「ツナギ君、ツナギ君、ここ教えてよ」
結葵達が通う旭丘分校は全校生徒7名しかいない。そのため小学生と中学生が同じ教室で勉強し、授業は基本自習形式だ。
季節は冬。昨日雪が降ったおかげで辺り一面雪化粧だ。
キーンコーンカーンコーン
「・・・次の時間にな。」
「次の時間って、給食だよ?」
「知ってる」
「むー、ツナギ君のケチ」
頬を少し膨らませたこのみは素直に自分の机に戻った。
「あれ、そういえばひかげは休み?」
楓が結葵に尋ねた。
「さあ、風邪じゃねーの?」
「うぃーっす。」
噂をすれば話題の人物である宮内ひかげが、遅い登校をしてきた。
「・・・・・・なあ、ユウ。前もこんな事無かったっけ?」
「あったな。」
悪い予感ほど良く当たるもので、ひかげの背中にはれんげという名前の赤ちゃんがいた。
れんげの姿を見た教室の一同は、一瞬にして凍り付いた。
以前もひかげが、れんげを学校に連れてきたことがあった。
その時の事件は、特に夏海と小鞠にとっては軽いトラウマのようなものになっていた。
「大丈夫だって、前回のようにはしないようにするからさ。それに今日はシチューだろ?」
そう、彼女たちのトラウマの決定打になったのはれんげが給食のカレーをぶちまけたことだった。
幸いにも今回の給食はシチューであり、カレーほどのショックはないものの、生徒達は給食を守ることを最優先に考えていた。
特にある人物は気合いが入っている様子だった。
「とにかく、れんげちゃんを下ろしちゃダメだからね!絶対だからね!」
「わ、分かってるよ。つーか、なんでこのみはそんなに張り切ってるのさ。」
富士宮家の昨日の夕食は鹿肉だった。このみ知っている。その次の日はかならず鹿肉が出ることを。
「まーまー、楓ちゃんもいることだし心配ないって。」
結葵は楓の肩をぽんと叩いた。
「な、なんで私なんだよ!それにちゃん付けで呼ぶな!」
「なんだかんだ言ってれんげちゃんの世話してるじゃん。そのリボンだって楓ちゃんがつけてあげたんだろ?」
楓の言うことを半分聞き流して結葵はれんげの頭を指摘した。
前回のようなパイナップル風の髪型ではなく、リボンで二つ縛りにされていた。
「誰から聞いた!?」
結葵はひかげを指さした。
「ま、時間がもったいないから給食の準備を始めようか。」
そう言って結葵はさっさと配膳室の方へ行ってしまった。
「というわけで駄菓子屋、れんげの面倒見る?」
前回同様にれんげを楓に差し出すひかげ。
「分かったよ。やれば良いんだろ!」
結局れんげには甘い楓であった。
年が明け本格的な受験シーズン。
楓と結葵は毎年定員割れをする地元の高校に進学を考えていた。
一応勉強しておいた方が良くね?という考えが一致したので現在加賀山家で勉強中だ。
「なあ、ユウ。あの学校毎年定員割れ起こすくせに何で試験なんてあるんだろうな?」
こたつに当たりながら正面で、理科の問題を解いている結葵に尋ねた。
「そりゃあ、な。高校だからと言いますか、お国が決めたことだからと言いますか・・・。」
「なーんで、こんな面倒なことしなくちゃいけないんだろうなー?」
そう言って英語の問題をシャープペンでコツコツと叩く。
「素直に教えてくださいと言えないのか君は。」
「・・・おしえてください」
「よろしい・・・みかん食べて良い?」
「どうぞ」
結葵はみかんの山から一つを手に取る。ついでに爪楊枝も一本。
「それで、どこが分からないの?」
「・・・ココ」
結葵は楓に問題の解き方を教えながらてで何かをしていた。爪楊枝をみかんの皮に突き立て切れ目を入れていく。
ある程度切れ込みを入れたら指を使って皮をむいていく。
「・・・とまあ、そんな具合で解けば良いんだよ。」
「成る程な・・・ってなにやってるんだ?」
結葵は笑いながら向いたみかんの皮をティッシュペーパーの上に乗せた。馬の形になっていた。
「おもしろいだろ?」
「またそんな変な事を覚えてくる・・・。」
