カラアゲが使ったスキルは特殊な膜を一分間だけ対象に付与できるもので、膜に触れた攻撃の貫通効果を無効化できる。

 代わりに他の付与(エンチャント)をこのスキルを使用したメイプル達に使用できなくなるし、付与した膜そのものにダメージ減少効果はないのでダメージはそのまま入てしまう。ただその弱点は、メイプルがいれば全て解決できるものだ。

 

「な、何でダメージを受けてないの……?」

「し、信じられません」

 

 地雷の罠も拘束の罠も、果ては防御力貫通スキルですらも効いた様子がないメイプル達に、【炎帝ノ国】のメンバーに戦慄が走る。

 特に防御力貫通攻撃はメイプルに対する唯一の攻撃手段だと思われていただけに、その動揺は計り知れなかった。

 

「狼狽えるなっ!!」

 

 顔を少し俯かせたアゲハが発した大声に、ざわめきが収まる。

 そして周囲の視線を一斉に浴びたアゲハは、俯かせた顔を上げながらニッと笑みを浮かべた。

 

「……って、ミィなら言うと思わない?」

「……ふふっ。言いそうだね、ミィなら」

「そうですね。ミィはいつも冷静ですから」

 

 それは彼女の必死な演技(ロールプレイ)のお陰なのだが、その事実知っているプレイヤーは素を出している現場を偶然見てしまったハイドのみである。

 

「メイプルが予想外な何かを仕出かした程度で狼狽えるな! どうせアイツはいつも予想外な事を仕出かす! 動揺したって無駄だ!」

 

 人はそれを現実逃避と言うのだが、今この場においては十分効果を発揮した。

 次々にプレイヤー達が動揺から抜け出し、メイプルに向かって魔法を放つ。例えダメージにならなくとも、ミィが駆け付けるまでの時間稼ぎをするのが目的だ。

 その目論見は成功しており、次々に放たれる魔法にメイプル達の進行速度は確実に低下していた。いくらダメージにならず痛みも衝撃もないとはいえ、自分の体に向かって来る魔法には若干の恐怖感を覚えるものである。

 

「うぇ、まただぁ。マイちゃん、ユイちゃん、お願い!」

「「分かりました! えいっ」」

「【遠隔設置・岩壁】!」

「今度は壁!? マイちゃん、ユイちゃん!」

「「大丈夫です! これも壊せます!」」

 

 メイプルは罠によって蔦で縛られる手足を見て苦い顔をすると、即座にマイとユイに蔦の破壊を依頼する。

 続けてマルクスがスキルによって出現させた壁も、双子の怪力の前にはあまり意味をなさず一撃で粉砕された。

 

「そろそろ色が薄くなってきたので張り直しますね。【集団付与(マスエンチャント)(フィルム)】」

 

 効果時間が迫ってきたことにより大分色落ちした膜は、カラアゲによって即座に付与し直され再び貫通効果が無効化される。

 

「……これ、足止めはそろそろ限界じゃない?」

「かもね。皆は戻っていいよ。後はアタシ達に任せな。メイプル相手に数はあんまり意味ないしね」

 

 アゲハの指示により、マルクスとミザリーを残し全員が撤退する。

 

「死亡覚悟で、ですね」

「うん……」

「マルクス。そんな悲観的な声出すなよ。気持ちは分かるけどさ」

 

 罠の数々も魔法による遠距離攻撃も突破された【炎帝ノ国】に残された最終防衛ライン。それはこの三人自身だ。

 元々は防衛組であるマルクスとミザリーが残り他の生き残ったメンバーが撤退するという作戦なのだが、偶然にもこの場にアゲハが居合わせたためアゲハも最後の砦として残る選択をした。ただ残ったはいいものの、この状況ではアゲハはかなり分が悪い。

 メイプルが展開する範囲防御の効果は既にアゲハの情報により共有されているので、その範囲内がマイとユイの行動範囲だと気付いている。

 魔法を攻撃の主体をするマルクスとミザリーはともかく、大剣を使うアゲハに遠くからメイプル達を攻撃する術はない。

 

「「【飛撃】!」」

 

 対して同じ大槌という近接武器を持ちながらも、マイとユイには遠距離を攻撃するスキルがある。しかもその高い【STR】によって、即死級の威力だ。

 しかし、この攻撃は距離が開いていたため、すぐに攻撃の延長上から移動されてしまい当たらない。

 ミザリーの魔法は効かず、ユイとマイの攻撃は躱される。一時的な膠着状態に陥ったが、それはスキルの射程範囲に入ったメイプルによって崩された。

 

「【毒竜(ヒドラ)】!」

「わっ!」

「マルクス!」

 

 メイプルが放った【毒竜(ヒドラ)】は、マルクスの逃げ道を奪い去る。そしてあっという間に毒に飲まれ、HPを0にした。

 

「【リザレクション】!」

 

 マルクスの死亡に反応したミザリーが、すぐに彼に杖を向けて蘇生スキルを使用する。

 ミザリーによって生き返ったマルクスは、素早く自分の周りに罠を設置して、追撃を阻もうと動き出す。

 

「【強化付与(ブーストエンチャント)沈黙(デフ)】!」

「……! っ!?」

 

 しかし、それを読んでいたカラアゲに罠の設置を阻まれてしまう。

 異変を感じ取ったマルクスは、驚いた表情で自分の喉に手を当てた。

 

「(な、何で!? 声が出ない!)」

 

 カラアゲが使用したのは、声が出せなくなるデバフの付与(エンチャント)だ。

 声が出せなくなるという事は当然、プレイヤーは()()()()()発動するスキルを使用できなくなる。

 効果時間は短いし、モンスターには一切効果がない対人用の付与(エンチャント)

 パーティーメンバー以外には30%ほどしか付与(エンチャント)が成功しないとはいえ、成功した時の効果は絶大である。

 

「マルクス! くっ!」

 

 仲間の変化を敏感に感じ取り、アゲハは慌てて大剣を構えながらマルクスのフォローに動く。しかしその判断は、残念ながら不正解だった。

 

「【飛撃】!」

 

 ユイが振るった白い大槌の先は、マルクスではなくミザリーだった。マルクスの盾になるために動いたアゲハはその攻撃に間に合わない。

 

「(読み違えましたか……これは、防げませんね)」

 

 そしてアゲハと同じくマルクスが追撃で狙われるだろうと予測していたミザリーも、予想外の攻撃に瞬時に行動できず躱しきれない。

 しかし、その攻撃は真っ赤に燃える炎によって遮られた。

 

「えっ?」

「何を諦めている?」

 

 唖然とするミザリーの前に、声と共に一人の少女が炎を纏いながら降りてきた。

 

「「「ミィ!」」」

 

 三人の声にミィは一瞬仲間の方を振り返り口元に笑みを浮かべると、再びメイプル達へ向き直る。

 その姿は【炎帝ノ国】という大規模ギルドを背負うギルドマスターに相応しい、威風堂々としたものだった。




ただし当の本人が大規模ギルドを背負いたいとは思っていない。この娘は気弱な子なので、内心ではビビッてそう。
って言うかこのイベント中ミィはどうやって息抜きしてたんでしょうか? 途中で五回死亡しているので五日間フルではなかったとはいえ、ほぼニ四時間誰かと一緒だったのにボロ出さなかったんですよね? 凄すぎませんか?

次回、ミィ参戦。

原作通りに極力ならない様に、頑張ります。
それと次の更新はお盆期間中になると思います……多分。それまでに書ければですが。
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