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扉を開けるとそこにいたのは…揚羽くんだった。
この部屋では、他のみんなは僕を相手に妄想をし始めるんだよな…。揚羽くんは、僕を相手にどんな妄想をしているんだろう?
…揚羽くんの妄想って、なんだか少し怖いな…。
「…………」
「…………」
「こむぎ、やっと2人になれたワね。忙しくてなかなか時間を作れなくてゴメンなさいね…。」
しばらくの沈黙の後、揚羽くんが申し訳なさそうに言う。
「え…あ、別に、大丈夫だよ」
「お仕事が急に一気に入ってしまってね…あたしと暫く会えなくて、寂しくなかったかしら?」
お仕事…揚羽くんは"超高校級の軍人"だから、僕も同じく軍人なのかな。でも確か、揚羽くんって軍の中でも偉い立場って言ってたような…そんな彼がただの軍人の僕にこんなに優しく接するのか…?
「あたしはすごく寂しかったワ…だから今、こむぎに会えてとても嬉しいの」
「…………」
…もしかして、僕は揚羽くんの恋人、なのか…?
「…こむぎ?ぼーっとしてどうしたのよ、もう部屋に帰りたいのかしら?まぁ、そうよね…無理にあたしの部屋に呼んでしまったんだもの…、でもここからは出られないワ」
「え?あ、揚羽くん…?どういうこと?」
「今日は貴方を返したくないの。今日だけでいいのよ、あたしの傍にいてくれないかしら。」
断るのもなんだか申し訳ないし、ここは揚羽くんの妄想の中だ。彼が不機嫌になっちゃったらだめだよな…。
「うん…いいよ」
「ふふっ、ありがと。コレ…付けてもらってもいいかしら」
揚羽くんが妖艶な笑みを浮かべながら差し出しのは……首輪!?そんな物、どこから取り出したんだ…!?
「少し大人しくしてて頂戴ね」
揚羽くんは、焦る僕に構わず、慣れた手つきで僕に首輪を付けようとしてくる。
「ちょ、ちょっと揚羽くん!?どうして首輪なの…?」
僕が尋ねると、彼は不思議そうな顔をする。
「どうしてって…あたしの傍から離れないためよ?」
「そんなことしなくても、僕は逃げたりしないよ…」
「コレが有れば色々できるのよ、こういう事したりね」
そう言うと揚羽くんは首輪のリードをぎゅっと引っ張って、僕を抱き締めた。
「…こむぎ、とても似合ってるワ。可愛いわよ…」
ち、近い……。耳元で吐息混じりに囁かれたら、男の僕でもさすがにドキッとしてしまう。こんなに近距離で彼を見ることも、きっと今日ぐらいだろうな…。
香水をつけているのか、とてもいい香りがふわっと鼻に飛び込んでくる。体格のいい揚羽くんに抱きしめられると包み込まれているみたいで、温もりが直に伝わってきた。
「揚羽くん、暖かい…ね。あと、すごくいい香りがするよ」
「ふふっ、そうかしら?ありがと、愛してるワ、こむぎ……」
揚羽くんは嬉しそうに言うと、部屋の中央のベッドを指さす。
「ここでずっと立ってるのも疲れちゃうワ、ベッドに行きましょ?」
「良いけど…」
僕は揚羽くんの手元にしか目がいかなかった。
「ど、どうして刀を持ってるの…?」
…嫌な予感しかしない。
「…こむぎにとって赤色ってどんなイメージなのかしら?」
「赤…?僕は活発なイメージ、みたいなのがあるかな…」
赤色の花は、色とりどりのお花の中でもみんなの目をぐっと惹きつける。最近は薄いパステルのお花が人気だけど、僕は赤みたいな、見ると活力がもらえそうな鮮やかな色も好きだなあ…。
「活発…そうね。そうとも取れるワね」
でも、揚羽くんの考えは違った。
「あたしにとっての赤は…"愛"よ」
「愛……」
赤い薔薇なんかは確かに愛の象徴って感じがするよな…?揚羽くんが言いたいのはそういう感じのこと、なのかな…。
そんなことを考えていると、突然、揚羽くんの手が眼前に伸びてくる。その手には刀が握られている…!
「あたしの手で赤に染まった貴方は………、」
「揚羽くん!!ちょっと待ってよ!?な、何する気なの!!?」
「少しだけ……少しだけよ……大丈夫…。あたしも一緒に染まるわ、お願いよ」
じたばたと抵抗しても簡単に捻じ伏せられる。力が強い……どうしよう、このままじゃ………
「わあぁっ!!!…はッ……はぁ…はぁ………」
次に目が覚めると、僕は自分の部屋のベッドの上にいた。
(…ゆ、夢か………)
全身が嫌な汗でびっしょりだ。脱力感に襲われながらも無理やりベッドから体を起こし、顔をぬぐう。
…手首から微かに、あの香水の香りがしたような気がした。