スイートルームイベント   作:鳶子

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スイートルームイベント:芥原芥生編

♡ ♡ ♡

 

扉を開けるとそこにいたのは…芥原さんだった。

この部屋では、他のみんなは僕を相手に妄想をし始めるんだよな…。芥原さんは、僕を相手にどんな妄想をしているんだろう…?

 

それにしても、なんだか思い詰めたような顔をしている。どうしたんだ…?

 

「…聞いてるですか!?」

「えっ、ごめん…!」

見ると、芥原さんが頬をぷくっと膨らませている。僕がその表情の理由を考えてる間に、何かしゃべっていたみたいだ。まずい、早く設定を把握しないと…!

 

「ここまで来ればさすがに追いかけてこないはずですよ!」

「えっと…誰が…?どういうこと…?」

「記憶が混乱してしまうのも仕方ないですよ…」

芥原さんはうんうんと難しそうな顔で頷く。

 

「くぐはらたちは今悪の組織に追われてるんですから…!」

「悪の組織…!?」

どうやら僕達は、悪の組織に追われている設定らしい。

芥原さんは"超高校級の魔法少女"だから、テレビで見る魔法少女アニメのような展開の妄想なんだろうか…。

 

「…ここがバレるのも時間の問題です」

芥原さんは真剣な口調で続ける。

「安心してください、宗形さんはくぐはらが守るですから」

そうきっぱりと言い切った表情には、迷いは見えない。でも、僕には疑問があった。彼女は僕の記憶が混濁していると思っているから、聞いてみても大丈夫だろう…。

 

「待って!なんで僕達は追われてるの?」

「…それは……」

警戒するように辺りを見回していた芥原さんの動きがぴたりと止まった。そのまま口をつぐんでしまう。

「…………」

「………?」

 

「………くぐはらが、約束を破ったから…です…」

 

「約束…?」

約束。絞り出すように芥原さんはそう言ったけど、何の話なのか全く掴めない。

芥原さん自身…もしくは魔法少女には、何か破ってはいけない規則のようなものがあったんだろうか…?

 

「魔法少女は、本当はこっそり活動しなければならないのです。でも、くぐはらは宗形さんと"秘密"を共有してしまいました…」

芥原さんはそう答えた。

 

「秘密って…もしかして、芥原さんが魔法少女ってこと?」

「はい」

彼女は素直にこくりと頷く。

 

「自分が魔法少女であることは、他のみんなには内緒にしなければいけないのです。くぐはらは、宗形さんにそれを言ってしまいました…だから、くぐはら達は今追いかけられてるんです」

「そうだったんだ……」

でも、そんな重要なことをどうして芥原さんは僕に伝えたんだろう…?

 

「宗形さんは…くぐはらの、その、特別な存在ですから…大丈夫です、必ずくぐはらが責任を持って守るですよ」

芥原さんはもぞもぞと恥ずかしそうにしながら僕に告げる。

(…特別な存在?それって一体………)

 

「…ごめん、全然思い出せないけど、でも、それは芥原さんのせいじゃないよ」

「宗形さん…?」

芥原さんがきょとんとした顔でこちらを向く。

 

「秘密を共有してしまった以上、僕にだって責任があるはずなんだ。だから、僕も一緒に戦うよ」

 

「…宗形さん……」

芥原さんはぎゅっとピーちゃんを胸元で握りしめた。

「…やっぱり、宗形さんは変わらないです」

「変わらない…?」

「はい。あの時も、くぐはらを同じように助けてくれました」

 

「小学校の、ハイキングで…くぐはらは、宗形さんを誘って山の奥に行っちゃって…2人で迷子になっちゃったんです」

「迷子に…」

それが、特別な存在と関係あるんだろうか。

 

「泣きながらくぐはらのせいだって謝った時、宗形さんは、君のせいじゃないって言ってくれて…くぐはらの手を引いて、みんながいるところまで連れてってくれたんです。くぐはらはその時、初めて人に助けてもらいました。だから今度は、くぐはらが誰かを助けたいって思ったんです」

 

「それが、くぐはらが魔法少女になった理由です…宗形さんがいなければ、今のくぐはらはいません…宗形さんは、特別なんです」

 

「芥原さん…」

これはきっと彼女の妄想の中の設定なんだろうけど、実際の彼女にも、こんなきっかけがあったんだろうか。

 

常に誰かを助ける、魔法少女になったきっかけ…今度ゆっくり話せる時に、聞いてみたいな。とりあえず、今は焦っている彼女に落ち着いてもらうことを考えよう。

 

「僕達、追われてるんだよね?ここは安全そうだから休めるうちに休んでおこう」

「はい…宗形さん、えっと……」

「な、何?」

 

「…あの時みたいに、手を握っててもいいでしょうか……」

「…いいよ」

僕達はベッドの縁に手を握って座った。

 

しばらく話していると、緊張していたくぐはらさんも落ち着いてきて…いつの間にか、僕の肩を借りてすやすやと眠りに落ちていた。起こさないように体をそっと抱え、ベッドに寝かせて上からふかふかの布団をかける。

 

いつも忙しそうに動き回っている彼女は、夢の中でも悪の組織と戦いを繰り広げているんだろうか。せめて今日はゆっくり、いい夢を見てほしいな。

 

「…おやすみなさい、芥原さん」

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