派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う 作:名無しの投稿者
仕事で出張や早出が続いて疲れ切ってしまって書く元気が全くわかなかったんです……。
今月予定はまだ未定ですが、一応お盆休み前後には次回の更新をしておきたい……という願望を持っております。
一月の終わりが近くなった頃。『NWO』ではアップデートが行われ、多くのプレイヤーが待望していた新しい階層とそこへ行くためのダンジョンが実装された。
「おぉ! 全員揃ってる!」
五層の実装当日、早めにログインして待っていたサリーは次々にログインしてきたメンバーを見て喜びの声を上げた。
「ん? いや、メイプルがいないぞ?」
「あら本当。サリーちゃん、ハイドくん。何か知らない?」
(そう言えば学校にも来てなかったよな? 今の時期だと風邪か何かか?)
いつもならサリーと共に待っていそうなメイプルが居らず、皆は同じ学校で事情を知っていそうなサリーとハイドに視線を向ける。しかしハイドも詳しい事情は知らないため、そのままサリーに視線を流した。
「あぁ、メイプルは……」
全員の視線を受け、サリーは気まずそうに目を逸らした。
「インフルエンザに罹ったので……今年も。毎年の事です」
(毎年……抗体が出来にくい体質とかなの? メイプルさんも大変だなそりゃ……よりにもよって今日と重なるとか)
毎年インフルエンザに罹るしても、五層の実装日に重なるというとんでもない不運にハイドはこの場に居ないメイプルに同情した。
その後五層に行くのはメイプルの復帰を待とうかという話も出たのが、結局今揃ったメンバーで先に進むことになった。
最悪メイプルならば、一人でもボスを倒す事が可能だろうという意見に全員が反対しなかった結果である。
◇ ◇ ◇
そうしてダンジョン攻略を始めたハイド達九人は、戦闘でクロムが攻撃を防いでマイとユイが相手を粉砕する事で順調に道中を進んで行った。
出現するモンスターの中には物理無効や物理大幅軽減のモンスターが多数いるものの、無効にはカナデの魔法やカスミの属性を伴うスキルを中心に立ち回れば普通に倒せるし、【STR】が高過ぎるマイやユイの相手に物理大幅軽減
因みにいつも規格外の動きで相手を翻弄するサリーだが、人魂などが出る度に動きが極端に鈍ってしまうので今回は後ろで大人しくしている。
「扉が見えてきたな」
「それじゃあさっさとボスを倒して、五層に向かうとするか」
皆に了承を取ったクロムが扉を開けると同時に、全員が一斉に飛び込んで各々の武器を構える。
部屋の奥には九尾の狐が優雅に佇み、黄色い尻尾をゆらゆらと揺らして挑戦者を待ち構えていた。
「よし、大丈夫そう……ハイド、どう?」
「……ダメだな」
ボスの姿を確認して自分の苦手分野ではないと確信したサリーが、隣にいたハイドに確認を取る。
(【
ボスの首には紅白のしめ縄が巻かれており、ほぼ露出していない。こうなると【
「ダメならしょうがないか。それじゃあ皆、プラン2で!」
号令と共にボスの前に飛び出す。当然ボスも飛び出してきたサリーに火の玉を射出して攻撃を行うが、人魂などオカルトやホラー系統が相手でない限り無敵の回避力を発揮するサリー相手にそんな直線的な攻撃が当たるわけがない。
攻撃をギリギリで回避しながら前衛であるサリーとカスミがイズから手渡された黄色い結晶を砕き割ると、二人の武器がバチバチと音を立てて帯電する。
「こっち向いててねっと!」
「【四ノ太刀・旋風】!」
九尾の元に二人が辿り着くと、早速攻撃を開始した。
ハイドの【暗殺】で即死させるというプラン1が使えなくなったので、相手を麻痺状態にして行動を阻害し、双子の破壊力で一気に突破しようというプラン2に切り替えたのだ。
イズお手製の一定時間武器に麻痺効果を付与する結晶により、通常攻撃に麻痺の追加効果が発生している。
そして作戦の中核を担うマイとユイは、クロムに守られながらイズと共に少し後方でしばし待機だ。彼女達の出番は九尾が麻痺になってからなので、攻撃の巻き添えを食わないように身を潜めている。
「【パラライズボム】!」
「【
残るカラアゲとカナデは、魔法の効果が届くギリギリの地点まで前に出て麻痺効果のある魔法を同時に使用する。二人の元へ注意がいかない様に、サリーとカスミは攻撃を行って九尾を引き付け続ける。
そしてサリーとカスミの連続攻撃にカラアゲとカナデの魔法が加わった事により、遂に九尾が麻痺状態となりその動きが止まった。
「麻痺入った! 二人共、後はお願い!」
「「分かりました!」」
九尾の動きが止まってしまえば、後は双子の仕事だ。マイとユイは極振り故に行動速度は非常に遅いが、麻痺で動きが止まっている九尾相手であれば然程問題ではない。
「「【ダブルスタンプ】!」」
衝撃波を伴って繰り出される凄まじい威力の八連撃は、八割弱は残っていたHPを全て消し飛ばして九尾の体を光へと変えていった。
「お疲れ様、二人ともタイミングバッチリだね」
「「ありがとうございます!」」
(今回は殆どやる事が無かったな……)
ハイドも一応武器に麻痺効果を付与させて攻撃を行っていたが、目視された瞬間ステータスが下がってしまうハイドはどうしても動きが消極的になってしまい、結果として九尾の注意を引き続けたサリーはもちろんカスミよりも攻撃の頻度が少なくなってしまっていた。
