派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
「ユイ、待ってよぉ」
「お姉ちゃん、早く早く!」
メイプル達が手伝って【楓の木】の全員が四層へ到達した数日後、マイとユイは二人でフィールドに出てモンスターを討伐していた。
四層では町にはいくつもの鳥居があり、その鳥居を通るためには【通行許可書】が必要である。そしてその【通行許可書】を手に入れるためには、クエストをクリアしなければならない。さらに【通行許可証】にもランクがあり、例えば【通行証・壱】を持っている場合、〈壱〉と書かれた鳥居は通れるが〈弐〉と書かれた鳥居は通れない。〈弐〉の鳥居を通るためには、クエストをクリアして【通行許可証】のランクを上げなければならないのだ。
【楓の木】を含めた第四回イベントランキング上位に収まったギルドに所属するプレイヤーには、イベント報酬として【通行許可証・伍】が与えられているため、面倒なクエストをかなり短縮してより町の中心に向かう事が可能だ。ただし【通行許可証・伍】では〈陸〉の鳥居は越えられないため、それ以降はクエストをクリアしてランクを上げなければならない。
「「【ダブルスタンプ】!」」
今こうして一撃でモンスター達を蹴散らしているマイとユイも、そのクエストをクリアするためにモンスターの素材を集めているのだ。
「お姉ちゃん、必要な数集まった?」
「う~ん……ううん、まだちょっと足りない」
「うん、分かった。じゃあ続けよう……あ、お姉ちゃん! あそこって」
「え?」
ユイが指さす先を見てみると、大量の大岩が転がっている。
この場所は【楓の木】以外のプレイヤーと殆ど交流しないマイとユイですら知っている程に有名なとあるクエストの発生場所だ。
「……どうする?」
「やってみようよ! 確か、私達にピッタリなクエストだったよね?」
「でも報酬いらないよね?」
そのクエストの報酬は装備品だと知られているのだが、マイ達は全身をイズ作の装備品で固めており、新たな装備を必要としていない。そのため、マイは受けても意味がないと考えていた。
「でも、ちょっと気分転換したい。最近面倒くさいクエストばっかりだったから」
「それは、まぁ……」
【通行許可証】のランクを上げるためには、採取や討伐など様々なクエストをクリアしなければならず、【AGI】の低いマイやユイがそれらのクエストをこなすのは中々大変だ。少し寄り道したくなるユイの気持ちはマイにもよく分かった。
「……じゃあ、ちょっとやっていこっか」
「うん! 行こう! お姉ちゃん!」
「あっ! ユイ! ちょっと待ってよ~!」
そうと決まれば早速とばかりに駆け出していくユイを、マイが慌てて追いかける。やがて二人揃って大岩の前に着くと、そこには縦と横が共にマイ達の二倍はある筋肉隆々で強面な大男が仁王立ちしていた。
「「あ、あの~」」
元々臆病なマイはもちろん、意気揚々と駆けだしたユイもこの大男の存在に気付くと先程までの高揚した気分が一瞬にして冷めていった。
マイとユイが知っていたのはクエストの内容のみで、この大男の存在までは知らなかったのだ。
大男はそんなビビり気味な二人を見下ろすと、ニヤリと口角を上げた。
「ほぅ。中々腕の立ちそうな者が来たものよ。ちぃっと己の力を試していくか?」
『クエスト【力の試練】』
軽く内容を確認して、二人は揃って『YES』をタップする。
「「お願いします!」」
「よくぞ言った! ではこの岩に主の最大の攻撃を加えてみよ。どんな手を使っても構わん」
クエストの受諾を確認した大男は、傍にあった彼よりも大きな巨大岩を軽く叩いた。
大男よりも大きいその巨大岩は、マイ達からすればもはや小さな崖に等しい。ただし小柄な二人からすれば自分よりも大きな存在は慣れっこであり、大きいだけが特徴の岩などなもはや臆するに値しない。
「「いきます! 【ダブルストライク】!」」
いつものように二つの大槌でスキルを発動し、一撃一撃が即死級の四連撃を繰り出す。
いくら巨大な岩といえどボスモンスターですら倒せてしまうような攻撃に耐えられるはずもなく、二人の前にそれぞれ置かれた岩は跡形もなく粉砕された。
「素晴らしい! この岩を粉砕できる者がおるとは思わなかった! これを進呈しよう! お主にはこれを使う価値がある!」
「「ひゃっ……あ、ありがとうございます」」
突然の大声に二人はビクッと肩を震わせながら、差し出された巻物を受け取る。巻物は二人の手に渡ると自動的に開かれ、スキル取得のアナウンスが二人の耳に届いた。
『スキル【地震波】を取得しました』
「「スキル?」」
二人が聞いた情報ではこのクエストで手に入るのは装備品のはずであり、予想外の収穫に揃って首を傾げる。
実はこのクエストは成果によって報酬が変わり、二人が成した『粉砕(切断)』以外の成果だと装備品が手に入る。その装備品も岩の状態次第で変わるのだが、装備品には変わりないので “このクエストの報酬は装備品” という情報だけが流れるようになったのだ。
「お姉ちゃん、このスキル」
「試してみよっか?」
「うん!」
スキルの効果を見たマイ達は、その使い心地を確かめるためにフィールドに駆け出して行った。
◇◇◇
「それで、それぞれ探索してみた感じはどうだった?」
翌日、ギルドホームに全員が集まり、成果を話し合った。
各々話していくが、やはり【通行許可証】のランク上げにそれぞれ勤しんでいたようである。
「メイプルは? どうだった?」
仕切り役になっていたサリーが、メイプルに話を振った。ここ数日メイプルは一人で行動していたので、何かしらの予想外を起こしたのではないかと予想したのだ。
「私は即死効果を手に入れて着物を買ったよ!」
「……うん、やっぱり後でゆっくり話を聞くね?」
(前半の言葉が気になって着物とか超どうでもいいわ。しかも手に入れたのがよりによって即死だと? それは俺の領分だろ!?)
