派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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一ヵ月ぶりですね。遅くなってすみません。
モチベーションがある時とない時が、更新速度で丸わかりですね……。


暗殺者と夜襲

 森の中に拠点を持つとある大規模ギルドでは、深夜の防衛の為にいくつもの明かりを灯して襲撃に備えていた。

 まだ二日目の終わりとは言え、既にかなりのペースでギルドがリタイアさせられており、大規模ギルドであっても襲撃されれる可能性が高くなっているので警戒を強めているのだ。

 

「……ん? 今奥で何か動かなかったか?」

「何?」

 

 周囲を警戒していたプレイヤーの一人が、すぐ隣にいたもう一人に影が動いた方を指で知らせる。するとその方向から、がさりと草を踏みしめる音がした。

 

「……行くぞ」

「あぁ。確認しないとな」

 

 二人はそれぞれ武器を構えると、ゆっくり音の鳴った茂みに近付いていく。

 そして茂みの奥を照らし出すと、二人の眼前に大きく口を開けた化物の姿が浮かび上がった。

 

「「…………は?」」

 

 予想外の光景に驚き、身体を硬直させて咄嗟の行動が取れなかった二人は、そのまま化物に体を食い千切られて光となり消えていく。

 化物は二人を捕食しただけでは止まらず、拠点の中心に向かって突き進む。

 異常に気付き化物を倒そうと向かって来るプレイヤーを、焼いて引き回して食い殺してと大いに暴れ回り始めた。

 

「ボスモンスター!?」

「何でモンスターが出てくんだよ!?」

「このイベントではモンスターは出て来ないんじゃなかったの!?」

 

 倒されたプレイヤーの数は、生き残っているプレイヤーの数に比べたら大したことはない。

 ただし出ないと告知されていたはずのモンスタ―の出現に、プレイヤー達は大いに動揺してしまい連携どころではなくなってしまった。

 例え突然大勢のプレイヤーが攻めてきたとしても、これほどの混乱は起こらないだろう。

 このイベントの内容的に大勢のプレイヤーに攻められるのは予測できても、一匹の化物が襲ってくるという予測は出来ないから当然と言える。

 

「……メイプル、オーブ発見。ここから東の方」

「分かった!」

 

 化物の上に乗っていたプレイヤーの一人、ハイドの指示によって化物(メイプル)が台座の方へ進行方向を変える。

 ハイドはオウルを遥か上空へ飛ばし、オウルと感覚を共有できる【五感共有】を使用し視覚を共有して周囲を探っていたのだ。

 

「よし! 皆も行くよ!」

 

 その声を合図に、化物の背に乗っていた九人の内八人のプレイヤーがその背中から飛び降りて暴れ回る化物に加わる。

 化物よりも遥かに高威力の攻撃を受けて、次々光となって消えていく味方の姿にプレイヤー達の混乱はさらに拡大し、より蹂躙は勢いを増していった。

 

「……オーブ確保完了。次に行こう」

「了解! 次!」

 

 サリーの声を合図に化物は動きを止め、再び背中に八人を乗せて今もなお混乱しているプレイヤー達を轢きながらその場を後にした。

 

「うん。オーブも手に入ったし、いい感じいい感じ」

「……計画通り、だな」

「相手の戦力も結構削れたしね。この調子でどんどん行くよ!」

 

 ハイド達が自軍のオーブを持ち歩いてまで全員で出撃しているのは、オーブを奪う以外に大規模ギルドの脱落を早める目的があるからだ。

 現在メイプルは【暴虐】の効果で化物の姿になっているのだが、その事実を知っているプレイヤーは【楓の木】を除くと姿が変わるのを目撃した【集う聖剣】のみ。つまりほぼ伝わっていないのだ。

 ただしこの情報の秘匿性は絶対ではない。【集う聖剣】から知られていく以外に、【楓の木】を襲撃しに来たプレイヤーが目撃して気付く可能性だってある。

 そんな時間制限のある秘匿性を無駄にするサリーではない。その事実が周囲に知れ渡る前に、大規模ギルドを一気に攻めに行こうと考えたのだ。

 

(このまま大規模ギルドをいくつか襲撃するんだったか。相手からしたら、いきなり災害が襲ってきたようなもんだよな)

 

 メイプルの【暴虐】時の姿は黒っぽく、闇夜に紛れてしまうので急に目の前に現れたように感じて大いに動揺するだろう。

 しかも今回のイベントではモンスターが出ないと告知されているので、その混乱はさらに増大する。

 

