せいしゅんびより   作:skav

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そしてお姉さんになる

山の冬は早い。平地では木枯らし一号などの報道しているときに山岳部ではすでに雪が降っていたりするのだ。

この冬一番最初の仕事は積もった雪かきから始まる。

高齢化が進行しつつあるが故、結葵たち若者の力は最も頼りにされるところだ。

しかし、彼らの住む村でもさらに山の方に住んでいる結葵は一つ大きな問題を抱えていた。

新雪が降り積もった道は歩くのも一苦労で、まして車などもってのほかだった。

役所に除雪機を借りにすら行けない状況なのだ。そのため、例年ならスコップで雪をどけながら道を下るのだが―

「今年は違うんだよなこれが。なあ、リエス。」

「ワン!」

このようなときにこそ犬ぞりの出番である。人間よりもはるかに身軽な犬にそりを引かせることによって、現状最も早い移動手段ができあがるというわけだ。

椅子の形をした部分に除雪用の道具を一式乗せて、結葵はそりの後ろに掴まった。

「リエス、行くぞ!」

結葵のかけ声に反応したリエスが力強くそりを引き始めた。結葵もキックボードのようにして雪を蹴る。

軽快に雪道を駆けるその姿は北国の移民そのものであった。

轍と足跡を残し結葵たちは富士宮家に到着した。

「おーい、雪かきの手伝いに来たよ~。」

男手が一人しかいない富士宮家はこの季節が徐々にきつくなりつつあった。だから結葵がこうして雪かきの手伝いに来てくれ、非常に大助かりであった。

「わー・・・すごい、犬ぞりだ!」

「車も難しいし、バイクも論外だから作ってみたんだ。」

「やっぱりハスキーの血なのかな?すごく様になってるね~。」

「じゃあ、行ってくるから構っててくれる?」

「…えっと、結葵。」

何かを言いたそうな様子でこのみは犬ぞりを見ながらもじもじしていた。彼女が何を言わんとしているかは明白だった。

「自動車には気を付けて。」

「はーい。ありがと結葵!」

このみにリエスを預けて結葵は、梯子を使い屋根に上がった。そこにはすでにこのみの父親が作業をしていた。が、なかなか苦労しているようだった。

「おはようございます、お手伝いします。」

「おぉ、ありがとう。最近どうも腰にきてね、なかなか終わらなくてくたびれてたんだ。」

大量の汗をタオルで拭きながら、乾いた笑いを浮かべた。今のうちに降りた方がよさそうな雰囲気だった。

「残りは俺がやりますので、降りてください。」

「そうかい、ありがとう。助かるよ。」

このみの父は素直に梯子を使って下に降りて行った。このまま続けても今度は降りる体力がなくなり、屋根から落ちる心配もある。そのための措置だった。

「さて、早く終わらせますか!」

雪かき用スコップを積った雪に突き立て、ブルドーザーのごとく一気に大量の雪を下していく。

4分の3の雪が屋根に残っていたが、結葵にとってはまさに朝飯前であった。

 

ものの30分で雪下ろしを終わらせ、下界に戻る。

「あれ、結葵くんこのみはどこに行ったか知らない?」

「あー彼女なら犬ぞりで散歩に行きました。」

「まったくあの子ったら、愛する旦那を放っておいて。」

「まったくですよね~。」

はははと笑いあう二人の横をこっそりと通り過ぎる影があった。

「あら、このみ。おかえりなさい。」

「どしたの、そんなこそこそして。」

「……知らないもん。」

彼女の耳が赤いのは決して寒さからではなかった。

「さ、みんなで朝ごはん食べちゃいましょ。」

「あ、そうだ。今日結葵の家に行っていい?お義母さんたちが帰ってくる前にモンブラン作ろうと思うんだけど。」

モンブランと言えば、れんげが言っていたモンブランを思い出す。もちろんこのみが作ると言ったのは、スイーツの方のモンブランだ。

「良いね。あのサツマイモは当たりだよ。かなり美味しいんだ。モンブランにしたらぜっだい美味しいよ。」

「ふふふ、楽しみにしててね~。」

 

