派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
でも願望に近い日に更新できてよかったです。
「【断罪ノ聖剣】!」
ペインは
本来であればペインの長剣はそのまま振り下ろされ、メイプルの大盾や鎧を破壊しながら彼女に大ダメージを与えていただろう。
「ペイン! 後ろ!!」
後方でずっと警戒していたフレデリカの叫び声を聞くまでは。
叫び声が聞こえたと同時に、背後から急に気配が出現した。それが何者なのか、またなぜ急に現れたのかを考える前に、ペインは体を無理矢理捻って振り下ろす剣の先を背後の存在に変更した。
「ハイド!!」
ペインの背後に現れたハイドは暗殺実行前に切り裂かれ、サリーの悲鳴が拠点に響きわたる。
「……はぁ。今日は良く対処される日だ(これはこのまま残っても不意打ちするのは無理だな)」
捨て台詞のようにそう言い残して、ハイドの姿は霞のように消えた。
ペインはハイドがポリゴン状になって消えなかったことに少々違和感を覚えたものの、それを深く考えている時間はない。
既にメイプルは自分の存在に気付いているだろうし、ここで何かしらのスキルを使用されたら非常に厄介である。
メイプルが行動を起こす前に、ペインは再び体を反転させてメイプルに攻撃を叩き込んだ。
「【壊壁の聖剣】!」
「【
ペインがハイドによって行動を後らされたのは、時間にしてみればほんの一瞬だ。
敵の存在に気付いたメイプルが対処しようとしても、間に合わないぐらいにほんの一瞬。しかしその一瞬があったがために、カラアゲの支援が間に合った。
その結果メイプルに放たれた攻撃は、防御貫通スキルであったのにも拘らず、白色のオーラを纏った彼女の体に弾かれてダメージを与えることなく終わった。
「……な、何っ!?」
その光景を目の前で見たペインの体は固まり、思考はその原因を探るべく高速で回転を始める。
最初にペインは監視部隊の報告にあった防御力貫通効果の無効化を疑ったが、それはすぐに否定する。
その効果はメイプルの全身を覆っていた黄緑の膜の効果であるという報告を受けていたからだ。
そしてそれを施したのがプレイヤーもそのスキル名まで全て報告にあったが、今聞こえてきたスキル名は報告のものと違う。別のスキルだ。
「メ、メイプル……!」
「こ、攻撃が弾かれた! 何が起こったんだ!?」
メイプルのピンチ、そして同時にペインの攻撃が弾かれたことに対する動揺は凄まじく、双方のギルドの動きが一時止まる。
「う、上手くいった……!」
その中で、メイプルのピンチに唯一反応できたカラアゲが、思わず安堵の息を吐く。
彼が使用した【
立て続けに起きた予想外の出来事に全員が固まる中、その硬直を隙として見出し行動を起こすプレイヤーが
(【
「うがっ!」
「【属性変換】【サンダーアロー】!」
「うわあああ!!」
「ドレッド!」
「カナデ!」
先程ペインにより死んだと
それによりドレッドに狙われて行動が抑圧されていたマイとユイはある程度自由に動けるようになり、ペインの頭上にあったカウントダウンは消滅した。
「よし! これで時間は気にしなくっても大丈夫ですね!」
「エリーナイス! よくやった! でもこっちもドレッドやられた! ってかアイツ何で生きてんの!?」
(アレは確かに危なかった。【空蝉】がなかったら確実にやられていた)
一日に一度だけ致死ダメージを無効化できる【空蝉】によってペインの攻撃をやり過ごしたハイドは、再び息を潜めてドレッドの隙を突いたのだ。
先程ペインの窮地を救ったフレデリカも、メイプルとペインの方に気を取られてハイドの存在には気付けなかった。
(それにしても何だ今の矢! あの女の子魔法を矢に出来るのは薄々察してたけど、今のは流石に速すぎる! あんな速度で来られたら躱すのは無理だ!)