「皆で拠点で戦った時から思ってたけど、サリーの新しいスキルって綺麗だね~。どうやって手に入れたの?」

 

 移動中に、唐突にメイプルが呟いた。それなりに余裕があるので、その疑問にサリーも笑顔で返す。

 

「三層だよ。フィールドの奥に道場があって、そこのクエストをクリアしたら手に入れられるの」

「フィールドの奥……道場、かぁ。なるほど……

「サリーあそこのクエストをクリアしたのか!? アレは相当難しいって掲示板にも話題になってたんだが」

 

 メイプルの若干不穏な呟きは、サリーの答えが聞こえたクロムの驚きの声によって掻き消された。

 クロムは掲示板で頻繁に情報収集をしているので、道場のクエストの存在を知っていたのだ。

 

「そうだね。私でも勝つのはギリギリだったし」

「サリーですらギリギリなのか……こりゃ俺には無理だな」

 

 掲示板による情報の段階でかなり高難易度なのは知っていたクロムだが、異次元の回避能力を持つサリーですらもギリギリの勝利だったことを聞き、本格的にクエスト挑戦を諦める事にした。

 

「あっ、メイプル! 左に曲がって! そっちの方に次のギルドがあるから!」

「よ~し、どんどん行こう~!」

「「「「「「「「お~~!」」」」」」」」

 

     ◇◇◇

 

 そうしてそれから夜の間ずっと続いた破壊の行進は、日が出始める午前六時に終わりを告げた。

 おおよそフィールドを一周し、目的のギルドのほぼ全てに襲撃を掛け終えたのだ。

 

「はぁ~、疲れた~! こんなにいっぱい走ったのは初めてだよ……」

 

「……メイプルはまず走らないしな」

 

 徒歩かシロップに乗って浮遊、もしくは急いでいたり少し距離がある場合は【機械神】による自爆飛行を行う。基本的にメイプルの移動手段はこの三つだ。【AGI】が0なので、滅多に自分の足で走ったりはしない。

 ただ【暴虐】使用中は【機械神】が使用できずシロップの背にも乗りづらいので、自分の足で移動しなければならない。まぁ【AGI】が50になるので、普段のメイプルよりは格段に速いのだが。

 ともかく、この長距離長時間を自分の足で移動するのはメイプルにとって初めての経験であり、かなり疲労が溜まってしまったのだ。

 

「ちょっと寝てきてもいい? 何かあったら起こしに来てくれたらいいから……」

「うん、お疲れ様。大丈夫だよ、ゆっくり休んでおいで」

 

 メイプルが化物状態で、顔の目の部分を擦りながらのそのそと洞窟の奥に移動する。姿は恐ろしいのに、行動がメイプルのままなので違和感が凄まじい。

 

「……対処できないぐらいの大人数で襲撃が来たら、誰も倒されないように撤退で良かったよな?」

「うん、それで大丈夫。私達は人数が少ないから、一回の死亡でも痛いしね」

 

 たった十人のギルドである【楓の木】は、一人の戦力低下が命取りになる可能性がある。

 現在カナデとマイとユイが一回死亡して全ステータスが5%減少しているので、これ以上の無駄な消耗は避けたいのだ。

 

「今あるオーブでポイントが取れないのはちょっと痛いかもだけど、スタートが良かったお陰で十位内には入れそうだしね」

「……サリーが初日に頑張り過ぎるほど頑張ったからな。言えば手伝ったのに」

「う……それはもう言わないでよ。私も反省してるんだから……」

 

 サリーは二日目の夕方に、誰にも言わずに無理をし過ぎだとギルドメンバーほぼ全員から説教を受けていた。特に【AGI】が高くサリーの作業を手伝えたカスミとハイドからはかなり小言を言われている。

 

「……次に機会があれば、ちゃんと頼ってくれるんだよな?」

「も、もちろん」

「……ふぅ。じゃあもう何も言わない。サリーを信じる」

 

 サリーの返事に、ハイドは少し目を細めて頷いた。口元は口当てで見えないが、普段全く表情を変えないハイドが微笑んでいる。

 それは現実(リアル)で隣の席であるサリー(白峯 理沙)ですら、初めて見た表情の変化であった。

 

「ぅっ!!」

 

 その優しい眼差しを至近距離で真正面から見たサリーはサッと顔を背けた。

 頬が見る見るうちに赤くなり、鼓動が激しさを増していく。

 

「……サリー?」

「い、今顔見ないで!(笑った顔なんて初めてなんだけど……!)」

「……?」

 

