おっぱいマスターはやて   作:暗黒パンパース

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長い上に場面がころころ切り替わって読みにくいです。
すいません


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 闇の書の闇、防衛プログラムが目の前にある。これさえ……これさえ直してしまえば、僕は生きられる。守護騎士達と共に、リインフォースと一緒に。

 

「やるよ、リイン」

 

『はい』

 

 起動前にヘッドセットはつけてある。これで勝手にスカえもんがデータを取るだろう。左手を蠢く蛇の塊に差し込むと、僕の腕に巻き付いた。

 

「ぐっ⁉︎」

 

『主⁉︎』

 

「大丈夫だよ、リイン。皆はもし暴走が始まって結界が破れたら、このジュエルシードに魔力を叩き込んでね。もしかしたら闇の書とジュエルシードの暴走が相殺して被害が少なくなるかもしれないから」

 

 もちろん被害が大きくなる可能性もある。ジュエルシードの暴走による次元断層から発生する虚数空間に落ちてしまえばロストロギアといえど戻っては来れまい。

 守護騎士達をこんなことにつきあわせるのは忍びないけど、負の連鎖が続くよりはいい。皆、僕と共に逝くと言ってくれた。だからと言って死ぬつもりなど全くない!

 

「暫くは眠ったようになるけど安心して。その代わり無防備だから護ってね」

 

「はい、必ずや」

 

「任せろって、邪魔が入ってもあたしがやっつけてやるよ!」

 

「盾の守護獣の名にかけて」

 

「それじゃ、行ってくるよ」

 

 目を閉じて集中すると深層意識に落ちて行く。目を開けるとリインフォースが僕を抱っこしてくれていた。周囲の青い空間は1と0の羅列で埋め尽くされている。この空間は原作はやてちゃんと違うな。

 

「ここでは扱いやすいよう主に合わせてあります」

 

 あ、そうだったの。ありがとうリインフォース。

 

「時間が勿体無い。早速やるよ」

 

「わかりました」

 

 僕はリインフォースの胸に手を当てると、ズブリと腕まで差し込んだ。

 

「ちょっとだけ我慢してね。すぐに終わらせるから」

 

 シミュレーターで何千回と繰り返し、リインフォースと予行演習を行った防衛プログラム修正。自分でも信じられないくらいの速さにまで洗練された手腕は瞬く間に防衛プログラムを修正してゆく。

 何だ、こんなものか。これならすぐに終わる。待っててよ、リインフォース。もうすぐ呪われた闇の書なんていう名前ともおさらばさせてあげるから。

 

 

 その頃、はやてのいなくなった八神家にはリーゼ姉妹が訪れていた。

 

「おかしいよアリア。今は守護騎士達は留守にしてるから、何時もなら管制人格と一緒におとなしくしてるのに」

 

 不審に思ったリーゼ姉妹は魔法を使って八神家に入り込み、中を調べたが何処にもはやてはいなかった。

 アリアが周囲を見渡すとリビングのテーブルの上に置かれた紙に目が止まった。はやてがよく見るスーパーのチラシではない。綺麗に装飾のなされた紙だ。それを手に取るとアリアは驚愕に身を包んだ。

 

「ロッテ! これ!」

 

「何、手紙? なになに、リーゼお姉ちゃん達へ。あの子もなかなか可愛いことするじゃん」

 

「そうじゃない! 続きを読んで」

 

 読み進めるうちにロッテの顔が焦りに変わり、冷や汗を流し始めた。

 

「あの子、知ってたんだよ! 自分がどうなるのか」

 

「不味い……父さまに連絡を!」

 

「おうよ!」

 

 手紙ははやてを今まで世話をしてくれた感謝を綴ったものであった。そしてその最後の文には自分の運命に決着をつけると書かれていた。

 

 

 クロノ・ハラオウン含むアースラスタッフはリンディ・ハラオウンの保護観察対象のフェイト・テスタロッサと使い魔アルフを第97管理外世界・地球に送り届けた後、久方ぶりの休暇を過ごしていた。

 暫くは現地で何事もなく過ごしていたある日、地球近くの次元世界で謎の機械群が突如として現れ、破壊の限りを尽くしているとエイミィ・リミエッタから報告があり、アースラスタッフ一同は学校にいるフェイトと使い魔アルフ、保護者であるリンディを地球に残し、破壊活動を止めるべく出動した。

 

「やれやれ、ジュエルシードの次は謎の機械か」

 

 武装隊の誰かがポツリと呟いた。

 

 

