せいしゅんびより   作:skav

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屋台を開いた

秋と冬の境目は何を規準にしているのだろう。雪が降ったら、木枯らしが吹いたら、霜が降りたら、息が白く色づいてきたら・・・。それは各地域によってまちまちであり、もっと言えば世帯規模でも異なるだろう。

結葵達の住む地域では伝統的な冬の訪れを知らせる行事がある。

 

ゑびす講。

元来、商業漁業の神として崇められ一年の感謝と繁盛を祈願する祭りだ。しかし結葵が住んでいる地域では、農業神としても崇められているので、こうした祭りが開かれる。

山の命を頂く仕事をしている結葵にとっても大切な行事の一つだ。

「・・・で、今年の担当がぎっくり腰になったから急遽代役を引き受けたと。」

「しょうが無いでしょ!俺以外みんなお年を召された方々なんだから。」

「でも屋台なんて初めて、いつもは買う側だもんね。」

現在桐生邸には楓、このみ、結葵のいつものメンツが揃っている。

 

件のゑびす講が開かれるおよそ一週間前、結葵に突然屋台を代わってくれるように頼まれたのだった。

夏祭りと違い、各世帯の当番制ではなく、農業従事者の世帯の当番制だ。なので駄菓子屋の楓や、一般家庭のこのみは当てはまらない。

しかし、結葵の仕事は自分の仕事。楓とこのみはさも当然のように結葵の手伝いに来たのだった。

「それで今年はどうするんだ?今から焼きそばにするにしても材料が決定的に足りねーぞ?」

「分かってるよ、だからこの場に大量にあるもので何か作らないといけないんだけど・・・。」

「それでいま沢山あるものってどんなの?」

「一応紙にまとめて見ました。」

そう言って結葵は一枚の紙をテーブルに置いた。

 

鹿の角 百頭分

 

鹿肉 100キロ

 

イノシシ肉 200キロ

 

鶏肉(軍鶏) 30羽分

 

豚肉 10キロ

 

竹 5メートル五十本

 

タケノコ 20本

 

木 無尽蔵

 

キノコ 10キロ

 

米 3俵

 

二品ほど単位がおかしいものがあるが、ざっとこのように書いてあった。

 

「お米はだめだよ、結葵の食料がなくなっちゃう。」

「でもさーあと2俵あるんだよね。流石に一人で五俵は一年でも食べきれないよ。」

「待て、だったら私に少し分けてくれ。」

食べきれない、余る等の単語に敏感な楓は即座にそう提案してきた。抜け目が無い。

「あーじゃあ、一俵あげるよ。もう一俵は富士宮家に送るとしてさ。」

「わーありがとう結葵!・・・じゃなくて、この中から何を出すか考えなきゃ。」

逸れたた話を軌道修正したこのみは、リストのウチ二品を指さした。

「まずはこの鹿肉と、イノシシ肉は決定だね。こんなにあっても困るし。結葵ちょっと獲りすぎじゃない?」

「いや、むしろ足らないくらいなんだ。鹿の繁殖の方が勝っててね。猟師さんの高齢化で人数も減ってるし。」

絶滅危惧種に指定されるべきは鳥獣では無く猟師の方である。とまで言われているこのご時世である。

「なるほどな・・・じゃあ、この肉でなんか作るか。折角だから竹を器にしようか。返却したら百円戻るとか、そうすればリピーターも来やすいんじゃないか?」

「流石楓ちゃん、抜け目が無い。金のことに関しては頭が回るな~。」

「オイコラ、全然褒めてねーだろ?」

楓の右腕が結葵の頭をがっしりと掴み、ぎりぎりと締め上げる。こめかみが引っ張られて、目元が変に釣り上がった。

「はいはい、けんかしないの。じゃあ次はお肉の調理方法と、器の細かいところと、値段設定ね。あまり時間ないんだから、手早く進めるよー。」

ペンを持ってきたこのみはリストの紙をひっくり返して、次に決めることを書き表した。何とも周到であった。

結局鹿肉、イノシシ肉をソーセージとローストにして、鶏肉をそのまま焼いたものを竹の器で出すことにした。

その名も「山賊焼き」。大が600円、小が400円、器を返却すれば百円のキャッシュバック、半額でおかわり可。

楓とこのみが肉、結葵が竹の器と楊枝を準備することになった。

 

