スイートルームイベント   作:鳶子

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スイートルームイベント:野々熊ひろ編

♡ ♡ ♡

 

 

扉を開けるとそこにいたのは…野々熊さんだった。

この部屋では、他のみんなは僕を相手に妄想をし始めるんだよな…。野々熊さんは、僕を相手にどんな妄想をしているんだろう?

 

ベッドの上で退屈そうに足をばたばたとさせていた野々熊さんは、僕の姿を見るなり、ぱっと目を輝かせてこちらへ走ってきた。

 

「兄貴!」

「兄貴…?」

「…あっ!!"兄貴"じゃなくて"兄ちゃん"って呼ぶんだったな…」

野々熊さんはしまった…というような顔で、手で口を押さえている。

 

「後輩達からも"アニキ"って呼ばれてるから嫌なんだったろ?私も兄貴って呼びてえんだけどなあ…そっちの方が絶対かっけえじゃん?」

「そ、そうだね…」

 

後輩達からアニキなんて呼ばれてるお兄さんって、一体どんな人なんだ……?

 

「久しぶりに兄ちゃんが起きてる内に帰ってきてくれて嬉しいよ…いつもは深夜にしか帰ってこないし、朝はなかなか起きてこないしなあ…」

「う、うん…」

「あ、ええっと、それが不満とかじゃないんだぜ!兄ちゃんがこの地域のヤンキー達の抗争を無くすために、盗んだバイクで走り回ってるのは知ってるよ。夜遅くなってもしょうがねえって」

「…ごめんね」

 

僕は、何者にされてるんだろう……。野々熊さんのお兄さん且つ、不良のリーダー…みたいな感じなのかな…。

 

 

「兄ちゃんが謝ることないって。私はみんなから頼られる姉御になるんだ、だから…このぐらいっ、我慢できるんだぞ!寂しくなんかない!」

野々熊さんはぶんぶんと首を横に振り、気を取り直したように僕に尋ねる。

 

「そうだ、久々に話せるんだし、私になんか聞きたい事とかないか?」

「そうだなあ…」

 

野々熊さんに聞きたいことか…さっき言ってたことが少し気になるな。設定が不良なら、口調もちょっと男っぽくして…

「…何で、ひろはみんなから頼られたいんだ?」

 

「何で?そんなの1つに決まってる!」

野々熊さんはぴん、と人差し指を立ててにかっと笑った。

 

「私、めちゃくちゃ兄ちゃんに憧れてるんだぜ。カッコよくて面倒見が良くて、みんなに慕われて…私もそんなふうになりてえんだあ…」

「…そうか。ありがとう」

 

「へへっ!まあ、まだ全然うまくいかないことばっかりなんだけどさあ…。ちっちゃいからって舐められたり、バカにされたり……うう、私も早く兄ちゃんみたいにデカくなりたいぜ!」

「身長に関してはどうしようもないな…同じ遺伝子なんだし、野々……ひろも、そのうち大きくなるんじゃないか?」

「そっか、そうだよな!」

 

キラキラと目を輝かせる野々熊さん。彼女が本当に僕の妹だったら、きっと毎日がすごく楽しいんだろうだなと思った…。

 

 

「そうそう、小さい頃から兄ちゃんはすげえデカかっただろ?それで、高いとこに上がっちゃったボールとか、木の上から降りられなくなった子猫とかを助けてたりしてて。兄ちゃんはすごいんだぞって近所のみんなに自慢してたんだ!」

「あはは……」

 

子猫を助けるのは僕も小さい頃やってたなあ。失敗して木から落ちちゃったけど…。少し苦い子供の頃の思い出が、胸の中で蘇る。

そういえば小学生や中学生の時って、近所の不良っぽい年上の男の人達がすごく怖かったような…。

 

「…ひろは、兄ちゃんが不良で嫌じゃないのか?」

「…そりゃあ、高校に入ってグレたっていろんな人から言われたけど。でも、私の中では兄ちゃんは、ずっと変わらず自慢のかっこいい兄ちゃんだ」

「…………」

「困ってる人がいたらほっとけないとことか、ぶっきらぼうだけど優しいとことか、ずうっと昔からだ。周りがなんと言おうと、私は兄ちゃんのこと……大好き、だぜ…」

 

最後につれて野々熊さんの声が小さくなっていった。顔を背けていたけれど、彼女の思いがはっきりと伝わってきた。

 

「…ありがとう、ひろ」

「ま、まじめに受け取るなよなあ!照れくさいって!」

反撃なのか、ぽかぽかと拳で叩いてくる。思わず笑ってしまうと、彼女は頬を膨らませた。

 

「…もう、兄ちゃんなんて知らねえ」

「あはは、ごめんごめん。ほら、何か頼みとかあったら聞くからさ、なんでも言ってよ」

「えっ、いいのか!?じゃあ……」

 

野々熊さんはやや恥ずかしそうに告げる。

 

「兄ちゃんに、私の…頭を、撫でてほしい」

「…頭?」

 

てっきり、一緒にゲームをしたいとかそういうお願いだと思ってたけど…。

 

「なんだよ!甘えたっていいだろお…たしかに私はお姉ちゃんに憧れてるし、みんなの頼れる姉御になりてえ!って思ってるけど……兄ちゃんの前でぐらい、『妹』の私でいたっていいだろ?」

 

「……うん。もちろん」

僕は微笑んで頷く。野々熊さんの頭を、少し強めにわしゃわしゃと撫でた。気持ちよさそうに目を瞑っている…。

 

「…ありがとな、兄ちゃん。…さ、一緒にゲームしようぜ!」

「こ、これから!?」

この部屋に来てから、結構時間が経ったと思うけどな……?

 

「ああ!オトナの夜はまだまだ終わらないんだぜ!」

 

 

野々熊さんが隣で寝落ちるまで、一緒に格闘ゲームをした…。

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