 アースラの出動を影から見ていたギル・グレアムは突然の出来事を不審に思っていた。

 守護騎士達が蒐集に出かけた際、念の為はやてにリーゼ姉妹を護衛につけ、蒐集しやすいよう次元犯罪者の情報をそれとなく流し、その後の始末を隠蔽していた。今まで滞りなく流れていた一連の作業に、思わぬところで横槍を入れられたような感覚を覚えたのである。長年の経験による勘が何かを訴えかけていた。そしてその勘は外れていなかった。

 

「大変だ! はやてがいなくなった!」

 

「何⁉︎」

 

 思わぬ誤算である。リーゼロッテの報告に悩む間も無く指示を飛ばす。

 

「闇の書につけたマーカーは?」

 

「今、アリアが追ってるよ」

 

「そうか。発見次第、私が作戦を実行する」

 

「父さまが⁉︎ でもそれは……」

 

「いいんだロッテ。自ら手を降すことに耐えきれず計画を変更したのは私だ。人に手を汚させようとしたんだからバチが当たったんだよ」

 

 ふとグレアムはロッテが手に持っている紙に目が止まった。ロッテの手から手紙を抜き取ると優れたマルチタスクにより一瞬で読み終わってしまった。

 

「これは……」

 

 ギル・グレアムははやてがリーゼ姉妹を慰めたあの日、自らの手で封印を施し虚数空間に闇の書を閉じ込める作戦を取りやめた。何も知らないはやての無垢な善意に心が負けたのである。グレアムがとった作戦は闇の書の被害者であるハラオウン親子の手による決着だった。その為のデバイス、デュランダルも完成済みでアリアに持たせてある。

 後は都合良く地球に向かったアースラが到着したタイミングで、()()にも起動した闇の書をクロノ、リンディが封印。長きに渡る闇の書に終止符を打とうとした。

 蒐集が完成間近で止まっていたのは、はやての体調不良による天の采配だと思っていた……今までが都合良く行き過ぎたため、そう信じたかったのかもしれない。

 いよいよ準備が整い、後はこちらで蒐集してしまえば全て終わる。せめてもの罪滅ぼしに一目だけでも会っておこうと病室を訪れた。グレアムを見たはやてはどうして今更いるのかわからないといった顔だった。倒れたと聞いてのこのこやって来たグレアムに嫌な顔一つせず後継人になったことや、リーゼ姉妹の介護に礼を言ったのである。

 グレアムはそこで躊躇ってしまった。本当にこれでいいのかと。会ったその日に計画を実行していれば、はやての準備は間に合わず呆気なく封印出来たであろう。しかしグレアムは躊躇った、躊躇ってしまった。その迷いがはやてに時間を与えてしまい、誤算を生むことになった。

 その結果が今である。頼みのアースラは近隣の事件に出動。封印対象であるはやては行方不明。このままはやてが見つからなければ今までの苦労は水の泡である。

 しかしグレアムはそれでもいいと思っていた。自らの手を汚さず、人に手を降させることもせず、このまま有耶無耶になって預かり知らぬところで人知れず終わっても構わない。だが運命はグレアムにそれを許さなかった。

 

「父さま、アリアが見つけたって!」

 

「そうか……場所は?」

 

「地球から離れた無人世界。アースラが無いととてもじゃないけど行けないよ! どうしよう⁉︎」

 

「そうか、リンディ提督に連絡を」

 

 グレアムは覚悟を決め、リンディへ連絡を取った。連絡を受けたリンディはグレアムがいることに驚きつつも、君と同じで休暇だよという言葉に納得した。尤もその納得は後で無くなる可能性はあるが。

 

 

 クロノと武装隊は謎の機械群の発するフィールドで魔法が使いにくくなり、討伐に梃子摺っていた。

 

「一体何なんだこの機械は⁉︎ エイミィ! 解析は?」

 

「出来てるよ! その機械の発生させるフィールドはアンチマギリンクフィールド。魔力結合と発生を無効にするAAAランクの防御魔法だよ!」

 

「何て厄介な……」

 

 クロノは歯噛みした。なのはやフェイトなら有り余る魔力による力押しでフィールドを突き破り一気に殲滅出来る。自分では魔力結合が解けないように射撃するのが関の山。近付いて破壊しようにも数が多い上に、近寄れば高濃度のAMFに阻害され飛行魔法もままならなくなる。飛んでさえいれば、こちらに被害は少ないが時間ばかりかかる嫌な相手だった。

 

「仕方ない、スティンガーブレイド・エクキューションシフトで一気に殲滅する。武装隊は防御を!」

 

