派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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第五章 暗殺者の妖怪横丁
暗殺者と和の街


 第四回イベントが終了して一か月後の十月半ば。

 学校から帰宅したハイドがログインしてギルドホームに入ると、メイプルとサリーが奥のソファーで楽しげに話しているのが目に入って来た。

 

「あっ、ハイドくん! サリー、ハイドくんにも声かけてたの?」

「え? かけてないけど……ハイド、居るの?」

「……居る」

 

 いつもの如くメイプルに普通に発見されたので、ソファーに近寄りサリーに自分を認識させるため肩に手を置いた。

 

「……ここだ」

「わひゃぁっ!?」

 

 しかしサリーは肩に手を置かれた瞬間飛び跳ねて驚き、メイプルの背後に身を隠した。この反応には流石にハイドも困惑してしまう。

 

(何で? 普通に声掛けただけだよな? 驚き過ぎじゃね?)

 

 確かに人から認識され辛いハイドが相手の体に触れた際、認識外からの接触になるため驚かれるのはよくある。しかしこれはいくら何でも過剰反応だ。

 

「サリー、まだ恥ずかしがってるの?」

「うぅ……つ、つい反射的に……」

「いい加減にしなよ。もう二週間も経ってるのに」

「だ、だってぇ……」

 

 二人して何やらこそこそと話しているが、その内容はハイドの耳には残念ながら届いていない。未だにサリーは二週間前の衝撃が抜けきれていないのだ。

 ハイドは二人で遊びたいのかと考えその場を後にしようとするが、立ち去ろうとしたハイドは誰かに掴まれ歩みを止めた。。

 誰が掴んだのか確認するためハイドが振り返ると、そこにはニコッと笑みを浮かべたメイプルの姿があった。

 

「ついでだし、ハイドくんも一緒に行こうよ!」

「……どこへ?」

「四層!」

「ちょ、メイプル!?」

 

 満面の笑み浮かべるメイプルに、それでこの二人が集まっていたのかとハイドは納得がいった。

 四層へ向かうためのダンジョンは今日が実装日であり、既にメンテナンスも終わっているので挑戦可能だ。

 今日はギルドメンバーの何人かが諸々の都合でログインできず全員が揃わなかったため四層へ向かうのは後日となったのだが、メイプルとサリーは待ちきれず先行してダンジョンを突破して四層を散策するつもりなのだ。

 

「……二人で行くんじゃないのか?」

「そのつもりだったけど、ハイドくんが一緒でも問題ないでしょ? ハイドくんが予定あるなら別だけど」

「……別に俺は問題ないけど(明らかに()()()が問題あるよね?)」

 

 四層へ行く前に三層でレベル上げをしようとしてただけの為、ハイドの方の予定変更は何の問題もない。

 問題があるとすれば、メイプルの背後で顔を赤くしながら彼女の手を引き首を横に振っているサリーの方だろう。

 

「じゃあ大丈夫だね! 三人で行こう!」

 

 だがメイプルは、ハイドの返答()()聞いて一緒に行動する事を決めてしまった。後ろの親友の意見を聞く気はないらしい。

 

「め、メイプルぅ……」

「……サリー、二人の方がいいなら遠慮なく言ってくれ。別に予定はないが、二人で遊びたいなら邪魔をするつもりもない」

 

 ハイドの認識では『サリーとメイプルは親友で、自分はその輪に入っていないので親友同士で遊びたいのかな?』っとハイドなりに気を利かせたつもりの言葉だったのだが、問題はそこではないのだ。

 

「……………いや、私は大丈夫。ハイドさえよければ一緒に行こう。メイプルはこうと決めたら頑固だから」

 

 長い葛藤の末、サリーもハイドの同行を了承した。話している間も目を合わせられない程恥ずかしいのだが、今のメイプルの意思を曲げる方が大変なため諦めた。

 メイプルが稀に意固地になるのを、サリーは身に染みて知っているのだ。

 

     ◇◇◇

 

 メイプルはフィールドへ出るや否や【暴虐】を発動し、二人を背に乗せてダンジョンへ向かって爆走する。

 ハイドやサリーとメイプルでは【AGI】にかなりの差があるため、一緒に行動するのであればシロップに乗るか【暴虐】を使ったメイプルに乗るか、はたまた装備を解除したメイプルがサリーに乗るかの三択しかない。

 第四回イベントで【暴虐】=メイプルなのは既にバレているので、メイプルは使用を躊躇わず積極的に使っている。

 

「……それで、誰かボスの情報は知っているのか?」

「私は知らないよ?」

「私も今回は調べてないよ」

「……へぇ、珍しい」

 