富士宮けから帰った結葵は日課の薪割りをしてから、先ほど活躍した犬ぞりの点検をしていた。

「ジョイント部も変な割れは無し…接地場所も問題なし。うん、なかなか丈夫だなこれ。」

野球のバットで使うようなタモ材で作ったそりは適度な伸縮で衝撃を吸収し、尚且つ壊れにくいようだった。

倉庫に犬ぞりをしまい、もう一度外に出ると何か冷たいものが首筋に触れた。

「また降ってきたな。」

ちらほらと空から白いものが降り出しつつあった。標高が比較的高いこの地域はよく目を凝らすと見事な雪の結晶を見ることができる。

しばらく降ってくる雪を見つめていると、不意に両頬が冷たくて柔らかいものに包まれた。

「何やってるの~?」

「なんとなく雪の観察をね。」

上げていた顔を下すと、真正面にこのみが立っていた。自分の存在に気が付いていなかったことが不満なのか、彼女の眉間に少ししわが寄り右頬が膨らんでいた。

今にも「むー」という声が聞こえてきそうだった。

そんなこのみに詫びを入れるように結葵は冷たくなった彼女の手を取った。

「いらっしゃい、寒かったでしょ。お茶淹れてあるよ。」

「うん、ありがと。」

暖炉とハーブティーで冷えた体を温め、このみは早速材料であるサツマイモの入った段ボールを覗く。

「おぉ、立派なサツマイモだね~。これは美味しいモンブランが作れるよ。」

「それは楽しみだね~。」

このみがデザート作りを始める横で、結葵も明日来るであろう両親に対応するための準備を始めた。

手間のかかる料理の下ごしらえ、また人を呼ぶであろうからテーブルと机の準備。

「ちょっと楓ちゃんのところで布団借りてくる。」

「はーい、行ってらっしゃい。」

結葵とは違い、普通の布団で寝る両親のために布団を用意する必要がある。しかし、家にはハンモックとソファしかないので、両親が来るたびに楓のところへ行き布団を借りるのだった。

 

「おーい、布団借りに来たよ~。」

「おう、てことは明日帰ってくるのか?」

「まあね、十中八九また騒ぐだろうから…いや、しばらく騒がしいと思う。」

楓が店の奥から布団を二式出してきた。

「なんだ、今度はすぐに帰らないのか。まあ、あの夫婦はいろいろな意味で刺激になるからな。」

「ははは…お騒がせします。じゃあ、借りてくよ。」

「はいよ、このみによろしくなー。」

最後に余計なひと言を付け加えて、楓は結葵の背中を見送った。

『山岳地域では大規模な降雪が予想されますので、雪崩などにご注意ください。』

テレビのニュースでここの地域の天気予報を伝えていた。そして携帯電話が着信を伝えてきた。

「もしもし、先輩っすか?はい…分かりました。ごちそうになります。何か持っていきましょうか?はい、金額はあとで請求しますんで。…ふふ、冗談ですよ。はい、失礼します。」

電話を切って降り続く雪を眺めた。

「はぁ……。」

小さく吐いたため息が白い霧となって空へ消えていく。

中学時代に成り行きで結葵と、高校時代にはこのみと寝泊まりをした事を思い出す。

「…」

 

「まあ、あいつらももう子供じゃないんだからな。」

見守られる側から見守る側へ変わってからどれくらいが経っただろう?

楓たちが小さいころ、年上として世話を焼いてくれる人間は一穂しかいなかった。しかし、その一穂もすぐに高校生になり日々の忙しさに忙殺される身となってしまう。

三人は嫌でも年上に、大人にならざるを得なかった。子供としての時間があまりにも少なかった。

もし三人が子供である時間が長かったら少しは違ったのだろうか?

「今更…だよなぁ。」

自分で割り切ったはずなのに、いつでも会えるしどこでも会うのに…この寂しさは一体なんだろう。

 

「…さて…と、店閉めるか。」

楓は胸の奥に感じる僅かな痛みを振り切るように、店のシャッターを閉めた。

 

 

 

 

太陽が早めに沈むと、夕方の時間であるがあたりはすっかり暗くなっていた。

「こりゃ…夜はひどくなるかもな。」

そう呟いて、暖炉で温まった家に入る。

「お帰り。結葵、結葵!はい、あーん。」

帰って来るや否や、このみはモンブランをフォークに取って結葵に差し出した。

食べると、サツマイモの風味が口いっぱいに広がり、最後に控えめに甘みが主張した。

「うん、美味い。さすがこのみだ。」

「本当?良かった~。これなられんげちゃんも満足してくれるかな。あ、夕ご飯もできてるよ。今日はね、鹿肉カレーですよ~。」

キッチンから出来立てカレーの良い香りが漂い、それだけで結葵の空腹を刺激する。

「ご飯、ナン、パン、どれが良い?」

「「全部」でしょ?ちゃんと作ってあるから早く食べよ。私もお腹すいちゃった~。」

二人でカレーやサラダなどを机に並べ終えて、最後にリエスの餌を用意し、夕食の準備が完了した。

「それじゃあ、いただきます。」

暖炉で薪が燃えるパチパチという音をBGMに静かな夕食の時間が始まった。

 