『了解!』

 

 クロノが魔法を展開しようとデバイスに魔力を通すとエイミィから通信が入った。その内容は謎の膨大な魔力反応を確認。次元震の恐れがある為、現在の任務を中止し最優先で駆けつけよというものだった。

 

「どうしますか、クロノ執務官」

 

「くっ……命令通りアースラに帰還し、要請のあった現場に駆け付ける。転送位置に……」

 

 その時、突如として爆発が起きた。何が爆発したのか分からなかったが、武装隊員数名が爆発に巻き込まれ地に倒れ伏した。

 

「一体何が⁉︎ 速やかに負傷者を回収! 転送可能な位置まで撤退せよ!」

 

 クロノが檄を飛ばし、負傷者に近付こうとすると何者かに行く手を阻まれた。

 

「させん! ライドインパルス!」

 

「ぐあっ⁉︎」

 

 クロノは咄嗟に身を捻ることで直撃を免れた。しかし軽いダメージではない。

 

「浅かったか」

 

 クロノを襲ったのはナンバーズの3、トーレである。しかし目の部分にバイザーをつけており、顔が分かりにくくなっていた。分かるのはそのボディラインから女性ということだけだ。

 

「悪いがここで遊んで貰う」

 

 地上に落ちた隊員は他の武装隊員により、保護されていた。しかしその周囲をガジェットドローンに囲まれ身動きが取れない。突破口を開こうと身を顧みず突撃する隊員もいたが、踏み出した地面が爆発し気を失ってしまった。

 

「IS・ランブルデトネイター。お前たちの周りは地雷原だ。死にたくなければ動くな」

 

 周りを囲むガジェットドローンを掻き分け、一人の少女が現れる。ナンバーズの5、チンクだ。ボディスーツにコートを着込み、トーレと同じバイザーを着け武装隊を逃がさないよう包囲網に加わった。

 

 

 グレアム、リンディはエイミィの通信内容に驚愕。機械群の増援に現れた謎の人物二人に奇襲を受け、武装隊員数名が戦闘不能。アンチマギリンクフィールドにより帰還が困難と報告があった。

 

「何ということだ。このままでは……」

 

「手はあります」

 

 リンディは冷静だった。フェイトとアルフ、そしてなのはに会いに来たユーノが転移魔法を使えることを知っているからである。学校にいるフェイトを呼び戻し、使い魔アルフに転移魔法を使わせて戦力として送り込む。

 それを聞いたグレアムはフェイトを送ることに難色を示した。相手はあの闇の書だ。暴走すれば命はない。全く無関係のフェイトを使うことをグレアムは躊躇う。

 

「いや、転移魔法さえ使ってくれれば、アリアとロッテを送る」

 

 管理局最強のオプションとまで呼ばれた二人なら大丈夫だとリンディは安心した。

 

 

 よし、全然余裕だね。これで修正完了、呆気なさすぎるけどあれだけシミュレートしたんだ。成功して当たり前だよ。

 

「成功です、我が主。防衛プログラム、正常化しました」

 

 リインフォースの報告とともに、彼女の体から手を引き抜いた。

 

「ほんと? 何処にも異常は無い?」

 

「はい、完璧です」

 

「いよっしゃあああああ!」

 

 僕はリインフォースに飛び付いて、思いっきり抱き締めた。おっぱいに顔を埋めて息が出来ないくらい強く抱きついた。

 

「さあ戻りましょう、主。騎士達が待っています」

 

「うん」

 

 僕が目を開けると左手に巻きついていた蛇の塊は消え、本に戻った夜天の書があった。

 

「主はやて?」

 

「はやて?」

 

「主?」

 

 結界で囲む三人が目を覚ました僕に問いかける。

 

「成功だ……成功だよ皆!」

 

 僕の喜んだ声を聞くと、ヴィータは飛び跳ね、シグナムは歓喜の涙を流し、ザフィーラは目を閉じて喜びを噛み締めた。シャマルとアギトもヴィータの様子を見て、慌ててこちらに寄ってきた。

 

「成功したんですね」

 

「うん」

 

「さすがあたしのロード!」

 

 これで皆と一緒に生きていける。僕のリンカーコアへの侵食も恐らく止まるだろう。もう痛みに苦しむこともない、不自由を強制されることもない、これから皆と共に歩んでいける。