 どんな攻撃でも基本的に弾き返すメイプルはともかく、攻撃が当たれば即死するサリーは情報収集に余念がない。

 そんなサリーが何の情報も持っていないというのは、ハイドにとって予想外だった。てっきり何かしらの情報を得ていると思い込んでいたのだ。

 

「メンテナンスが終わったばっかだから情報自体がないのもあるけど、そもそもメイプルがいれば大抵のボスはどうにかなると思ってあんまり調べてないんだよね」

「……なるほど、納得した」

 

 メイプルを物理的にどうこうできるモンスターなど悪夢であり、攻略できるプレイヤーなど片手で数えられるかどうかの人数しかいない。

 もちろんそんなモンスターなど実装できる訳もなく、運営が毎回頭を悩ませる原因でもある。

 

「サリー、ダンジョン見えてきたよ」

「じゃあ早速行こっか」

「……あぁ」

「レッツゴー!」

 

 メイプルはもちろんのこと、ハイドとサリーも全ての攻撃を躱したりそもそも見つけられなかったりと全く以て普通ではない。そんな三人がボスでもない通常のモンスター相手に遅れなど取るはずもなく、ダンジョンの攻略は順調に進んで行った。

 

「サリー、ボスのお部屋あったよー」

「オッケー。さくっと終わらせちゃおう」

 

 そしてボス部屋に入る扉を見つけるや否や、何の躊躇もなく扉を開けて中に入る。

 ボス部屋にいたのは、ハイド達の三倍近い背丈を持った鋼のゴーレムだ。ゴーレムは不気味に目の部分を光らせ、侵入者達に向かって迎撃体制をとる。

 

「【幻影世界(ファントムワールド)】!」

 

 戦闘が開始されるや否や、サリーは早々に切り札を使ってメイプルの数を増やす。今回はカナデもカラアゲもいないので増えるのは三体だけだが、目の前のボスを倒すだけならそれで十分……と、サリーは考えていたのだが、その考えは甘かった。

 

「サリー! ダメージが入らないんだけど!?」

「え!?」

 

 もう大丈夫だろうと完全に油断し、呼び出した朧を愛でていたサリーはメイプルの焦った声に慌てて状況を確認する。

 三体の分身とメイプル本人がゴーレムに群がって、蹴飛ばしたり噛み付いたり火を吹いたりと色々やっているが、行動の割にダメージエフェクトが少なくHPはまだ一割も減っていない。一方ゴーレムの方も、攻撃を仕掛けてくる化物達に反撃しているが、メイプル達にダメージはない。

 つまり倒されないけど中々倒せないという、完全な膠着状態に陥ってしまっていたのだ。

 

「……マズったな。このゴーレム、メイプルに簡単に倒されない事()()に特化してる」

「メイプルは毒以外の攻撃力が低い。毒が一切効かないゴーレムは、まさに天敵って訳ね」

 

 そう、このモンスターのコンセプトはまさにそこだった。

 【毒竜(ヒドラ)】などの高威力な攻撃に目を向けがちだが、メイプルの最大の特徴であり彼女を倒す際の一番の難点は異常な【VIT】である。彼女の戦法の殆どはこの【VIT】の高さによるノーダメージを起点としており、その他攻撃はある意味おまけのようなものだ。

 運営は今回のボスモンスターを作るにあたって、記録されているメイプルの戦闘動画を見まくり、彼女が苦戦した戦いの共通点を調べそれに当てはまるモンスターを作ろうと考えた。

 メイプルが一番最初に苦戦した戦闘は【銀翼】だが、そもそも【銀翼】は倒せる設定にしていないつもりなので同じ様なステータスを持ったモンスターを設置するのは不可能だ。諦めてその戦闘映像を眺めている時、ふと運営の一人が呟いた。

 

『メイプルって、毒が効かなければ攻撃力は大したことないんじゃないか?』

 

 急いで映像を見返してみると、【銀翼】は【毒竜(ヒドラ)】を受けた際に毒を凍らせて無効化している。【毒竜(ヒドラ)】は直接のダメージもそれなりにあるが、一番の特徴はその強力な毒にある。その毒を無効化してしまえば、その脅威度は激減する。

 これを参考にして、さらに案を出し合いこのモンスターは完成した。コンセプトは、『最大限メイプルを苦戦させる事』だ。もはやメイプルを倒そうとする考えはどこかに行ってしまっていた。

 

「サリー! ハイドくーん! どうしよ~!?」

 