「あちゃぁ…やっぱりな。」

外の様子を確認すると、案の定大雪が降っていた。積雪量はとっくに車で走れる限界を超えている。

「どうしたの?」

「いや、ほら。雪がね。」

「あらら、いつの間にこんなに降ってたんだね。」

帰れないという状況なのにも関わらず、このみは全く焦る様子を見せない。

「…泊まりだね。」

「うん、そうだね~。あ、お母さんにはもう言ってあるよ。雪が降ったら泊まるよって。」

「…じゃあ、風呂沸かしてくるよ。」

「はーい。」

 

 

「駄菓子屋ー一緒にお風呂入るん。」

「おー、入るか。」

宮内家では一足早いクリスマスパーティーが行われていた。クリスマス当日は桐生家が賑わうことが殆ど確定扱いであった。

しかし、それはほとんど大人たちによる飲み会の気が強いので特に夢を壊してはいけない子供がいる宮内家ではちゃんとしたクリスマスを祝うようだ。

「おーい、駄菓子屋ークリスマスプレゼントは~?」

座布団を枕にして横になっているひかげが楓に尋ねた。

「あ?駄菓子やっただろ。」

「ぶーぶー駄菓子屋のケチー。」

そう言いつつ楓が持ってきた駄菓子を美味しそうに食べているのは、根っからの天邪鬼ゆえだろう。

「それじゃあ先輩、風呂いただきます。」

「あーい。」

一穂とひかげには既に今年のサンタクロースは「あわてんぼうのサンタクロース」だと伝えてあるから、明日はしっかりと話を合わせてくれるだろう。

このあとどうやってこっそりとクリスマスプレゼントをれんげの枕元に置こうか、そんなことを楓は考えていた。

 

「お風呂あがったよ~。」

「はーい。」

風呂上がりで火照ったこのみを見て少しだけ心臓が早く脈打ち、結葵は暖炉の火を見ることにした。

しかし、それを見逃すこのみではない。たくらみ顔でこっそりと背後に近づき、間合いに入ったところで一気に距離を詰める。

「えーい!」

後ろから飛びついたこのみは、結葵の首に腕を絡めたままぐるりと前側に移った。結葵の筋力が人並み以上であるから成せる技であった。

そのまま昔からの定位置である結葵の膝の上を占領する。

「必殺腕輪渡し~」

「いつの間にそんな技覚えたのさ。」

しばらく結葵はこのみを横抱きの状態で維持することにした。

「ふふふ、ゆ~う~き~」

首に巻いていた腕を下へ動かし、背中に回す。結葵の名前を呼びながらその分厚い胸板にすりすりと頬をこすり、肺一杯に匂いを吸い込む。

「なんか今日はいつになく甘えモードだね。」

「だってお義母さんたちが来たら出来ないもん。今のうちに結葵分を貯めておかないとね~。」

それを言うなら結葵だって同じだった。大雪という絶好の機会を逃す手は無い。

そうと決まれば早速行動に移そう。

このみの腰回りに腕を回して持ち上げると、互いの顔が同じ位置に来た。そしてこれでもかと結葵はこのみを撫で繰り回した。

「うりうりうり~~!」

「あははは~なんだか犬みたい~」

「ワン!」

犬のように撫でまわされてるこのみに触発されたのか、リエスも結葵に飛びかかった。

「お前も甘えたいのか~!それならまとめてこうだ~!」

結葵は一人と一匹を両腕でもみくちゃにしまくった。

「はふぅ…」

「ワフ…」

しばらくすると一人と一匹は恍惚とした顔になっていた。

「満足した?」

「うーん…今日は寝るまでぎゅってして欲しい…かな?」

あれだけやってもまだこのみは満足してい無いようだった。

「分かった。今日はとことん付き合いましょう。」

「やったー、結葵大好きー!」

タガが外れたのかこのみは遠慮も羞恥心もかなぐり捨て、思いつく限り結葵に甘えまくった。

このみが満足してハンモックに移動するころには、結葵はへとへとであった。

 