 想いを自覚してから、サリーは感情を隠すのが上手く出来ないでいた。

 普通に話している分には問題ない。ただ不意かつ無自覚に取るハイドの行動に、ドギマギさせられてしまうのだ。

 

「(キョトンとした顔してくれちゃって……! 私の気も知らないで……!!)」

 

 いくらサリーが分かりやすいとはいえ、まだ想いを口にしていないのでハイドがサリーの感情を知ってる訳がない。とんだ八つ当たりである。

 

「……ハ、ハイドってさ……その、他の女子にもそうなの?」

「……は? 何の話だ?」

「っ! な、何でもないから!!」

 

 遂に羞恥に耐え切れず、ハイドの隣から腰を上げて足早に移動する。 

 明らかに不審な態度だったものの、ハイドは特に言及せずその背を見送った。

 ただし、そんな二人の様子を見守っていた面々は不満たらたらである。

 

「もう! ハイドくんったらデリカシーが足らないわね!」

「確かに。僕から見てもちょっと鈍すぎるかな~」

「サリーもかなりあからさまな態度をとっている訳だしな。もう気付いていてもおかしくないと思うんだが」

「「見ていてドキドキします~!」」

 

 因みに今は眠っているメイプルも、サリーの分かりやす過ぎる態度から彼女の想いの先に気付いているので、起きていたら身近なラブコメに目を輝かせながら野次馬に混ざっていただろう。

 

「全く。騒ぎ過ぎじゃないか?」

「クロムはもう少し人の気持ちを察する勘を身に着けた方がいいと思うぞ。いい加減鈍感が過ぎる」

 

 他のメンバーから一歩離れた位置で、クロムは『またか……』っと微妙な顔をする。

 そんなクロムの傍に、呆れたような視線を向けながらカスミが近寄ってきた。

 

「いや、俺だって皆がハイドとサリーを見て盛り上がってるのには気付いてるよ」

「何だ。やっと気付いたのか」

「流石に毎回毎回ハイドとサリーを見て盛り上がってたら分かるだろ」

 

 仲間内から鈍い鈍いと言われ続けたクロムではあるが、ここまで騒げば流石に皆がどんな内容で騒いでいるのか容易に想像がついた。

 

「でもあの二人がよく一緒にいる年頃の男女ってだけで、そういう関係だって見るのは大袈裟だと思うけどな。普通に友人同士だろ、ありゃ」

 

 しかし肝心な部分に気付けない辺りはやはりクロム(鈍感)である。

 ハイドはともかく、サリーの想いには未だ一切気付く様子がない。

 

「……やはりクロムはクロムか」

「どういう意味だそいつは?」

「はぁ……」

「溜息吐いてないで答えてくれよ、気になるだろ!?」

 

 これには一瞬期待したカスミも、再び呆れたような目を向ける。

 その後も何故呆れられたのか訳を聞いてくるクロムを、カスミは軽くあしらい続けた。

 

     ◇◇◇

 

 そんな風に雑談をしながら過ごしていた七時過ぎ。

 全員が入り口付近を警戒しながらも、徹夜の襲撃によって溜まった疲労をのんびりと回復していると、大盾を装備したプレイヤーを先頭に七十名程のプレイヤーが拠点に足を踏み入れた。

 

「……潰し合った後みたいだな(オウル、『【覚醒】』)」

「ホー!」

 

 ハイドがオウルを指輪から呼び出しつつ、警戒を強める。ハイド以外もそれぞれ台座の付近に集まりながら武器を構えた。

 

「だと思うぞ。奪ったオーブの数に比べて人数が少ないしな」

「何にせよ、向かって来るなら打ち倒すまでだ」

 

 接近戦には向かないカナデとカラアゲ、姿を隠す必要があるハイドが後方へ移動する。

 マイとユイは陣形の中心に構えて、イズは二人の間で【魔法工房】を展開し、残りのメンバーはそれぞれ左右に展開した。

 

「「えいっ!」」

 

 陣形の中心、つまり敵の正面に位置するマイとユイから鉄球が勢いよく放たれた。

 その鉄球を受け止めようと大盾構えたプレイヤーが次々と粉砕されて光に変わる。

 カラアゲの【付与術(エンチャント)】により上昇した【STR】で放たれる鉄球は、既にただいい装備品を使っていたり高レベルなだけのプレイヤーなど余裕で粉砕できる域に至っている。受け止めるのは愚策なのだ。

 

「はい。どんどん置いておくからね~」

 

