派手なのは苦手なので、とりあえず隠れて敵を倒そうと思う   作:名無しの投稿者

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暗殺者と初クエスト

 第一回イベントから一週間が経ち、ハイドはレベルやスキルレベル上げに勤しんでいた。

 少し前に大型アップデートがあり、ハイドもそのアップデートで追加されたスキルをいくつか取得している。しかし一番の目玉である、攻略する事で二層に行けるようになる最北端のダンジョンにハイドはまだ挑戦していない。

 

(いくらかレベルもスキルレベルも上がってきてるけど、まだ一人で攻略するには足らないな……かといって、他のパーティに混ぜてもらうのは……)

 

 ゲームを始めてから約一ヵ月、フレンド人数は未だの0人。それどころか会話をしたプレイヤーの数すらも0人。そんなハイドに、初対面のプレイヤーに話しかけてパーティーに入れてもらうのはハードルが高すぎたのだ。

 そんな訳で一人で攻略する事に決めたハイドは、それを行う為に北の森で必死にレベルを上げている。このフィールドにはリンクしているモンスターが多いので、複数の相手に見つからずに撃退する練習をしに来たのだ。

 

(今のとこ順調に狩れてるな。複数相手でも見つからずに殲滅できてる。俺も腕を上げたもんだ)

 

 自画自賛をしながら木の上を跳んで移動していると、木々に隠れるように小さな森小屋がハイドの目に入ってきた。

 

(何だ、あの小屋? ここは初めて来た場所だけど、こんなところに小屋があるなんて情報聞いたことないぞ? ここら辺にモンスターがあまり出ないのと関係があるのか?)

 

 ハイドが今いる地点は、比較的森の浅い場所にある割にモンスターがあまり出ない狩場だ。場所的には浅い場所だが道中が入り組んでいるため行くのに少し時間がかかる上に、普通の人にとっては旨味がないため人気がない。だがハイドにとっては人気がない事が逆に好条件のため、試しに足を運んでみたのだ。

 

(小屋の周りには誰もいる様子はない。中にいるのか……?)

 

 情報がないため恐る恐る森小屋に近づくハイド。その時、突然どこからか声をかけられた。

 

「ちょっと待ちなされ、そこな少年」

「……っ!?」

 

 ハイドは急に聞こえてきた声に驚き急いで辺りを見渡すが、周囲には人の気配がない。

 

(どこだ!? 誰もいないはずなのに何で急に声が!?)

「上におるよ」

 

 再び聞こえてきた声に反応して、上を向くハイド。そこにはいつからいたのか、六十歳ぐらいの老人が森小屋の屋根に立っていた。

 

「驚かせてすまぬな。ほいっと!」

 

 その老人は年齢を感じさせない動きで跳び上がると、そのまま空中で一回転して地面に着地した。

 

(何だこの人。老人なのに凄い身体能力だな……話しかけてきたって事はクエストNPC、だよな? HPバーが出てないし)

 

 NWOには基本的にプレイヤーもしくはモンスターにしかHPバーが付いておらず、NPCには付いていない。またプレイヤー側が話しかけていないのに声を掛けてくるNPCは、大抵の場合クエストを発生させるNPCだ。

 

「お主、新たな力を得たくはないか? わしの出す試練を達成した暁には、褒美を与えよう」

 

 ハイドの目の前に青いパネルが浮き出てくる。

 

 『クエスト【暗部の試練】』

 

 クエスト名の表示の下には、YESとNOの二つの表示があった。

 

(これは【超加速】と同じ様な、スキルの巻物を手に入れられるタイプのイベントクエストか。新たな力って言ってるし、間違いないだろう)

 

 そうであるならば迷う必要はないと、ハイドはすぐにYESを押した。

 

「では試練を与える。こことは別の森に、四つ足の肉食獣がおる。まずはそいつらのみを五匹倒してくるのじゃ。くれぐれも、見つからぬようにな」

 

 老人が言い終わると同時に、新たに青いパネルが現れクエストの説明が出てくる。

 

