派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
最近更新の度に予定より遅くなった事を謝ってる気がします……まぁ自業自得ですけどね。
「ふぅ……寒っ」
一二月二四日、午前九時三十分。
やや曇り空の駅前で、クリーム色のダッフルコートに水色のスキニーパンツを履いた理沙は、冷えてきた手に息を吹きかけて肩にかけた肩掛けかばんを持ち直した。
「(後三十分……ちょっと早く来すぎちゃったかな? いやでも、心の準備もしたいし……うん、時間は丁度良かった!)」
理沙は数度頷きながら自らを納得させて、首を動かした拍子に肩にかかった自らの髪を手で梳いて整えた。
「(うぅ、何か慣れない……)」
現在理沙は、いつもポニーテールにして纏めている髪を全て下している。
外出時は大抵ポニーテールなので、纏まりのない自身の髪に違和感を覚えていた。
「(楓には可愛いって言われたけど、あの娘ちょっと感性がおかしい時があるからなぁ……)」
お世辞にも可愛いとは言えない【捕食者】を『ちょっと可愛い』と言っていた
『酷いよ~!』と頬を膨らませて抗議する親友の姿も同時に頭に浮かんできた理沙が思わず苦笑していると、コツコツとパンプスの音を鳴らしピンクのトレンチコートを着た女性が理沙の隣に立った。
「ふむ、まだ二十分前か……少し早く着き過ぎたか?」
「(うわ、綺麗な人……)」
女性にしては比較的高い身長に腰まである長い黒髪が風で軽く靡き、トレンチコートの裾から赤いスカートが覗いている。純日本製な顔立ちも相まって洋服よりも和服の方が似合いそうだが、今の服装でも十二分に魅力的だ。
「(……って、こんなこと考えてる場合じゃなかった! うぅ、ますます緊張してきた……!)」
時間は九時四五分を周ったところ。遅刻癖のない蒼汰がそろそろ来てもおかしくない時間に差し掛かっており、それに伴い理沙の緊張が高まっていく。
「……白峯さん」
「わっ!」
突然横から肩を叩かれ、理沙は飛び上がって驚く。叩かれた方向を見ると、案の定蒼汰が立っていた。
(いや、驚き過ぎじゃね?)
「か、影山。お願いだから普通に声掛けてよ……」
「……掛けたけど気付かれなかった」
「え、嘘。ご、ゴメン……」
「……別に、いつもの事」
本気で気にしていない蒼汰は、理沙の顔を見ながらポツリと呟いた。
「……髪」
「え? 髪?」
「……今日は解いてるんだな。綺麗で似合ってると思う」
「…………なっ!」
ボンッと理沙の顔が爆発したように一瞬で真っ赤に染まる。
「おおおおお世辞はいいから!」
「……別にお世辞じゃない。似合ってると思ったからそう言っただけ」
そもそも蒼汰は上っ面だけのお世辞を言うような性格じゃない。時と状況によっては誤魔化したり濁したりするが、褒め称える言葉は常に直球で正直だ。
「もういいから! お願いだから黙って!」
そしてそれは言われた張本人である理沙も感じているため、余計に羞恥心を感じているのだ。
「(あぁにやつくな顔! 平常心! 平常心を保て!)」
好意を抱いている相手から出た直球の誉め言葉に乙女である理沙が喜ばないはずがなく、顔に出そうになるのを必死になって抑える。
そんな理沙を尻目に、蒼汰は誰かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡した。
「……まだ全員揃ってないみたいだな。白峯さんがいるのに本条さんがいないのは珍しい。常日頃から一緒なのに」
「いや、そこまで四六時中一緒じゃないでしょ。ってか、全員? 楓? 何の話?」
「……え?」
「え?」
何かがおかしい、どこか致命的な部分で噛み合っていない。二人の心中が一致する。
「……一応確認しときたいんだけど、今日って誰と遊びに行くつもりで来たの?」