 さあ帰ってリーゼ姉妹を驚かせてやろう。一悶着あるだろうけど、この夜天の書を見たら納得せざるを得ないはずだ。それでも復讐の為に戦うと言うなら僕も覚悟を決めよう。恩を仇で返すようだけど、僕は生きたい。生きて皆と一緒にすごしたい。

 結界を解除させようと守護騎士達に向き直った時に変化は起こった。正常化して書に戻ったはずの防衛プログラムが再び蛇の塊と化した。

 

「え?」

 

 それは誰の声だっただろうか。自分かもしれないし、守護騎士の誰かかもしれない、全員の声だったかもしれない。

 蛇となった防衛プログラムは持っていた左手から一瞬で全身に巻き付いて僕を戒めるかのように締め付けた。

 

「あぐっ⁉︎」

 

「主⁉︎」

 

「はやて⁉︎」

 

 どういうこと?修正は成功したんじゃなかったの?ショタ触手プレイなんて需要ないでしょ。一体誰得だよ⁉︎

 

『そんな……』

 

 リインフォースの悲痛な声が聞こえた。

 

「どういうことだリインフォース! 修正は成功したのではなかったのか⁉︎」

 

 シグナムの怒声が響く。近寄って来ようとする守護騎士達を手で制し、リインフォースに疑問を投げかけた。どうして防衛プログラムが再び暴走しているのか?

 

『修正は成功しました。しかし突然修正前に戻りました』

 

 馬鹿な⁉︎スカえもんのプログラムが間違っていたのか?それともワザとこうなるようにプログラムを組んだのか?

 

『プログラムに問題はありませんでした。防衛プログラムが元に戻った原因は……わかりま、せん。申し訳……ありません、主』

 

 リインフォースの啜り泣く声が聞こえる。だったらもう一回修正すればいいだろう!

 僕は蛇を強く掴むとプログラムの修正を行う。修正が進むごとに僕の体から蛇が解かれ、左手の書に収束されて行く。修正が完了すると左手の蛇の塊は書に戻った。

 それを見た守護騎士達はホッと胸を撫で下ろす。僕もホッと息を吐いた。何だよ今のは、こんなドッキリ聞いてないよ。

 

『主⁉︎』

 

 リインフォースの声にビクリとすると左手の書は再び蛇の塊に戻っていた。

 

「確かに修正したはずだよ⁉︎ どうして? 何でだよ⁉︎ クソッ!」

 

 僕は再び修正を試みる。僕の体を縛ろうとした蛇はビデオの巻き戻しのようにスルスルと戻っていく。だけどそれは途中で止まってしまった。

 

「修正してるのに……元に戻ってる⁉︎」

 

 修正したそばからすぐにプログラムが元の状態に戻ってしまう。何千回と繰り返した作業だ、元に戻る以上の速度で修正してやる!

 そんな僕の努力を嘲笑うかのように、修正以上の速度で元に戻る防衛プログラム。どうして?何故?という疑問が僕の頭を駆け巡る。僕が原作ブレイクしたから?それとも運命はこうなると決まってたの?

 抵抗し続ける僕を防衛プログラムの暴走が飲み込もうとしていたその時、突如へッドセットから声が。

 

「やあ苦戦しているようだね」

 

 この糞忙しい時にスカえもんがモニターを開き話しかけてきた。こっちはそれどころではないってのに相変わらずのマイペースだ。

 

「今の状況をモニターしていたんだが、面白いことがわかったよ」

 

 スカえもんは勿体つけてニヤニヤとしている。いいからサッサと言えよ!いくら温厚な僕でも怒るよ!

 

「君のしている事は無駄だ。幾らやっても防衛プログラムが正常化することはない。いや、一応正常化するが元に戻ると言ったところか」

 

 そんな……僕のしたことは無駄な努力だったのか。あんなに頑張ったのに運命って残酷だね。僕は運命の残酷な仕打ちに目を閉じる。せめて暴走の被害だけは最小限に抑えようと覚悟を決めた。

 

 

 アルフの転移魔法ではやてのいる無人世界に来たリーゼ姉妹は封鎖領域の前で立ち往生していた。

 

「何だこの結界⁉︎ 硬すぎだよ」

 

 シャマルの封鎖領域はアースラの結界魔導師全員でかかっても壊せないほどの強固なものだ。これを破壊できる人物はただ一人。

 

「そうだ、高町なら……」

 

 そう、原作主人公である高町なのはならスターライトブレイカーによる結界の破壊が可能である。リーゼ姉妹はなのはの出動を要請した。

 

「そう……わかりました。なのはさんに連絡を取ってみるわ」

 

