派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
防御特化と【武操術】
『新しいスキルが手に入ったからお披露目がしたいので、来れる人は訓練場に来てください!』
そんな不穏なメッセージがメイプルからギルドメンバー宛に一斉送信されたのは、第四回イベントから一週間が経ったある日のことだった。
そのメッセージと送り主を見た面々の反応は驚愕や期待や呆れと様々だったが、ともかくメッセージを受け取った一同は一時間後に訓練場に集結した。
「……メイプルの新スキル……一体どんなスキルなんだ……?」
「分かんない。私も聞いてないし」
ハイドは難しい顔で唸り、サリーに至っては若干諦め顔だ。もうどんなスキルが来たって受け止める覚悟である。
「アップデート前でのスキル取得は予想してなかったよ」
「また付属品が増えるのか……」
「天使に化物と来て、今度は一体何になる気なんだ?」
「もう味方ならいいじゃない。味方なら」
カナデ、クロム、カスミ、イズも心境としてはサリーに近い。イベントが終わってからまだ間が開いておらず出来ればゆっくりしたかったので、心の準備が間に合っていないぐらいだ。
「メイプルさんが取得した新しいスキル、楽しみだねお姉ちゃん!」
「うん! どんなスキルなんだろうね」
「防御か攻撃か、ワクワクしますね!」
ハイド達が難しい顔をする一方、極振り組はメイプルの新スキルをキラキラした顔で心待ちにしていた。
メイプルを含めた極振り組は、基本的に難しい事は年長者にお任せなのだ。
「え~お待たせしました! じゃあ今日私が手に入れたスキルをお披露目したいと思います!」
期待やら諦めやら二極な視線を受けるメイプルだが、当の本人は視線など一切気にせずニコニコと笑顔を浮かべている。
「きっと皆驚くよ!」
改めて言われたその言葉に、極振り組以外に戦慄が走る。今までメイプルがそんな宣言をしたことはなく、そうでなくとも散々驚かされてきたのだ。動揺してしまうのも無理はない。
「……メ、メイプル自身が驚くと思うスキルなのか?」
「うん! 自信あるよ!」
(そんな自信は持ってほしくなかった……)
満面の笑みで返答するメイプルにハイドは頭を抱えた。厄介なスキルの予感しかしない。
「じゃあ行くよ~!」
改めて心の準備をする時間はなく、メイプルは以前イズに作ってもらった【白雪】を構えてスキルを発動させた。
「【壱式・地盾】!」
メイプルがスキルを発動させると、彼女が構えた【白雪】が土を纏いやがて元の大きさより一回り大きな土の盾となった。スキルが起こす現象はこれで終了らしく、笑みを浮かべたメイプルが盾の影から顔を覗かせた。
「どう? 驚いた?」
盾に土を纏わせてダメージを減少するという、今までのメイプルのスキルから見れば非常に地味なスキル。スキルが起こした現象
(だけど、
メイプルが発動したスキルを見た瞬間、とある
「メ、メイプル……それ、【武操術】……だよね?」
全員の視線を一様に受けたサリーもまた、限界まで目を見開き驚いていた。そしていつも同じスキルを使っているだけあって、メイプルが手に入れたスキルをピタリと言い当てる。
「そうだよ!」
「凄いですメイプルさん!」
「サリーさんの水がいっぱい出てくるスキルですよね!?」
「という事は、メイプルさんのは土がいっぱい出てくるんですか?」
「多分! サリーが使ってるスキルを私も使ってみたかったから、頑張って手に入れてきたの!」
そう自慢げに話すメイプルに、ハイド達の驚きは何割伝わっているだろうか。いや、無邪気に極振り組で話している彼女には、ほとんど伝わっていないだろう。
「……メイプル? そのスキルどうやって手に入れたの?」
こめかみを抑えながらサリーから出てきた疑問は、ハイド達も不思議に思っている事だった。
【武操術】を取得するにはやたら強いNPCをスキル無しで倒す必要があり、全プレイヤーでトップと言っても過言ではない
「…………い、一応クエストをクリアしてだけど?」
スキルを手に入れている以上、クエストはクリアしたのだろう。それはサリーも分かっている。
しかしその返答をする際にあった微妙な間や若干の言い淀みをサリーは見逃さなかった。
「その時の状況を詳しく教えて」
「う、うん。えっとね……」
◇◇◇
「はぁ……中々見つからないなぁ。ちょっと疲れてきたよ~」
