「ねーねーツナギ君、リエスの散歩行かないの?」
「雨降ってるとなー、後でぬれた体拭くの面倒なんだよ。体も泥で汚れるし。」
「でもちょっと可愛そうじゃない?」
「そんなときは・・・リエス!」
「ガウッ」
突然リエスが結葵に飛びかかって押し倒した。そしてそのまま犬と人間のプロレスごっこに発展する。
「ちょっと、お前何やってるんだよ!?」
「雨が降ったらこうやってリエスのストレスを・・・うわっぷ、リエス!舐めるのは止めろって!」
「へっへっへっへっへ。。。」
「うわ、リエスがツナギ君を襲ってる!」
しばらく結葵は好きなようにさせてからリエスを引きはがした。
「ふう・・・大体これと綱引きで散歩代わりかな。そうだ、どうせだから二人が相手してやってよ。」
そう言って結葵が一本の縄を持ってきた。幾度となく戦った生々しい傷跡がいくつか見える。縄を見たリエスが嬉しそうな表情を浮かべていた。
「おー面白そうだねー。ほら駄菓子屋やろうよ!」
「お、おー・・・。」
まず最初の相手は楓だ。しっかりと両手で握ってリエスに咥えさせる。瞬間リエスが最初から全力で縄を引っ張り始めた。完全に油断していた楓は一瞬にして縄を奪われてしまった。
「・・・・・・つえーなコイツ。」
相手の隙や油断を見極める技術に長けているのは流石は獣の血か。
「じゃあ今度は私がやる!」
今度はこのみに選手交代。同じ手順で体制を整える。先ほどの様子を見ていたこのみは、最初から姿勢を作って対抗した。隙をうかがえないと判断したリエスはそのまま力技に持ち込んだ。このみも頑張って対抗するのだがそのままずるずると引きずられる。
「はい、このみちゃん終了です。」
「強いねリエスー。」
「じゃあユウが手本見せてくれよ。」
「良いよー。よし、いくぞリエス!」
「ガルルルルル・・・。」
途端二人の間に妙な緊張感が発生した。一人と一匹の目はまるで狩人と野獣の眼光だ。すると先ほどとは全く比較にならないスピードでリエスは結葵の縄に噛みつこうとする。しかしそれを見越したのか結葵は縄をぎりぎりのところで反らす。それから野生の血を爆発させた二人は目にもとまらぬ攻防を繰り広げる。
「ねえ楓ちゃん、これって綱引きじゃ無いよね?」
「あー・・・そうだな。これじゃ綱取りだ。」
結葵がリエスに縄を取らせて試合終了。一人と一匹は満足したような表情をしていた。
「さて、朝の運動もしたことだし朝食しようか。」
食事は交代で作ることにしたので、朝食はこのみがつくるようだ。楓と結葵は椅子に座って待っていた。
「午前中に雨やむらしいよ。」
「ふーん、それで何かしようってか?」
「おーよく分かったね。流石楓ちゃん。折角だから庭の釜でピザでも焼こうかなって。」
「お前の家そんなものまであるのかよ・・・。」
これは結葵の祖母の趣味で祖父に作らせたもので、結構本格的なピザ釜だったりする。
「食材はあるからね、午前中は生地作りかな?」
「はい、朝ご飯できたよー。なんだか面白い話してたようだけど?」
このみが白米、味噌汁、焼き魚、漬け物を並べながら二人に聞いた。
「ユウが昼食は手作りピザだってさ。」
「おー楽しみだねー。」
「それよりもご飯たべよーぜ。」
それよりも今結葵が楽しみなのはこのみの作った朝食の方だった。
「いただきまーす。・・・・・・おー美味い!」
「ふふ・・・ありがと。」
美味しい料理は人を笑顔にする。美味しそうに自分の作った料理を食べる結葵を見て、このみも自然と笑みがこぼれていた。
「さて、ここに一晩寝かせたピザ生地が三枚分あります。今からこれを各人に配るので好きなように作って下さい。」
「はーい」
「また随分と用意が良いな。」
三人は自分の生地を持って好きな形に伸ばしていく。