 リンディから念話による連絡を受けたなのはとフェイトは学校を早退し、フェイトの住むマンションへと急いでやって来た。フェイトも一緒に帰って来たのは、結界を破壊するなのはの護衛の為にリンディが独断で呼び戻した。

 状況の説明を受けた二人は首を縦にふって了解した。アルフの転移魔法で転移した二人はリーゼ姉妹と合流。すぐに結界の破壊に取り掛かった。

 

『9…8…7…6…』

 

 レイジングハートのカウントが進む。特に邪魔も入らずカウントは0になった。

 

「スターライト……ブレイカー!」

 

 リーゼ姉妹が手も足も出ない結界はなのはの手により紙屑同然に破られた。こりゃ反則だろうとはロッテの談である。

 封鎖領域の中にいたのは蛇に全身を締め付けられ苦しみの叫び声をあげるはやての姿だった。

 

 

 完全に遊ばれている。相手の手加減具合から実力の差を思い知ったクロノは打つ手無しの状況に焦った。負傷した隊員をアースラに転送して早く治療を受けさせたい。しかし目の前の敵はそうさせてくれない。先程から下が気になって戦闘に集中出来ないでいた。

 

「ふん、仲間が気になるか?」

 

「当たり前だろう!」

 

「ふふ、そう怒るな。別に命まで取ろうとは思っていない」

 

「馬鹿にして!」

 

「怪我人だけなら見逃してやってもいいぞ」

 

「何⁉︎」

 

 クロノはトーレの言葉に驚いた。犯罪者の言葉とは思えなかったからである。怪訝な顔でトーレを睨んでいるとクスリと笑われた。

 

「まあ信用しろと言っても無駄か……チ、おい! 怪我人を逃がしてやれ!」

 

 危うくチンクと言いそうになったトーレはチンクに命じてガジェットドローンの包囲網を一部開けて通るように促した。

 

「おかしなマネをしたら……わかってるな? まあ高濃度のAMF内でそんなマネが出来るわけもないが」

 

 怪我人を置いた武装隊は再びガジェットドローンに囲まれAMF内に閉じ込められた。

 

「さて坊や、遊ぼうか。これで本気を出せるだろう?」

 

「っ⁉︎ 後悔させてやる!」

 

 トーレとクロノが再び交わろうとした時、スカリエッティから通信が入った。

 

「そこまでだ。状況が変わった、戦力を率いて戻って来たまえ」

 

 それだけ言うと通信は切れてしまった。

 

「聞こえただろう? ここまでだ、さっさとお仲間の所へ帰るんだな」

 

「逃がすと思ってるのか?」

 

 クロノは立ちはだかるようにトーレと対峙した。トーレはそれを鼻で笑う。

 

「実力差ぐらいわかっただろう? それとも下の奴ら諸共殺されたいのか?」

 

 クロノは悔しさに表情を歪めた。それを見たトーレは先ほどの戦闘者とは思えないような微笑みを見せた。

 

「ふふ、いい顔だ。機会があったらまた相手をしてやろう。精々その時まで腕を磨いておくことだ」

 

 トーレは一瞬でチンクの傍に移動し、これまた一瞬でチンクごと姿を消した。残ったガジェットドローンは破壊されたものをレーザーで焼き尽くし、それが終わると自動的に転移して姿を消した。残されたクロノと武装隊はそれを黙って見ているしか出来なかった。

 

 

 僕は被害を最小限に抑えるべく、破れかぶれでジュエルシードに魔力を込めようとした。

 

「諦めるのは結構だが、人の話は最後まで聞くものだよ」

 

 スカえもんはやれやれと言った様子で口の端を吊り上げた。何だよ、まだ何かあるのか。

 

「闇の書が暴走するのは防衛プログラムが原因ではない。無限再生機能が原因だ」

 

「何だって⁉︎」

 

 スカえもんは聞き捨てならないことを言った。どういうことだってばよ!

 

「防衛プログラムの修正をモニターしていたが、すぐに元のデータに戻っていたのを不審に思ってね。よく調べてみるとデータを元に戻しているのは無限再生機能だ」

 

 な、なんだってー⁉︎ってやってる場合じゃないだろ!早く先を言ってよスカえもん!

 

「無限再生機能が間違った防衛プログラムのデータを記録している。故に書き換えたそばから元に戻している」

 

 それってつまり……

 

「ここまで言えば分かるだろう。修正するのは防衛プログラムではなく、無限再生機能が復元する元のデータの方だ」

 

 そうだったのか!だからいくら修正しても元の状態に戻ってしまっていたのか!