「……【楓の木】のギルドメンバー」
恐る恐る確認する理沙に、蒼汰がいつもの調子で答える。その答えを聞いた理沙は思わず頭を抱えた。
「何で!?」
「……何でって、今日ってギルドのオフ会じゃなかったのか?」
「違うよ!? どういう認識でそうなったの!?」
「……隣」
「隣?」
理沙が隣に目を向けると、先程の女性が待ち合わせ相手の大柄な男性と緊張した面持ちで話していた。しかし特別変わった様子はない。
「……あの二人がどうかしたの? ってちょ、影山!?」
見ていても意味が分からなかった理沙が蒼汰に視線を戻すと、彼は無言で二人の元へスタスタと歩いていた。それを見た理沙も慌てて後を追う。
「ちょっと待ちなって! あの二人恋人っぽいし邪魔したら「
「ん?」
「そ、
「どうしてって……澄玲姉さんはサリーに呼ばれたんじゃないの?」
「い、いや、違うが……?」
ここでようやく蒼汰は勘違いに気が付いた。そして澄玲の隣で怪訝な顔をしている男性がいる事から察するに、自分が彼女の邪魔をしてしまったであろうことにも。
「……すみません。お邪魔しました」
「ちょっと待った!」
すぐさま回れ右しようとした蒼汰の腕を理沙が掴んでその場に留める。蒼汰としては一刻も早くこの場を立ち去りたかったのだが、そうは問屋が卸さなかったらしい。
「影山、アンタこの人と知り合いなの?」
「……知り合いというか、親戚」
「蒼汰、彼女は?」
「今日遊ぶ約束をしたクラスメイト」
理沙と澄玲の疑問に対して蒼汰は簡潔に答えるが、当然二人はそれだけでは納得しない。どこまで説明するべきか蒼汰が悩んでいると、今まで黙って様子を見守っていた大柄な男性が気まずそうに澄玲に話しかけた。
「あ~、
「あぁ、すまない
「……
(ここまでバレたら、全部説明しても同じか)
蒼汰は聞き覚えのある二人の呼称に信じられないような目を向けている理沙の肩を軽く叩き、軽く咳払いをしてから澄玲を手で示した。
「……白峯さん、この人は香川 澄玲。俺の従姉弟でNWOでのプレイヤーネームは『カスミ』」
「ちょ、蒼汰!?」
「……隣の男の人は、名前は知らないけどプレイヤーネームは『クロム』さんらしい」
突然本名とゲームでの名前を暴露された澄玲が慌てて抗議の声を上げるが、蒼汰は一切気にせず今度は澄玲に向かって理沙を手で示す。
「澄玲姉さん、こっちは白峯 理沙さん。俺のクラスメイトでプレイヤーネームは『サリー』。偶然NWOであってそれから仲良くなった」
紹介を終えると、蒼汰は黙って二人の様子を見る。突然の事態に澄玲の方はまだ困惑しているようだが、理沙は先に二人がプレイヤーネームで呼び合っているのを聞いているので一足早く混乱が収まり澄玲に話しかけた。
「本当にカスミさんだったんだ。えっと、白峯 理沙です
「あ、あぁ。香川 澄玲だ。まさかこんな場所で会うとは、いや驚いた」
「俺も自己紹介しておこうか、。俺の名前は
「……? ……あぁ、忘れてた。俺は影山 蒼汰、『ハイド』ですよ。クロムさん」
雅人に言われて蒼汰は自己紹介をしていなかったことを思い出し、改めて名前を雅人に名前を告げた。
澄玲と理沙にお互いを紹介するつもりで話したので、両名が既に知っている自分をうっかり飛ばしてしまったのだ。
「ハイド……? あぁ、ハイドか! なるほどな。まぁ俺はハイドの顔を見た事はないが」
(そうだっけ? ……いや、言われてみればそうか。第二回イベント以降装備を外した記憶ないし)
第二回イベントではやむを得ない事情でメイプルとサリーの前で装備を外して顔を曝したが、そもそもゲームでは基本的に町中でも装備を解除しないのでクロムがハイドの素顔を知らないのも無理はない。
「それにしても納得した。影山が勘違いしたのはカスミさん……じゃなくて、香川さんがいたからだよね?」