「そんな楓ちゃんに進呈しましょう~」
「いらねーよ。それに楓ちゃん言うな。」
みかんの皮を結葵のほうへ押し戻しながら楓は言った。
「なにを今更、小さいときからそう呼んでいのに?」
「恥ずかしいんだよ。せめて楓にしてくれ。」
「じゃあ、俺のことも結葵って呼べる?」
結葵の問いに楓は言葉を詰まらせた。
「・・・・・・。」
「そーゆーこと。このみちゃんが俺のことをツナギ君って呼ぶようなものだよ。」
「そう言えばユウはいつからこのみと知り合ったんだよ?」
「確か俺が小三の時だっけな。じいちゃんの付き合いで時々家に来るんだよ。」
「ふーん・・・。」
再び沈黙。黙々とシャーペンがノートを走る音と時々屋根から雪が落ちるどさっという音が響くだけ。
「・・・って、雪だと!?」
慌てた結葵はこたつから飛び出し外の様子を確認する。
外はかなり積もっていて、今から帰るのはかなり難しい。
「結葵ちゃん、さっきおじいちゃんから電話があったんだけどね。これから風も吹くらしいから今日は泊めてもらいなさいだって。」
駄菓子屋のおばあちゃんがそう言ってきた。
「はーい。」
雪が降って帰宅困難というのもこの時期はさほど珍しくない。学校に泊まったことだってある。
「ごめんユウ。わざわざ来てもらったのに。」
すまなそうな表情の楓とは対照的にとうの本人はさほど気にしていない様子だった。
「別にここらじゃしょっちゅうあることだろ?」
「それもそうだけどさ・・・。」
「ほら、そんなことより勉強すっぞ!」
「お、おー・・・。」
「・・・・・・で、なんでこうなるんでしょうか楓ちゃん。」
「しょうがないだろ。ばあちゃんの部屋は狭くて二人じゃ寝られないし。そもそも一人用の布団だし。」
「じゃあ、なんで君の布団は二人用なんだよ!?」
結葵の問いにそっぽを向いて答える楓。
「昔・・・寝相が悪かったんだよ。悪かったな。」
「すぅ・・・すぅ・・・」
そうしている間に結葵はさっさと布団に入って寝てしまった。
「て、おい!早ぇーよ!」
楓の声で半分覚醒する結葵。本当に寝ていたようだ。
「なんだよ・・・もう寝る時間は過ぎてるだろ?」
「まだ十時ちょっとだ!普段どんな生活してるんだよ!?」
「十時に寝て四時に起きる。」
「真っ暗じゃねーか!!」
受け答えも億劫になってきた結葵は、今度こそ本当に寝てしまった。
あっという間に静まりかえる空間に圧されてさっきまで騒いでいた自分が馬鹿らしくなってきた。
電気を消して楓も布団に潜り込んだ。普段とは違う自分以外の体温で温まっている布団にすこし緊張した。
「そう言えば。誰かと寝るなんて何年ぶりだ?」
長い間忘れていた忘れていた感情だ。自分でも気がつかないうちに彼の背中にしがみついていた。
とたんになぜか安心する。
「私って・・・こんなに寂しがり屋だったんだ。」
安心するけどいっこうに眠気が来る気配が無い。
「ユウのやつこのみの話するときはなんであんなに楽しそうなんだよ・・・。」
胸のあたりが少し痛い、ざわつく。
「私だって・・・一応女なんだ。」
それはまた別の感情。
「・・・っ、心臓が・・・やばい・・・」
「すぅ・・・すぅ・・・ん~」
ペチ
「ふがっ」
寝返りを打った結葵の左腕が楓の顔面にクリーンヒットした。
「あーもう!・・・って、動かない。」
元の姿勢に戻そうとするも結葵の体はびくともしない。
二人用と言ってもそれほど大きくはない布団のなか避けるように寝るものなら外に出てしまう。
「仕方が無い・・・これは本当に遺憾だが。やりたくてやってるわけじゃないからな・・・。」
自分で言い聞かせるように楓は結葵の左腕に頭を乗せた。
「くっそー静まれ、静まれ私の心臓・・・!」
結局楓が寝付いたのは日付が側ってだいぶたった頃だった。
早朝に目を覚ました結葵は自分を抱き枕代わりにして「ユ~ウ~・・・」と寝言を呟く楓を発見するのはまた別の話。
あれーおかしいな・・・このみちゃんがヒロインのはずなのに・・・。