「ねえ、結葵。私がいなくなるの寂しい?」

二人用のハンモックにしばらく揺られて落ち着いたのか、このみはそんなことを結葵に聞く。

「そりゃ寂しいよ。当たり前でしょう。」

「あのね…ひとつお願いがあるんだけど…。」

何となく言いにくそうな表情から、結葵はこのみが何を考えているのかすぐに気が付いた。

「…鹿肉?」

「……うん。」

「分かった。定期的に送るよ。」

「…ありがと。」

このみにとって鹿肉は大好物であり、故郷を離れる今となっては大切なつながりでもあった。

そして今目の前にいる最愛の人があと少しでいなくなってしまうことを嫌でも実感してしまう。

でも、と結葵は湧き上がる寂しさを押し殺さずに受け入れる。

 

この寂しさを大切に胸にしまっておこう。このみがまた帰ってくるその日まで。

 

 

 

「それじゃあこのみ、体には気を付けて。」

今日はいよいよこのみが旅立つ日だ。いつか結葵の時もそうであったように、全員で見送りに来ていた。

「もーそんなお決まりの台詞言ってもつまんないだろ~。」

ありきたりな言葉を使う結葵を夏海が冷やかす。

「まあ確かにそうだよね~」

夏海に乗じてこのみも結葵に意地悪そうな視線を送った。

「楓ちゃん…助けて。」

「……ったく。」

仕方がないと言った表情で、楓はそっと結葵に耳打ちした。

結葵は頷くと無言でこのみを抱きしめた。

「え、ちょ…ちょっと結葵?」

みんなが見てる前での大胆な行動にさすがのこのみも顔を赤くした。

「行ってらっしゃい。このみ。」

「…い、行ってきます。」

今の顔をみんなに見せるわけにはいかず、このみは結葵の胸に顔をうずめた。

刺激が強すぎるだろうと悟った蛍は小毬の両眼を隠す。

ただ未だに前に結葵が言っていたことには納得がいかなかった。

 

本当に好きなら着いていけばいいのに。

 

でもそれを口にできるほど蛍は子供ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月日は流れ、蛍はこの田舎で四度目の春を迎えようとしていた。蛍は現在中学一年生。ランドセルから制服に変わりはしたが、やはり少しだけ違和感があった。