エリザベートが【魔弓】によって放つ矢は、属性によって若干効果が異なる場合がある。
【属性変換】は消費MPを増加させて、使用するスキルの属性を変化させるスキルであり、【雷】は現在エリザベートが使用できる中で最速の属性だ。
「まだ……まだだ!!」
もう完全にメイプルはペインの方向を向いているし、既にスキルを発動する準備をしている。
だがペインはメイプルに対して、専属の監視部隊を作ってまで情報を集め作戦を立ててこの場に赴いた。
その理由はイベントのランキングとは一切関係なく、ただただ純粋にメイプルに……そして【楓の木】に勝ちたいという欲求から。
そんな男が、一度や二度攻撃を防がれ奇襲を決められなかったぐらいで、諦めらるはずもない。
「【断罪ノ聖剣】!」
「【暴虐】!!」
三度振り下ろされたペインの剣は、彼に向かって伸ばされた腕を二本斬り飛ばす。しかしその時には既に、メイプルは人の姿をしていなかった。
「な、何だ……!?」
一瞬前までプレイヤーだった存在が、次の瞬間には化物になる。そんな光景を目の当たり驚愕しながらも、伸ばされた腕を二本斬ったのは流石と言ってもいいだろう。
しかし、化物から生えている腕は二本だけではなかった。残った腕でペインを掴み、力を籠めて締め上げたのだ。
「うっぐっ……! 焦ったか、やられたよ……」
掴まれて身動きが取れなくなったペインは、最後には苦笑いを浮かべて化物の醜悪な口が迫る中抵抗を止める。そしてそのまま、化物はペインの上半身を食い千切った。
『スキル【隠蔽】を取得しました』
「……は、はぁ!? 化物になるとかいくらなんでもそんなのデタラメすきゃっ! (【暗殺】【ピンポイントアタック】)
いち早く正気に戻ったエリザベートは盛大に文句を言いながら
(何かアナウンスが聞こえた気がするけど、今はそれどころじゃないっての! 【隠れ身】!)
スキル取得のアナウンスを一旦無視して、効果は短時間だが姿を現していても使える【隠れ身】で距離を置く。
「え、エリー!!」
「クソっ! また消えやがった! 全員気を付けろ! どっから出てくるか分からねぇぞ!」
ドラグの警告により、
それはハイドに対する行動としては間違っていない。しかしハイドに集中するという事は、この場に居る脅威から意識から外してしまうのと同義である。
「グルルルル」
「ん? あっ……」
「グラゥ!!」
案の定見つからないハイドを探すのに集中し過ぎて、メイプルの接近に気付くのが遅れた。
そして腕が届く範囲まで近づいたメイプルは、手当たり次第踏みつけたり噛り付いたり炎を吐き出したりして大暴れする。
「いやもうこれは無理~!! 逃げるよ!! 【多重加速】!」
フレデリカは既に勝ち目がないと早々に判断し、生き残っている全員に【AGI】を上昇させるバフを掛けて撤退を試みるが、振り向いた瞬間に視線の先で幾つも爆発が起こる。
「そう簡単には逃がさないわよ?」
そう言うイズの両手には、既に次の爆弾がスタンバイされている。前門の爆弾に、後門の
フレデリカ達が迂闊に動けず足を止めると、今度は爆弾以上に恐ろしいものが襲い掛かってきた。
「「【飛撃】!」」
「っ! 【多重障壁】!」
攻撃の宣言に反射的に防御を選択してしまったが、その直後にフレデリカは自分の選択ミスを確信した。
「ぁ……」
何重にも展開された障壁は、ガラスのように簡単に破壊されてフレデリカの元まで到達する。
マイとユイの攻撃はどんな壁や防具も紙のように破壊するので、防ぐ類の防御は無意味だ。
しかし立て続けに予想外の事態に遭遇したフレデリカには防御手段を選んでいる余裕がなく、攻撃に対して一番使い慣れた方法を取ってしまった。
その結果、傍にいた数名のプレイヤーを巻き込みながら彼女は消し飛ばされ光へと消えた。
「……かっ、たのか? 私達は……?」
「……あぁ。そのようだな……」
一瞬前までピンチだったのにも拘らず、あっという間に逆転した状況にいまいち実感が持てないクロムとカスミが言葉を零す。
だが現状【集う聖剣】は壊滅し、運良く生き残った数人も逃げるように拠点を後にしている。
「……一歩間違えば、負けていたかもしれなかったが、何とか勝てて良かった」
「あっ! ハイド! どうやってさっきの攻撃防いだの!? やられたちゃったのかと思ったでしょ!?」