話は数時間前に遡る。メイプルはシロップに乗って、サリーから聞いた道場をゆったり探し回っていた。
だが道場の詳しい場所を聞いていなかったメイプルは、かれこれ小一時間も二層をふらふらと浮遊しているのだ。
「ん~……ん? あっ! もしかしてあれかな?」
ようやく道場を見つけ、シロップを降下させて指輪にしまう。そしていつもの武器を装備して準備万端で道場の襖を開けた。
「たのも~う!」
「……ここでは特殊な武術を継承するための試練を行っておる。主にその試練を受ける覚悟はあるか」
青いパネルが表示されると、メイプルは早速『YES』を押してクエストを開始する。
「よかろう。ワシは主と同じ武器で試練を執り行う。また予め言っておくが、ここは特殊な場所で主はスキルが一切使えん」
「うぇ!? スキル使えないの!?」
メイプルはサリーから聞いただけで、掲示板などでこのクエストの情報を一切調べていない。なのでこのクエストでは割と知られている、『クエスト中はスキルが使えない』という事実を知らなかったのだ。
「では……始めッ!!」
メイプルが困惑している内に、老人は大盾と短刀を構えて一気に距離を詰めてくる。
今回の武器は大盾と短刀なので、サリーの時とは違い【AGI】は低い。尤もその比較対象を知らず、そもそも【AGI】が0なので相手の【AGI】がどんな数値でも早く感じるメイプルには関係のない事実ではあるが。
「ちょ、ちょっと待って」
「はぁ!!」
メイプルが戦闘準備を整える前に彼女の頭に振り下ろされた短刀は……カンッという軽い音と共に弾かれてしまった。
「……………ん?」
「はっ! ほっ!」
その後も立て続けに短刀が振り下ろされるが、全て攻撃は体に弾かれてメイプルにダメージは入らない。
「ん~これはいつものかな?」
相手の攻撃によりダメージが発生しないというのは、メイプルにとっては日常的な光景である。そもそもメイプル相手にダメージを与えられる存在が極僅か、というか防御力貫通効果のない攻撃はまずダメージが発生しない。
「シロップ、覚醒! ……あれ? 出て来ない!?」
因みにスキルが使えないという制限は、装備品にも当然適応されている。つまり
「どうしよう……」
メイプルは高い防御力を誇る代わりに、素の機動力と攻撃力は皆無だ。普段はスキルでその二つを補っているのだが、このクエスト中はそのスキルが使えない。つまり倒されないけど倒せないというどん詰まりの状況に陥ってしまったのだ。
「……このまま何もしない訳にもいかないしな~」
ここで出直したところで、スキルを使えない以上メイプルにクリアできる『何時か』は訪れない。【絶対防御】のデメリットで、他のステータスを上げたところで焼け石に水なのだ。
「出来る限り頑張ってみよう。打つ手が無くなったら、諦めるしかないけど……」
とりあえず、メイプルは未だ体に向かって短剣を振り下ろし軽い音を立て続けている老人に向かって短刀を突き出す。
「やあ! とう!」
しかしメイプルの単調な攻撃が当たるはずもなく、軽快に躱され反撃される。その反撃自体は体に弾かれているので問題はないのだが、攻撃をしようにも当たらなければ意味がない。
「うぅ、どうしよう……」
何とかしようとうんうんと唸ってみるも、そもそもメイプルはこういった咄嗟の機転が利くタイプではない。そういうのは全部
「……ぅうえぇいもうやけだよ! うりゃぁ!」
頑張って考えていたメイプルだが、結局対策が思いつかな過ぎて若干ヤケクソになり、大盾を前に出して突撃した。
ここで二つの偶然が起きる。
まず一つ目の偶然は、老人が攻撃するという絶妙なタイミングでメイプルが
次に二つ目の偶然だが、
「ぐああああぁぁぁ~~!!」
「……あれ?」
メイプルの大盾、【闇夜ノ写】に触れた先から大量のダメージエフェクトが発生し、老人のHPが半分以上消し飛んだ。
あまりの予想外の事態に、間抜けな声を出しながらメイプルの動きが止まった。
「あ、あれ? このクエストってスキルは使えない……はずじゃなかったっけ?」
メイプルが困惑するのも無理はない。実はこれは、完全にゲーム側の
そもそもこの老人のステータスは、挑戦者のレベルで獲得できるステータスポイントと装備品の能力上昇値と同じ数値分のステータスポイントを使用武器をある程度考慮しながら自動的に割り振って決定される。この決定方法は挑戦者とNPCを同じステータス条件にするための物であり、より具体的に言えば圧倒的なステータス差でクエストをクリアさせないために実装されたのだ。