 

「むげ……機能に……」

 

 ザザーと砂嵐の音が聞こえてスカえもんとの通信が途切れた。防衛プログラムが完全に僕を飲み込んだみたいだ。意識が闇に飲まれていく。駄目だ、データを修正しないと……

 

「はやてちゃん!」

 

 誰かの僕を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

 苦しみに喘ぐはやて、それを結界で取り囲む謎の人物達。なのはとフェイトの目には守護騎士達がはやてを苦しめる敵に見えた。

 

「よくもはやてちゃんを!」

 

 なのはは怒りは頂点に達した。親友の少女が恋慕する少年を誘拐し苦しめているのである。もしはやてに何かあればすずかは嘆き悲しむだろう。親友を傷付けるのは許さない、ましてや自分の友人にもなったのだ。敵を倒し、はやてを助けるという選択肢以外存在しない。

 

「ディバインバスター!」

 

 なのはの桜色の砲撃が守護騎士に向かって突き進む。しかしその砲撃はザフィーラの盾によって防がれた。

 

「主には指一本触れさせはせん!」

 

『Scythe Slash』

 

 なのはの砲撃に注視した隙を突いてフェイトがザフィーラの背後に接近していた。タイミングは完璧だ。だが刃は寸でのところでシグナムにより受け止められた。

 

「甘いっ!」

 

 シグナムは前蹴りでフェイトを吹き飛ばし、はやてから距離を離した。

 

「ああ、もう! あの子達勝手に!」

 

「こうなりゃまずは守護騎士を排除だ!」

 

 リーゼ姉妹も戦闘に参加し4:4の集団戦となった。管理局側は前衛タイプ二人に後衛タイプ二人。対して守護騎士も前衛二人に後衛二人である。尤も守護騎士は砲撃を得意とするタイプがいないので、砲撃戦に持ち込まれるとやや不利である。不利ではあるが圧倒的な経験と技量では守護騎士が勝っており、リーゼ姉妹が如何に優秀といえどもなのはとフェイトの経験不足は補えないものであった。そしてそのバランスを崩す者が存在する。烈火の剣精アギトである。

 

「シグナム!」

 

「来い!」

 

『ユニゾンイン』

 

 リーゼ姉妹はアギトがユニゾンデバイスだとは知らなかった。アギトははやてとユニゾンしたがり、ほとんどシグナムとはユニゾンしていなかった。それが功を奏し今の今までユニゾンデバイスであることを気付かせなかった。

 

『火竜一閃』

 

 シグナムとアギトによる空間殲滅魔法。その思わぬ大威力になのは達は大ダメージを受けた。

 

「きゃあ!」

 

「あぅっ!」

 

「くっ……」

 

 咄嗟にバリアを展開したものの、フェイトだけは防御力の低さ故に戦闘不能寸前まで一気に追い詰められた。

 

 

 この状況を重く見たリンディは更なる戦力の追加としてユーノを送り込んだ。

 グレアムは予想以上となっていた守護騎士達の実力に自ら打って出るべきか悩んでいた。

 

「古代ベルカ式魔法陣……グレアム提督、あの魔導師達はもしかして」

 

「闇の書の騎士、ヴォルケンリッター」

 

 グレアムは全て話すことにした。このまま黙っていても何れ暴露ることだ。

 

「私は闇の書の主が偶然にもこの地にいることを突き止めた」

 

 グレアムの口から語られる事柄にリンディは驚きを隠せなかった。

 

「これを見たまえ」

 

「これは手紙ですね」

 

 はやての手紙はリンディを驚かせるには十分なものだった。

 

「読んでの通り、今代の闇の書の主である彼は自分の運命を分かっていたようだ。分かった上で次元犯罪者から蒐集を行い、荒廃した無人世界で自らの命と引き換えに誰も巻き込まず果てるつもりなのだろう……私は彼の命を奪うことを恐れ、復讐という免罪符を持つ君達に押し付ける事で運命から逃れようとした。その結果がこれだ。笑ってくれたまえ」

 

 リンディは何と言っていいか、分からなかった。闇の書に対する復讐心はある。しかし誰ともしれず、全て背負いこんで一人死にゆく子供に己の復讐心を押し付けるほど腐ってはいなかった。

 

「だがせめて最後は私が手をくだそう」

 

 グレアムは立ち上がり出動する決心をした。アルフに転移を頼んだが、ユーノを送ったのが最後の魔力だった。そこにタイミング良くクロノから通信が入り地球の傍を通り現地へ向かうと報告してきた。正に渡りに船、アルフのなけなしの魔力でアースラへと転移し、決着をつけるべく現地に向かった。