 マイとユイの足元に置かれた鉄球が、イズの手によってどんどん補充されるので球切れの心配はない。

 しかしプレイヤー達もただ茫然とやられるだけではない。総勢七十人もいるので、多少犠牲が出ても前に進む方を選択して段々と距離を詰めてくる。

 

「【弐式・水切り】! 【ウォーターボール】!」

「【ファイヤーボール】【ウィンドカッター】【破壊砲】」

 

 遠距離に対して攻撃手段を持つのはマイとユイだけではない。

 カナデやサリーも、【魔導書】や自前の魔法及びスキルを使用してその数を減らしていく。

 

「【ファイヤーボール】!」

「【マッドショット】!」

「【パワーショット】!」

 

 そして当然ながら、襲撃者達もただ黙って攻撃を受けるだけはなく、反撃をしてくる。

 徐々に距離を詰める間も、魔法や矢がマイとユイの方に向かって常時飛んできているのだ。

 

「【カバームーブ】! 【カバー】!」

 

 そして、それらの攻撃は全てクロムが盾と体を使って受け止める。量が量なのでかなりのダメージが入るも、装備品に付与されたスキルや自前のスキルの回復効果で持ち直す。

 メイプルがド派手で陰に隠れてしまっているが、ダメージを与える傍からどんどん回復してくるクロムも相当厄介なプレイヤーなのだ。

 

「【氷雪大地】」

 

 武器が届くあと一歩の位置まで近づいたプレイヤー達は、無念にもカナデの使った【魔導書】によって足が凍り動けなくされた。

 このスキルの効果時間は五秒間だが、マイとユイに蹂躙されるには十分過ぎる時間だ。

 

「「【ダブルインパクト】!」」

 

 かなり近付かれたため、鉄球から二本の大槌に装備を変更したマイとユイの衝撃波付きの八連撃により、軽く十人のプレイヤーが光に変わり散っていく。

 そしてマイとユイが鉄球を使わなくなり、鉄球を補充する必要が無くなったイズは今度は取り出した爆弾を投げつけ始めた。

 

「【壱式・水剣】。朧、【影分身】!」

 

 朧のスキルで増えた四人のサリーが、混戦状態のプレイヤー達に向かって突き進む。

 ここまで敵味方が入り乱れてしまうと、何時何処から流れ弾が飛んでくるか察知が難しいため、一撃も攻撃を受けられないサリーは味方の援護に回って敵を撹乱する役に徹していた。

 

「【一ノ太刀・陽炎】! 【跳躍】!」

「【カバー】! 【炎斬】!」

 

 カスミやクロムも負けていない。カスミは瞬間移動で接近して斬り捨ててから【跳躍】で離れるというヒットアンドアウェイで、クロムも攻撃を盾で防ぎながら反撃をして受けたダメージ分を回復しながら戦うという戦法でそれぞれ敵を相手取っている。

 

(【弱点看破(ウィークネス)】【暗殺】【ピンポイントアタック】)

「うぎゃぁ!?」

「うわ何だコイツ! どこから湧いて出やがった!?」

(人をゴキみたいに言うなっての。【隠形】)

 

 仕上げにハイドが後方で魔法を放つプレイヤー達を、次々に【暗殺】によって即死させていく。目視出来ない相手から急に即死攻撃を与えられ、襲撃者達はどんどん浮足立つ。

 【楓の木】は、それぞれ自分の得意分野を生かして人数は少ないながらも優勢に戦っている。

 ただある程度の広さがあるとは言え、洞窟内でここまで爆発音や金属がぶつかり合う音を響かせていれば、すぐ隣の部屋にいる入眠から一時間も経過していない化物が起きだしてくるのは当然の摂理と言えるだろう。

 

「も~、うるさいなぁ~」

 

 ノイズ交じりの声を出しながら、化物が奥の部屋からのっそりと姿を見せる。

 まさか自分達の拠点を襲ったボスモンスターと思わしき化物が奥から姿を見せるとは思わず、驚きで侵入者達の動きが止まった。

 

「静かにして欲しいし、倒しちゃうからね! もうっ!」

 

  ◇◇◇

 

 その約三十分後、全部で七十人いたプレイヤー達が全て光へと変わったのを確認すると、再びメイプルは就寝するために奥の部屋に引っ込んでいくのだった。




メイプルの不穏な呟き。一体その意味とは……?
そしてサリーは順調にラブコメしてます。
いつの間にか皆が騒いでいた理由に気付いていたクロム、ただしサリーの気持ちには気付けない。

次回、終幕。

次の更新は今月中にやりたいです。
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