楓は麺棒を使って生地を伸ばしている。生憎麺棒が一本しか無いため二人は別々の方法で生地を伸ばすことにした。結葵は生地を投げ上げて遠心力で伸ばす方法。一般的にピザ職人が見せるようなあの伸ばし方だ。
このみはちょっと複雑な方法で生地を伸ばしていた。まず最初に生地を円形に潰しながら中央に山を作り帽子のような形にする。そして帽子の山になった部分を親指で均等に裏表の面を潰していく。その際縁は崩さないように。それから親指と人差し指で三角形を作ってそれぞれ扇形を描くようにして生地を伸ばしていく。均等な厚さに広がったら生地を両手でキャッチボールをするようにして打ち粉をしながら広げていく。
結葵の投げ伸ばしも見事だったが、このみの流れるような無駄の無い動きは見事であった。
「おーツナギ君格好いいねー!」
「そう言うこのみちゃんも見事な手つきですなー。」
「・・・・・・無駄にすげーな。」
無駄な技術を披露する二人を横目に楓は着々と自分の作業を進めていた。
生地の上に具材を乗せて後は焼くだけとなった時にはもう雨はすっかり止んでいた。
「よし、お二人さん焼けたよー」
「それどれ・・・お、美味そうだな。」
「美味しそうだねー。」
楓作の山菜ピザ、結葵作川魚ピザ、このみ作鹿肉ピザ。
「何だか三人の特徴がそのままピザになったみたいだな。」
「・・・まあ、そうだね。このみは予想通りと言うかやっぱり鹿肉なんだな。」
「鹿肉美味しいから良いじゃん。ツナギ君のピザは何だか不思議な形だね。」
結葵のピザは具材を乗せた後に半分に折り返してまた伸ばしてさらに具材を乗せているので、真ん中に山ができている。
各ピザを綺麗に三等分して丁度一枚のピザのようにしてから三人は食べ始めた。味もそれぞれ違った特徴があり、どれも美味しかった。
午後はリエスを連れて山の草原でフリスビーなどをして過ごした。空が少し暗くなり始めたところで楓でとこのみは帰って行った。
「・・・で、押しかけお泊まり会はどうだったんだ?」
「うん、楽しかったよ。久しぶりに三人一緒だったもんねー。」
「そうだな・・・。」
楓はどことなく上の空で返事をした。楓がこのみに付いていった理由はもちろん三人でゆっくり過ごしたいからなのだが、もう一つ目的があった。それはもう一度自分の気持ちと向き合うため。この二日間で楓は自分の気持ちに向き合って、見直して、整理をしていた。
「このみ・・・お前ユウのことが本当に好きなんだな。」
「い、いきなり変な事言わないでよ・・・。楓ちゃんだって好きなんでしょ?」
「そうなんだけどな・・・たぶん私の好きと、このみの好きは違う・・・と、思う。」
楓にとって結葵はとても大切な存在だ。それこそ好きという言葉が当てはまるくらいに。しかし、言うなればそれは大切な親友としての好きであった。結葵とこのみが仲睦まじく触れ合うような距離で会話をしているのをみて、不思議と暗い感情では無く温かい気持ちになっていた。この二人が幸せそうにしていると自分も自然と笑っていた。
「私はたぶん・・・二人が一緒にいて欲しいんだよ。そのためだったら私は協力するぞ」
「・・・・・・楓ちゃん?」
「だけど、もし手放したりしたらすぐに盗っちまうぞ?」
「ぜ、絶対手放さないもん!」
ピザ釜の掃除が終わり、結葵は夕食を食べていた。いつも通り箸と食器の音、それにリエスが食事をする音が響くだけ。なんのことは無いいつもの日常に戻っただけなのだが、結葵はすこし寂しかった。主人の感情を察した賢い従者はそっと主に寄り添って自信の存在を示す。
「ありがとなリエス。」
食事中なのでその体を撫でる事はできないが、代わりに感謝の言葉を述べる。結葵はなぜか朝食べたこのみの手料理が未だに脳裏に残っていた。
この押しかけお泊まり会は多かれ少なかれ得るものがあったようだった。