その予想は見事的中したが、彼女の説明は簡潔過ぎるのでとりあえず話題を後回しにした。メイプルの話を聞くには若干心の準備が必要なのだ。
「それで、マイとユイはどうだった? 二人はメイプルやカラアゲ一緒で【AGI】が低いから【通行証】のランク上げも大変でしょ?」
「はい。町もユイと見て回ったんですけど広くて結構大変でした……」
疲れた様子のマイの言葉に、サリーはさもありなんと苦笑して頷いた。
マイを含めた極振り組は、【AGI】が0なので移動速度がとにかく遅い。
今までの階層で一番の面積を誇る四層を縦横無尽に移動しなければならないランク上げのクエストはかなり大変だろう。
「でも、私達もクエストをクリアして新しいスキルを手に入れました!」
「すっごく強いスキルなんです」
しかし同情の眼差しを向けていたサリーも、続く報告を聞きピシッと表情が固まった。
「……………ゴメン、もう一回言って?」
「「すっごく強いスキルを手に入れました!」」
間を開けて再度聞いてみるも、帰ってきた返答は先程と変わらない。聞き間違いではないようだ。
「スキル……そう、すっごく強いスキルを……」
「マイもユイも凄いね! どんなスキルなの?」
無邪気にマイ達の成果を喜ぶメイプルに対し、報告を受けたサリーは頭痛を抑えるようにこめかみに手を当て俯いた。予想外はメイプルだけでお腹一杯なのだが……。
「ねぇサリー! マイ達がスキルの効果を見せてくれるって! 訓練場行こう!」
そんなサリーの苦労を知ってか知らずか、
「……お疲れ様」
「僕達もサリーの負担を減らすように頑張るから、とにかく今はスキルを見に行こう?」
自由奔放なギルドマスターに代わって、皆を纏めるサリーは中々気苦労が多い。そんな彼女を他のメンバーで労り、取り敢えずメイプルの後を追って訓練場に向かう。
何だかんだ言いつつ、戦略的にも好奇心的にも新しいスキルは気になっているのだ。
◇◇◇
「「じゃあ行きます!」」
両手に大槌を構えるマイとユイの二十メートルほど前方には、五体の人形が鎮座している。あの人形はスキルの威力を確かめるためにイズが制作して少し前から置いておいた物で、耐久値はかなり高い。
他のメンバーは、マイ達の後方で二人の様子を見守っている。
「「【地震波】!」」
二人が大槌を地面に向かって振り下ろすと、爆音と共に衝撃波が発生する。衝撃波は扇状に広がっていき、やがて人形に到達すると全ての人形をバラバラに吹き飛ばしてしまった。
「「どうですか?」」
「凄い! 凄いよマイちゃん! ユイちゃん!」
「人形がバラバラになってます! 全部一遍に!」
「「えへへ」」
凄い凄いとマイ達を褒め称えるメイプルとカラアゲに、マイ達も恥ずかしそうに照れながら嬉しそうに笑う。
「……確かにこれは凄いな。見た感じ、【飛撃】より範囲が広い」
「だね。威力はそれなりに弱くなってるのかな? 二人の攻撃力だったらあの人形を粉々に出来るだろうし。まぁ多少威力が弱くなってもあの二人の場合は関係ないかな」
「衝撃波の伝わり方からして、地面伝いだから空中に居れば回避できるかもしれないね」
「それなら回避しやすいだろうが、混戦状態だとそれすらできるか分からんな。どちらにしても、地面の上を走る集団相手を一掃出来るのはかなり強力だ」
ハイド達の考察は概ね正しい。マイ達が取得したスキル【地震波】は、衝撃波が襲って来たタイミングでジャンプするだけで回避可能だ。
ただし地面に転がっている岩などは地面と同じ扱いだが、木や建造物など地面の上に
「結構自信作だったんだけど一撃でバラバラ……これはもっと頑丈なのを作らないとダメね。燃えてきたわ」
「何処に対抗心燃やしてんだよ」
若干一名考察に参加せず謎の執念を燃やしていたのだが……それは置いておこう。マイとユイは、何やら