(達成条件は、老人が指定されたモンスターを指定された数倒す事で制限時間はなし……指定したモンスターってのは自分で考えないといけないみたいだな。

 こことは別の森って事は、北の森じゃない森……この辺りだと西の森かな? 後は四つ足の肉食獣の方だけど、これは簡単。今のところ、森に出てくる四つ足の肉食獣はオオカミしかいない)

 

 一応最北端のダンジョンに行くとクマが出てくるが、あのダンジョンは森ではない。

 ハイドは目的のモンスターと場所の考察を終えると、すぐさま西の森へ向かって走り出す。

 

(そしてくれぐれも見つからないようにという言葉……クエスト名に暗部ってあるから、見つからずに暗殺しろって事なのかな? 問題は見つからないようにの対象が、モンスターだけなのかプレイヤーも含まれるのかだけど……プレイヤーも含まれるって前提で動いた方がいいな。勝手に楽な方だと判断してクエスト失敗になったら目も当てられないし)

 

 ハイドは人目を避けるため町に戻らず、町の外周を沿う様に森を移動して西の森を目指すのだった。

 

     ◇◇◇

 

 何とか目視されずに西の森で五匹のオオカミを倒したハイドは、他のモンスターとの戦闘を避けて誰にも見つからないように森小屋へと戻ってきた。

 

(あの爺さん、オオカミ()()を五匹倒して来いって言ってた。多分オオカミ以外を倒したらクエスト失敗になる)

 

 ハイドのこれまで予想は全て正しい。クエスト画面に乗っていない失敗条件は二つある。

 一つ目はクエスト中、モンスター及びプレイヤーに目視されてはならない事。見つかる寸前で逃げる事を防止するため、ログアウトしても失敗扱いになる。

 もう一つはNPCから指定されたモンスターのみを指定された数だけ倒す事。その際倒した数は少ないのは当然、多過ぎてもクエスト失敗となる。

 またハイドは知る由もないが、指定されていないモンスターを倒しても失敗となる。見つかるリスクを出来る限り避けるため、そのトラップもハイドは無意識にクリアしていた。

 

(このクエスト、丁度いい訓練になるけど中々大変だな)

 

 注意深く辺りの気配を探りながら、ハイドは森小屋に帰り着く。森小屋の前には、出発した時と同じ位置にお爺さんが立っていた。

 

「うむ、見事なり。では次は第二の試練じゃが、挑戦するか?」

 

 『クエスト【暗部の試練2】』

 

 新たなクエストが発生し、再びハイドの前に青いパネルが現れる。

 

(ですよね~。これだけで終わらないとは思ってたよ。だってさっき()()()って言ってたし)

 

 続きのクエストがある事を予想していたハイドは、すぐにYESを押してそのクエストを受ける。

 

「この辺りにいる小さき人型のみを十匹倒してくるのじゃ」

(これは分かりやすいな。ここら辺にいる人型はゴブリンだけ。つまりゴブリンを十匹倒して来いってクエストだ。この爺さんは言ってないけど、多分さっきのクエストと同じく見つかったらアウトだろうな)

 

 ゴブリンは必ずリンクしているが、その数は三匹から始まり多くて五匹。運良く五匹のグループを二つ見つけて、その二グループを見つからないように全滅させれればこのクエストは終了になる。しかし五匹グループは遭遇率が低く、一番多いのは三匹のグループだ。

 

(三匹のグループに三回遭遇した場合、合計で九体。何処か別のリンクから見つからないように一体だけ倒す必要がある……今回の場合は運が結構関わってくるな。ただでさえこの辺りにはゴブリン以外のモンスターも多い上に、自爆攻撃してくる爆発テントウがいるから厄介だってのに)

 

 木の枝を跳び移って移動するハイドにとって、空を飛ぶ爆発テントウは地上を動く他のモンスターと違って先に見つかってしまう可能性が非常に高い。

 一応爆発テントウがいるのは森の奥のため近づかなければ問題はないのだが、面倒な事に森の奥には五匹グループのゴブリンが若干多めにいる上に他のモンスターは少ない。ついでに爆発テントウが狩りに向かないモンスターのため、誤って迷い込んだプレイヤー以外は誰も来ない。

 