では何故、老人の攻撃によってダメージを受けなかったのか。攻撃が体に弾かれるという現象は、攻撃よりも
このような事態が起こった原因は、メイプルの持つスキルにあった。メイプルのスキルにはいくつかステータスを大幅に上昇させるものがある。それによって大幅なステータス差が発生し、老人の攻撃は弾かれてしまったのだ。
さて今度の問題は、『何故使えないはずのスキルが使えているのか』である。その原因こそ、【闇夜ノ写】の【悪食】が発動した理由でもある。
まずそもそもこのクエスト中どうやってスキルが発動しない様にしているかだが、実はスキルを発声しても効果が出ないプログラムされているのだ。これにより
これにより、老人が割り振った六倍のステータスポイント分の【VIT】によって攻撃は弾かれ、発動しないはずの【悪食】により大量のダメージが発生してしまったのだ。
「何だかよく分からないけど……これで倒せるかも!」
まぁメイプルには、そんな詳しい事情など関係ない。とりあえず倒せる可能性が出来たという事が分かっただけで充分である。
「フハハハハハ! お主中々やるのぅ! ここまで骨のある相手は久々じゃ! ワシも楽しくなってきたぞ!」
例え本来発動しないはずのスキルが発動したとしても、HPを一定以上削った事には変わりはない。定型文を言い、老人のステータスは上がる。
「やれやれ、年を取ると体が温まるのに時間がかかっていかんな。では仕切り直しじゃ。これからは本気で行くぞ」
しかしステータスが上がったとしても、防御力貫通スキルを使われない限りメイプルにダメージは与えられない。一方のメイプル側は、あと一回大盾を当てられればまず間違いなく勝利できる。
「ハハハハハ! 見事! 見事だったぞ挑戦者よ!」
「つ、疲れた~……急に強くなって全然当てられなくなったからびっくりしたよ~……」
ダメージを与えられない老人と、老人の動きが速すぎて攻撃の当てられないメイプル。この膠着した状況は二時間以上続き、ようやく攻撃を当てて老人のHPを全損させると、メイプルは疲労で地面にへたり込んだ。
「……うむ。主はこの武術を継承するに相応しい技量を持っておる。合格じゃ」
そんなメイプルの様子などお構いなしに老人は起き上がると、懐から取り出した一本の巻物をメイプルに差し出した。
「ワシの使う武術は、武器に属性を這わせる技じゃ。その種類は【火】、【水】、【土】、【風】の四種。主が使える属性の数によって威力が変わる。残るは【土】のみじゃが、主は受け取るか?」
「あ、残ったのそれだけなんだ。まぁここまで頑張って何もなしなのは嫌だし、受け取ります!」
「分かった。ではこれを授けよう」
『スキル【武操術・土式】を取得しました』
【武操術・土式】
土属性を操る特殊な武術。取得している土系スキルの数やスキルレベルに応じて威力が増す。
Ⅰ~Ⅹレベル。レベル毎にスキルを一つ獲得。特殊条件にてスキル追加取得。
「サリーのはコレの水の奴だよね。ちゃんと手に入れられてよかった。そうだ! 早速皆に見せてみよう!」
◇◇◇
「……って感じかな?」
「「「「oh……」」」」
(まさかのバグクリア……)
どんな方法でクリアしようと、クリアはクリアでありメイプルは正当にスキルを取得している。不具合を見抜けなかった運営が悪いため、メイプルの【武操術】を取り上げるという措置は取られないだろう。
(ただ、運営は今頃天手古舞だろうな……)
◇◇◇
そして、メイプルのクエストの様子を見た運営は……
「急げ~!! 今すぐプログラムを見直すんだ~~!!!」
「で、でも主任、もうメイプルで【武操術】は全部出払ってますよね? そんなに急がなくてもいいんじゃ……?」
「馬鹿かお前は!! 確かに今は誰もクエストが受けられないが、そういう問題じゃないんだ! 今の今までバグを見逃し続けた俺達のプライドの問題なんだよ~~!!」
「……今週はまともに家帰れるの何日あるかなぁ~」
「……難しいんじゃないか? バグ見つけちゃったし、もうじき四層実装のデスマーチが始まるだろ?」
「そっかぁ……帰れないかぁ……」
ハイドの予想通り、修羅場が繰り広げられていた。
【火】と【風】は一体誰が持って行ったのでしょうか? 出るのはしばらく後です。
次回、結婚します。
次回はお正月休み中に出したいですね。