 

 

 一足先に着いたユーノは奇襲気味に守護騎士達を捕らえた。

 

「ケージングサークル!」

 

 守護騎士達をはやてごと囲むようにリング状のサークルを展開した。それを破壊しようとヴィータが突撃する。

 

「こんなものぶっ壊してやる! テートリヒ・シュラーク!」

 

 ヴィータの魔力を込めた攻撃に守護騎士の誰もが破壊された未来を予想した。故に爆発の後に現れた無傷のサークルに驚いた。

 

「なっ⁉︎ 今ので無傷かよ!」

 

 ヴィータが驚くのも仕方がない。このケージングサークルは闇の書の暴走体すら閉じ込める最強の檻なのだ。これを破るにはフルドライブによる最強の一撃が必要だ。

 守護騎士がユーノの魔法に囚われている間に回復を施した。

 

「妙たえなる響き、光となれ、癒しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ」

 

 ラウンドガーダー・エクステンドと呼ばれる防御と回復の効果を持つ結界魔法である。ユーノの役目はこれだけだ。後はアースラが到着するのを待つのみ。守護騎士の攻撃もユーノが魔力を追加するだけで徒労に終わる結果となった。

 

「フェレット!」

 

 突如アリアのチェーンバインドがユーノを引っ張り手元に引き寄せた。ユーノがいた場所からは手が生えていた。シャマルによる旅の鏡を用いたリンカーコアへの直接攻撃だ。高い防御力も強固な結界もこの攻撃の前には無力。アリアが気付くのが遅れていたら、ユーノのケージングサークルは消滅していただろう。

 

「惜しかったわね……」

 

「二度は通じん」

 

 シャマルの無念な言葉にザフィーラは相槌を打つ。

 

「仕方ないわ。シグナム」

 

「わかった……レヴァンティン!」

 

『Bogenform』

 

 カートリッジを消費し弓に変形したレヴァンティンを構える。

 

()けよ、隼!」

 

『Sturmfalken』

 

 結界破壊能力を伴った最大の一撃がユーノのケージングサークルを破壊した。破壊と同時にヴィータが飛び出す。

 

「いくぞアイゼン!」

 

『Explosion.』

 

「ラケーテン・ハンマー!」

 

 狙いはユーノ。後方支援タイプを真っ先に潰すのは定石だ。当然ユーノも黙って受けることはない。スフィアプロテクションにより防御する。相手は複数故にラウンドシールドは使わなかった。しかしこれこそが守護騎士達の狙いである。

 

「ぶっ潰せーっ!」

 

 ラケーテン・ハンマーがユーノに直撃。なのはの叫びが聞こえたが、ユーノは自分に何が起きたのか分からず戦闘不能となった。

 守護騎士達の作戦はこうだ。全方位型のバリアで防御するユーノに、旅の鏡でザフィーラの拳を顎に叩き込む。脳を揺さぶられたユーノはバリアを維持出来ず、そのままヴィータの攻撃を受けることになる。ただそれだけ。これがラウンドシールドならアリアが助けに入れただろう。しかし相手が複数故にシールドタイプは使えなかった。

 ユーノが落ちたことにより結界魔法は全て解除され、戦況は守護騎士側に傾いたかに見えた。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」

 

 トーレに勝てなかった憂さを晴らすようなクロノの奇襲攻撃。それに対応して見せたのはやはりザフィーラ。

 攻撃対象は未だ蛇の塊に囚われるはやてだった。クロノの行いに守護騎士達は殺気立ち、なのはからは抗議を受けた。

 

「クロノくん! 何するの⁉︎ はやてちゃんはお友達なの! 助けなきゃいけないの!」

 

「何を言っているんだ⁉︎ あれは第一級指定ロストロギア闇の書の主だ! このままでは世界が滅亡するんだぞ!」

 

 道中でグレアムから話を聞いていたクロノは怒鳴るように言い放った。

 なのははクロノが何を言っているのか分からなかった。闇の書?ロストロギア?なのはが聞いたのは謎の魔力反応で次元震の恐れがあるということだけだった。そしてそれは、はやてを囚えている謎の人物達が原因だと思っていた。

 

「本当なの?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「そんな……それじゃすずかちゃんは」

 

 クロノとリーゼ姉妹の言葉となのはの呟きに守護騎士が反応した。

 

「その通り」

 

「我らが主は今代の闇の書の担い手」

 