「……そう。二人でって言われてなかったし、白峯さんの隣に澄玲姉さんがいたからてっきり」
「ん? 勘違い? どういう事だ?」
理沙が澄玲に今までの経緯を説明すると、彼女は蒼汰に心底呆れた目を向けた。
「蒼汰、お前って奴は……」
「いや、弁明させて。そもそも俺と白峯さんは二人で遊びに行くような仲じゃない。ゲーム内ならともかく、
「うぐっ」
蒼汰の言い分に澄玲は理沙に確認の眼差しを向けると、彼女はそっと目を逸らしながら頷いて肯定した。
二人は隣の席ではあるのでゲーム内で会うまで全く話さなかったわけではないのだが、友人と呼べるほどの関係でもなかった。
「それに俺だって、二人で遊ぶって聞いてたら勘違いしなかった」
「……あっ」
蒼汰の言葉に当時どうやって誘ったかを思い出していた理沙が、思わず声を上げた。
確かに理沙はクリスマスイブに遊ぼうとは言ったが、具体的に何人で遊ぶかなどは一切明言していない。その上
「………なるほど、事情は分かった。双方言葉不足に確認不足だったわけか……」
呆れたように呟いた澄玲から蒼汰と理沙は逃げるようにふいっと視線を逸らした。多少は自覚があるようだ。
「そ、それにしても、澄玲姉さんがクロムとデートする仲だなんて知らなかった。二人はもう付き合ってるの?」
「つつつつ付き合ってる!?」
「い、いや違うぞ誤解するなハイド! きょ、今日はその、カスミから
(面白いぐらい釣れた。って言うかクロムさんの反応が予想外)
もちろん蒼汰は二人が付き合っているとは思っていない。今の言葉は完全に揶揄うのが目的だった。だが揶揄いの内容を抜きにしても、クロムは動揺し過ぎである。
二人がくっつくのはどうやら時間の問題らしい。
「……澄玲姉さんから誘ったんなら、これ以上はお邪魔かな。白峯さん、そろそろ行こうか」
「え? あぁ、うん。そうだね」
「じゃあ澄玲姉さん、
「そ、蒼汰!」
澄玲の抗議を背に受けながら、蒼汰は理沙を伴ってその場を後にした。
「……ねぇ、影山」
「……ん? 何?」
「その、カスミ……じゃない。香川さんってさ、やっぱり
(正直曖昧な表現はあんまり好きじゃないんだけど……この場合白峯さんが聞きたいのは澄玲姉さんが
確証は持てないものの、それ以外を思いつかなかったため蒼汰は曖昧に頷く。すると理沙も「やっぱり……」と呟きながら何度か頷いた。
「まぁよく二人で行動してるの見てたし、別に不思議でもないかな。でもてっきりクロムさんはイズさんと好き合ってるのかと思ってたけど、あの感じを見ると結構脈ある感じなのかな?」
「……黒岩さんの反応は俺も予想外だったけどね。因みに黒岩さんの方はともかく、イズさんの方はそんな気はないって前に聞いた」
「へぇ~、そうなんだ」
そう話す時のイズはかなりあっけらかんとしていたので、取り敢えず蒼汰はその言葉を疑ってはいなかった。
「……ところで今日はどんな予定なんだ?」
「あぁうん。午前中は色々ブラついて、お昼を食べてから近場にある大きめのゲーセンで遊ぶ予定。影山が行きたい場所あったら変更するけど?」
「……いや、特別行きたい場所がある訳じゃない。今日の行動は全てお任せします」
「了解。それじゃ、お昼まで適当にウィンドウショッピングといきますか」
「……分かった」
元々ギルドのオフ会だと思っていた蒼汰は、周囲にどういう遊び場があるかは軽く調べたものの基本的にはノープランである。そんな彼が、理沙の提示したプランに否を言うはずもなかった。
デートまで行けなかった……!
なお先に言っておきますが、作者はデートどころか女子と遊びに言った経験が一切ありません。なので少々おかしな部分があるかもしれませんが、そこは目を瞑ってくだされば幸いです。
次回、ゲームします。
次回の更新……今月中に出来たらいいんですけどね。