派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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ちょっときつめに言ったとは言え、舌の根も乾かぬ内に予告日時詐欺。申し訳ないです!


生産役の試行錯誤

   ボフンッ!!

 

 爆発音と共に大鍋から大量の黒い煙がもうもうと立ち昇り、使用していた素材が消失した。生産における《大失敗》の演出だ。

 黒い煙を吐き出している大鍋を見ながら、この大失敗をしでかした張本人であるイズは悔しそうに歯噛みした。

 

「また失敗……でも段々と先へは進めて来てる。フフッ、燃えてくるわね。絶対成功させて見せるわ」

 

 そう言ってインベントリから新たに、先程使用していた素材と同じ素材を取り出した。

 イズが何に執念を燃やしているのか……事の発端は、一週間ほど前に遡る。

 

     ◇◇◇

 

「これをこうして、ここでスキルを使うの【調合】。これで……はい、ポーションの完成よ」

「「「おぉ~!」」」

 

 イズが軽く説明をしながらいつものようにポーションを製作すると、その様子をじっと見つめていたメイプルとマイとユイが感嘆の声を上げながらパチパチと拍手をする。

 その日、メイプルが実際に見る機会がなかった生産に唐突に興味を持ち、その場にいたマイ達を巻き込んでの工房見学が突然始まったのだ。素直な反応を見せる三人に気分を良くしながら、イズが説明を続ける。

 

「今作ったのはHPを回復するオーソドックスなポーションだけど、別の素材を使えば色んな効果があるアイテムを作れるわ。メイプルちゃん達にも渡した【ドーピングシード】もその一つよ。一回の生産で使える素材の数は、生産の種類毎で決まっているわ」

「へ~! そうなんですね! じゃあ、決まってる数以上の数でアイテムを作ろうとしたらどうなるんですか?」

「《大失敗》になって、使った素材が全部なくなっちゃうのよ。普通にスキルレベルが足りなかったり手順を間違えたりするだけだと《失敗》になって効果がかなり低い粗悪品が出来るだけだから、《大失敗》しちゃうと大損ね」

「ふぇ~、《大失敗》しちゃうと大変なんですね……因みに他の条件で《大失敗》になっちゃう場合ってあるんですか?」

「あるわ。スキルを使わずに素材アイテムを掛け合わせようとすると、《大失敗》が起こるの」

 

 好奇心旺盛な三人の質問に、イズは順番に応えていく。イズは普段一人で生産を行っているので、会話をしながら行う生産はどこか新鮮な感じだ。

 

「……スキルを使えっていう事ですかね?」

「多分ね。でも気になるのは、スキルを使わないで素材を掛け合わせようとする時は、毎回《大失敗》のタイミングが違うのよね」

「それって、もしかしたら成功するかもしれないですよね?」

 

 メイプルの問いは、イズも感じていた疑問だった。ただ当然ながら彼女も疑問を疑問のまま放置せず、すでに何度か実験済みだ。

 

「私もそう考えて実験してみたんだけど、何度やっても失敗しちゃったから諦めたのよ」

「へ~、イズさん()()出来ないんだ……」

 

 イズがピクリと反応する。

 メイプルの言葉に深い意味はなかった。幸運な事にゲームを開始した翌日からイズと交流を持てたので、メイプルは彼女以外の他の生産職と交流がない。だが周りの声を聞く限り、イズは『NWO』内ではトップクラスの生産職である。

 そのトップクラスの生産職(イズ)でも行えないほど難易度が高い行為。メイプルの発言はそういう意味だった。

 だがその発言は、イズのプライドを大いに刺激してしまう結果となったのだ。

 

「フフッ……ウフフフフフフフフ」

「「「い、イズさん……?」」」

 

 突然様子のおかしくなったイズに三人が恐る恐る声を掛けてみるも、既に彼女達の声は届いていなかった。

 

「そうね、そうだわ。たった数回で諦めるなんて、私はどうかしていたわね。ありがとうメイプルちゃん、お陰で目が覚めたわ」

「ど、どういたしまして?」

 

 お礼を言われたので反射的に返事をしたが、俯いて表情の見えないイズが恐ろしく思わずマイ達と共に数歩後退ってしまう。

 イズは俯いていた顔を勢いよく上げて目を見開くと、拳を天に振り上げ大声を上げた。

 

「その挑戦受けて立つわ!! 今度は絶対に諦めないんだから!! 早速素材調達よ!!」

「「ひぃっ!?」」

「サリー! ハイドく~ん! クロムさ~ん! みんな~!! イズさんがおかしくなっちゃったよ~!!」

「「ま、待ってくださいメイプルさ~ん!」」

 

 メイプルは突然豹変したイズに恐怖を覚え、悲鳴を上げてしまった双子と共に仲間に助けを求めるべく慌てて工房を後にする。

 そしてその場に残ったイズの目には、もはや三人の姿など映っていない。ここから、彼女の長い戦いが始まったのだ。

 