「はやてちゃんは負の連鎖を止めるために、闇の書に立ち向かっています」

 

「そして暴走した時には我らの手で始末をつけるように命じられた」

 

「闇の書はまだ暴走してねぇ。だったらあたし達は言われた通りはやてを護るだけだ!」

 

 周囲の言葉になのはは何も出来ずに立ち尽くした。戦闘不能一歩手前のフェイト、気絶したユーノ。戦い続けるクロノとリーゼ姉妹、武装隊の面々。それらからはやてを護る守護騎士達。世界の崩壊を防ぐ為に戦えば、すずかを傷つけることになる。かと言って何もしなければはやては見殺しになり、すずかは悲しむ。どう転んでも親友が哀しみ、友人が死ぬ結果にしかならない現実になのはの思考は停止した。そしてそれらを遠くから眺める存在がいた。

 

「エターナル・コフィン」

 

『OK,Boss』

 

 それは一瞬の隙を突いたグレアムの攻撃だった。実力では勝っていても、数の多い武装隊相手に手間取る守護騎士。僅かにはやてから離れた瞬間を狙い、誰も防ぐことが出来ないタイミングで放った。

 蛇に囚われて見えないはやてごと凍結魔法で氷漬けにした。後は守護騎士を始末し、虚数空間に閉じ込めるだけだ。

 

「はやてぇ⁉︎」

 

 隙を晒したヴィータにアリアがスティンガーブレイドを放った。危うく直撃しかけたが何とかシールドが間に合う。しかしシールドで防いだ瞬間をロッテが追撃。

 

「ぐあぁ!」

 

「ヴィータ!」

 

 シグナムがフォローに入ろうとするが、武装隊に邪魔される。

 

「邪魔だっ!」

 

 斬り捨てて駆けつけようとするシグナムだが頭上から感じる高魔力反応に視線を上げると、空を埋め尽くすスティンガーブレイドの光刃が眼を焼かんばかりに輝いていた。

 

「クロノやアリアのスティンガーブレイドは私が教えたものだ」

 

「くっ間に合え!」

 

「遅い。スティンガーブレイド・ディザスター」

 

 天災や災害を意味する言葉をつけられたグレアムのスティンガーブレイド。その名に相応しく降り注いだ先には災害の跡かと思うような爪痕が残される。予め念話で撃つことを知らされていた管理局側はすぐに退避出来たが、守護騎士達はそうもいかない。

 シグナムは火竜一閃により相殺、ザフィーラはその強固な守りで凌ぎ切った。シャマルはザフィーラの後ろにいた為無傷だ。ただ一人ヴィータだけが防ぎ切れなかった。

 

「く……そ……まだ、だ」

 

 ヴィータはズタボロになりながらも気を失わなかった。

 

「べ、ルカ……の、騎士に……負けは、ね……えっ⁉︎」

 

 ヴィータのリンカーコアがドクンと胎動した。いや、ヴィータだけではない。守護騎士全員だ。戦うことを忘れ、守護騎士全員がはやてを見て、そして自分の体を見た。

 透けている。プログラムで構成されたヴォルケンリッターの体が構築を保てなくなったのだ。それは八神はやてが守護騎士プログラムを維持出来なくなったことを表す。即ちはやての死。

 

「嘘だろ⁉︎ はやて!」

 

「馬鹿な……」

 

「そんな……」

 

 ただ一人最後まで諦めない者がいた。ザフィーラだ。最期の力を振り絞り、はやてを包む巨大な氷に拳を打ち付けた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおあああああああああ!」

 

 しかしそれを最期にザフィーラの体は霧散する。守護騎士が全て消えた後はユニゾンアウトされたアギトだけが残された。

 

「……封印成功だ」

 

 グレアムの声が辺りに響く。成功したにも関わらず、誰一人喜ぶ事は無かった。

 なのはは膝をつき両手を大地につけた。

 

「ごめん……ごめん、すずかちゃん。助けられなかった……はやてちゃん、ごめん」

 

 なのはは泣き崩れ、ボロボロと涙を流し零れた涙は渇いた大地に吸い込まれた。

 アギトははやての氷に縋り付き、炎を伴った拳を叩きつける。

 

「はやて! 起きてくれよ! あたしのロードだろ⁉︎ 終わったらユニゾンしてくるって嘘なのかよ!」

 

 アギトの叫びが虚しく木霊した。

 

 ざんねん!!はやての ぼうけんは これで おわってしまった!!




ご愛読ありがとうございました。
tys先生の次回作にご期待ください。

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