派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
前回よりも少し短いのもありますけど、書ける日が続くとモチベーションが維持しやすいです。
「メイプル、一度戦ってみたいと思っていたんだ。勝てると判断して……倒しに来たよ」
「私、負けませんから!」
お互いのリーダー同士による気合の入った宣言。
既に【集う聖剣】の十五人も、【楓の木】の
「【死の告知】!」
まず最初に動いたのはカナデだ。カナデの背後に浮かんでいる書庫から飛び出した髑髏の描かれた禍々しい魔導書が開き、それと同時にペインの頭上に黒いパネルと赤い数字が表示された。
791
「791……? ペイン、何だそりゃ?」
その数字は点滅とともに減少していく。ペインも自分の頭上は確認できないが、視界の隅に小さく同じものが点滅しており、目の前に出現したパネルに書かれた説明により状況も把握できた。
「どうやら厄介なスキルを使われたようだ。この数字が0になると共に俺は死亡する。防ぐには、このスキルを使ったプレイヤーを倒す他ない」
「僕からのプレゼントだよ。ありがたく受け取ってよ」
余裕そうに笑みを浮かべながら言うカナデだが、内心では冷や汗を垂らしまくっていた。
「(約十三分か……予想より結構長い。回避手段が
一週間に一度のみ使用可能という、他のスキルとは比べ物にならない程に長いクールタイムと異常に高い取得難易度、そしてモンスターには効果がないのがこのスキルの欠点だが、それを差し引いてもカウントダウン終了後に確実に即死させるという効果は強過ぎる。
なのでカウントダウンのスキルは少し長めだと予想はしていたのだが、この秒数は流石に予想外だった。
「だったら早く倒さないとダメじゃない! 【多重加速】!」
「【
「【身捧ぐ慈愛】! 【捕食者】!」
次にフレデリカとカラアゲがそれぞれ味方にパフを配り、メイプルが天使と化して化物を両脇に召喚する。
「【
追加でカラアゲが使用したスキルで、カラアゲとクロムとイズにピンクのオーラが発生した。それによりスキル発動率が上昇して、後方に控えていた八名が麻痺状態になる。
「「【飛撃】!」」
「二度目はね~よ」
マイとユイの大槌による衝撃波を、ドレッドはあっさりと回避する。いくら異常な攻撃力を持っていようとも、当たらなければダメージにはならない。
二人にとって、回避力の高いドレッドは非常に相性の悪い相手なのだ。
「【土波】!」
ドレッドと共に前に出たドラグが大斧を地面に叩きつけると、その地面が波打ってバキバキと裂けて散弾のように弾け飛び、マイとユイに襲い掛かる。
幸い【身捧ぐ慈愛】の範囲内にいたためダメージはないのだが、ドラグの攻撃は【ノックバック付与】によりダメージの有無に関わらず攻撃が当たっただけでノックバックが発生する。
それにより攻撃を肩代わりしたメイプルが後退して、マイとユイは【身捧ぐ慈愛】の効果範囲外に出てしまった。
「隙ありです! 【ファイヤーアロー】【ウォーターアロー】!」
範囲外に出てしまった双子を、すかさずエリザベートが狙い撃つ。二人分のノックバックを受けてしまい距離が大分開いてしまったため、メイプルの【カバームーブ】では届かない。
「【カバームーブ】!」
「あぁっ!? 防がれました!」
だが、もう一人の大盾使いはまだ二人の近くにいる。
クロムはマイとユイが【身捧ぐ慈愛】の範囲から出ているのを確認してすぐにスキルを使って二人の元に駆け付ける。その素早い判断は功を奏し、ギリギリで攻撃を防ぐことに成功した。
「危ねぇ……! 気を付けろ! 普通の魔法より速いし威力も高いぞ!」
さらにエリザベートの【魔弓】の特徴を瞬時に見抜くと、周りに伝えるため大声を張り上げる。
「ご名答! でも判断速すぎます! 絶対仕留めたと思ったのに!」
「大丈夫だ。また範囲防御からあの厄介な二人を引き離すから、エリーは隙を突いてどんどん狙ってくれ」
「まかっせてください! 次は仕留めます!」
絶好のチャンスを逃し地団駄を踏んで膨れるエリザベートを、ペインは優しく宥める。
この一連の行動は偶然でもなんでもなく、【集う聖剣】が【楓の木】の情報をかき集めて立てた作戦の一つだ。
メイプル達はこの二日間で大暴れした。特にこの二日目はメイプルが拠点から出撃して数々のギルドを襲撃しており、制限していたとはいえ新たに取得したスキルも派手に使用している。
そしてそんなメイプルを、【集う聖剣】の監視部隊はじっと息を潜めて観察していたのだ。空中浮遊する巨大な亀というユニークな移動手段を使うのはメイプルくらいなので、見つけるのもそのまま監視するのも非常に容易い。
そんなわけで、既に【集う聖剣】のメンバーは知っているのだ。
【身捧ぐ慈愛】の弱点も、武装展開も、第一回イベントで猛威を振るった大盾スキルに回数制限が付いていることも全て知っている。
その情報を踏まえた上で作戦を立て、本気でメイプルを倒すためにこの場に立っているのだ。
「さぁ! もう一回行くよ!」
「狙いが分かってるのにやらせるか!」
「うおらぁ!!」
「【魔力障壁】!」
「【
