スイートルームイベント   作:鳶子

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スイートルームイベント:陰崎ひめか編

♡ ♡ ♡

 

扉を開けるとそこにいたのは…陰崎さんだった。

この部屋では、他のみんなは僕を相手に妄想をし始めるんだよな…。陰崎さんは、僕を相手にどんな妄想をしているんだろう…?

 

「あ、こむぎくん!」

陰崎さんは僕の姿を見ると、嬉しそうに声をかけてきた。…僕も名前で呼んだ方がいいんだろうか?

 

「ひ、ひめかさん…今日はどうしたの?」

「な、名前呼びはやめてって言ったじゃん……」

陰崎さんは顔を引きつらせる。まずい、やっぱりだめだったのか…?

 

「ひめかって男の人に呼ばれると、なんかこうオタサーの姫みたいで恥ずかしいんだよ…べ、別に、い、嫌な訳じゃないんだけど。む、むしろちょっと嬉しくなっちゃったりしたんだけど……あ、いや、今のはナシ!いつも通り陰崎って呼び捨てでいいから……名前の呼び方変えるのは、告白シーンとかそういう山場だけでお願いしたいかなって…」

 

「い、陰崎だよね…わかった……」

ものすごい勢いでまくし立てられてしまった。でも、嫌ではないんだ…女の子って難しいなあ。

 

「それよりほら、そこに立って!」

陰崎さんは気を取り直したように、目の前の壁を指さす。…僕がデッサンのモデルをするってことかな?そこに行って立つと予想通り、彼女によるポージングの指定が始まった。

 

「こむぎくん何気に背高いからさ、ジョジョ立ちとかやらせてみたかったんだよね。ひめかはまだ未履修なんだけどさ、やっぱりあの絵柄には憧れちゃうよ……こむぎくん、できる?」

「え、えっと…こんな感じ?」

「あっそうそう!近い近い!」

うろ覚えのポーズを試してみると、陰崎さんが嬉しそうに声を上げる。

 

「うん、足はそのままで、もうちょっと胸張って、腕も若干上にあげて…あ、高さはそのままで角度だけつけられる?……」

僕は陰崎さんの細かい指示に従って身体を動かす。これ、見てる方はかっこいいんだろうけど、結構きつい姿勢だな…。

 

「そうそれ、完璧!よしっ、そのまましばらく止まってて!絶対動かないでね!!」

陰崎さんはそう言ってガリガリとスケッチブックに鉛筆を走らせ始めた。凄まじい速さで紙の上を鉛筆が駆け回る。

 

しばらく時間が経って、この体勢のままでいるのがかなり辛くなってきた。

「あ、あの…そろそろ……」

「う〜んいいなぁ、この曲線……やっぱり本家みたいに、ゴゴゴゴって音も書いた方がかっこいいよね……いつもと絵柄変えるの楽しい…いやもしかしなくてもこれは天才……」

僕の声が聞こえていないのか、陰崎さんはぶつぶつと呟きながら作業を続けている。まずいぞ、これ……僕がポーズを保つのと陰崎さんが描き終えるの、どっちが先か……。

 

 

「できたーっ!」

「痛っ!!?」

 

陰崎さんがスケッチブックを掲げて高らかに叫んだのと、僕がつった足を押さえてしゃがみこんだのはほぼ同時の出来事だった。

 

「こ、こむぎくん!?大丈夫!?」

彼女は手にしていたスケッチブックを放り出して、慌ててこちらに近づいてくる。

 

「大丈夫…ちょ、ちょっと足つっちゃって……」

「どうしよう……と、とりあえずベッドに座ろ、肩貸すから掴まって」

言われるがまま、陰崎さんの肩を借りてベッドまで移動する。2人でベッドの上にぽすんと腰掛けて、一息つく。

 

「ごめんね、ひめか友達いないから、こんなこと頼めるのこむぎくんぐらいしかいなくて……」

「ううん、気にしないでよ。今のは僕がポーズを取り慣れてなかったからだし」

僕がそう言うと、陰崎さんは安心したようにほっと息を吐く。

 

「…さっきちょっと手見てて思ったんだけど、こむぎくんの手ってゴツゴツしてて男の子っぽい感じだよね」

「元から手は大きい方だし、お花を植えるために土を耕したりとかもするからかも。顔と全然合ってないってよく言われるよ」

「なるほど〜……でも、ひめかは好きだよ」

 

「…へ?」

「こむぎくんの手!凹凸あった方がデッサンしがいがあっていいんだよね」

「あ、ありがとう……」

びっくりした、手のことか……。

 

陰崎さんとあんまり落ち着いて話したことはなかったけど、こんなに明るい顔をするんだ。本人は自分のことをよく卑下してるけど、僕は普通に素敵な人だと思うけどな…。

 

 

「それじゃ、足も治ったみたいだし、時間もったいないからもう1枚いってみようか!」

しばらく他愛もない話をした後、彼女は元気よく言った。

「もう1枚…!?」

「だ、だめ……?」

陰崎さんが少ししゅんとした様子で聞いてくる。

 

「う、ううん。全然いいよ。陰崎さ…陰崎の力に少しでもなりたいし」

そう言いながら、僕はまた立ち上がって、さっきスケッチブックで見せられたポーズを取る。

 

「まさかこんなお願いごと聞いてくれるとは思わなかったからさ…へへ……あ、そこ手動かしちゃダメだよ。ミリでも動いたら構図変わっちゃうからね。」

「は、はい……」

 

真顔で注意された…。僕は全身を動かさないよう気をつけながら、心から楽しそうにデッサンをする陰崎さんを眺める。

確かにしんどいけど、たまには体に刺激を与えないとだめだろう。今度陰崎さんも誘って、切ヶ谷さん達のトレーニングに混ぜてもらおうかな…。

 

「そこ!動くな!」

「ごめんなさい!」

 

どうやら、明日は筋肉痛になりそうだ…。

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