外で聞こえるチェーンソーの音と、結葵の鼻歌をBGMに、このみと楓は肉料理に入る。

「じゃあまずは獣臭さを消さないとね。」

「香辛料か何かを使うのか?」

「うん、ハーブがいっぱい生えてるからソレを使おうかなって。小分けに色んなハーブを使えば単調な味にならないしね。」

「・・・なるほど。そこら辺はよく分かんねーからこのみに任せる。」

「先に言っておくよ。かなり心がタフじゃないとできないからね。」

そう言ってこのみは大型のミートグラインダーを軽く叩いた。

「ユウのじいさんに何度も見せられたから大丈夫だ。血だとか内蔵だとかはもう慣れたよ。」

調理用手袋を付け、互いに頷き合いう。そして、このみの指示の元どんどん肉の塊をミンチに変えていく。作業に慣れ始めたところで楓にミンチを任せて別の準備に入る。

ミンチにした肉を5キロ単位で分け、ハーブを練り込んでいく。

セージをメインに、ローズマリーやバジルなどを組み合わせる。そしてひたすら練る作業が続く。

「このみ、あらかた終わったぞ。次はどうすれば良い?」

「あ、うん、お肉とハーブを練ってくれる?粘りけが出るまで。」

「分かった。」

全ての肉を練り終わったところで、いよいよメインの作業の登場。そう、腸詰めだ。4メートルに届く羊の腸におよそ1キロ分の肉がはいる。

ミンチにした肉は合わせて百キロ。流石に二人は結葵を応援に呼んだ。

「腸詰め?オーケー、任せなさい。」

そう言って結葵は二本同時に腸詰めを始めた。それも目にもとまらない早さで。まるで注射器か何かで注入しているかのように、スムーズに肉が収まっていく。

「さすがと言うか、何というか。すげーな、ユウ。」

「ソーセージは手頃な肉の保存方法だからね、単純に慣れだよ。」

そうはいってもここまで慣れるのにどれほどソーセージを作ってきたのだろうか。非常に気になるところではある。

「ユウってさ、いつくらいからこんなことやってるんだ?」

「いつくらいって、そりゃ物心ついたときからだよ。ウサギに始まり、軍鶏、瓜坊、子鹿、イノシシ、後大きいのは熊だけかな。獲ってないのは。」

「熊って・・・怖くないのかよ?一回襲われたんだろ?」

「じーちゃんも背中にあったし、俺はむしろ勲章だと思ってるけど?」

今も尚残る胸の大きな傷は、一生残ると言われている。そんな傷を負っても、結葵は平気でそんなことを言う。言えてしまうのだ。

「おいこのみ、コイツがいつ死んでも良いように子孫だけはちゃんと残すんだぞ。」

「・・・ん?子孫って・・・あ、ちょ、ちょっと!何言ってるの!?」

一瞬の間を置いて、何を言われたのか理解したこのみは顔を真っ赤に染める。

「いやいや、まだ早いよ。このみがこっちに帰って来て、分校の先生になるとしよう。その理由は一穂さんの産休。それが一番ありそうありそうな理由だし。とするとこのみが妊娠できるのは、一穂さんの産休が終わってからだよ。」

「にんし・・・って、ゆ、ゆゆ、結葵!?な、何を言ってるのかな?」

「なんだちゃんと一応は考えてるんじゃ無いか。良かったなこのみ、旦那さんがちゃんとしてて。」

「は、恥ずかしいこと言わないでよ・・・もう。」

こっちは凄く困ってるんだ、という口調で話すが、彼女の口元は思い切り緩んでいた。

 