再び襲い掛かってくるドラグとドレッドを、それぞれカスミをクロムが抑え込む。さらにカナデが守りを固め、カラアゲが持続回復を付与する。
「効果がバレてる! カラアゲ、今日膜の付与は使った!?」
「すみません! 【炎帝ノ国】との戦いで使っちゃってます!」
防御力貫通の特性を無効化できる【
すでに【炎帝ノ国】との戦いで使っている今日は、もう【
「分かった! ならメイプル! 解除して!」
「わ、分かった!」
【身捧ぐ慈愛】の効果がバレている以上、このまま【身捧ぐ慈愛】を使用し続けるのは非常に危険だ。何時防御力貫通スキルが飛んでくるか分からない。
【
「「【飛撃】【飛撃】【飛撃】!」」
メイプルが【身捧ぐ慈愛】を解除したことで迂闊に前に出られなくなったマイとユイは、麻痺した相手をひたすら狙い撃つ。
次々に仲間がやられていくが、誰もそれを庇えない。庇ったところで自分がやられてしまうので、結局意味がないからだ。
「あの双子本当に危険すぎますよ! 【ダブルウィンドアロー】!」
「【
痺れを切らせたエリザベートが放った風の矢は混戦するプレイヤー達の僅かな隙間を通ってマイとユイの元に辿り着くが、その攻撃はカラアゲの【
「……やっぱりいない! 皆―! 気を付けてー! 例の黒尽くめがいない! 多分どっかに隠れてる!」
「そりゃフレデリカはハイドを覚えてるよね、直接狙われたし。服装だけなら印象深いし」
【楓の木】の姿を一人一人確認していたフレデリカが、全員に聞こえるように大声を張り上げる。その声を聞いてサリーは思わず顔を顰めた。
フレデリカはサリーを仕留めようとした際に、ハイドに暗殺されかけている。その時は本当に運良くメンバーの一人によって庇われ無事だったが、誰もいなかったはずの場所から急にハイドが現れたのを知っているため、姿を隠すスキルを取得していると考え付くのは容易である。
そしてその人物が明らかにサリーを助けに来ていたので【楓の木】のメンバーだと確信したのだが、フレデリカの見渡す範囲内にそのプレイヤーは見当たらない。
そうなると可能性は二つだ。今この場に居ないか、
(フレデリカが俺の存在に気付くのは想定の範囲内。だからってむやみに出て行ったりはしないけど)
周囲を警戒し始めたプレイヤー達の様子を、ハイドは壁際で【潜伏】を使いながら眺めていた。
ハイドの取得している姿を隠すスキルの中で、一番効果が長いのが動かなければ永遠に効果が持続するこの【潜伏】である。このメンバーが相手では一度姿を見せてしまうと再度隠れるのが非常に困難なので、最低限複数人を纏めて屠れる最大の隙を伺っているのだ。
それにいくら警戒したとしても、姿が見えず【気配遮断】のスキルレベルが最大まで上がっているハイドを見つけるのは容易ではない。
「【壱式・水剣】【ダブルスラッシュ】」
「ふっ!」
ドラグとドレッドの横を通り抜けてメイプル目掛けて奥へと進もうとしたペインにサリーが攻撃を仕掛けるも、あっさりと手に持つ盾で防がれてしまう。『NWO』最高レベルは伊達ではないのだ。
「行かせない」
「押し通る」
ペインを狙う二本のダガーは、盾や剣で弾かれてダメージが入らない。
しかしペインの方も、サリーに道を塞がれ身動きが取れなくなっていた。
「仕方ない。ドレッド!」
ペインの声に、ドレッドだけでなくドラグやエリザベート、そしてフレデリカも反応する。
「【トリプルサポートアロー】!」
「【神速】!」
「【バーサーク】!」
エリザベートが放った矢はペインとドラグとドレッドに突き刺さり、彼らにかかっている支援効果が上昇する。そしてドレッドの姿が消え、ドラグのスキル後の硬直がなくなった。
「【多重全転移】!」
そして最後にフレデリカの切り札が発動し、エリザベートとドレッドとドラグにかかっていた全てのスキル効果がペインに移される。
それはエリザベートが放った矢による三人分の支援効果上昇や、ドレッドとドラグが使ったスキル、その全てがである。
「【超加速】」
「くっ! 【超加速】!」
ペインに合わせてサリーも【超加速】を使うが、ステータスの差により距離は広がる一方だ。
サリーには驚異的な回避力があるためステータスの跳ね上がった今のペイン相手でも互角以上に戦えるが、元より相手にされなければその回避力も意味がない。
「ごめんメイプル! そっちに行った! 気を付けて!」
「えっ!? ど、どこ!?」
狙われたメイプルは、サリーと違い姿が消えたペインの位置を把握できない。
それでも出来る限り被害を減らそうと、大盾を構えてその逆側を警戒した。メイプルの体は小柄なため、片面を大盾で覆ってしまえばそちら側は安全だと考えたのだ。
しかしその考えは慢心である。
ペインが姿を現したのはメイプルが警戒している側とは逆側、つまりメイプルが大盾を構えている方からだ。
しかし背丈よりも大きい大盾はメイプルの視界を完全に遮ぎっており、ペインの出現には気付けない。
「【断罪ノ聖剣】」
敵の存在に気付いた時にはもう遅い。
光り輝く白銀の長剣は、一瞬の溜めの後にペインが狙う先に振り下ろされた。
「ペイン! 後ろ!!」
ほぼ原作通りになった……特にオリジナルを入れる要素もないのですが。
次回、化物変化。
次回の更新は十月の第一週目……に出来たらいいなぁ(願望)。