「ほたるん、うさぎさんにご飯あげてくるん。」

「うん、行ってらっしゃい。」

「行くのん、ほのかちん!」

「あ、れんげちゃん待って~」

昨年新しく入ってきた子の名前はほのかと言う。そう、夏休みにれんげが遊んでいた同い年の少女である。

父親が海外へ赴任する関係で、こちらへ住むことになったらしい。

同い年の友達が転校してきて、れんげはとても喜んだ。

今も二人でいつもの餌やりに向かおうと、玄関で靴を履き替えている。

それを蛍はぼーっと見つめていた。

「どったのほたるん、ぼーっとしちゃって。」

この分校の唯一の上級生である夏海が声をかけてきた。

「夏海先輩…。」

夏海も中学三年生。この春にはもう卒業してしまう。

そうするとこの分校で最上級生は蛍になるのだ。

全校生徒は5人から3人へ、ただでさえ広い教室がまた広く感じてしまう。

「なんだか広くなっちゃったよねぇ…この教室も。」

蛍の心の内を察したのか、夏海はそう言って教室を見渡した。

「あ、そうだ今日かーちゃんに買い物頼まれてるんだけど、ほたるんも行く?」

「すみません…今日はちょっと。」

「んーそっか。」

夏海はそれ以上言及せず、二人の様子を見てから帰ると言って教室を後にした。

「……。」

うるさいほどの静寂が蛍を包み込む。

「…帰ろう。」

家に帰り、日課である愛犬のぺちと散歩に行く。

いつもの散歩コースを歩いていると、分かれ道に差し掛かる。右に行けば、結葵の家に続く道となる。

何となく蛍は右の道を行くことにした。

「ねえぺち…来年から私が最上級生なんだよ。信じられる?小毬先輩も、夏海先輩ももういないんだよ。」

山道を進むほどに楽しかった思い出がふつふつと湧き上がる。

「寂しいな…。」

今まで自覚しまいと我慢していた言葉がポロリとこぼれる。一度言葉にしてしまうとせき止めていたものが一気にあふれ出した。

「……っ!」

木陰に隠れてしゃがみ込む。痛む胸を押さえることでしか、抑え込むすべがなかった。

「……?」

そのとき愛犬がリードを咥えてクイクイと引っ張るのを感じた。

「ぺち、どうしたの?」

愛犬の視線の先には結葵の家が見えていた。そこには二つの人影が。

「結葵さんと…あとは誰だろう?」

蛍は震える足に力を込めて、愛犬に引っ張られながらゆっくりと歩みを進めた。

「……え?」

なんとなく物陰に隠れながら二つの人影を確認すると、それは結葵とこのみだった。

「このみさん…帰ってきたんだ。」

懐かしい顔を見ることができた嬉しさよりも、蛍は二人の表情に見入っていた。

言葉も発さず、ただただ力強く抱きしめ互いに見つめあう。その表情は様々な感情が混ざり合い、蛍にはとても美しく見えた。

そして蛍はようやく結葵の言っていることが分かったような気がした。

好きだからこそ何年も待つことができる、互いを思い、互いを信じ、寂しさを愛情に変えてしまう。

蛍は初めて相思相愛という言葉を理解することができた。

蛍は静かに桐生亭を後にした。

「……良いなぁ。」

いつもの散歩コースを歩きながら蛍はぽつりと呟いた。

 

「あれ、夏海さんどうしたんですか?」

散歩に帰ると、自分の家に夏海が来ていた。

「ほたるん、今から私ん家来れる…いや、来て!」

夏海はそう言って蛍の腕を掴んだ。

 

「ただいま~ほたるん連れてきたよ~」

越谷家の玄関にはたくさんの靴が並んでいた。

居間に上がると、越谷家はもちろん宮内家とほのか、楓、このみ、結葵も来ていた。

「ささ、ほたるんも座った座った~」

夏海の誘導で小毬の隣に座った。

「えっと…なにかあったんですか?」

「すぐに分かるよ、蛍はジュース何にする?」

「じゃあ…オレンジジュースで。」

小毬に注いでもらったところで、夏海が勢いよく立ち上がった。

「それじゃあみなさんに報告することがたくさんあるので、心して聞くように!」

夏海の言葉に促されて一穂、続いて結葵とこのみが立ち上がった。

三人の口から出てきた言葉は蛍を驚かせるには十分だった。

一つ目は一穂が来月から産休に入ること。それは以前からなんとなく察していた。

ちなみにだが、一穂は結局農家の次男が婿入りという形で結婚をした。ある日突然報告したものだから、教室が騒然となったのを蛍はよく覚えていた。

二つ目に産休に入る一穂と入れ替わるようにして、このみが分校の先生になること。

これは嬉しいサプライズだった。知らない先生が赴任してくるよりも気が楽だし、このみであれば教室の雰囲気を明るくしてくれる。そう感じた。

そして最後の報告が、蛍にとっては何よりの吉報だった。

結葵とこのみが籍を入れることになった。二人は晴れて夫婦になるのだ。

二人の口からその報告をした瞬間に越谷邸は一気に盛り上がった。

蛍も気が付いたら大粒の涙を流して祝福していた。

 

 

「ほたるん、来年から一番上級生になるわけだけど。」

報告が終わり思い思いに話をしていると、夏海が蛍に話しかけてきた。

「はい。」

「まあ、そんな気負わずにらくーに構えてれば良いよ。」

いつもの軽い口調だが、そのことばには少し前の夏海だったら考えられない、上級生らしい頼もしさがあった。

「私…寂しいんです。みんながどんどんいなくなって。不安なんです…先輩がいなくなって。」

「寂しかったらいつでも泊まりに来なよ。そんで満足するまでずーっと相談するよ。」

そんな夏海に言葉が嬉しくて、つい蛍は涙腺が緩んでしまう。

「あーあー、まったく蛍ちゃんは見た目大きいけどまだまだ子供ですなー。」

そんな蛍をあやすように背中をさする。

「あー夏海が蛍泣かした~!」

「ちょっと夏海!こっち来なさい!」

「ヴぇ!?誤解だってばー!」

 

 

「あはは、相変わらずだね越谷家は~」

「まあ、夏海も少しは成長したみたいだな。」

「そうだね~」

そんな彼女たちをいつまでも優しく見守る結葵、このみ、楓の三人だった。

 




これでせいしゅんびよりは完結となります。
みなさま、長い期間お付き合いいただき本当にありがとうございます。

しかし「のんのんびより」はまだまだ続きます。
旭丘分校の彼女たちやこのみちゃん駄菓子屋たちのますますの活躍を願っています。
それでは、また別の作品でお会いしましょう。

sukabu

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