「ぅぇ……ぁ、えっと……」
襲撃者がいなくなったのを確認してハイドが姿を現すと、いの一番にサリーが詰め寄ってくる。あまりの勢いにハイドがタジタジしながら助けを求めて周囲を見渡すが、誰も助けに来ない。
先の襲撃で疲労しているのも理由の一つだが、サリー以外もハイドが無事だったカラクリの正体が気になっているのだ。
「……スキルの効果だ。一日一回致死ダメージを無効化できる」
ハイドの【VIT】は0でありHPも初期値なので、実質どんな攻撃も一回だけ無効にできる彼の保険だ。逆に言えば、その保険を失えばどんな攻撃でも死亡してしまう紙装甲の出来上がりだが。
「何その反則級にすごいスキル!?」
「確かに凄まじいな」
ハイドと同じ条件であるサリーと、致死ダメージを受けても生き残って回復するタイプのタンクであるクロムがそのスキルに対して強く反応する。
確かに二人の戦い方は【空蝉】と相性がいいだろうが、ハイドは取得条件を言うべきか悩んだ。【寡黙】と違い、このスキルは明らかに有用かつ誰にでも取得できるようなスキルではないと確信していたからだ。
「……クロムは、無理だ。条件を満たせない」
「何!? 条件ってなんだよ!?」
「……それは、言わない。とにかくクロムは教えても無駄。絶対に条件を満たせないから」
現在のクロムのレベルは56。【空蝉】を取得できる35レベルをとうに通り過ぎているし、彼は攻撃を受けて反撃する
ハイドの言う通り、天地がひっくり返っても取得するのは不可能である。
「じゃあ私は?」
「……サリーは、可能性がある。絶対とは言えないけど」
サリーの回避能力は目を見張るものがあるし、【剣ノ舞】を取得しているなら25レベルまではノーダメージで到達している。
ハイドが見ている限りではダメージを受けていないし、今のままノーダメージでレベルを上げていければ【空蝉】を取得できるだろう。
ただ油断してダメージを受けてしまう可能性も残っているので、ハイドも断言はしない。後はサリーの実力次第だ。
「う~ん、私も気になる……ハイドくん、条件教えてよ~」
「私達も……」
「一撃で死んじゃいますし……」
サリーやクロムだけでなく、この場に居る全員がそのスキルを欲しがる。致死ダメージを何のリスクもなしに、一回だけ無効化できる魅力的なスキルなので無理はない。
「……条件は言わない。言ったら取得できなくなるかもしれないし」
「え!? そうなの!?」
ハイドは嘘は言っていない。人間、『これは絶対に避けなければならない』と言われてしまうと、変に意識してしまってそれまでできていたことが出来なくなってしまうからだ。
万が一、サリーが『絶対に攻撃を受けてはいけない』という雑念を持ってしまったら、取得できるものも取得できなくなる可能性がある。なのでハイドは答えではなく、ヒントのみを言うだけにした。
「……心配しなくても、いずれ分かる」
「……分かった。じゃあもう聞かないでおく。後、その……」
「……?」
追及を止めたサリーが、今度は頬を上気させもじもじと体を動かす。
その行動の意味が分からずハイドが小首を傾げていると、やがてサリーは小さな声でぼそぼそと言葉を発した。
「ハ、ハイドが無事で安心した」
「……あぁ、ありがと」
「そ、それだけ! それだけ言いたかっただけだから!」
(いや、何だったんだ……?)
サリーはそれだけ言い残すと、すぐにハイドから顔を背けて離れていった。
「あらあら」
「全く、サリーも乙女だな」
「「わぁ~……!」」
(な、何……? サリーや皆の行動の意味が分からないんだけど!?)
遠巻きにハイド達の様子を見ていた女性陣が盛り上がっているが、その理由が分からないハイドは困惑するしかない。
「……あの、何かありました?」
「ううん、別に~? 何でもないのよ~♪」
「……………………(いや、滅茶苦茶気になるんだけど……でも絶対教えてくれなそうだなぁ)そう、ですか」
やたら上機嫌なイズにそう言われはぐらかされるが、少なくとも何でもない時のテンションではない。
だがここで追及しても教えてくれそうにはないので、ハイドは大人しく引き下がった。
(そういえば、さっき戦ってたときに新しいスキルが手に入ったよな?)