 

キンコンカンコ~ン・・・

「はい、今日の授業はここまで~。お祭りに行く人は気をつけて行くように。」

いつもより早く放課になり、状況の分からない蛍一人だけが目を白黒させる。

「・・・・・・祭り?」

「あ、蛍は知らないんだっけ。ゑびす講だよ。この季節になると必ずやるお祭りでね、神社に屋台が出るんだよ。」

鞄を持った小鞠がそう説明した。

「なんか今年の屋台にすんごいのがあるらしいよ!早く行こうよ!」

「早く行くのん!屋台なのん!」

待ちきれないと言って夏海とれんげが二人を急かす。

「あ、待ってよ夏海!蛍、一緒に行く?」

「はい!是非!」

いまいちぴんとこない蛍だったが、小鞠と出かける口実ができて目を輝かせていた。

 

「わぁ・・・凄い人ですね。それに花火祭りとまた違う雰囲気です。」

「さーて、噂の屋台はーと・・・あ、あそこだ!」

夏海の指さす方にはやけに人の多い屋台があった。そこから漂っているのか、香ばしい臭いが四人を囲む。

「何だか良いにおいがしますね。」

「よし、早速突撃だー!」

祭りでテンションが上がる夏海を先頭に、四人は列に並ぶ。しばらくすると、その屋台の正体が明らかになってきた。

「山賊焼き?蛍、分かる?」

「わ、私もよく分かりません・・・。」

「あ、ゆうゆうと駄菓子屋なのん!」

れんげの言うとおり屋台の主人は良く見知った顔の二人だった。

「おー、みんな今学校終わったところ?」

「そうだよ、それにしてもすげーじゃん。大人気ですなー。」

ジュージューと肉の焼ける臭いが、まだご飯時でも無いのに子供達の胃袋を刺激する。

「ソーセージに、ローストしたお肉に、確かに山賊焼きですね。」

「お前ら小で良いよな?足りなかったらまた来い。半額で盛ってやる。」

そう言って楓は竹の器に、肉を盛り始めた。小と言ってもかなりの量である。

「駄菓子屋、気前良いじゃん。何か良いことでもあったん?」

「いや、ただ単にそういうシス・・・。」

「ユウは黙ってろ、良いか?商売ってのは売らなきゃ始まらないんだよ。」

「・・・・・・スミマセン。」

楓はヘラをナイフのように結葵の前に突き出す。その様子からして何かがあったのは確かだ。その何かは分からないが。しかし子供達はあえて聞かないことにした。

「あれ、そう言えばこのみちゃんは?」

最後に器を受け取った小鞠がなんとなしに結葵に訪ねた。

「いやいや、このみちゃんも学校だよ。高校は平常授業らしいから夕方かな?来るとしたら。」

「ふーん・・・そっか。ま、いいや、頂いてくよー。」

「うん、まいどありー。」

「ユウ、器と肉が足りなくなってきた。ダッシュでもってこい、30秒だけやる。」

「了解しました!」

あっという間に姿を消す結葵を見て、小鞠は苦笑いしていた。

 