     ◇◇◇

 

   ボフンッ

 

『また失敗!? 今度こそ! 今度こそ成功させてみせるわ!!』

 

 爆発音と共に工房から聞こえてきたイズの叫び声に、机に座っていたカスミとクロムは揃って嘆息した。

 

「イズはまだやっているのか」

「もう一週間か」

「メイプル達が大慌てで助けを求めて来た時は何事かと思ったぞ」

「いやあれは妥当な反応だろ。俺も正直言って怖かったぞ、おかしくなったイズは」

 

 工房から逃げ出したメイプル達は、丁度レベル上げから帰ってきた二人に真っ先に助けを求めたため、二人も豹変直後のイズを目撃している。

 イズはそこから大量の素材を集めて工房へ籠り実験を繰り返しているらしく、あの日から【楓の木】のギルド内では四六時中爆発音が鳴り響いている。なお後日行われた会議にて話し合われた彼女への対応は、ギルドメンバー全会一致で『そっとしておこう』に決まった。

 

「っていうかアイツ大丈夫なのか? 俺の把握してる限り朝から晩まで何かやってんだが……」

「……心配なのか? イズが」

「そりゃまぁな。当然だろ?」

 

 クロムからすれば、ただ友人でありゲーム仲間を気遣っただけ。しかし二人の仲を疑っているカスミからすれば、当然ただそれだけの言葉には聞こえない。

 

「……………ま、前々から、その……き、気になっていたのだが」

「ん? 何だ?」

 

 指を組んでもじもじと動かし、必死に言葉を紡ぐカスミにクロムは小首を傾げて聞き返す。

 数秒程俯いて口の中でもごもごと何かを呟いたカスミだったが、やがて意を決したように真っ赤に染まった顔でしっかりとクロムと視線を合わせる。

 

「く、クロムとイズは……つつつつ付き合っているのか!!?」

 

 勇気を振り絞ったカスミは肩で息をしながら、視線を外さずクロムの返答を待つ。

 

「……………はぁ?!」

 

 一方のクロムは最初言葉の意味が分からず固まっていたが、やがてその意味を理解すると同時に素っ頓狂な声を上げた。

 

「ちょっと待て! 何でいきなりそんな話になる!?」

「い、いいから答えろ! 付き合っているのか!? いないのか!!」

 

 友人の心配という話から脈絡もなく始まった交際の確認にクロムは困惑しっぱなしだが、カスミは知った事かとばかりに彼に詰め寄る。一度勇気を振り絞ったカスミにもう怖いものなどないのだ。

 

「付き合ってねぇ! イズとは普通に友人同士だ! っていうか、俺に彼女なんかいた事ねえよ!」

「……本当か?」

「本当だ!」

「本当に本当か?」

「ほ、本当に本当だ。もう信じてくれよ。後近いから離れてくれ」

 

 身を乗り出して何度も真偽を確認するカスミに、クロムも身を引きながら答え続ける。その答えにようやく納得が言ったカスミは大きく安堵の息を吐いた。

 

「そうか、よかった」

 

 だが、その安堵感ゆえに油断してしまい、カスミは口を滑らせてしまった。

 

「ん? よかった? ……お、おいそれって」

「はっ!?」

 

 慌ててカスミが口を押えるも、時すでに遅し。覆水盆に返らず。口から漏れ出てしまった言葉が戻ったりはしない。

 普段から鈍感だと言われているクロムだが、基本的に彼は察しは良い方である。そして今の会話の流れとカスミのこの態度とみるみる赤くなる彼女の顔を見れば、それがどういう感情で言われた物なのか嫌でも気が付く。

 

「~~~っ!!」

「あ、お、おい!」

 

 やがて羞恥に耐え切れなくなったカスミは、全身を真っ赤にして椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がると、そのままの勢いでギルドホームから逃走した。カスミに伸ばされたクロムの手は、あまりに素早い彼女の行動により宙を彷徨う結果となった。

 

「………………マジか」

 

 手で顔を覆い項垂れるクロム。

 

「おいおいおいおい、マジかよ……カスミが? マジで? 次会った時どんな顔すりゃいいんだよ……」

 

 ブツブツと呟いていたクロムの耳が真っ赤になっていたことを知る人物は、この場には存在しない。

 

     ◇◇◇

 

 クロムとカスミがラブコメをやっている頃、工房に籠っているイズの挑戦は大詰めに差し掛かっていた。

 

「二秒強火、一回右回しで三回左回し、一度火を切ってからジャスト三分後に……うん、完璧だわ。これで、これで今度こそ成功するはずよ!」

 

