スイートルームイベント   作:鳶子

5 / 16
スイートルームイベント:妄崎しなぐ編

♡ ♡ ♡

 

 

扉を開けるとそこにいたのは…妄崎さんだった。

この部屋では、他のみんなは僕を相手に妄想をし始めるんだよな…。妄崎さんは、僕を相手にどんな妄想をしているんだろう…?

 

「やっほ〜、びっくりした?お姉さん退屈だったから遊びに来ちゃった♡」

「………」

 

この部屋で妄崎さんがそんなことを言うと、なんとなく怪しい響きがするな…。

 

「ほらほら、早くこっち来なよ」

妄崎さんはベッドの上から僕の腕をぎゅっと引っ張る。

 

「ちょ、ちょっと妄崎さん、困るよ……」

「え〜、自分だって妄崎でしょ?なんで苗字呼びしてるの?」

「え……?」

「そんなぁ!こむぎくんはこんなに可愛いお姉ちゃんのこと、忘れちゃったの…!?」

妄崎さんがわざとらしく目を潤ませて、僕の手を両手で包み込むようにする。

 

「……冗談とかじゃなく?」

「冗談言ってるのはそっちだよ〜、いい加減つまんないからやめてよね。昔みたいにお姉ちゃん〜!ってかわいく呼んでみてよ」

「ええ…!?ご、ごめん……」

 

どうやら、本当に妄崎さんがお姉さん、という設定らしい。怪しい仲じゃなくてよかった…。そっと胸を撫で下ろす。

 

「お、お姉ちゃん。今日は僕に何の用?」

「うふふ……」

妄崎さんはお姉ちゃんと呼ばれたのが嬉しいのか、にこにことしている。

 

「こむぎくんが反抗期で最近全然話してくれなかったからさ、寂しいお姉さんはわざわざこうして出向いてあげてるって訳。ほら、たまには2人で昔話でもどう?」

「あはは……うん、いいよ」

 

妄崎さんの中の僕は反抗期って設定なのか…とりあえず場を繕おうと愛想笑いをする。

妄崎さんと僕が姉弟…どんな子供時代を過したんだろう?少し興味があるな。

 

「昔はよく2人で公園で遊んでたよね〜。世界で1番大きい砂のお城を作ろう!なんて言ってさ。結局こむぎくんが自分で崩して泣いちゃって、私がおんぶして帰ったんだっけ」

「う、……そんなことあったかな……」

「こらこら、事実を都合のいいように改変しちゃダメだよ?」

妄崎さんは悪戯っ子っぽく微笑んだ。…いや、今のは、弟をイジるお姉さんみたいな笑顔だ。

 

「…こむぎくん、今園芸部でお花育ててるんでしょ?この前植木鉢持ってるの見たよ〜。何育ててるの?」

「あぁ、あの子ははなちゃんって言うんだ。僕が見つけたんだけど、新種のお花かもしれないんだよ!」

「へぇ、すごいじゃない!昔からお花好きだったもんね、自分の好きなことをこの歳まで続けられるって、とってもいいことだと思うな〜」

「そんなにたいそれたものじゃないけど…ありがとう」

「こむぎくんってば、相変わらずシャイで奥手なんだから〜!もっと自信持ちなよ……あ、そうだ」

 

妄崎さんはふと思いついたように、膝を折り畳んで正座の姿勢になって、僕に向き直る。

 

 

「…膝枕、する?」

「へっ!?」

 

唐突すぎないか!?なんでこの状況で膝枕なんだ……!?

 

「い、いいよ。別に子供じゃないんだし……」

「なによ〜昔は好きだったくせに!もう、意識しちゃってるの?いいからいいから!」

 

そう言われて強引に膝の上に頭を乗せられる。柔らかくて、あったかい。真上にあるにやにやとした顔と目が合って、頬がどんどん熱くなっていくのがわかる…。僕は急いで顔を背けた。

 

「ふふ、懐かしいね…」

妄崎さんはそんな僕の頭をゆっくりと、優しい手つきで撫で始める。

 

 

「…ねえ、こむぎくんは今、幸せなのかな?」

「……………」

彼女の頭を撫でる手は止まらない。

 

「…僕は、幸せだよ。お姉ちゃんもいるし、園芸っていう自分の好きなことができて、たくさんの素敵な仲間とも出会えた。こうやって何気なく過ごしてる今も、すごく貴重で、大切なものだって思う。」

「……そっか」

 

 

「お姉ちゃんは?今、幸せ?」

 

そう聞いた瞬間、手がぴたりと止まった。

 

「……?」

起き上がって妄崎さんの方を向くと、じっと下を見て黙り込んでいる。唇が少し、震えているのがわかった。

 

「…そうね……私は、幸せなのかな……」

独りごちるように、彼女は僕に向かって言う。

 

 

「……私にも、わかんないや」

 

そして、ひどく切なそうな、悲しそうな笑みを浮かべた。

 

「………………」

「…もう夜も遅いね。ごめんね、長居しちゃって。明日も学校あるし、早く寝よう」

妄崎さんは、無理やりな作り笑いでそう言うと、静かに部屋を後にした…。

 

 

僕は"また"彼女を救えなかったのかもしれない。そんな言葉が、なぜか頭によぎった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告