(爆発テントウのリスクを承知で他の多数のモンスターやプレイヤーに目視されるリスクを無くした上で五匹グループのゴブリンを狙ってさっさとクエストを終わらせるか、それとも他のモンスターを頑張って避けながら爆発テントウがいない方でゴブリンを探すか……さっきまでの狩りと同じ様に動いて油断しなければいけるか)

 

 ハイドは両方のデメリットを考えた後、爆発テントウを避ける方を選択した。クエストが発生する前まで爆発テントウがいない場所で行っていたの狩りでは、複数のモンスター相手でも目視される事はなかったのでその要領でいけば問題ないと判断したのだ。

 

     ◇◇◇

 

 そうしてゴブリン狩りを開始したハイドだったが、ゴブリンのリンクを見つけても周りの他のモンスターが多くて諦めたり、リンクを倒している途中で他のプレイヤーが寄ってきて中断せざるを得なくなったりするなどやはり時間がかなりかかった。

 しかし結果的にハイドはモンスターやプレイヤーに目撃されずに、合計十匹のゴブリンを倒す事に成功した。

 

「うむ、見事なり。では続けて最後の試練を与えるが、挑戦するかの?」

 

 老人が言い終えると同時に、ハイドの前に青いパネルが現れる。

 

 『クエスト【暗部の試練3】』

 

(爺さんが最後って言ったし、これが最終のクエストか。油断せずにクリアしよう!)

 

 ハイドは気合を入れなおすと、先程と同じ様にクエストを受ける。

 

「何処かにおる、空を飛び毒を放つ魔物のみを三匹倒すのじゃ。さすれば、褒美を与えよう」

(フォレストクインビーの事だな。分かりやすい、分かりやすいんだけど……また難易度上げてきたなぁ~)

 

 フォレストクインビーは西の森の奥地に単体でのみポップするモンスターで、ゲーム初日のハイドが戦うのを避けたモンスターだ。レベルの上がった今のステータスだったら戦う事そのもの()問題ない。

 では何が問題なのかというと、フォレストクインビーがポップする場所が問題なのだ。フォレストクインビーは、他のモンスターと違って西の森のある程度開けた場所にポップする。他のプレイヤーなら視界の開けた場所で戦闘ができるので何の問題もないだが、ハイドの場合……特に今のクエスト中のハイドにとっては大問題だ。

 

(ある程度開けた場所にポップするあの蜂は、今までみたいに急所狙いで特攻すると近くに身を隠す場所がないから確実に見つかる。そしてステータス的には戦うのは問題ないけど、流石に一撃じゃ倒せないから攻撃をしたら見つからないようにすぐ隠れる必要がある)

 

 今までもリンクしているモンスターを見つからないように倒す際、武器だけではなくナイフを【投擲】したり【飛撃】で倒している。しかし如何せん【投擲】や【飛撃】は、武器での攻撃に比べ与えるダメージが低すぎる。ゴブリンや他のモンスターでも分かる程にダメージが減るので、それよりもVITの高いフォレストクインビーを【投擲】や【飛撃】だけで倒すのはかなりの時間がかかるのは容易に想像できる。それを三匹も繰り返さねばならないのだ。

 

(……ここまでやってきたから挑戦するけどさ。マジで一番時間かかりそうだな……集中力持てばいいけど)

 

 ハイドは持久戦の予感から気落ちしていた気分を、大きく深呼吸して切り替えて再び西の森目指して走り出した。

 

     ◇◇◇

 

(……………………つ、疲れた)

 

 ハイドは三匹のフォレストクインビーを、かなり時間はかかったが無事に倒し終えて森小屋に帰ってきた。これまでのクエストを、集中力や勘をフル活用していたお陰でかなり疲弊しているが。

 

(これで報酬が使えなかったら、問答無用でこの爺さんを本気で殴ってやる)

 

 疲労のせいか心の中でかなり物騒な事を考えながら老人の前に立つハイド。そんなハイドを前にして、老人は帰ってきたハイドに朗らかな笑みを浮かべた。

 

「うむ。見事なり。では約束の品を与えよう」

 

 そう言って老人は懐から一本の巻物をハイドに差し出した。ハイドは巻物を受け取ると、その巻物で取得できるスキルの情報を見た。

 