(って言うか今回のボスの首のやつ、アレどう考えても俺対策だよな!? いやでも狐にしめ縄はさしておかしくはないかもしれないか……? 前回のボスもゴーレムで【暗殺】使えなかったし、偶然にしてはって気がしないでもないけど……)
メイプルの数々の異常性とは異なり、ハイドの異常性を担う即死効果を無効化するのはかなり容易である。単純に首を無くすか狙えなくしてしまえばいいのだ。それだけで急所が狙えなくなり【暗殺】が発動しなくなる。
(これは……【暗殺】に頼りきりじゃなくて、何かほかに考えとくか)
ハイドそこで一旦思考を打ち切ると、仲間と共にボスを倒した事で出現した魔法陣へ歩みを進める。全員が魔法陣の上に乗ると魔法陣が起動し、五層へと転移を開始した。
「うわー! 真っ白です!」
「キレ―!」
五層は黄昏時で薄暗かった四層と打って変わって、空に雲一つない青空と直射日光が降り注ぐ明るい空間である。空の青と一面の真っ白な大地のコントラストが美しい。
「これは、雪……ではなく雲か」
「地面と言うか、足場も雲だから若干感触が違うな。俺は問題ないが……」
クロムが言葉の途中でカスミやサリー、そしてハイドの方に目を向ける。【楓の木】の中で近接武器を持ち、尚且つ機動力に優れている三人は基本的に激しく動き回って敵に攻撃を与える。地面の感触の違和感により行動が鈍ってしまう可能性を危惧したのだ。
ハイドが足を前に出して少し力を入れながら踏み込むと、雲の地面から弾力のある感触、普通の土やコンクリートの地面とは違った感触が返ってきた。
「まぁ確かに、ちょっと慣らしは必要かな。でもそんなに時間はかからないはず。すぐにいつも通り動けるようになるよ」
「私もだ。慣れるまでは少々動き辛くはあるが、さして問題はない」
「……二人に同じ」
クロムの考えは杞憂だと、視線を向けられた三人はそれぞれ返答を返す。
流石にいきなり普段通りの挙動は無理だが、少し時間を貰えれば大丈夫だと確信をもっている。
「ここでボーっとしてても仕方ないし、いったん解散にしましょうか? 皆色々見て回りたいでしょう?」
「そうだね。いいんじゃない?」
イズの提案は他のメンバーからも特に反対が無かったため、取り敢えず一旦この階層のギルドホームへ行きその後解散という運びとなった。
「お姉ちゃん、一緒に行こう!」
「うん! カラアゲくんもどうかな?」
「いいの? じゃあ僕も一緒に行くね」
「「うん!」」
マイとユイはカラアゲを誘い、ギルドホームから飛び出していく。新しい階層に興味津々なのだ。
「カスミ、俺達はレベル上げに行かないか?」
「そうだな。どんな敵が出てくるか確かめておきたい」
「私は工房の方に行くわね。ちょっと作ってみたいアイテムがあるのよ」
「じゃあ僕も図書館へ行こうかな」
カスミとクロムは二人でレベル上げのためフィールドへ。
そしてイズはホームの奥の工房に、カナデは図書館にそれぞれ情報収集に向かった。
「……え、っと、ハイドはどこか行きたい場所とかある?」
「………特には。ただ戦闘はもう少しこの地面に慣れてからにしておきたい」
ハイドはサリーの問いに足踏みをしながら答えた。流石に慣れない感覚の地面で戦闘をする気はないらしい。
「…………そ、それじゃあ、わ、私と一緒に少し街の中を歩かない?」
「……一緒? 二人でって意味?」
「そ、そうだけど……」
(珍しいな。サリーから誘いを受けるの)
目に見えて顔を赤くしたサリーが、ハイドの顔を上目遣いで見つめる。
クリスマス以来特にアクションが無かったため、このサリーからの唐突な誘いに、ハイドは少し驚いた。
「な、何よ……つ、都合が悪かったりするの?」
「……いや別に、大丈夫だ。行こうか」
「うん! ……ヨシッ」
(そんなに喜んでくれるのか……何か少し恥ずかしいな)
サリーが小さく拳を握っているのを、ハイドは横目で確認しつつ気付かないふりをする。
「あ、そうだ。ハイド」
「……何だ?」
「い、一応言っとくけど。これ、私の中ではデートのつもりだからね。ゲームの中だからって関係ないから」
「………………んなっ!?」
「ほら! 早く行くよ!」
告げられた言葉の意味を数秒遅れて理解して固まったハイドを置いて、サリーはさっさとギルドの扉を開けて外に出る。サリーに急かされて、ハイドも慌てて彼女の後を追った。
(デート……デートか。デートと思って誰かと出かけるのは初めてだな……うぅ、何か緊張してきた……)
改めて意識させられると、ハイドの心拍数は上がり顔が赤く染まっていく。幸いにもこの場にはハイドとサリー以外誰もいなくなっていたため、その様子を誰かに目撃される事はなかった。
「あらあら、サリーちゃんったら積極的じゃない♪」
目撃される事はない……はずだった。
しかし残念ながら、素材が足りない事に気付いてUターンしていたイズが、一部始終をバッチリと目撃してしまっていた。
「サリーちゃんがあれほど積極的なのも珍しいけど、あの鈍感だったハイドくんがあんなに照れるなんて……サリーちゃん凄いわね」
しかもハイドは装備に隠れていなかった耳を赤くしているところまで、はっきりと見られている。
その後イズは先程の光景を思い返し上機嫌に微笑みながら、少し時間をおいて足りていなかった素材を調達するためギルドホームを後にした。
次回、VS最強です。