入手した直後は戦闘中だったため確認を後回しにしたスキルの事を思い出し、早速詳細を表示する。
【隠蔽】
周囲と気配を同化させ、完全に姿を消す。
発動している間、十秒毎に全ステータスが10%ずつ減少する。
スキルを発動している間は、HP、MPの回復やステータス上昇が出来ない。
HP、MP以外の全ステータスはスキルを解除したら元の数値に戻る。
スキル解除から、一時間後に再使用可能。
取得条件
姿を隠すスキルを三種類以上所持。
誰にも目視されずに過ごした時間が合計で五十時間を超える。
(おおぅ……めっちゃいいスキルが手に入った! ステータスが減るのは少し痛いけど、動いたり攻撃しても効果が継続するのはすごくいい!)
非常に有用なスキルが手に入り、段々とテンションが上がっていく。
(制限時間は書いてないけど、デメリットでHPも減るなら実質99秒か。他のスキルと比べて断然長いな)
【隠蔽】は発動中、十秒毎に全ステータスが10%ずつ減少すると書かれており、HP、MP以外の全ステータスではない以上当然HPも減少する。
そして100秒経過するとステータス減少が100%になるので、HPも0になり死亡してしまう。スキル使用中は回復も出来ないため、時間ギリギリで考えるのならば制限時間は99秒となるのだ。
ハイドが取得している他のスキルを見ても、その効果の継続時間は一目瞭然だ。【隠れ身】は三秒間のみで、【隠形】は三十秒使用可能だが攻撃すれば効果が消えてしまう。
それらと比べると、デメリットはあれどほぼ制限なしで使える【隠蔽】は破格なのだ。
(取得条件の姿を隠すスキル三種類は、【隠形】【潜伏】【隠れ身】だな。これ姿を隠すスキルをもっと集めたら、他にもスキルが取れるかも。あ、そういえばこのスキル使うとHPが減るから【空蝉】みたいにノーダメージの条件が取得できなくなるのか……まぁ、いいか。ノーダメージは絶対じゃなかったし。運が良かっただけだからな)
ハイドは隠れて敵に見つからないようにした
つまりサリーと違い、ハイドにはダメージを受けないことに対するこだわりはないのだ。
「ふぅ。皆ゴメン。油断しちゃった」
「カナデ!」
「うわぁ!?」
そうこうしている内に、エリザベートによって倒されたカナデが復活した。
それに気づいたメイプルがカナデに駆けよるが、今の彼女は化物状態。その状態の事を知っているとはいえ、復活直後にモンスターにしか見えない化物に迫られたカナデは驚いて悲鳴を上げた。
「メ、メイプル! ちょっと落ち着いて! それとお帰り、カナデ」
「ただいま、サリー。……僕以外は、みんな無事だったみたいだね」
「カナデはペインに即死を付与して狙われてたからしょうがないよ。寧ろ守れなくてゴメン。私達もハイドがやられたりメイプルがピンチになったりで動きが止まっちゃった」
「それは僕も同じだよ。ってそういえば、ハイドは? ハイドももう復活してるよね?」
カナデは自分よりも少し早くに倒された、と思い込んでいるハイドの姿が見えずキョキョロと辺りを見渡す。
実際には倒されていないのだが、ハイドが再び姿を現したのはカナデが倒される直前だったため、勘違いしたままなのも無理はない。
「あぁ~、ハイド? ハイドは倒されてなかったよ……あとカナデの隣にいる」
「え? ってうわぁ!?」
(うん。驚かせてゴメン)
その後ハイドは質問される前に、カナデにも自分が死ななかった理由を説明した。
「へぇ。そんなスキルがあるんだ? 僕にも取れる可能性はある?」
「ない」
「あらら。残念」
ハイドの即答にカナデは少し悔しそうにしながらも、取得条件の詳細は聞かなかった。
元より【
「それじゃあ、よし! メイプル! カナデも復活したし、第二段階だよ!」
「うん! まっかせて!」
オーブを回収したサリーの声に、ノイズ交じりのメイプルが元気よく答える。
現在時刻はもうすぐ
まだ碌に辺りも見通せない闇夜の中、一体の化物と九体の怪物が暴れ回る準備を始めた。
照れ屋なサリーちゃん、ちょっとだけ勇気を出す(しかしハイドには伝わらず!)。
次回、攻勢開始。