訓練場を飛び出し工房へ直行しそうなイズに、彼女の肩を抑えて諫めているクロムは呆れ顔だ。気軽にイズの肩に触れているクロムに懐疑の眼差しを向ける者もいるが、それもまた置いておこう。
「ねぇ二人共、スキルの詳細見せてもらってもいい?」
「「あっ、はい。どうぞ」」
聞いたサリーもサリーだが、マイ達には味方であればスキルを秘匿するという概念が薄いらしくあっさりとスキルの詳細を表示した。
【地震波】
地面を叩きつけて、地面伝いに強力な衝撃を発生させる。
衝撃は距離が遠くなる程弱まっていく。
衝撃の威力及び範囲は、叩きつけた攻撃の威力に依存する。
「うん。効果はまぁ、予想通りかな」
(二人の攻撃の威力からすると、かなりの広範囲かつ高威力になりそうだ。普通だったらちょっと攻撃の範囲を伸ばすスキルなんだろうけど、二人が持ったからこそ化けたな)
「一体何処でこんなスキルを……」
それは本当に何気なく呟いただけだった。答えを求めた訳ではなく、どちらかと言えば答えを知らないであろうマイとユイ以外の予想を聞いてみたいがために呟かれた言葉。
ただこのスキルの取得者であるマイとユイは先述したように、スキルの情報を秘匿するという概念がない。
「【力の試練】っていうクエストですよ」
「岩を砕いたら大きなおじさんがくれました」
あっさりとクエスト名を言うマイとユイに、カスミは一瞬唖然として頭痛を抑えるようにこめかみを抑える。
「マイ、ユイ。スキルやクエストの情報は大切なものだから、そうやすやすと他人に教えてはダメだ」
「私達、皆さんのお役に立ちたいんです!」
「それに、【力の試練】ならかなり有名だったので皆さんも知ってると思いますけど」
ユイの言うように、【力の試練】というクエスト自体はかなり有名だ。何せかなり目立つ場所がクエストの発生地点であり、内容もシンプルなのだ。広まらない方がおかしい。
「それはそうなんだが……やれやれ、どう言ったものか」
助けを求めて周囲を見るが、皆一応に首を横に振る。この二人は純粋なので、この手の説得は中々難しい。
やがて説得を諦めたカスミは、取り敢えず【楓の木】のメンバー以外にはクエストやスキルの情報を言わないことを約束させるのだった。
マイとユイはイベント以外では他のギルドと交友している描写が本当にないです。書かれてない部分で多少交流してる可能性もありますけどね。
因みにマイとユイがNPCの大男にビビったのは体格故ではなく、かなりの強面だったからです。
オリジナルクエスト
クエスト【力の試練】
クエスト発生条件:クエスト発生地点まで行き、そこにいる大男に話しかける。挑戦権は各プレイヤー一回のみ。
クエスト発生場所:四層に岩が大量に転がっている地点。
クエスト報酬:報酬は結果に応じて、『無傷』『罅』『亀裂』『切断』『粉砕』五段階に分けられる。
粉砕:スキル【地震波】の巻物
クエスト内容:大男に指定された大岩に攻撃を与える。その結果に応じて報酬が渡される。
備考:実は『切断』の報酬もスキル。とはいえ大岩を切断できる程の剣やスキルの使い手はまだいない。『罅』と『亀裂』の報酬は装備品。『無傷』は報酬なし。
【地震波】
地面を叩きつけて、地面伝いに強力な衝撃を発生させる。
衝撃は距離が遠くなる程弱まっていく。
衝撃の威力及び範囲は、叩きつけた攻撃の威力に依存する。
(衝撃は扇状に広がる。地面伝いの衝撃の為、衝撃が来るタイミングでジャンプすれば回避できる。所謂ストンプ攻撃)
【地震波】は【飛撃】に比べると回避しやすいですが、【飛撃】よりも効果範囲が広いです。
次回、気分転換です。
今週はちょっと仕事が忙しくて書けそうにないので、次回の更新は来月の半ば頃になりそうです。