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扉を開けるとそこにいたのは…スティーヴンくんだった。
この部屋では、他のみんなは僕を相手に妄想をし始めるんだよな…。スティーヴンくんは、僕を相手にどんな妄想をしているんだろう?
「Good evening…来てくれてありがとう、こむぎ君」
僕が部屋の中に入ると、スティーヴンくんは軽く手を振って言った。
「ううん、全然大丈夫だよ」
「急に呼び出したりしてすまない。どうしても、確かめたいことがあってな。こんなこと誰かに話したことは無いんだが…親友の君になら、話せると思うんだ」
「…親友かあ……」
僕はスティーヴンくんの親友という設定みたいだ。思わず呟くと、スティーヴンくんは途端に不安そうな顔をした。
「僕達はそう思っていたんだが…ち、違ったか…?」
「いや、そんなことないよ!ごめんね、ちょっと親友って言われたのが、その、嬉しくて…」
「そうか…なら良かった。それで、話がしたいんだ。少し長くなるかもしれないが、聞いてもらっていいかな」
「うん、もちろん。親友なんだからなんでも聞くよ」
「Thanks…立ち話もなんだから、とマシューが言っているし、このベッドの上にでも座ろうか」
僕達は2人でベッドの上に腰かけた。前から思ってたけど、マシューさんっていうのは気遣いができるすごく優しい人なんだろうな…。
スティーヴンくんが少し緊張した面持ちで話し始める。
「Well…ジョークもない身の上話だから、こむぎ君にとってはつまらないかもしれないが。
…僕達…いや、"俺"は昔から、人と仲良くするのが苦手だったんだ。周りの人のことをあまり、信じることができなかった」
「…うん」
「表向きでは仲良くできていても、本当は相手が自分のことをどう思っているのかなんて、分からないだろう。それに、そんなことを考えてしまう弱い俺は…何か些細なことがきっかけで、周りの人に軽蔑されたり嫌われてしまうかもしれない。
そんな風に不安になると、どうしても他人を信頼することができなくて…」
苦しそうな表情で話していたスティーヴンくんは、そこで一旦言葉を止める。
「俺にとって…ジョン、メアリー、ジャック、マシュー…頭の中に住むたくさんの人格たちだけが、信頼出来る友人だった。彼らの他に、心の底から信じられる他人は、1人としていなかったんだ」
「…………」
スティーヴンくんがそんな思いを抱えていたなんて、今まで全く知らなかった。友達や周りの人を信じられないということは、きっと普通に生きている僕には想像もつかないような、とても苦しいことなんだろうと思う。
彼の顔を見ると、スティーヴンくんは少し困ったように眉を下げて、小さく笑った。
「君に変な奴だと…弱い奴だと思われても仕方がない。ただ、これだけは伝えさせて欲しいんだ」
「…うん」
「君の真っ直ぐな人柄に、無邪気な笑顔に…俺を親友だと言ってくれたことに、救われた。俺は初めて、 本当の意味で、他の誰かを信じられるんじゃないか…そう思ったんだ」
スティーヴンくんは、真剣な眼差しで僕を見据える。
「俺は…君を信じたい。」
「…………」
「君の気持ちを確かめたいんだ、こむぎ君。君は今も、これからも…俺の事を『親友』だと呼んでくれるか?俺は君を…信頼しても、良いんだろうか?」
「…いいよ。全部良い。僕は君のヒーローみたいにかっこいいところも、君が弱いと思っている部分も…親友として、君の全てを受け止めたい」
「…………」
「なんでもできる完璧な人なんて、この世にいるはずないよ。誰にでも弱い部分はあるし、不安に囚われちゃうこともある。
でもそういう時こそ、他人を…僕を、頼って欲しい。そうやって互いに支え合ってこそ、親友って呼べるんじゃないかな」
「……そうだな。ありがとう、こむぎ君」
孤軍奮闘するヒーローは確かにとてもかっこいいけれど、お互いに信頼して背中を預け合えるバディのような親友。最初はそれでもいいんじゃないんだろうか。
世界を救うヒーローだって、生まれた時から完璧な超人って訳じゃないだろう。
「…HAHA,やっぱりシリアスな雰囲気には慣れないな!」
スティーヴンくんは誤魔化すように、照れくさそうに頬を赤くして笑った。
「君の言葉が聞けてとても嬉しかったよ。俺と親友でいてくれて、ありがとう」
彼はそう言って立ち上がると…突然、強く抱きしめてきた。
そう言えばアメリカの映画って、親友がよくハグをするシーンみたいなのがあるような。やっぱりスティーヴンくんは、根っからのアメリカ人なんだな…ちょっぴり恥ずかしいけど、嬉しいな。
「こんな俺だが…これからもよろしく頼む、こむぎ君。」
「うん、こちらこそ。スティーヴンくん」
その夜は、2人でアメリカと日本の文化について熱く語り合った…。