【隠形】

スキル発動後、三十秒間目視不可。モンスター又はプレイヤーに目視されていると発動不可。

モンスター又はプレイヤーに攻撃時、及び接触時スキル解除。十分後、再使用可。

使用可能回数、一日五回。使用可能回数は一時間毎に回復する。

取得条件

専用のクエストをクリアすること。

 

(……滅茶苦茶使えるスキルだった。殴るのは勘弁してやるか)

「ふむ……お主は優秀じゃの。特別にいいことを教えてやろう。付いていきなさい」

 

 そう言うと老人は小屋の中に入っていき、ハイドも遅れて小屋の中に入った。小屋に入った老人は、引き出しから一枚の地図を取り出してハイドに広げて見せる。

 

(これ、北の森の全体図だよな? また新しいクエストなのか? 報酬も貰ったし、流石に違うとは思うけど……)

 

 怪訝な顔で地図を見つめるハイドにお構いなしに、老人は地図の一角を指さした。

 

「この辺に洞窟ある。運が良ければ、お主の助けとなる物が手に入るじゃろう。頑張るのじゃぞ」

 

 老人が指さした場所は、この森小屋がある場所と同じ様に比較的浅い場所なのに、モンスターの出現率が非常に低い場所だった。あまりに出現率が低いので何かあるはずだと多くのプレイヤーがこの辺りを探しが、結局何もないという結論に至ったそうだ。この地図が確かなら、ただ見つけられなかっただけみたいだが。

 

「……」

「……」

 

 ハイドは老人が何かダンジョンについての情報、もしくはヒントか何かを言うかもしれないと数分待ったが、老人はダンジョンの場所だけ言うとそれきり黙ってしまった。

 

(……これ以上の情報はなしか。ならこのままここにいてもしょうがないな)

 

 老人が何も言う気配がないのを悟ると、ハイドはそのまま山小屋を後にした。

 

(……ダンジョンを見に行くのは明日にして、今日はもうログアウトするかな。こんな疲れ果てた状態でいくのは危ないし)

 

 山小屋を出て早々深いため息を吐いたハイドは、疲労で鈍った頭でもクエストで集中力を使い果たした状態でのダンジョン探索は危険と判断してそのままログアウトした。

 




主人公は基本一人では(他のプレイヤーがいないと)喋らない性格です。お陰で喋ったのはNPCのみだった……。ハイドが喋るようになるのはもう少し後です。

北の森のゴブリンについて
ゴブリンが北の森にいるという情報は原作にもありましたし、メイプルが【挑発】を使うと周りにいた他のモンスターと一緒に五匹のゴブリンがメイプルを攻撃する描写もありました。
しかしそれ以外の情報もなく、また以降北の森が出てくる事もなくなったのでゴブリンのリンクの数及び遭遇率についてはオリジナルで決めました。

モンスターの分布について
いくつかのモンスターについて、原作に書かれていることを参考にしてオリジナルで分布を決めました。
オリジナルの部分は『フォレストクインビーが西の森しかいない』の部分と、『爆発テントウがいる森の奥はゴブリン以外のモンスターが少ない』の部分です。
どちらもこのクエストの難易度を上げるのためのオリジナル要素です。

オリジナルクエスト
クエスト【暗部の試練1~3】
クエスト発生条件:モンスター及びプレイヤーに一切目撃されずに、一定数以上モンスターを倒しクエスト発生場所に行く。
クエスト発生場所:第一層の北側。モンスターの数も種類も少なくなっている場所の奥地にある森小屋。
クエスト内容
NPCのお爺さんから、指定されたモンスターのみを指定された数倒す。その際倒すモンスターの数は多過ぎても少な過ぎても失敗。また指定されていないモンスターを倒しても失敗。
制限時間はないがクエスト中はモンスター及びプレイヤーに目視されてはならず、ログアウトするとクエスト失敗。(ハイドが一発で成功させたため全く意味のない設定だが、一度失敗すると再受注は不可)
クエスト報酬:スキル【隠形】の巻物、及びダンジョンの場所(意味深)

クエスト報酬の意味深の部分についてはまた次回です。次回はいよいよダンジョンです。
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