日が落ちる時間も早くなり、あたりが薄暗くなり始めても結葵の屋台は人が途切れる様子が無かった。

「ユウ!」

「はいよ!」

息の合った返事と共に結葵は屋台を飛び出す。もう何往復したのか分からなくなっていた。

「補充完了したよー。」

「器の回収ケースがいっぱいになりそうだから、頼む。」

「はいよ!」

いっぱいになったゴミ袋を取り替えてから、新しい回収ケースを用意する。

「うわー忙しそうだね~。」

行列が短くなり、ようやく少し休めそうと言うときに制服姿のこのみが現れた。

「お、このみ。学校帰り?」

「うん、ダッシュで来ちゃった。あとね、ここから学生がいっぱい来るかも。」

嬉しいような、勘弁して欲しいような矛盾した気持ちが二人に流れ込んだ。俗に言う嬉しい悲鳴というヤツだ。

「そっか、じゃあつかの間の休息だ。」

「だな、それなら全部売り切れそうだ。このみ、飲むか?」

楓が缶のお茶(Hey tea!)をこのみに差し出した。

「お、ありが・・・と・・・う・・・。」

その時このみの顔が少しだけ引きつる。彼女の視線の先には一人の中年男性が立っていた。結葵と楓もその人物に見覚えがあった。

「なんだ、あたしらの担任じゃん。このみ、どうかしたのか?」

「う、うん・・・えっと、ごめんちょっとの間だけ隠れてるね。」

そう言ってこのみはさっと人混みに紛れて姿をくらました。

「どうかしたのかアイツ?」

「うーん、どうしたんでしょうね~?」

そんな二人の元に件の担任がやってきた。

「おー桐生と加賀山。久しぶりだな。」

「お久しぶりです、先生。」

「・・・どうも。」

結葵は社交辞令スマイルで応対し、この中年男性が苦手な楓は愛想の無い返事をした。

「イノシシに鹿・・・まさかお前が獲ったヤツか?」

「ええ、まあ。ついでにいうと調理も俺たちがしました。」

「・・・まあ、ちゃんとやってるみたいだな。それよりも桐生、お前からも言ってくれないか?」

「・・・と言いますと?」

「富士宮だよ。別に短大じゃ無くても教師にはなれるんだぞ。」

担任の言葉で何となく結葵はこのみが隠れた理由を悟った。相も変わらず、この教師は人の言うことを覚えていないらしい。

「それにだ、もし失敗したらどうするんだって話だ。手元には何も無い、それじゃあろくな職業にも就けないだろ。」

「まあ、それはそうですよね・・・。」

「だろ?だからお前から言ってやってくれ。噂に寄ればお前ら付き合ってるんだよな?」

その一言が結葵の癇に触れた。できるだけ平静を装い結葵は担任の顔を見る。

「お断りします。彼女にも考えがあるんでしょうし。俺は彼女の意志を尊重しますよ。」

「そうは言ってもな・・・。」

「ご心配なく。もし彼女が路頭に迷うことがあれば俺がきっちり食べさせるんで大丈夫です。お一つどうぞ。」

ローストした鹿肉を楊枝で刺して、担任に差し出す。訝しい目をしながらそれを一口食べる。

「600円です、いかがですか?」

「・・・・・・一つ貰おうか。」

やっぱりお前らに頼んだのが間違いだったと言い捨て、担任は神社から去って行った。

「いけ好かねーな、やっぱ。それにしてもナイスだユウ。よく言ったな。」

「そりゃあんなこと言われたら・・・ねえ?」

そんなとき結葵は背中から誰かに抱きつかれた。前に回された腕を見てそれがこのみだと分かる

「えっと・・・おかえり?」

「・・・ただいま。」

背中に隠れているとは言え、大勢の前で抱きつかれては、嬉しさよりも恥ずかしさの方が大きい。

「えっと・・・流石に恥ずかしいのですが。」

「・・・・・・あとちょっとだけ。」

「了解です・・・。」

「・・・・・・・・・結葵。」

「・・・ん?」

ぎゅっと回された腕に力が入った。

「・・・ありがと。」

「どういたしまして。」

結葵はその手を軽く撫でた。

「あ、はい回収ですね。ありがとうございます、百円のお返しになります。ありがとうございましたー。」

・・・・・・・・・。

「・・・・・・くく。」

「ふふ・・・・・・。」

その隣であくせくと働く楓の声に、なんだかおかしい気分になり結葵とこのみは必死で笑いをこらえた。

「お前らいちゃつくのか笑うのかサボるのかどちらかにしろ!」

「「はーい。」」

そこからは終了時間まで、三人で屋台を切り盛りすることにした。

 

「なんだ、結局手伝ってんじゃん。」

綿菓子を食べながら彼らの屋台を見た小鞠はそう呟いた。

 

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