 そもそもの問題として、今イズが挑戦しているスキルを使用せず素材アイテムを掛け合わせるという行為は、異常に難易度が高い。完全に決まっており、その手順を間違えるのは以ての外だが、秒単位で決まっている時間をたった一回でも間違えてたらダメなのだ。例え一秒の超過も短縮も厳禁、即《大失敗》に繋がってしまう。

 イズの挑戦回数は一週間で千回を大きく上回っている。その全てにおいて《大失敗》を発生させてしまっているが、イズだってただただ漠然と挑戦するだけではない。一秒一動作を、一回の失敗毎に少しずつ変えていく、まるで先の見えない暗闇の立体迷路を挑むが如き地道な作業。それを毎回成し遂げ、遂に成功が目前に迫りつつあるのだ。

 

「よし、一旦落ち着きましょう……焦りは禁物よ……ふぅ……」

 

 丸一週間の集大成。緊張するなと言う方が無理である。だが緊張しすぎて時間を間違えてしまえばそれこそ本末転倒だ。落ち着きが肝心。イズは興奮を抑えるため、胸を押さえて深呼吸を始める。

 

「はぁ……ふぅ……始めるわ」

 

 そう言いながら大鍋の中に素材を投入する。使用しているのは、一層で出現する白兎と狼からドロップしたものだ。どちらも『NWO』では最弱クラスのモンスターで、そんなモンスターからドロップするものなのだから当然素材としてのランクも低い。しかしだからこそ、イズはこの素材を選択した。

 まず最低ランクの素材故に値段は当然安いので、大量に仕入れる事が可能だ。この挑戦は失敗を前提にしたものなので、再挑戦のために手元に素材はいくらあっても足りない。実際に一週間の試行錯誤の結果、残った素材はもう残り僅かとなっている。

 そしてもう一つ重要な理由としてあるのが、生産の難易度だ。生産は使用する素材は高ランクであればあるほど難易度が上がっていく。逆に言えば低ランクであれば難易度が下がるのだ。なので少しでも難易度を下げるために、素材のランクは把握している限り低いものを選択した。

 

「よし、これで次は一定速度で四分間混ぜて……」

 

 いよいよ終盤の大詰めに入った。イズは興奮で震える手を理性で抑えながら、大鍋を混ぜる速度を必死で維持する。速くても遅くても失敗するこの工程には相当苦労させられた。

 

「最後に弱火にしてから、一分放置した後に火を消せば……」

 

 大鍋にかけている火を弱火にしてタイマーをセットすると、イズは高鳴る胸を押さえ息を吐いた。

 

「もう少し、もう少しで完成するわ……!」

 

 メイプルの何気ない一言で始まったこの挑戦。一週間この作業だけに専念してようやくクリアできると、イズは感慨深さを感じていた。そうこうしているとタイマーが鳴り響き、イズは大鍋の火を止める。

 すると大鍋の中身が光り、手元に一つのアイテムだけが残った。普段生産している時に見慣れた《成功》の演出である。

 

「やっっっったぁぁ~~~!!」

 

 完成したアイテムを天に掲げながらギルドホーム中に響き渡るような大声を上げ……そのまま床へ後ろ向きに倒れていった。

 

「はあぁぁ……疲れたわ……。でもやっと完成した……大満足よ……」

 

『スキル【錬金合成】を取得しました』

 

「あら? スキル? 何かしら?」

 

【錬金合成】

アイテムを合成し、合成した素材の特徴を併せ持った新たな素材アイテムを作り出せる。

合成する素材の数、レアリティ、【DEX】の数値によって合成の成功率や作り出せる素材が変わる。

極稀に、合成した素材とは全く別の性質を持った素材を作りだす事がある。

合成が失敗した場合、使用した素材は全て失われる。

取得条件

スキルを使用せずに素材を混ぜ合わせ、新たな素材を作り出す。

 

「ふぅ~ん。これはまた、いろんなことが出来そうなスキルね」

 

 新しいスキルの詳細を見たイズの頭の中では、既に掛け合わせる素材のピックアップが始まっていた。今の彼女の表情は、まるで新しいおもちゃを得た幼子のようにキラキラしている。

 

「……でも今日はこれでおしまいね。流石に疲れたわ……続きはまた明日」

 

 ここ数日は仕事に差しさわりがない程度に睡眠時間まで削っていたイズには、新しいスキルを試すだけの気力がない。なのでスキルの確認だけ終えると、早々にログアウトするのだった。

 そして今回新たに取得した【錬金合成】によって、イズが異常な方向へ一歩足を進める事になるが……それを他のメンバーが確認するのはほんの少し後の話である。

 




イズが新たなスキル獲得。『NWO』の生産は今のところ一切描写がないのでオリジナル設定です。
そしておまけにクロムとカスミの仲に急展開。
さらし姿を目撃して少し意識している時にこのカスミの態度。流石のクロムも気付きました。

次回、雪だるま退治です。

次回は来月の第一週で更新します。

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