スイートルームイベント   作:鳶子

10 / 16
スイートルームイベント:荒川幸編

♡ ♡ ♡

 

 

扉を開けるとそこにいたのは…荒川さんだった。

この部屋では、他のみんなは僕を相手に妄想をし始めるんだよな…。荒川さんは、僕を相手にどんな妄想をしているんだろう?

 

「あ、先輩…!」

僕が部屋の中に入って扉を閉めると、荒川さんはほっとしたような表情で声をかけてきた。

 

「先輩…?」

「は、はい……それがどうかしましたか?」

「ううん、なんでもない…!大丈夫だよ」

不安そうな顔をしたので慌てて否定する。僕は彼女の先輩っていう設定みたいだな…。

 

「あ、あのっ、今日は突然お呼び出ししたのに来てくれて、ありがとうございました」

荒川さんはまずぺこりと僕に頭を下げた。僕は首を横に振る。

「気にしないでよ。えっと、僕に何か用事があったのかな?」

 

「は、はい。その、ずっと前から言おうと思ってたんですけど、何となく、機会を逃しちゃってて……」

 

荒川さんは僕から目線を逸らす。なんだか緊張しているみたいだけど、一体、何の話なんだろう…?

話しやすいように、2人でベッドの縁に腰掛ける。少しすると、彼女は遠慮がちに口を開いた。

 

「…今日は、お礼を言いたくて来てもらったんです」

「お礼?」

「はい。先輩も、私の噂は知ってますよね…?学校の中で有名ですから…」

「噂…って何だっけ……」

「あっ、気を遣ってもらわなくても大丈夫です。自分でも悪い意味で名前が知れてるのは分かってますから……」

 

荒川さんは寂しそうに笑う。あんまり目立ってるようなイメージは湧かないけどな…それに、悪い意味って……

 

「…小さい頃から、私の周りでは事故がたくさん起こって……車に乗ったら玉突き事故が起こったり、旅行で船に乗ったらその船が難破したり……」

「え!?大丈夫だったのそれ…!?」

 

「はい、いつも私は事故に巻き込まれても、幸運なことに無傷でした…。でも、中にはそれが原因で亡くなる方も多くて。私は昔から親族やクラスメイトに、お前は疫病神だって言われて、避けられていたんです」

「……………」

「…だから、どんどん自分に自信がなくなっていって…私がいなくなった方がみんなが幸せになるんじゃないかって、今まで何度も思ってました」

 

そんな……荒川さんにこんなに辛い過去があったなんて、知らなかった。

例え不幸な事故が起こったからって、その原因が彼女にあるはずがない。周りの人は捌け口にしているだけだ…。そんな事を言われて、落ち込まない方がおかしいだろう。

 

「…でも、先輩は、そんな私の噂を知ってても、分け隔てなく接してくれて…普通の後輩として扱ってくれました。…それがすごく、私にとっては嬉しかったんです」

 

「当たり前だよ。荒川さんは他の人と何も変わらない、普通の女の子なんだから…」

幸運という才能があったって、荒川さんが一人の女の子だってことに変わりはない。一緒に過ごした期間はまだ短いけれど、彼女の素敵なところはたくさん知ってるし、もちろん疫病神なんかじゃない。

 

荒川さんは僕の言葉に嬉しそうに頷くと、少し穏やかな顔で話を続ける。

「私に近づくとみんなが不幸になるっていう噂があるから、周りの人は近づいてくれないけれど…こむぎ先輩は、私のこと嫌ったりせずに、むしろ私にたくさん声をかけてくれて、応援してくれた...…」

 

そして、ぎゅっと拳を胸の前で握りしめて、にっこりと笑った。

 

「…だから私、先輩のおかげで、自分に少しだけ自信を持てるようになりました!」

 

 

その心からの笑顔を見て、胸を締め付けていたものがすっと軽くなる。

「…よかった」

 

「それで、お礼を言いたいんです。今まで私は、こんなに前向きになれたことなかったから…こむぎ先輩のお陰です。…本当に、ありがとうございます」

「ううん。それは僕の力じゃなくて、荒川さんが自分で、頑張ろうと思ったからだよ」

 

「いえ…背中を押してくれたのは、先輩ですから。今度からは、最初から私とは話してくれないって思い込むんじゃなくて、思い切って自分から話しかけてみようと思います」

「うん、すごくいいと思う…!これからも応援してるから、頑張ってね」

「はい!」

元気よく頷くのを見て、僕もなんだかぽかぽかした、幸せな気持ちになる。…人を幸せにするのは与えられた才能じゃなくて、荒川さん自身が持っている力なんだろうなあ。

 

「…それと、1つお願いがあって…」

しばらく談笑してから、荒川さんは遠慮がちに僕を見た。

「お願い?」

 

「仲のいい先輩と後輩は、スキンシップをたくさんするって聞いたんです。私、こむぎ先輩ともっと仲良くなりたくて、それで何かやりたくて……」

「スキンシップかあ…」

 

先輩と後輩のスキンシップって……とりあえず、そっと頭を撫でてみる。

「…こんな感じかな?」

 

「……!」

さらさらとした髪を優しく撫でると、荒川さんが肩をびくっと震わせた。

 

「ご、ごめん!やっぱりダメだった…?」

「いっ、いえ、そうじゃないんです!ただ、ちょっとびっくりしちゃって……こんなに優しく撫でてもらったの、初めてだから…」

「…そっか」

「えへへ、ちょっと照れくさいけど、嬉しいです……!」

 

荒川さんは嬉しそうにはにかむ。彼女にはきっとこれから、もっと楽しいことがたくさん待ってるはずだ。まずは、この場を楽しまないと。

 

「次は腕相撲とかする?僕、重い植木鉢とか運ぶから、これは結構自信あるんだ」

「やってみたいです!えっと、て、手加減ありでお願いします…」

「あはは、わかったよ」

 

 

荒川さんが眠たくなるまで、ひとしきり2人遊びをして楽しんだ…。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告