 そして運営の目論見は見事に成功し、メイプルはゴーレムに噛り付きながら情けない声を出してハイド達に助けを求めていた。中々シュールな光景である。

 やがて【幻影世界(ファントムワールド)】の効果時間も終了し、化物(メイプル)が一体に戻ってしまった。まだゴーレムのHPは九割以上残っている。

 

「……ちまちま削るしかないな」

「ハイド、いつもみたいに即死攻撃は出来ないの?」

「……無理。俺の即死攻撃は首を攻撃する必要があるんだが、アイツに首があるように見えるか?」

 

 ハイドに言われ、サリーは改めてゴーレムの姿を眺める。

 全身鋼のゴーレムは腕が特に大きく、肩の位置から足元まで伸びている。そしてそんな胴体の上に、()()頭が乗っかっている。つまり何が言いたいのかといえば……

 

「首、無いね」

「……あぁ、首が無い」

 

 ハイドは【首狩り(ヴォーパル)】の効果で首以外の急所が消失しているので、ゴーレムを含め首が無いモンスター相手だと【暗殺】の条件を満たせず即死効果が発生しないのだ。

 

「……これは私が何とかするしかないか」

「……一応即死以外の攻撃は出来るから、見つからないように立ち回れば大丈夫。ゴーレムの視線をメイプルに集中させてくれれば大丈夫だ」

「オッケー。メイプル! 私とハイドで倒すから、ゴーレムの攻撃を引き受けて!」

「任せて! 【挑発】!」

 

 メイプルがスキルでゴーレムの注意を引き寄せたのを確認すると、ハイドとサリーは武器を抜いてそれぞれゴーレムへと走り出した。

 

     ◇◇◇

 

 ハイド達が参戦してから十五分後で、ゴーレムのHPは全てなくなり戦闘は終わりを告げた。

 確かにゴーレムは高い【VIT】とHPを持ってはいたし、攻撃力もそれなりに高かった。

 だがゴーレムらしいというべきなのか、その動きは非常に鈍重でハイドとサリーの動きに全くついてこれなかったのだ。

 さらにゴーレムの注意はスキルの効果もあって始終メイプルに向いており、一度もハイド達が狙われる事が無かったのも大きかっただろう。動きが鈍く攻撃すらしてこない対象など、それは最早置物以外の何物でもない。

 

「二人ともお疲れ~。大変だったね~」

「……メイプルもお疲れ。ずっと攻撃されてたけど、大丈夫か?」

「問題ないよ! 防御力には自信があるからね!」

 

 フフンと胸を張る化物(メイプル)。やはりシュールな光景である。

 

「いや~失敗失敗。防御力の方をしっかり見ておくべきだったかぁ」

「……俺もメイプルがいれば大丈夫だと思って油断した。お互い様だ」

 

 実際倒される心配がないという意味では大丈夫だったが、メイプルのみで戦っていたら倒すのに相当時間がかかっていただろう。

 

「よし! じゃあ気を取り直して、早速四層を見に行こう!」

「ふふっ。そうだね」

「……行くか」

 

 ボスをさっさと倒して四層を見に行く予定だった三人は若干出鼻挫かれた形になったが、すぐに気持ちを切り替えて四層に向かって進んで行く。

 

「四層はどんな風になってるんだろう? すっごく楽しみ!」

「見えてきたよ」

 

 前方にダンジョンの出口が見えてくると、待ちきれなくなったメイプルが飛び出すように走り出す。とはいえ所詮メイプルの速さはたかが知れているので、ハイド達が見失う事はない。

 

「お~! 綺麗!」

(これは……今までと大分雰囲気が違うな)

 

 昼間の時間帯だった今までの階層とは違い、四層は満天の星空に赤と青の二つの満月が浮かぶ夜の街だ。

 建物の造りも他の階層は中世ヨーロッパのような感じだったのに対し、どことなく和を感じさせる建物ばかりになっている。

 

「ワクワクするね! ねぇ、早く探索しようよ!」

「その前にギルドホームに寄ってからね?」

「あ、そっか。じゃあ行こう!」

(元気だなぁ……)

 

 基本的にローテンションなハイドは、常にハイテンションなメイプルのペースについていけてない。

 ハイドが隣を見てみると、サリーも周囲をチラ見しながらウズウズと体を揺らしている。先程はメイプルを諫めたものの、彼女自身も早く探索したくてたまらないらしい。

 

(出来れば俺は一人で回りたいんだけど……許してくれそうにないなぁ)

 

 ギルドホームに寄った後ハイドは離脱を試みるも、メイプルに見つかり失敗してしまったので、諦めて元気よく探索を開始する二人に付き合うのだった。




次回、新たな力。
次回の更新は今月中です。
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